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きょむ茶漬け

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字書きです。原神、スタレメインで二次創作をしています。 BL、NL色々書きます。雑食です。 Twitter(X):@0_tyazuke

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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 15/09/2026
(3/3)
 七七は首を傾げる。
(朝ごはん。いつもは汁物、あったっけ。)
七七はノートを開いた。けれどノートは日記ではないし、当然、昨日の朝ごはんなんて書いていない。ノートの文字を追いかけていた七七は再度首を傾げた。
(あれ……今、なにを見ようとしていたんだっけ……。メモを見てたら思い出すかな。)
そのままページをめくっていた七七だったが、ついに一番新しいページにたどり着いた。そのページにはこう書いてある。
『白先生は優しい。死の気配のする女の子から七七を守ってくれた。七七に記憶力を良くするトレーニングを教えてくれた。いい人。七七は白先生が好き。』
七七は何度か繰り返してその文字列を黙読した。
(なにかちがう気がする。なんだろう?)
七七は少し考え、筆を取り出す。そして「七七は白先生が好き」の「好き」の部分を黒く塗りつぶした。そしてその隣に大きく文字を書き加え、文を小声で読み上げた。
「七七は白先生が『大好き』。うん。これでいい。」
七七は満足げに頷いた。そしてわかる人にしかわからない程度に口角を上げて微笑んだのだった。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 15/09/2026
(2/3)
「貴女は本当に優しい子ですね。」
白朮は立ち上がり、子供をあやす様に七七を軽く揺らす。七七のくぐもったすすり泣きが、物悲しく響いた。
 それからどれくらいたっただろう。七七が泣き疲れて眠ってしまう頃には、立ったままの白朮の腰は悲鳴をあげていた。
 七七を部屋に連れて行き、ベッドに寝かせる。七七の目元は真っ赤で、頬には涙の跡が残っていた。
 白朮は七七の首にかかったノートを手に取った。パラパラとめくると、一番新しいページで手を止める。そこにはこう書いてあった。
『白先生は優しい。死の気配のする女の子から七七を守ってくれた。七七に記憶力を良くするトレーニングを教えてくれた。いい人。七七は白先生が好き。』
白朮は表情を曇らせた。反射的にページを握る手に力がこもる。ハッと我に返った白朮は、慌ててページから手を離した。
 白朮には七七が泣いた原因の心当たりがあった。七七が白朮のことをノートに書く度に、白朮がそのページを破り捨てていたのだ。覚えられないのは当たり前だ。それでも問題は無いと思っていた。七七の記憶力のトレーニングは順調で、なんの問題もないと。けれど、そうではなかった。
 七七は今日のことを忘れてしまうだろう。いくら白朮が優しい言葉をかけて安心させたところで、それを忘れた七七が明日も泣いてしまうかもしれない。根本解決は今後のためにも必要だ。
 白朮はノートを七七の枕元にそっと置いた。
「へえ。破るのはやめたの?」白朮は振り返る。扉の隙間から長生が入ってくるところだった。白朮は長生を抱き上げる。
「ええ。」
長生は白朮の首を一周し、定位置に収まる。
「いいじゃないか。前々からやめといた方がいいって言ってた甲斐があったね。」
「……。」
「で、なんて書いてあったの?」
白朮は七七のノートを取って再び開いた。白朮のことが書いてあるページを見た長生は、白朮の方に視線を移す。
「いつもだったら破り捨ててる内容だろうに。どういう心境の変化だ?」
白朮はノートの文字をなぞった。長生がその文を読み上げる。
「いい人。七七は白先生が好き。」
それは白朮が今まで忌避してきた言葉だった。白朮は呟く。
「……私は……『いい人』ではありません。あるはずがありません。」
七七の体質を知っていて、それを利用する目的で彼女を引き取った者を「良い人」と呼べるだろうか。己の欲のために、治療と称して研究している医者が「良い人」であるだろうか。だから白朮は七七のノートに「白先生は良い人」という文脈を見つけては破り捨てていた。だが、それでは駄目なのだ。
 白朮は大きく深呼吸する。
「ですが、この子の治療に『いい人』が必要なのであれば、私は全力でその役をやりましょう。」
ノートを七七の枕元に戻すと、七七がむず痒げに顔を顰めた。寝返りを打った拍子に脱げた布団をかけ直してやる。あどけない寝顔を眺めながら白朮は囁いた。
「私は……ただ自分の罪悪感を誤魔化したいだけだったのでしょうね。」
長生は何も返してこなかった。その沈黙が、まるで彼女の同意を物語っているかのように感じられる。白朮は小さく首を振り、七七の部屋を後にした。

 目が覚めると、目が変だった。七七はボヤけた目を擦って、首を傾げる。ノートをパラパラとめくってみるも、昨日のことは書いていない。七七は欠伸をひとつすると、身支度を済ませて部屋を出た。
 台所からいい匂いがする。七七はそっと台所を覗いた。白朮が何か料理をしている。何か普段と違う気がするが、それが何かは七七にはわからなかった。
 七七は白朮の服の裾を軽く引いた。
「びゃく先生。おはよう。」
白朮は七七を振り返り、ペラリと札をめくって七七の顔を覗き込んだ。
「おはようございます。湯冷ましを飲みましょうね。」
手渡された湯冷ましはちょうどいい温かさだった。七七に味はわからないが、なんだか湯冷ましが無性においしく感じる。空になった湯呑みを白朮に返すと、白朮は湯呑みを置いて七七の前に屈んで膝をついた。
「少しジッとしていてくださいね。目ヤニが付いています。」
濡れた手ぬぐいで顔を拭かれる。目元から頬から顔全体を拭かれ、七七は一歩後ずさった。
「動かないでください。もう少し……はい、もう大丈夫ですよ。」
そう言って白朮は七七を解放した。七七は目をパチパチと瞬かせる。目が開きづらいような変な感じはなくなっていないが、白朮が良いと言うなら良いのだろう。
 七七は白朮を見上げる。白朮は釜戸に向かい、鍋をかき混ぜていた。
「びゃく先生。なにしてるの?」
七七は訊ねる。白朮は空いた手で七七の頭を撫でた。
「汁物を作っているんですよ。はい。味見をどうぞ。」
そう言って白朮はお椀に少しだけ汁物を注ぎ、七七に差し出した。お椀からは湯気が立っている。
「……あつそう。」
七七が躊躇すると白朮はクスクスと笑った。白朮は汁物にふーふーと息をふきかけて少し冷まし、もう一度七七に差し出す。
「どうぞ。」
七七はまだ少し熱い汁物を飲んだ。白朮にお椀を返し七七は言う。
「おいしい。七七は味がわからないけど……。」
白朮はまた笑った。そして同じお椀にもう一度汁物を注ぐと、自分で味見をした。
「ええ、貴女の言う通り、美味しいですよ。点心を温めて持っていきますから、座って待っていてください。」
七七はコクリと頷く。そうして椅子によじ登り、足をブラブラさせ始めた。
(あれ。)
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 15/09/2026
「破られた記憶」 七七ちゃんのノートから都合の悪い内容を破いていたら泣かれてしまった白先生の話。 (1/3)
 とたとたと軽い足音が廊下から聞こえる。扉が開き、小さな影が部屋に入ってきた。
「ただいま。えっと……長生。それからあなたは……びゃく先生?」
額の札の奥から、桃色の瞳がおずおずと白朮を見上げた。
「はい、おかえりなさい。すぐ夕食ですから、座って待っていてください。」
少女はコクリと頷く。そうして椅子によじ登り、足をブラブラさせ始めた。
 白朮が不卜廬に七七という少女を引き取ってしばらく。ようやく生活が安定してきた。七七は記憶力に難があり、不卜廬を家と認識できるようになるまで随分時間がかかった。白朮は根気よく七七を家に連れ帰り、ノートに書き留める習慣をつけさせ、家はここだと何度も言い聞かせた。最近は、胡桃が七七を埋葬しようと騒ぎを起こしても七七が不卜廬に逃げ帰って来るようになった。おかげで白朮が胡桃を追い返せるようになり、七七を探し回る頻度は少なくなっている。日常生活に関しても記憶力のトレーニングの効果が少しずつだが現れており、経過は順調だった。
 白朮はできたての温かい料理を机に並べる。七七はノートを膝に広げて眺めていた。
「お待たせしました。」
 白朮は七七の向かいに座る。白朮の肩の上から長生が食卓を眺めた。
「見慣れない料理があるね。おすそ分けでもらったの?」
「ええ。輸入物のスミレウリです。焼いて食べると美味しいとのことだったので、炒め物にしてみました。」「ふぅん……ひとくちおくれ。」
「もちろんです。」
長生を肩から下ろし、自分の皿から料理を取り分けてやる。そして自分も二口ほど食べたところで、七七がノートに目を落としたままなことに気づいた。
「七七?どうしました?」
 声をかけるも、返事はない。
「七七……?」
白朮は箸を置いた。席を立ち、七七の傍に行って膝をつく。顔を覗き込むように見上げると、七七はギュッと目を閉じた。
 ノートにぽたりと雫が落ちる。白朮は大きく目を見開いた。
「な、七七……?泣いて?え……どうしたのですか?」
驚いた白朮はオロオロと手を上げたり下げたりすることしかできなかった。何しろ七七は不卜廬に引き取られてから今まで一度も泣いたことがなかったのだ。そもそも七七は表情を変えるのが不得意で、感情が読みづらい。体質上、七七は筋肉が固まりやすく、表情筋も例外ではないからだ。白朮はそんな七七の感情の機微にはとりわけ注意を払っていた。不安そうな顔をしていないかよく観察し、声をかけてきたつもりだった。しかし結果はこの有様である。
 長生がテーブルを横切って七七の前に首を伸ばす。
「ちょっと、どうしたのさ。」
口先で七七の前髪を撫でる長生。七七の目からまた涙がぽたぽた落ちた。
「……うっ……グスッ……七七、また……忘れちゃった……。」
七七の小さな手がノートの端を強く握りしめる。どうやらなにかを思い出せずに悲しくなってしまったらしい。白朮は七七を落ち着かせようと、ひとまずその小さな背に手を当てた。
「焦る必要はありませんよ。何を忘れてしまったのか、わかりますか?」
白朮はできるだけ優しく七七に声をかける。しかし七七はいっそう激しく肩を震わせるばかりだ。
「……え……ええん……ど、しよ……ヒック……グスッ……なな、……のこと、わすえちゃっ……ううっ……。」
切れ切れの言葉からは内容がわからない。白朮はゆっくり七七の背を撫でた。
「何を忘れてしまったのですか?」
七七はしばらくしゃくりあげ、何度か失敗しながら、ようやく言葉を絞り出した。
「……ヒック、うっ……ヒック……び、びゃくっせんせ……の、ヒック……こと……グスン……。」
どうしよう、白先生のこと忘れちゃった。頭の中で七七の言葉を繋ぎ合わせる白朮。予想外の言葉に困惑しつつ、白朮は言葉を選んで七七を元気づけようと頭を捻った。
「七七。気にする必要はありませんよ。貴女は頑張っています。また覚えればいいんです。」
出てきたのは当たり障りのない励ましの言葉。けれど七七は、イヤイヤと首を横に振る。白朮はどうすることもできず、ただただ七七の背をさすった。
 そんな状態の二人を見かねたのか、長生が大きくため息をついた。
「……はー……全く仕方ないねえ。七七、ゆっくりでいいから、何が嫌なのか言ってごらん?」
白朮は机の上の長生を見上げる。
「長生……七七のこの状態では話なんて……」
「おだまり。」
長生はピシャリと白朮の言葉を撥ねつけ、ジッと白朮を見つめる。
「まずはこの子の気持ちを受け止めてやらなきゃ。ほら七七?私がちゃーんと聞いてやるから、言ってごらん?」
長生は変わらず七七の髪を口先で撫でながら話しかけた。七七はしゃくりあげつつも深呼吸する。そして小さな手で涙を拭った。
「……うぅ……ひっく……びゃく先生のことだけ、すぐ忘れちゃうの。桂のことも、長生のことも、わかるようになったのに……。びゃく先生だけ……ずっとわからないの……グス……。七七が……このままずっと覚えられなかったら……先生のこと、悪い人とまちがえて、攻撃しちゃうかもしれない……。」
そう言ってまた泣き出す七七に、白朮は笑顔を作って見せた。
「大丈夫ですよ。貴女の気持ちが落ち着いたら、覚えられるようにもう一度ノートに書きましょうね。それに万が一、私を攻撃しても大丈夫です。私だって神の目を持っているんですから。」
長生の「そういう問題じゃなくない?」と言いたげな視線を無視し、白朮は七七の頭を撫でた。七七の体が白朮の方に寄りかかってくる。そのまま七七は、白朮の首にしがみついてきた。
「……うう……びゃくせんせぇ……。」
白朮の肩に顔を埋める七七。白朮は七七を椅子から抱き上げ、背をトントンと叩いた。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 20/07/2026
(2/2) 桂さんが七七ちゃんの扱い上手かったらニッコリします。
白朮は今日の献立を思い浮かべ、首を横に振った。
「気持ちだけいただいておきます。夜の柔軟体操はしましたか?」
七七は少し考えて困ったように眉を下げた。
「おぼえてない……。やってないかも。」
「では柔軟体操を済ませて来てください。やらないと大変ですからね。」
七七は頷いて柔軟体操をしに出ていく。
「今のうちに料理を終わらせてしまいましょう。」
白朮はそう言って手際よく人参を刻み始めた。
 夕食を済ませて七七を寝かしつけ、白朮が自由に動けるようになったのは随分夜が更けてからだった。
「さて、仕事を終わらせてしまいましょうか。」
「今からやるの?」
長生が呆れたように白朮をつつく。
「ええ。終わっていませんから。」
白朮は笑顔で筆を手に取った。
 その日の不卜廬の灯りは消えることがなかった。

 七日目。往診に出かけた白朮が帰ってきたのは昼過ぎになってからだった。軽く昼食を済ませ、白朮は長椅子に倒れ込む。酷く頭が痛かった。
「全く!昨日徹夜なんてするから!」
長生の説教がガンガンと頭に響く。
「少しだけ寝かせてください……。」
そう言って白朮は目を閉じた。

 目眩のような不快な感覚が白朮を襲う。
「先生。白朮先生。起きてください。こんな所で寝ては風邪をひきますよ。」
聞きなれた声がして、白朮はゆっくりと目を開けた。
「桂……?」
見慣れた黒髪が視界の端に映る。桂が頷いたのがボヤけた視界でも分かった。
 たった一週間だったというのに、桂の心配そうな顔を随分懐かしく感じる。白朮はゆっくりと目をしばたかせた。
「出勤は明日からではありませんでしたか……?」
白朮は目を擦り、眼鏡を探す。桂が机の上にあった眼鏡を白朮に渡した。白朮が眼鏡をかけると、桂の困った顔がはっきりと見えた。
「今日帰ってきて明日から出勤の予定だったんです。ですが心配で来てみたら……。はあ……。来てよかったようですね。長生からだいたいのことは聞きました。魘されていましたよ?寝不足が原因ではないですか?」
白朮は思わず苦笑した。長生から話を聞いているということは即ち、徹夜したことがバレているということだ。きっと小言を言われるに違いない。
 白朮が言い逃れを考えていると、トタトタ、トンと軽い音がした。桂がつんのめり、白朮の寝ている長椅子の背もたれに手をついた。
「七七!危ないだろう!」
白朮の耳元で桂の声がする。見れば桂の腰に七七がしがみついていた。
「桂。おてつだいする?」
桂はゆっくり体勢を立て直し、七七の頭をポンポンと撫でる。
「夕飯を作るから、お手伝いしてもらおうかな。」
 硬直している白朮に桂はブランケットをかけた。
「七七と夕食の支度をして来ます。もう少しお休みになってください。後で呼びに来ますから。」白朮はブランケットを口元まで引っ張りあげた。七七と桂が話しているのが聞こえる。
「なにをすればいい?」
「トマトを切って出すから、冷やして欲しいな。凍らせちゃ駄目だからね?」
「わかった。」
そのやり取りを聞いているだけで安心感で力が抜ける気がした。
 白朮の頭の上から長生の鎌首が伸びてくる。
「桂のありがたみを思い知ったんじゃないか?あいつに何か言ってやったら?」
白朮は長生の視線を避けるように白い顔を手で覆った。
「そうですね……次のお給料日からはお給料を上乗せしましょうか。」
チクリと軽い痛みが白朮の手に走る。
「この朴念仁。」
長生はそう言い捨てて白朮の視界から消えた。
「……私はなぜ罵られたのでしょうか。」
白朮はつぶやく。答えが欲しい訳ではなかった。明日からまた、普段の日常が戻ってくる喜びに比べれば、そんな疑問など些細なことなのだから。白朮は頭の中で予定を組み直し、ブランケットの下で微笑んだ。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 20/07/2026
「2+1≠3」 桂朮。 桂さんがいなかったら不卜廬回らないよな、という妄想から生まれた桂朮。 白先生の無自覚片思い。 (1/2)
「本当に大丈夫ですか?一週間もお休みをいただいて……。」
「心配することはありませんよ。」
 心配そうに何度も念を押す桂に、白朮は思わずクスクスと笑い声を漏らした。
「ご家族と旅行に行くのでしょう?こちらのことは気にせず、羽を伸ばしていらっしゃい。」
普段と違う雰囲気を感じたのか、七七が二人を交互に見上げている。
「桂、どこか行くの?」
桂は屈んで七七を撫でた。
「うん。モンドに旅行にね。その間、不卜廬と白朮先生のことを頼むよ。」
七七は力強く頷く。
「うん、大丈夫。びゃく先生は七七が守る。」
「七七が守ってくれるなら安心だな。じゃあ、行ってくるよ。」
桂は立ち上がり、白朮に一礼する。
「では失礼します。」
「はい、行ってらっしゃい。気をつけて。楽しんできてくださいね。」
そうして、桂のいない一週間が始まった。

 最初の二日は何も問題は起きなかった。桂の固定休と勝手は同じだ。
 このまま問題なく進むと思っていた三日目の朝。子供を抱えた母親が不卜廬に駆け込んで来た。
「白朮先生!子供が鍋に触れてしまって火傷を!」
切羽詰まった悲鳴が不卜廬に響く。接客中だった白朮は前の患者を待たせ、真っ赤になった小さな手のひらを確認する。
「桂、治療の準備を……。」そう言って振り返った白朮は、桂がいなかったことに気づく。
「七七!いますか?」
慌てて思考を切り替え、自ら準備をする白朮。駆け付けた七七に氷嚢を作らせ、子供の手を冷やさせる。軟膏を塗って包帯を巻き、そうして何とか治療が終わった。
 無事に治療が終わったと思ったのも束の間、その出来事が引き金になったかのように、似たようなことが続く。
「桂、処方箋を持って行って……。そうでした。」
「桂、届いていたあれはどこに……。ああ、また……。」
「これは桂に頼んで……頼めないのでしたね……。」
白朮は必死に桂がいなかった頃の感覚を思い出そうとした。しかし、感覚はそう簡単には戻って来てはくれない。最近使っていなかった器具をどこに置いていたか思い出せない。桂がやってくれていた工程をどこに組み込めば良いかが咄嗟に出てこない。
「ちょっと桂に頼りすぎてたんじゃない?」
焦る白朮の肩の上で、長生はケラケラ笑った。

 四日目。
 七七がやってきて白朮を見上げる。
「びゃく先生」
「どうしました?」
「……なにを言おうとしたのか、わすれた。」
「そうですか。思い出したら教えてくださいね。」
この四日間で何回この会話をしたことだろう。しばらく白朮の足元をウロウロしていた七七が立ち止まり、もう一度白朮を見上げた。「おもいだした。びゃく先生、桂はどこ……?」
 この質問をされたのも、もう何回目か分からない。
「桂はしばらくお休みです。モンドへ遊びに行っていますよ。」
「モンド……モンドって遠いの?」
七七は困ったように肩を落とす。
「薬草の仕分け。桂といっしょにやる。ひとりでやらない。桂との約束。」
七七はノートのページをめくった。
「これも桂といっしょじゃないとだめ。これも、これも……。七七ができるおてつだい、もうない。」
肩を落とす七七。白朮は目を丸くした。
「七七。ノートを見せてもらっても良いでしょうか?」
七七は背伸びをして白朮の前にノートを掲げる。白朮はノートを受け取り、パラパラと確認した。
 最初の頃こそ白朮は七七のノートをチェックしていたが、最近は確認をしていなかった。そのノートの前半。七七がノートを新しくする度に書き写している内容の中には「不卜廬のお手伝い」という項目があった。薬草の乾燥、洗濯物を干すことなど、簡単なお手伝いがずらりと記載してある。そのほとんどに「桂と一緒にやる」と書いてあった。
 長生が首を伸ばして七七の帽子の上に移る。
「七七。今日は私が一緒にやってやろう。白朮。それでいいね?」
白朮は頷いた。
「七七。長生の言うことを良く聞いてくださいね?」
白朮が七七を覗き込むと、七七は嬉しそうに頷く。「うん。」
「あっこら!頷くんじゃない!まだ私が乗り切っていないだろう!」
長生の賑やかな文句を連れて七七は駆けていく。安堵と共に白朮は心の中で呟いた。
(桂があんなに七七に手伝いをさせていたなんて……。)
もちろんそれは悪い意味ではない。だが、自分の知らぬところで桂が七七と仲良く過ごしていたのだと思うと、何故か不思議な気持ちになった。嬉しいような寂しいような。その感情を言語化することは白朮にはできなかった。

 五日目。薬舗のあちこちが微妙に汚れていることに気づいた。普段から白朮も掃除はしているが、それはほんの少しだったことを痛感する。桂が日々きっちり掃除をしてくれているおかげで簡単な清掃で済んでいたが、この数日で少し汚れが気になる部分が出てきた。
「少し丁寧に掃除をしなくてはいけませんね。」
白朮は箒を手にため息をつく。薬舗である以上、清潔さは最も重要だ。その日は掃除で半日を要した。

 六日目。仕事が随分溜まっていた。
 書かなければならない処方箋は山ほどあるし、往診用の薬も作り足す必要がある。往診は明日の午前中。夕方の時点で半分も終わっていなかった。
「もう少し進めておきたいですが、夕食の準備をしないと……。」
 台所に行くと案の定、七七が待っていた。
「びゃく先生。おてつだいする?」
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 04/07/2026
(3/3)
鍾離が話しかけると、桂は手を止めることなく苦笑した。
「七七がなかなか寝てくれなかったのですよ。さっきやっと寝てくれたのですが、ご覧の通り片付いていないもので。」
「それで腹ごしらえが必要だったのだな。」
「そういうことです。」
「大変だったな。」
「鍾離先生こそ。お疲れ様です。」
互いを労い合う二人。和やかな雰囲気は、鍾離が不意に口を噤んだことで終わりを告げた。
 桂も異常を察して口を閉じ、手を止める。ペタペタと軽い足音。桂の顔がみるみる絶望に染まっていく。
「けい……?」
台所の入口から寝かしつけたはずの七七が顔を出した。鍾離は桂と七七の間に割り込むように七七の前に立つ。
「どうした?七七嬢。眠れないのか?」
なんでもないように尋ねると、七七はコクリと頷いた。
「うん……ねれない。」
「そうか。どうだろう。俺と少し歩こうか。」
鍾離が屈んで両手を差し出すと、七七は両手をあげてバンザイをした。鍾離は七七を抱き上げ、桂に目配せする。桂は申し訳なさそうに頷いた。
 裏口から出て、不卜廬の周りをゆっくり歩く。七七は鍾離の腕でソワソワと落ち着かない様子だ。
「どうした?」
鍾離は七七を抱え直す。七七は小さな手をギュッと握りしめていた。
「……桂のだっこより高い。びゃく先生のだっこより固い。へんなかんじ。」
「そうか。高いのは嫌いか?」
「ううん。」
やはり七七は鍾離の腕の中で動き回ろうとする。なかなか心を許してはもらえないようだ。これは後で桂に交代するしかないかと鍾離が思い始めた頃、七七がポツリと言った。
「びゃく先生は?」
鍾離は七七を見下ろす。札の影から覗く桃色の瞳は不安で揺れていた。鍾離は七七に微笑んで見せる。
「白朮なら眠っている。もう心配はいらない。」
そう言って鍾離は不卜廬の中に戻った。
 廊下を抜け、白朮の部屋にやってきた鍾離は、扉を開けて七七に中を見せた。白朮の顔は衝立に隠れているが、布団の膨らみで、白朮がそこにいることはわかる。鍾離は声を落として七七に囁いた。
「ほら、ぐっすり眠っているだろう?」
七七は口元を手で覆い、コクコクと小さく頷いた。その仕草に白朮を起こすまいという気持ちが垣間見えていじらしい。鍾離は扉を閉め、七七の背をトントンと叩く。
「七七嬢が用意してくれた氷水は大いに役に立っている。何日かすれば白朮もすっかり良くなるだろう。さあ、安心して眠るといい。早く眠れば再会も早くなる。」
七七の手が鍾離の服を掴む。
「びゃく先生、元気になる?」
鍾離は七七の頭を撫でた。
「ああ、すぐに元気になるとも。」
七七は鍾離の肩に頬を乗せ、鍾離の首筋にグリグリと顔を押し付けてくる。
「うん。じゃあ、七七、まってるね。」
そう言って七七は静かになった。やがてぷうぷうと可愛らしい寝息が聞こえてくる。鍾離は静かに台所に戻った。
 台所では桂が手ぬぐいで手を拭いているところだった。
「眠ったぞ。」
鍾離はそう言って微笑む。桂は安堵の表情でため息をついた。
「ありがとうございます、鍾離先生。こちらもちょうど片付きました。」
桂は慎重に七七を鍾離の腕から受け取る。
「部屋まで送ろう。」
鍾離は燭台を手に取った。

 桂と七七を部屋まで送り届けた鍾離は、白朮の部屋に戻った。白朮の呼吸は比較的穏やかだが、依然として熱が高い。鍾離は温くなった手ぬぐいを濡らし直した。七七が作った氷はほとんど溶けてしまっている。しかし水はまだ十分な冷たさを保っていた。
「……しょうりさん……?」
白朮が小さく身じろぎし、薄く目を開ける。
「起こしたか?まだ寝ていなさい。」
鍾離はそう言って白朮の目を手で覆った。
「……う……ん……。」
白朮はモゾモゾと布団から手を引っ張り出すと鍾離の手に触れる。そして安心したように小さく微笑むと、また寝息を立て始めた。子供のようなその所作に、鍾離は思わず笑みを零す。ベッドに腰掛け、白朮の手を握る鍾離。「おやすみ。」
そう囁いて、鍾離は白朮の額に口付ける。それに呼応するように、白朮の手がキュッと鍾離の手を握り返した。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 04/07/2026
(2/3)
立ち上がった鍾離の服の裾を白朮が掴んだ。
「まっ……う、ぐ……ゲホッ!ゴホッゴホッ!ゴホッ!ゲホッ!」
コポコポと嫌な音がして、白い手ぬぐいに赤いシミが広がった。鍾離は再度屈んで白朮の背を撫でる。
「どうした?ゆっくりで構わない。」
白朮は苦しげな呼吸を繰り返し、やっとといった様子で言葉を紡ぐ。
「……く、くすり……おとして……ケホッ!ケホッ!ゲホッ!」
切れ切れの言葉と、床に落ちていた粉のようなもの。鍾離の頭の中でそれらが繋がった。
「薬を飲めていないのか。」
返事の代わりにまた咳き込む白朮。鍾離は机の引き出しを開けた。そこは白朮の持病の薬が入っている場所だ。普段は綺麗に整頓されている引き出しの中身は不自然に乱れている。
 鍾離は即座に状況を整理しにかかった。
 朝から体調の悪かった白朮は、薬を机から取り出してベッドに戻った。ひと眠りした後、本格的に具合が悪くなった白朮は薬を飲もうとし、薬を落として駄目にしてしまう。薬を取りに起きられる体調ではなく、動けないままで夜になってしまった。そんなところだろう。
 鍾離は薬を取り出し、白朮の元に戻った。白朮を助け起こし、粉薬を口に流し込む。本当は湯や水で溶いた方が良いのだが、そんな時間はない。
「頑張れ。」
白朮は苦しげな表情で薬を受け入れる。鍾離が水差しを差し出すと、白朮はゴクゴクと勢いよく水を飲み干した。「はぁ……はぁ……は……う……ケホ……コホ……」
鍾離は白朮を抱きしめるように支え、背をさする。白朮は鍾離に体を預け、咳まじりの呼吸を繰り返した。
「す……みません……。」
そう囁くと、白朮は鍾離にしがみついてきた。鍾離は白朮の姿勢を変えてやり、呼吸がしやすいように抱え直す。白朮は身をこわばらせ、鍾離の服を強く握った。
 白朮の背をゆっくりさすってやりながら、鍾離は七七の言葉を思い出していた。
『びゃく先生、ずっと咳してる。くるしそう。』
ずっと、とはどれくらいのことだったのだろう。覗き込んだ顔色は真っ白で、汗で髪が頬に張り付いている。
「来るのが遅くなってすまなかった。じきに薬が効いてくるだろう。それまでこうしているからな。」
白朮からの返事はなかった。返事をしている余裕がないだろうことは鍾離も承知の上だ。むしろ、無理に喋って悪化されることの方が困る。鍾離はそれ以上何も言わず、白朮の背をさすり続けた。
 白朮の荒い呼吸が寝息に変わるまでそう時間はかからなかった。固く握られていた白朮の手が緩む。やがて白朮の手が鍾離の服から離れ、パサリと軽い音を立ててベッドに落ちた。
「さて……」
鍾離は白朮をベッドに横たえると、行動を開始した。
 汗で濡れた寝間着を脱がせ、体を拭いてやり、新しい寝間着を着せる。七七と桂が用意した氷水で布を冷やし、熱を持った額に乗せると、白朮の表情が僅かに和らいだ。それから窓を開けて部屋に風を通し、汚れ物を片付け、床を掃除し、枕元に水と薬を用意する。そして最後に、鍾離は白朮の枕元で身動ぎひとつしない白い体躯を腕に抱えあげた。
「長生。大丈夫か?」
 赤い瞳と目が合う。
「うるさいねえ。」
そう言いながらも長生は鍾離の腕に力無く巻きついた。仙力を軽く流してやると、巻き付く力が僅かに強くなる。彼女用の水皿に水を注いで差し出せば、長生はゴクゴクと水を飲んだ。長生は常日頃から白朮の体を調整しているが、今日のように酷く体調を崩した時は、長生の方にも負荷がかかる。もう僅かしか扱えない仙力を使い果たしてしまうからだ。今の長生は満身創痍で、それでも白朮の体を調整し続けていた。
「白朮の不調に引かれたのか。回復に何か必要なら言ってくれ。」
鍾離は長生の首元を撫でる。その手から逃げるように、長生は鍾離の腕からベッドの白朮の方に体を伸ばした。
「いらないよ。血とか肉とか分けられても、強すぎて私が耐えられないだろうさ。」
鍾離はベッドに長生を下ろした。長生は白朮の頭の横でとぐろを巻く。体の調整に集中するのだろう。
 鍾離は白朮の状態が落ち着いているのを確認して部屋を出た。

 諸々を片付けるために台所へ向かう鍾離。台所からは蝋燭の灯りが洩れていた。「桂殿。まだ起きているのか?」
台所を覗き込んだ鍾離を出迎えたのは、点心を片手に目を丸くした桂の姿だった。気まずい空気が二人の間に流れる。
「……失礼しました。鍾離先生。」
「邪魔をしてすまなかった。ゆっくり食べてくれ。」
桂の前には小さな点心が三つ乗った皿が置いてある。桂が鍾離に皿を差し出した。
「先生もいかがですか?」
面食らった鍾離は思わず桂と点心を交互に見やる。
「これはお前の夜食なのだろう?俺がもらってしまっていいのか?」
桂は頷く。
「こんな時間まで白朮先生のことを看てくださっていたのですよね?きっとお疲れでしょう。どうぞ。」
鍾離は手元の盆を置き、点心をつまむ。餡子の入った甘い点心だった。
「茶が欲しくなるな。」
鍾離はそう言って笑った。桂は鍋の後ろに隠れていた急須を取り出してお茶を注ぐ。
「残り物で一杯分もありませんし、冷めてしまっていて申し訳ありませんが。それに、少し渋味が出ているかもしれません。」
鍾離は半分程お茶が入った湯のみを受け取った。
「用意がいいな。」
「鍾離先生のタイミングがいいんですよ。」
そんな会話をしながら鍾離は桂が自分用に用意したであろう茶の残りをすする。桂は鍾離が下げてきた水差しや湯のみを、七七と桂が夕飯で使ったであろう食器と一緒に洗い始めた。
「それで、桂殿はなぜこんな時間に夜食を?」
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 04/07/2026
鍾白+不卜廬で白先生の体調不良ネタ。 付き合ってる鍾白。 (1/3)
鍾離が不卜廬にやってきたのは、夜も遅くなった頃だった。トントンと軽く裏口の戸を叩く。しばらくすると桂が出てきて鍾離を迎え入れた。
「こんばんは、鍾離先生。来てくださってありがとうございます。」
「こんばんは、桂殿。遅くなってすまない。」
「とんでもございません。来ていただけて良かった。私ではどうにもならず……。」
 勝手知ったる不卜廬の廊下を、桂の後に続いて歩く。今日鍾離が不卜廬を訪れた理由は、白朮が体調を崩したと報せがあったからだった。白朮は発作を起こす度、長生だけを傍に残して部屋にこもる。そして桂と七七はお湯や布、食べ物を運び、部屋の前に置いておくことしかできない。
 しかし、鍾離は例外だった。白朮の恋人である鍾離は「どんな状況でも」白朮の部屋に入ることを許されている。そういうわけで、桂は白朮が体調を崩す度に速やかに鍾離に報せを出すのだ。しかし今日の鍾離は出かけており、報せを受け取った時点で日は沈んでいた。手紙には白朮が朝から起きてこないとあり、鍾離はすぐに駆けつけられなかったことが気にかかっていた。
 歩きながら鍾離は状況を尋ねる。
「白朮の様子は?」
「かなり具合が悪いようです。」
桂の声は少し沈んでいるように聞こえた。きっと白朮がいない不卜廬をなんとか回しきった疲労もあるのだろう。桂はため息をついた。
「朝に汁物と手ぬぐい、お湯、水差しを届けたのですが、汁物にほとんど手を付けていなかったのです。昼と夕方にも同じものを届けましたが、取りにも出てこられていないようで……。」桂は立ち止まる。
「夕方辺りから、七七が心配してずっとあの調子なのです。」
 鍾離が角から白朮の部屋の前を覗き込むと、白朮の部屋の前で膝を抱えて座っている七七と目が合った。
「あ……あなた……。」
 七七はノートをめくる。
「あなたは……そう。知ってる人。背の高い、茶色い格好の人。しょうり先生。」
鍾離は屈んで七七と視線を合わせた。
「こんばんは、七七嬢。こんな所で何を?」
七七は扉に視線を向ける。扉の向こうから、白朮が咳き込む音が小さく聞こえてきた。
「びゃく先生、ずっと咳してる。くるしそう。でも七七は中に入っちゃいけない。だから、いいって言われるの、まってる。」
七七は広げたノートを鍾離に向かって掲げた。そこには「白朮先生の部屋には勝手に入らない」と書いてある。
「言いつけを守っていて偉いな。後のことは俺に任せてくれ。」
七七は不安げに鍾離を見上げた。
「びゃく先生、元気になる?」
鍾離は七七の頭を撫でた。
「ああ、すぐに元気になるとも。」
七七の視線が落ちる。何か物言いたげな様子だ。
「どうした?」
鍾離が尋ねると、七七は少し考え込んで、言った。
「七七にできることはない?」
鍾離はしばらく考えて、桂に目配せする。桂はその視線を受け止め、頷いた。鍾離は真剣な顔を作る。
「では、桂と一緒に桶一杯分の氷水を作ってきてくれないか。白朮はきっと熱があるだろうから、冷やすのに氷水が必要だ。だが、桶の水を全て凍らせてはいけない。氷を水に浮かべてくれ。できるか?」
七七は目を泳がせた。そして助けを求めるように桂を見る。
「桂……。おぼえるの、たいへん。」
桂は頷いた。
「大丈夫。私が覚えているから、一緒にやろう。」
七七の表情がわずかに明るくなった。
「うん。」
立ち上がって桂の足元に駆け寄る七七。その背に鍾離は声をかけた。
「桶は部屋の前に置いてくれ。」
七七と桂が揃って頷く。二人が廊下を曲がったのを確認し、鍾離は部屋の扉を叩いた。

 部屋の中から返事は返ってこず、代わりに咳き込む音が聞こえる。
「白朮。俺だ。入るぞ。」
鍾離は返事を待たずに扉を開け、夕方に桂が用意したという盆を持って部屋に入った。部屋の中は真っ暗だ。扉を閉めれば重たい空気が部屋の中に充満し、息苦しささえ感じる。鍾離は元素視覚でテーブルの場所を確認し、盆を置いた。蝋燭に火をつけ、衝立の向こうの白朮のベッドに向かう。
 白朮のベッドは酷く乱れていた。普段の彼の寝相からは想像できないほどシワだらけのシーツの上に、緑の髪が広がっている。白朮は普段、眠る時に髪をまとめて眠る。それが酷く乱れているのは、白朮が何度も寝返りを打ったということだ。それらの情報を照らし合わせれば、白朮が随分と布団の上で苦しんだことは想像に難くない。
 数歩進んだ鍾離は、違和感を覚えて足を止めた。足元が何か砂を踏んだように滑る。屈んで確認すると、粉のような物が床に散らばっていた。それが何か確認しようと手を伸ばす鍾離の視界の端で、白朮の影が揺れた。
「……こほっ……ケホッ……」
鍾離はパッと顔を上げた。力ない咳の音が部屋に響く。
「白朮。」
鍾離は白朮の肩に手を当てた。布越しでも分かるほどに体が熱い。見れば、白朮は真っ黒な手ぬぐいで口元を覆っていた。見れば枕の一部にも黒いシミが付いている。
(血を吐いたのか。)
鍾離は盆の上から新しい手ぬぐいを取り上げ、白朮の手元のものと交換する。湿った手ぬぐいが、白朮の体調の深刻さを物語っていた。
「ケホッ!ゲホゲホッ!……うっ……コホッ……」
白朮は激しく咳き込んだ。枕元の水差しは空だったが、鍾離が持ってきた盆には幸い、満杯の水差しが乗っている。鍾離が水を差し出すと、白朮は僅かに口を開けた。
 ゆっくりゆっくり水を飲ませる。白朮の喉がコクリと鳴り、咳はゼイゼイと苦しげな呼吸音になった。
「……はぁ……はぁ……しょ、りさ……。」
白朮が喉から絞り出すように鍾離を呼んだ。鍾離はそっと白朮の背を撫でる。
「無理に喋るな。桂から湯をもらってくる。」
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 05/06/2026
「電池切れのように」 ver.4.3のストーリー途中であったかもしれないヴェルトさんとサンデーの話。 notCPのつもりですが、生産元がカプ厨のためCPっぽく見えるかもしれないです。
二相楽園での幻月遊戯のさなか、列車の面々は集まって小規模なパーティを開いていた。満願との激しい戦いを収めた直後のことだ。パーティとは言っても、乾杯をしてちょっとした食べ物をつまむ程度のささやかなもの。それは束の間の休息だった。そして短い作戦会議の後、各々はまた次の戦いに出かけていく。
 開拓者が出かけ、なのかも続いて出かけて行った。ヴェルトは丹恒を少し待たせ、パーティ車両の片隅に佇むサンデーに声をかけた。
「サンデーさん。大丈夫か?」
「ヴェルトさん……?なんでしょうか。」
振り返ったサンデーはヴェルトを見て微笑みを浮かべる。しかしその顔には疲労が色濃く滲んでいて、「眠い」と顔に書いてあるかのようだ。
「俺もそろそろ出る。君は眠った方がいい。ベッドに行きなさい。」
子供に言い聞かせるようにそう言うと、サンデーはこくりと頷いた。
「はい。ヴェルトさん。おやすみなさい。」
 客室に向かうサンデーはフラフラと足取りがおぼつかない。扉にぶつかりそうになっているサンデーを見たヴェルトは、サンデーを追って車両を出た。
「ヴェルトさん?」
「部屋まで送っていこう。本当はおぶってやりたいが、サンデーさんは男の子だからな。頑張って歩いてくれ。」
「はあ……ありがとう、ございます……?」
サンデーはパチパチと目を瞬かせた。もうほとんど頭が回っていないようだ。
(やはりおぶってやるべきか……。いや、いくらサンデーさんが細身でも、俺では運べないだろうな。それに男子のプライドもあるだろう。やはりやめておこう。)
ヴェルトが促すと、サンデーはまたフラフラと歩き出す。普段の倍以上の時間をかけてサンデーはようやく部屋にたどり着いた。
「ここまでで結構です……。送っていただいて……」
瞬きしたサンデーの体がふらつく。ヴェルトは慌ててサンデーの体を支えた。
「サンデーさん。もう少し頑張るんだ。」
ハッと顔を上げたサンデーは、言われるままに部屋に入る。そしてベッドに吸い込まれるように倒れ込み、寝息を立て始めた。
「やはり相当疲れていたんだな。それでも君は、杯を交わしに来ることを選んでくれた。ありがとう。」
ヴェルトは眠っているサンデーに声をかける。そしてサンデーの服に手をかけた。
 コートを脱がせ、靴を脱がせ、シャツのボタンをいくつか開けて服を緩める。アクセサリーも外せる範囲で外してやり、テーブルにまとめて置いた。サンデーの下敷きにされている布団を引っ張り出してかけてやる。あとはある程度眠ればサンデーが自分で着替えるなりなんなりするだろう。
 顔にかかった髪を払うと、あどけない寝顔が顔を出した。
(こうして見ると年相応だな。)
サンデーが無防備な姿を晒してくれることが、ヴェルトは嬉しかった。それはサンデーがそれだけ列車に心を許してくれているということに他ならないのだから。(そろそろ行かなくては。おっと……その前に。)
ヴェルトはペンを取り、サンデー宛にメモ書きを残した。
 サンデーが目を覚ましたら、並べられた指輪の隣に水とメモを見つけるだろう。そのメモにはこう書いてある。
『サンデーさん。しっかり休養を取ること。水分補給を忘れないように。それから、外で何があっても、君が十分な力を発揮できるコンディションを取り戻すことを優先して欲しい。』
と。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 26/05/2026
小さな魔女会イベントの絡みでボツになった白蛍供養
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 16/05/2026
定期的にこのネタ擦って申し訳ないんだけど今回の映影イベントで🐍先生の武器スキン魔女っ子のままで「あっかわいい……」ってなった 弊ワットでは定期的に「そうでした……いつまでこれでいれば良いのでしょうね……。」呟く🐍先生が見れます()
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 09/04/2026
(3/3)
嘉明は明るく笑って答える。
「気にすんなって!それより見てただろ?七七ちゃんが飛んだ時、崖の半分くらいのところで翼を開いてた。」
「そうですね。」
「飛び降りてから翼を開くまでってさ、思ってるより落ちてるんだよ。だから高さが無い足場から降りた時、安定する前に地面が近くなりすぎて、翼を開く前にバランスを崩すんだ。白先生が上手く飛べないのはそういう理由じゃないか?多分だけどな。低い場所での滑空って、意外と難しいんだ。」
嘉明が崖を指差す。白朮はゆっくりと崖と、最初の高台を交互に見た。
 まだ迷いのある様子の白朮の背中を、嘉明はポンと叩く。
「とにかくやってみようぜ!」
「ですが……。」
そこへ長生が口を挟んだ。
「全く、いつまでウジウジしてるのさ!いいからさっさと行っといで!」
白朮は七七と繋いでいた手を離し、深呼吸をひとつすると、覚悟を決めたように崖に向かって歩き出した。その背に向かって嘉明は声をかけた。
「いざとなったら俺が受け止めるからさ!心配すんなって!思い切り飛ぶんだぞ!」
白朮は一瞬足を止め、しかし振り返る事なく崖を登って行った。
 しばらくして崖の上に立った白朮に向かって嘉明は大きく手を振った。白朮がバランスを崩した時に備え、周囲の地形を確認しておく。白朮が控えめに手を振り返したのが見えた。それから数秒後、白朮は崖から飛び降りた。風の翼が展開する。嘉明は息を飲んだ。
 風の翼が水平に広がる。時々危なっかしく左右に振れながらも、白朮はゆっくりと嘉明たちの方へ飛んできた。そして嘉明の少し手前で前進を止め、ゆっくり降下してくる。嘉明は数歩前に進み出ると、手を差し出した。白朮の手が嘉明の手を掴む。
(フォンテーヌのダンスのエスコートみたいだ。)
嘉明は獣舞劇の勉強のために各国の踊りに関する資料を読み漁ったのを思い出していた。一方白朮は、嘉明の手を支えにしながら風の翼を畳み、転ぶことなく着地する。
「で、できました!」
白朮は少し上擦った声でそう言った。握られたままの嘉明の手に、白朮はもう片方の手を重ね、両手でギュッと握る。
「ありがとうございます。嘉明さん。おかげでコツを掴めそうです!……嘉明さん?」
「えっ?あっ……良かったな!白先生!」
嘉明は思わず白朮から目を逸らした。白朮の顔を直視できず、嘉明は白朮の手をそっと外してもう一度崖を指差す。
「もう一回やってみようぜ!感覚を忘れないうちにさ!あっちで慣れたら、最初の低いとこでもできるようになるから!」
「そうですね……。嘉明さんがいてくださるうちに、やれるだけやっておきましょう。」
白朮はまた崖の方へ向かっていく。嘉明は少し前まで白朮に握られていた手を見つめた。
(綺麗だったな。)
無意識に脳裏で呟いた途端、耳が熱くなるのを感じた。
「嘉明?どうしたのさ。」
声をかけられてハッと顔を上げると、長生が首を傾げている。
「なんでもない!なんでもない!」
嘉明は必死に平静を装った。
 口が裂けても言える訳がない。風の翼を広げ、空を背景に降りてくる白朮が、天使のように美しかったなどとは。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 09/04/2026
(2/3)
数秒で地面にたどり着いた嘉明は、白朮たちの元へかけ戻った。
「白先生。ここじゃ駄目だと思うぜ。練習するならあっちだ。」
嘉明が指さしたのはもっと高い崖。白朮は大きく目を見開いた。
「あそこですか?ですが……。」
白朮が躊躇しているのがわかる。確かにその崖は高く、落ちたらひとたまりもない。嘉明は七七を見る。嘉明と目が合った七七は首を傾げた。嘉明はにっこりと七七に笑いかける。
「七七ちゃん。あの上に行って、降りてきてくれないか?お手本にさ。」
七七は目を瞬かせ、一瞬キョトンとしたが、嘉明の指差す方向を見て理解したらしい。
「わかった。七七がやってみる。」
そう言って七七は長生を連れたまま崖を登って行った。
「長生の姐さんは七七ちゃんと一緒なんだな。今日は。」
 七七が崖を登るのを待つ間、嘉明は白朮に水を向ける。白朮は落ち着かなげに首元を摩った。
「ええ。危ない目に合わせるわけにはいきませんから。……いえ。最初は長生も一緒だったのですが、揺れと振動に気分が悪くなると言われてしまって……。」
そう言って肩を落とす白朮。嘉明は白朮の肩をポンポンと叩いた。
「すぐ一緒に飛べるようになるさ。」
「そうだと良いのですが……。」
白朮はまたため息をついた。
「そう言えば今日はあの子……ウェンツァイと一緒ではないのですね。」
白朮が周りを見回す。嘉明は笑った。
「ウェンツァイは遊びに行ってるんだ。ちょうど迎えに行こうと思ってたとこだったんだ。そのうち戻ってくると思うぜ。」
 そんな話をしているうちに七七は崖の上にたどり着き、嘉明に手を振る。嘉明が手を振り返すと、七七は崖から飛び降りた。そして風の翼を広げ、ゆっくり滑空しながら嘉明達の方に飛んでくる。七七は嘉明の真上を通りすぎ、旋回して戻ってきた。
「いきすぎた。」
七七はそう言って嘉明の真上で翼を畳む。落ちてきた七七を、嘉明は掬いとるようにして横抱きに受け止めた。
「よっ……と。大丈夫かい?お姫様?」
 嘉明が七七を横抱きにしたままくるくると回ってやると、七七は控えめにクスクスと笑う。
「七七!危ないでしょう!」
「ちょっと、揺れたんだけど!あと嘉明!回るのをやめておくれ!目が回るじゃないか!」
白朮と長生が口々に七七を叱ると、七七は無邪気に「ごめん」とだけ言って、嘉明の腕から降りた。あまり反省はしていなさそうである。
「ごめんごめん姐さん。つい……。」
「全くこの子たちは!」
嘉明が長生に謝ると、長生はぺちりと嘉明の手をシッポで叩いた。
 白朮が心なしか嬉しそうな七七の手を捕まえた。蝶を目で追う七七の手を引き、抑える白朮。
「すみません、嘉明さん。」
白朮はもう何度目かわからないため息をついた。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 09/04/2026
「空から……が!」 これから嘉白になる嘉明と白朮の話。 白先生って風の翼に振り回されてそうだな〜という妄想から生まれました。 嘉明くんの口調とかセリフ書くのめっちゃ難しかったので粗は多めに見てください😖 (1/3)
『親方!空から女の子が!』
 嘉明は娯楽小説の有名なセリフを思い出していた。小説では空から少女が舞い降りてくるのだが、今まさに嘉明の頭上から降ってきたのは、美人ではあるが紛れもない成人男性であった。しかも、なんと彼は嘉明の知り合いである。
「危ない!!避けてーー!!」
悲鳴と共に落ちてきたその男を、嘉明は腕の中に受け取めた。
「よっ……と。白先生じゃないか。大丈夫k」
「怪我はありませんか!?」
嘉明の腕の中に横抱きの状態で綺麗に収まった白朮は、状況を理解するなり嘉明の頬を両手で包むように掴んできた。
「どこか痛いところは!?どうして避けなかったのですか!」
前のめりで嘉明を問い詰める白朮。嘉明は下手に動くこともできず、白朮を抱えたまま引き攣った笑顔を浮かべることしかできなかった。
 そんな2人の上を影が通り過ぎる。
「びゃく先生、だいじょうぶ?」
空から降りてきたのは、今度こそ少女だった。その首には、白い蛇が巻きついている。
「派手にバランスを崩してたね。って……あんたたち、何してるのさ。」
「あなた……だれだっけ?でも、びゃく先生となかよしみたい。」
七七と長生に指摘され、白朮はハッとした顔になった。ようやく自分の置かれた状況を理解したのだろう。嘉明に横抱きで抱えられたまま、嘉明の頬を掴んでいるのだから。白朮の顔がみるみる赤くなっていく。「……下ろしてください……。」
蚊の鳴くような声で白朮が懇願する。嘉明は白朮を支えながらゆっくりと地面に下ろした。
「それで、どうして白先生は空から落ちてきたんだ?びっくりしたんだぜ?」
 白朮は気まずそうに七七と長生を見る。そして言いづらそうに白朮は話し出した。
「その……七七に飛行免許を取らせた時に、私も一緒に免許を取ったのです。風の翼が使えれば安全に薬草を取りに行けますし。七七の行動範囲が広がってしまうので私も免許をと思ったのですが……試験は問題なく通ったものの、試験コース以外で使うとなると難しく……。練習していたのですが、慣れるどころか全くバランスが取れないんです。免許が取れたのが不思議なくらいで……。」
白朮はため息をついた。
「七七は覚えが早かったんですよ。着け忘れて出かけて途中で戻って来ることはあっても、使い方を忘れることは無いようで、毎日飛び回っています。それに比べて私は……。年々物覚えが悪くなっていますし、元々運動神経も良いとは言えません。やはり不向きなのかもしれませんね。」
 嘉明は目を丸くした。こんなに愚痴っぽい白朮は珍しい。白朮もそれに気づいたのだろう。ハッとした表情になり、目を伏せてしまった。
「すみません。こんなことを……。」
嘉明は慌てて白朮の肩に手を置いた。
「気にしなくていいって!上手くいかないと落ち込むもんだろ?誰でもそうさ。」
「ありがとうございます。」
白朮は困ったような顔で微笑む。そこに七七がちょこちょこと寄ってきた。七七の首に巻き付いた長生がゆっくりと嘉明に顔を近づけてくる。
「ねえ嘉明。ちょっと白朮の練習を見てやってよ。私はその翼の使い方を知らないし、七七の説明は説明になってなくて参考にならないんだ。あんたの方がいくらかマシな説明ができると思うんだけど……。」
「長生!いきなり何を言い出すのですか!」
白朮が慌てて口を挟む。
「すみません嘉明さん。長生の言ったことは気にしないでください。」
嘉明は首を横に振った。
「白先生。それは出来ない相談だな。他ならぬ長生の姐さんの頼みだ。俺とやろうぜ!特訓!」
長生がケラケラと笑う。
「流石は嘉明だね。私の見込んだ男だ。さ、白朮、頑張りな。」
盛り上がるひとりと一匹。白朮の視線が助けを求めるように七七の方を見た。様子を見ていた七七が言う。
「えっと……びゃく先生。がんばって。」
白朮は大きくため息をついた。
「わかりました。お言葉に甘えます。」
観念した、という言葉がぴったりな緩慢な動きで、白朮は高台に向かった。
 白朮が練習に使っているという高台の上は、それほど高さはなかった。失敗して落下しても受身を取れば軽傷で済むだろう高さである。持ち前の身軽さで素早く高台の上にかけ登った嘉明は、試しにそこから飛び降りてみる。
「あー……わかったかも。」
風の翼を素早く広げ、滑空しながら嘉明は呟く。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 28/03/2026
(2/2)
「惚気話を少々。」
景元の手が止まる。サンデーは肩を揺らした。間違ってはいない。丹恒の心配を無用なものだとずっとアピールし続けたし、最終的には相思相愛なところをこれでもかと見せつけたのだから。良いタイミングで来てくれた景元に心の中で感謝しつつ、サンデーは景元の手を引いた。
「行きましょう。皆さんをお待たせしてしまいます。」
景元が笑う。2人は並んでアーカイブ室を出た。
「急がずとも、プリンは逃げないよ。」
「ええ。車掌さんはワタシの分を必ず確保してくれるでしょう。ですが、アナタの分があるかは分かりませんよ。」
「なるほど。その口ぶりからすると、誰かがふたつ食べてしまうかもしれない、ということかな?」
「ええ……もしもひとつしか残っていなければ、ワタシの分を半分差し上げますから。」
他愛のない会話をしながらパーティ車両に入ろうとしたところで、景元の懐でコール音が鳴った。
「おっと……すまない。電話だ。先に行っていてくれ。」
景元はそう言って、電話に出た。
 サンデーは景元に言われた通りに先にパーティ車両の扉をくぐる。扉が閉まる直前、サンデーは景元を振り返った。電話で話をする景元は、飄々と抜け目ない、神策将軍の顔をしていた。
『負担になってはいないだろうか。』
丹恒の言葉が脳裏によぎる。
(本当にワタシの心配はいらないのですが……。)
サンデーは心の中で呟いた。扉が閉まるその直前、サンデーの視線に気づいた景元が微笑むのが見えた。しかしそれはほんの一瞬で、扉は無慈悲に景元の姿を隠してしまった。サンデーは小さくため息を溢す。景元の電話はきっと神策府からだろう。もしも彼の予想していない厄介事が起こったのだとしたら、このささやかな逢瀬はきっと慌ただしく終わりを告げてしまう違いない。
(将軍なんて辞めて、傍に居てくれれば良いのに。)
心の奥底から黒い感情が沸き上がり、サンデーは頭を軽く振った。それでも一度浮かんでしまった感情は、なかなか帰ってくれない。
(いっそ攫ってしまえたら良いのに。)
(楽園が完成したら……その時は……。)
(できることなら、鳥籠の中で平穏に過ごして欲しい。)
サンデーは勢いよく頭を振った。
(いけない。あの人を縛るような事を考えるなんて……。)
景元が魅力溢れる人物なのは、彼が自らの道を歩んで来たからに他ならない。そこにサンデーが手を加えたら、それはきっと、サンデーの愛する景元ではなくなってしまうだろう。
『景元に、執着や束縛されていないか?』
 丹恒の言葉が脳裏で反響する。サンデーは、扉の向こうにいるであろう景元の姿を想い描いた。
(執着?束縛?彼の行為がそれらであるとするなら、ワタシのこの気持ちは何だと言うのでしょう。)
そこから動く気になれず、羽の先をソワソワと触りながら佇むサンデー。本当は先にパムのところに行って、景元の分のお茶とお茶菓子を用意してもらうべきなのは頭ではわかっている。だが、どうしてもそんな気分になれなかった。一分一秒でも、近くにいたい。誰にともなく、サンデーは呟いた。
「結局のところ、似た者同士なのですよ。ワタシたちは。」
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 28/03/2026
「似たもの同士のアナタとワタシ」 愛が重めの景ンデの話。付き合ってる。 文化の捏造てんこ盛りです。 最近世界観の妄想を掘り下げるのにハマっております。 (1/2)
それはサンデーが列車に乗ってそれなりに時間が経った頃のことだった。丹恒と雑談しながらアーカイブを整理していた時。他愛のない雑談をしていて、どういう流れだったか、こんな言葉を投げかけられた。
「お前は景元と恋仲なのだろう。負担になってはいないだろうか。」
丹恒の言葉に、サンデーは思わず手を止めた。確かにサンデーは景元と恋仲だ。しかし、負担とはどういうことだろう。サンデーは、投げかけられた言葉をしばし反駁した。
「なぜ、景元将軍とのお付き合いが負担になるのでしょうか?ワタシにはわかりません。」
丹恒を見やると、心配の色を湛えた瞳と目が合った。
「長命種と短命種の色恋が上手くいかない理由を知っているか。」
サンデーはゆっくりと目を瞬かせる。
「ジンクスではなくてですか?」
サンデーがそう尋ねると、丹恒は首を横に振った。
 長命種と短命種が付き合うと1年以内に別れる。それは仙舟の有名なジンクスだ。サンデーも聞いたことがある程度には有名な言葉であり、付き合い始めた頃はよく言われたものだ。
 丹恒は言う。
「ジンクスではあるが、一定の要因があると俺は考えている。景元に、執着や束縛されていないか?」
丹恒の言葉に促されるように、サンデーはここしばらくのことを思い返した。束縛はされていないと思う。何度かの開拓に参加したが、景元はその度に笑顔と応援を添えて送り出してくれた。だが、普通の交際かと言われると、少し違うかもしれない。サンデーにはひとつ心当たりがあった。
「甘やかされているな、とは思います。」
サンデーはポツリとそう漏らした。
 景元はサンデーをベタベタと過剰な程に甘やかしたがる。隣を陣取るのはもちろんのこと、2人きりの時はサンデーを撫でたり抱き寄せたり、身体的な接触は多いとサンデーは感じていた。食事の際は広いテーブルの端に2人で隣合って座り、就寝時や入浴時も、もちろん一緒だ。景元の邸宅を管理している使用人たちは、サンデーが景元の膝に座らされているのを見ても動じなくなってきた。
 だが、それだけだ。サンデーは続けた。
「一緒にいる時はそれなりに触れ合いますが、列車に同行している時はほとんど連絡しませんし……。やはり束縛されているとは思いません。」
「そうか。」
丹恒は作業中のアーカイブを保存して閉じる。そしてサンデーに椅子を勧めた。
 サンデーが大人しく椅子に腰掛けたのを確認し、丹恒は語り出した。
「長命種が短命種に別れ際に言われる言葉のパターンは大きく二通りある。淡白すぎるか、重すぎるかだ。」
サンデーは首を傾げた。随分と真逆の言葉だったからだ。丹恒は言葉を続ける。
「若い長命種は短命種の寿命の概念を理解していない。そして自分の時間の感覚で恋人に接する。そうすると、年単位で連絡が来ないことはザラだ。短命種側が自然消滅と勘違いして結婚していた、ということも珍しくない。」丹恒はため息混じりに肩を竦める。
「そういったケースだと、長命種側が短命種側を鬱陶しいと感じる場合もある。現に『毎月毎月逢い引きを持ちかけられて困る、スパンが短すぎる』とボヤいている長命種を見た事がある。逢い引きは一年に一度で十分と言う者もいたな。」
サンデーは苦笑した。
「それは……正に価値観の違いですね。ですが、それはワタシと景元さんには当てはまらないと思いますが。」
丹恒が頷いた。
「だから後者を心配している。短命種の寿命の短さを実感した長命種は、その短い時間を無駄にしたくないと必死になる傾向がある。結果、愛情が重いと言われる事態に繋がるんだ。」
丹恒が言葉を切り、サンデーを覗き込んできた。
「お前が気にしないとしても、知っておいた方が良いと思う。何かあった時のために。」
サンデーは微笑む。この返答は軽々しく返して良いものではない。返答次第では丹恒を余計に心配させることになってしまう。とりあえず、負の感情を持っていないことを伝えるべく微笑みつつ、サンデーは丁寧に言葉を選んだ。
「ワタシは」
その時、サンデーの言葉を遮るようにアーカイブ室の扉が開いた。サンデーと丹恒の視線が扉に向かう。
「取り込み中だったかな?」
そこには景元が立っていた。
(噂をすれば何とやら……。)
 サンデーは立ち上がり、景元を出迎える。
「景元さん、今日はいらっしゃる予定だったでしょうか?てっきり……。」
「時間が空いたので会いに来てしまった。連絡をする時間も惜しくて押しかけてしまったが、大丈夫だったかい?」
景元が身をかがめて、サンデーの頬に口付ける。サンデーは頬に添えられた景元の手を羽と手でそっと包んだ。
「俺のことを忘れないでもらいたいのだが……。」
後ろから丹恒のうんざりした声が聞こえて、景元が笑う。
「これはすまない。気づかなかった。」
「絶対に気づいていただろう……。」
「ふふ……そうだ。車掌が二人を探していた。今日の茶菓子の用意ができたから、お茶にしないかと。サンデー、君の好きなプリンもあったよ。」
サンデーは頷き、景元の手を握ったままで丹恒を振り返る。当事者が来てしまったが、この話を曖昧に終わらせたくはなかった。
「丹恒さん。ご覧の通り、心配には及びません。ですがもしも、ないと思いますが、ワタシが困ることがあれば、その時は相談に乗ってください。」
「そうか。」
丹恒はそれだけ言うとサンデーと景元の横をすり抜けた。
「その時が来ないことを祈っている。俺は先に行っているぞ。」
そう言って部屋を出ていく丹恒を見送り、サンデーは景元を見上げた。怪訝な顔の景元がサンデーを見下ろしている。
「何の話をしていたんだい?」
景元が優しくサンデーの髪を撫でる。少しくすぐったくて、サンデーはパタパタと羽を震わせた。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 08/03/2026
(2/2)
そして今日これから起きるだろうことに心を踊らせた。

 昼は何事もなく平和に過ぎた。七七とヨォーヨは花畑で花冠を編み、白朮とピンばあやが談笑する。そんな平和な遠足だった。場所は沈玉の谷の懸練山。遠くに懐かしい気配を感じた気もするが、長生はほとんどうたた寝をしていて気にも留めなかった。
 昼食は香菱が持たせてくれたという弁当を4人と1匹で食べ、七七とヨォーヨから花冠をもらった。恥ずかしそうに花冠を被る白朮はなかなかに愛らしかった。ピンばあやが動じていなかったのは流石と言うべきか。ヨォーヨは長生のために、邪魔にならないようにと小さめの花輪を編んで、首飾りにしてくれた。
 本当に気づかいのできる子だ。数日後のヨォーヨの誕生日には、良いものを選んで渡してやらねばなるまい。
 そんなことを考えながら、長生は白朮の肩に揺られていた。
 楽しい遠足もあっという間に終わり、不卜廬に帰ってきたのはもう日が傾きかけた頃だった。
「食事の準備をしますから、少し待っていてくださいね。」
「わかった。」
白朮は灯りを付けて台所に向かい、七七は机に向かう。今日、ヨォーヨにもらった新しいノートに大事な事を書き写すためだ。椅子に腰を落ち着けた七七は、そこではたと長生が贈った焼き菓子に目を留める。
「これ、なに。きれいな箱。」好奇心で目をキラキラさせながら、七七は箱の中を覗いた。
「かわいいおかし……。思い出した。これは、ちょうせいが七七にくれたおかし。」
七七は嬉しそうに箱を閉め、焼き菓子をしまい込む。そして長生を見て小さく笑った。
 長生は七七の誕生日の贈り物に対して、明確なルールを定めている。
 ひとつ、朝一番に渡すこと。
 ふたつ、目で見て楽しめる物を選ぶこと。
 みっつ、必ず食べ物を贈ること。
 それは長生のこだわりだった。七七は記憶力に難があり、たくさんの事を覚えられないし、すぐに忘れてしまう。けれどそれは、何度でも同じことに感動できるということだと長生は考えていた。綺麗な外箱を見て目を輝かせ、中の焼き菓子を見ては嬉しそうに微笑む。七七は夕食後のデザートに焼き菓子を食べる時に、また同じように目を輝かせるだろう。長生はその顔を見るのが何より好きだった。
(食べてしまえば覚えている必要もないしね。負担にならない。)
長生の気づかいなどつゆ知らず、七七は菓子の外箱を眺めている。きっと食事を食べ終えた頃に彼女はこう言うのだろう。
「きれいな箱……。これはなに?七七にプレゼント?ちょうせい、ありがとう。とてもうれしい。」
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 08/03/2026
「n回目の贈り物」 七七ちゃんの誕生日ネタ(遅刻) 長生が七七ちゃんを可愛がってるといいな〜という妄想。 公式イラスト可愛かったですね。 (1/2)
「おはようございます。七七。」
「えっと……。おはよう。びゃく先生?」
「はい。白朮先生ですよ。」
 長生は耳をすませて周囲の様子を伺った。今日は3月3日。1年の中で、長生が密かに楽しみにしている日だ。とぐろを巻いた体の隙間から覗き見ると、少し離れた場所で七七と白朮が話しているのが見える。長生はそっぽを向き、狸寝入りを決め込んだ。
 白朮と七七のやり取りが聞こえてくる。
「もう身支度を終えたのですか?偉いですね。ノートはちゃんと持っていますか?」
「うん。もってる。」
「今日は3月3日です。何の日か覚えていますか?」
「なんだっけ……?おぼえてない。」
「ではノートを見てみましょうか。」
「うん。……あっ。七七の誕生日!」
「そうです。おめでとうございます。長生を起こしてきてください。長生のことは分かりますか?」
「うん。びゃく先生がかいた絵があるから。わかる。」
「それは良かった。机の辺りにいるでしょう。あなたにプレゼントを用意してくれていますよ。」
「ありがとう、びゃく先生。さがしてくる。」
トントンと軽い足音が近づいてきて、長生のいるカゴが揺れた。
「ちょうせい?」
ツンツンとつつかれた感触に、長生は身を捩った。
「誰だい?……おや、七七じゃないか。」
長生はまるで今起きたかのように欠伸をして見せる。つられて七七も大きな欠伸をした。長生はケラケラ笑いながら自分の下に隠していた箱を七七に見せる。
「誕生日おめでとう。ほら、あんたへの贈り物だよ。」
長生の体の下に隠れていたのは、見事な装飾が施され、綺麗なリボンでラッピングされた箱。
「きれい……。」
七七が感嘆の声を漏らした。
「これ、七七に?」
「そうさ。ほら、持っていきな。」
七七はカゴから箱を取り出すと、リボンを解く前に箱を穴が空くほどに眺めた。
「ありがとう。あけてもいい?」
七七は長生を見て言う。長生は頷いた。
「もちろんさ。だけど、食べるのは後でだからね!」
七七は丁寧にリボンを解くと、そっと箱を開ける。
「かわいい。」
七七の顔が綻ぶ。箱の中から現れたのは、可愛らしい模様の焼印が入った焼き菓子だった。
「びゃく先生にみせてくる。」
そう言って七七は箱を掲げて白朮の元にかけて行った。
「びゃく先生、これ、もらった。」
「良かったですね。今日のおやつか、夕食のデザートにしましょうか。机の上に置いておきましょうね。」
「うん。」
七七は机の真ん中に箱を置き、嬉しそうに眺める。そしてハッと長生を見た。
「七七、お礼をいった?おぼえてない……。」
長生が頷く間もなく、七七は長生に駆け寄り、小さな手で長生を抱き締めた。
「とってもうれしい。ありがとう。」
長生は鼻先でそっと七七の髪を撫でた。
「どういたしまして。誕生日おめでとう。」
そして力加減を知らない七七の抱擁からさりげなく逃げ出した。
 白朮が朝食を机に並べる。
「今日は良い天気で良かったですね。遠足日和ですよ。」
椅子によじ登った七七が首を傾げた。
「今日、お出かけするの?」
白朮はにっこり笑って七七のノートを指し示す。
「今日の予定を確認しましょうか。」
七七はノートを開き、今日の日付をもう一度確認した。
「ヨォーヨとピクニック!」
七七は嬉しそうに両手をバンザイのように掲げる。その拍子に机が揺れた。
「こら!食卓で飛び跳ねてはいけません!」
白朮は慌てて七七の前の皿を机の中央に寄せた。七七も無意識だったのか、慌てて腕を引っ込める。
「ごめんなさい……。」
「私こそ、大きな声を出してすみません。食事にしましょうか。」
「うん。」
長生は白朮が小さくちぎった点心を齧りながら白朮を見た。
(顔色は悪くない。体の調子も良さそうだ。絶好の遠足日和だね。)
外出を予定していても、やれ急患だ、やれ白朮の体調が悪い、とままならないことが多い。だが今日は無事に外出できそうだ。長生は内心安堵し、
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 08/03/2026
「ラウマのとんでもそもそも論」 遅刻ですがラウマさんのお誕生日ネタ。 時系列的には誕生日の次の日の話。 付き合ってるラウネフェです。
塵歌壺の拠点の2階。吹き抜け部分の手すりに身を預け、ネフェルは階下の騒ぎを見物していた。そこではヤフォダとコロンビーナが言い争いをしている。
「絶対ダメだ!姐さんは渡さない!」
「どうして?ネフェルは良いって言ってたよ?」
「それは式典の時の冗談だろ!」
もう随分長く2人は争っているが、おそらくどちらもネフェルが聞いていることには気づいていない。どこで割り込んだものかとネフェルが思案していると、ネフェルの後ろで扉が開く音がした。
 ネフェルは振り返り、静かに、とジェスチャーをする。扉から出てきた人物は、そっとネフェルの隣に並んだ。彼女は声を潜めてネフェルに話しかけた。
「何の騒ぎだ?ネフェル。」
「おはよう、ラウマ。見ての通りだよ。」
拠点の一室を借りて仮眠を取っていたラウマが起きてきたのだ。ラウマは階下を見て眉を顰める。ヤフォダとコロンビーナの言い争いはまだ続いていた。
「姐さんは秘聞の館のボスなんだ!霜月の子には渡さない!そもそも、なんで今日なんだよ!鹿ねえの誕生日は昨日だっただろ!」
「誕生日に会いに行ったけどは忙しそうだったから、お菓子をいくつか渡すだけにしたの。後から盛大なサプライズをしたら、きっと喜ぶでしょう?」
そう。ラウマは誕生日を忙しく過ごしていた。一晩明け、やっとネフェルとゆっくり過ごしていた時のこの騒ぎだ。ラウマは困惑した様子でネフェルを見た。「原因は私なのか?」
ネフェルは口元を釣り上げる。
「正確に言うと、私たち、さ。あんたの誕生日に、私を霜月の子に迎え入れたいんだって。プレゼントはネフェル、だそうだよ。面白いことを考えるよねえ。」
ラウマは複雑そうに笑った。
「それは……斬新だな。」
「そろそろ止めようかと思うんだけど、私が出ていくと連れ去られてラッピングされそうでね。あんたから言えば止まるかもしれない。」
笑いを噛み殺し、ネフェルは肩を竦める。ラウマは頷いた。
「分かった。私が仲裁してこよう。」
 ラウマが階段をゆっくりと降りていく。しかしヒートアップしているヤフォダとコロンビーナはラウマに気づかない。ラウマは顔を突き合わせている2人の肩に手を置いた。
「私のために争わないで欲しい。」
ネフェルは吹き出しそうになるのを必死に堪えた。稲妻の娯楽小説でしか見たことがない言い回しが面白かったからだ。
(しかも微妙に使い方を間違っている気がするねえ。全く……本当に面白いよ。)
ヤフォダとコロンビーナは呆気にとられたようにラウマを見上げている。ラウマはコロンビーナを見て言った。
「コロンビーナさん。喜ばせようとしてくれる気持ちは嬉しいが、ヤフォダさんを困らせてはいけない。秘聞の館に迷惑をかけては、せっかくのコロンビーナさんの気持ちが台無しになってしまう。」
それからラウマはヤフォダを見て言った。「ヤフォダさん。秘聞の館のボスを盗ったりするつもりはない。安心して欲しい。」
そしてラウマは2人を交互に見て、最後に階上のネフェルをチラリと見やって言った。
「そもそも、ネフェルはもう私のものだから、プレゼントにすることはできないのだ。本当に申し訳ない。」
空気が凍りついた。
「は」
ネフェルは思わず後ずさる。確かにラウマとネフェルは付き合っているし、そういう意味では「ネフェルはラウマのもの」と言えなくもない。だが、それを仲裁で出すのはいかがなものか。
(ラウマに任せた私のミスか……。)
ネフェルは溜息をつき、混沌とした状況を整理すべく、階段に向かった。
 その後、コロンビーナに「ネフェルはラウマのものだもんね。」とからかわれ続けることになったのは言うまでもない。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 01/03/2026
これ持っていてタオちゃんに「キッッッツwwwwww」って爆笑され、「同感です。この歳でこの武器は些か……。」って返す自認おじさん🐍先生。 🥥に「かわいい……でも🥥は片手剣……。持てない。ざんねん。」ってしょんぼりされ、「🐍先生、持ってみて」「かわいい」「そのまま持ってて」で持たされてる。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 23/02/2026
(2/2)
イルーガは自身の震える両手を見つめている。その手にぽたぽたと雫が落ちた。
「いけませんね。死と隣り合わせのライトキーパーとして戦っているのに、生きている義父さんを見て悲しいと感じるだなんて。なんて贅沢な悩みなんでしょう。」
イルーガは自虐的に笑う。無理やり繕ったせいで上擦った声だった。
「イルーガさん。」
フリンズはポンポンとイルーガの肩を軽く叩いた。
「それは彼の子供として正常な反応だと思いますよ。」
「そう……なんでしょうか。」
イルーガがフリンズを振り返る。その表情は、銀と銅の色の髪に隠れて見えない。フリンズは続けた。
「子にとって親の存在というのは大きなものです。多かれ少なかれ、守られ、支えられているのです。それがいつの間にか自分の方が大きくなっていたなら、驚き、ショックを受けるのも無理はありません。まずは一度、自身の気持ちを受け止めてみるのはいかがでしょう?」
イルーガは返事の代わりに、フリンズの視界の端で目元を拭った。
 フリンズは内心で安堵した。フリンズの言葉は誰かの受け売りを継ぎはぎしたもので、本当に相手に寄り添えているか怪しいものばかりであるが、今回はきちんとイルーガが欲しい言葉を渡せたようだ。イルーガがくるりと振り返った。まだ少し目元の赤いイルーガの顔がフリンズを見上げている。力の抜けた顔でイルーガが笑った。
「僕は……まだまだ子供だったようです。」イルーガの声は作ったのではない明るさを帯びていて、それでもまだ少し震えていた。
「背が伸びたって、内面がまだ子供では、いつまで経っても『坊っちゃま』から昇格できませんよね。フリンズさんに相手にしてもらえないわけです。」
フリンズは随分前にイルーガとした会話を思い出す。
『フリンズさん、好きです。』
『お気持ちは嬉しいですが、お付き合いはできません。貴方が大人になって、気持ちが変わっていなければ、また声をかけてください。』
それからずっとイルーガに気持ちをもらう度に「まだ子供ですよ」と断り続けてきた。
「僕がもっと自分と向き合って、成長できたらその時は、きっと僕の好意を受け取ってくださいね。」
そう言ってイルーガは、砲台の先から飛び降りた。フリンズが下を覗き込むと、イルーガは風の翼の下からフリンズに手を振ってきた。
「義父さんと話してきます!」
吹っ切れたようにそう言い残し、広場に向かって滑空するイルーガ。その影が広場に着陸し、ホールに向かって走っていくのを見届け、フリンズはランプの中に滑り込んだ。
 フリンズはランプの中でぼんやりと思考を巡らせた。人の姿で外にいたくなかった。こんなところに人が来ることはないとしても、とにかく人の姿を人目にさらしたくなかった。自分がどんな顔をしていたか想像もしたくない。そんな自分の姿を誰かに見られたらと思うと寒気がした。
 必死に先延ばししてきたが、きっともう逃げられないだろう。背が伸びたイルーガは美しい青年になった。それだけに留まらず、内面まで磨かれ成長したイルーガが目の前に現れたら、きっとフリンズは理性を保ってはいられない。古銭や宝石を目にした時のように、何がなんでも手に入れたいと思ってしまうだろう。
「ああ、その日が来るのが恐ろしい……。」
ランプの中の青い火が、心許なげに揺らめいた。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 23/02/2026
イルンズ初書きです! ゲーム内から数年後の時系列。イルンズになるイルーガとフリンズの話です。 ⚠️イルーガのボイスの「イルーガを知る4」の内容になります。 ⚠️マスターライトキーパーの代替わり描写があります。 (1/2)
ニキータがマスターライトキーパーを引退した。
(喜ばしいことだ。)
フリンズは心の中で呟く。
 ニキータは特殊なマスターライトキーパーだった。歴代のマスターライトキーパー達が皆、戦いの中で散っていったことを考えれば「引退」という選択をしたニキータは異例と言える。生きたままでマスターライトキーパーでなくなるというのは、喜ばしいことだ。例えその引退のきっかけが、決して喜ばしいことではなかったとしても。
 ニキータが引退を決めたきっかけは、彼が体を壊したことだった。風邪を拗らせて肺を悪くし、しばらく寝ついていたニキータは、自分にはもうライトキーパー達を統率するだけの体力がないことを悟ったのだという。自分がマスターライトキーパーを続けていても士気が下がるだけだ。そう判断したニキータは速やかに次のマスターライトキーパーを指名し、引き継ぎを始めた。そうしてあれよあれよという間に新体制が築かれ、今に至る。今後は後進の教育に携わっていくそうだ。
 葬式ではない引き継ぎが終わり、泣く者のいない宴席で、フリンズはふと周囲を見回して首を傾げた。
(いない……。)
普段ならば真っ先に声をかけてくるイルーガが見当たらない。ニキータの隣にも、分隊員の近くにも、厨房にもいない。フリンズは外に足を向けた。

 フリンズはピラミダのてっぺんでイルーガを見つけた。かつて悪霊を屠ったテルピケラウナスの矢。スパイラルソードを打ち出したその先端に、イルーガは静かに立っていた。フリンズは後ろからイルーガの背中に声をかけた。
「イルーガさん。こんなところで何を?」
イルーガの肩がわずかに強ばった。
「フリンズさん?」
イルーガは振り向かなかった。フリンズはイルーガの数歩後ろに立ち、その背中越しに遥かに遠い地平線を眺める。
「お祝いしなくて良いのですか?」
フリンズの言葉に、イルーガが拳を強く握る。手袋がギチギチと音を立てた。
「どうしても、お祝いする気になれなくて。」
食いしばった歯の隙間から漏れた押し殺された声。フリンズは一歩前に出て、そっとイルーガの肩に手を置いた。記憶より高い位置にある肩は、小さく震えていた。
「随分と思い詰めているようですね。どうです?僕で良ければ、話してみませんか?少しは楽になるかもしれませんよ。」
イルーガは大きく深呼吸した。フリンズの手の下で、イルーガの肩の力が少しずつ抜けていく。イルーガはポツポツと話し出した。
「ずっと怖かったんです。義父さんが年老いてしまったらどうすればいいんだろうって。僕はどんな気持ちになるんだろうって。そして今日、引退する義父さんを見た時、耐えられなくて、逃げてきてしまいました。」
声変わりのすっかり終わった声は震えている。フリンズは黙ってイルーガの言葉の続きを待った。
「昨日、久しぶりに義父さんに抱きしめてもらったんです。温かくて、優しくて、でも……とても小さくなってしまっていました。それがとても悲しくて……。」
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 10/02/2026
下書き機能キタ━(゚∀゚)━!
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 03/02/2026
いつか使いたい🪽‪さんと夢の主の話。 何かの話に挿入したいんだよね。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 27/01/2026
(2/2)
七七が物を落とした時に教えてくれたとか、何をするのか忘れた時にノートを見るように助言してくれたとか、そういったエピソードを子供たちは興味深げに聞いていた。ルルが首を傾げる。
「それって、仙人様とは違うの?」
白朮は首を横に振った。
「それは分からないのです。ですが、今のところ私も他の者も困っていないので……。」
「でも!オレはこわい目に……。」
飛が身を乗り出して訴える。白朮の笑みから温度が消えた。
「そうでした。それについて詳しく聞かなければなりませんでしたね。薬を捨てようとしたのですか?」
「えっ。」
飛の顔から色が消える。
「ちがうよ!ちょっと量が少なくなればいいなって思っただけで……。」
「薬というのは、体に効くように量が決まっています。」
「うっ……もうしないから!ごめんなさい!」
そう言って飛は立ち上がり、不卜廬を飛び出していく。
「飛!まって!」
ルルも慌てて椅子から降りた。
「お待ちなさい。」
白朮はルルを呼び止める。
「なに……?」
ルルは怯えの混じった視線を白朮に向けた。どうやら怖がらせてしまったらしい。
「飛に伝えてください。『もう怒っていませんが、次は本気で怒ります。もう二度とこのようなことはしないように』と。」
ルルは真剣に頷く。
「う、うん。飛にはちゃんと伝えるよ。バイバイ、白先生!」
白朮に小さく手を振り、ルルも不卜廬を出て行った。

「はー……。」
 白朮は椅子に背を預ける。シュルシュルと肩を這い、長生がゆっくりと白朮を覗き込んできた。
「よく回る口だこと。」
ケラケラと長生が笑う。
「貴女のせいでしょう。」
白朮は長生の鼻先を指でつついた。
 そう。子供たちの話に出てきた「守り神様」は長生だ。蛇の体であればベッドの下に潜り込むなんて造作もないし、布を被って明かりの前で踊れば「オバケ」のできあがりだ。
「やりすぎですよ。誤魔化すこちらの身にもなってください。」
白朮が苦言を呈すも、長生は笑って返す。
「いいじゃないか。たまには。私も患者とふれあいたいのさ。子供の相手くらいさせておくれよ。」
白朮は長生の鼻先で指を揺らした。長生は指先に合わせてユラユラと体を揺らしている。
「でも幽霊って言葉はいただけないねえ。胡堂主の耳に入ったら飛んできそうだ。」
長生が呟き、白朮はピタリと指を止めた。端正な顔が曇って憂いをおびる。
「そうなったら、ご自分で堂主に説明してくださいね。」
白朮は指先を長生の頭にペシリと乗せた。長生はチロリと舌を出し、白朮の指を舌で撫でる。
「嫌だね。あんたの嘘で膨らんだ分まで責任を負わされたくないよ。責任は半々だろう?」
白朮はため息で返事を返した。
 白朮は座ったままで、黙って茶器を片付けにかかった。長生は窺うように、視界の端でじっと白朮の横顔を見つめている。
「いっそ、先手を打って根回ししておいたら?」
「そこまでしなくて良いでしょう。子供たちはああいった噂が好きなものです。幽霊の線で広まったとしても、よくある怪談話で終わるでしょうね。大人が絡むと信憑性が増してしまいますから話が変わってきますが。」
「……。」
長生が不意に黙り込んだ。
「長生?」
白朮は手を止めて長生を見る。長生はゆっくりと白朮を見上げ、首を縮めた。
「……こないだ大人の患者に声をかけたんだけど、まずかったかい?手洗いを探してウロウロしてたもんだから『こっちじゃない。戻って1つ目の角を右だよ。』って言ったんだよね。」
「長生……。」
白朮は頭を抱えた。急に疲労感が押し寄せてきて、白朮は再度背もたれに寄りかかった。
「少しゆっくり話をしましょうか。」
白朮は長生を見下ろす。取り繕うのをやめたのか、その表情からは笑みさえも抜け落ちていた。流石の長生も狼狽え始める。
「悪かったよ。堂主には自分で説明するから……。」
真顔の白朮から逃げるように視界から消える長生。白朮は容赦なく長生を巻きとってテーブルに置いた。
 そこからの白朮の嫌味の混じった説教が長かったのは、言うまでもない。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 27/01/2026
「不卜廬の幽霊」 不卜廬に幽霊が出る、という噂が立つ話。 notCP、若干ホラー要素有り (1/2)
「ぜったい幽霊だ!」
「ちがうもん!」
 子供たちの言い争いが青空に響いている。道行く大人たちがさりげなく意識を向けて、子供たちがヒートアップしたら止められるように準備をしていた。
「あの人は幽霊なんかじゃないよ!」
「いーや!オバケか幽霊だよ!イジワルだったもん!」
ふたりの子供は睨み合い、同時に叫んだ。
「「白先生に聞きにいこう!」」

 白朮は困った顔を隠すことなく、けれども子供たちでも飲みやすい、渋味の少ないお茶で彼らをもてなした。ルルと飛。よく港で海賊ごっこをしていた子供たちだ。白朮はふたりの顔を交互に見て言った。
「では順番に話を聞かせてください。」
白朮に視線を向けられたルルが頷く。
「白先生覚えてる?わたし、ちょっと前に風邪を引いて不卜廬にお泊まりしたの。」

 ルルはボンヤリと霞んだ思考で布団を掻き抱いた。嗅ぎ慣れない薬の匂いが無性に気になって寝付けない。母親は着替えを取りに行くと言って出ていってしまい、ルルは病室に1人きりだった。
「おかあさん……。」
熱の辛さと心細さに涙が込み上げたその時、
「おや、泣いている子がいるね。」
枕の下から声がした。
「だれ……?」
そう問いかけると、声はケラケラと笑った。女性の声だった。
「私が誰かって?そんなことはどうでもいいさ。あんた、眠れないんだろう?」
悪い人ではなさそうだな、とルルは思った。
「うん……。ねむくならないの。ケホッケホッ……。」
「可哀想にねえ。でも心配はいらないよ。ここの医者は腕がいいからね。寝て起きたらスッキリ良くなっているに違いないさ。」
「うん……。白先生はすごいお医者さんなんだよね。おかあさんが言ってた。」
「そうさ。白朮は璃月で一番の医者だからね。だけど、どんなに腕のいい医者でも作れない効果抜群の薬があるのさ。」
「それはどんなおくすり?ニガい?」
「いいや。簡単さ。たっぷり眠ることだ。さあ目を閉じな。私が手伝ってやろう。」

「それでね、その人が歌を歌ってくれたの!すっごく上手だったんだよ!」
 熱弁するルルと反対に、飛がイライラとテーブルを叩いた。
「ウソだ!そんなわけない!オレが見たのはぜったいオバケだった!」
飛は語り出した。
「前におなかがいたくて不卜廬にきたことがあったんだよ!」

 飛は目の前の湯呑みを睨んだ。夜遅く、腹痛を訴えた飛は母親に連れられて不卜廬にやってきた。飛は胃腸炎と診断され、薬が処方されたわけなのだが、湯呑みの中の薬は恐ろしい色をしていた。(ドロみたいだ。)
泥と言うにも禍々しいそれは、飛にもう少し語彙があれば、もっと適切な表現ができただろう。どちらにせよ、積極的に口に入れたい色ではなかった。恐る恐る湯呑みに口を近づけ、飛は思わず顔を背ける。
「ウエッ……くさ……。」
お腹は痛いが、薬は飲みたくない。飛は周りを見回し、周りに人がいないのを確認した。母親が白朮から処方箋の説明を受けているのが遠くに聞こえる。飛は湯呑みを手に、忍び足で部屋を抜け出そうとした。
「悪い子がいるようだねえ。」
衝立の向こうから不意に声がして、飛は飛び上がりそうになる。ユラユラとロウソクの灯りに照らされて、ボンヤリとした影が揺れている。
「ひっ……。」
息を飲む飛。影はユラユラと揺れながら言った。
「その薬をどうするつもりだい?まさか捨てに行こうだなんて思ってないだろうね?」
「そっ、そんなこと……!」
影がどんどん大きくなっていく。飛は恐怖で震えた。
「本当かねえ。嘘だったら、お前を食ってしまうよ?」
「う、ウソじゃない!ほら、飲むよ!」
飛は湯呑みを一気に飲み干した。
「ゴクン……うええ……まずいい……。」
涙目になる飛。影は最初に見たのと同じくらいの大きさに戻りゆっくり揺れている。
「やればできるじゃないか。そこの引き出しを開けてごらん。ご褒美が入っているからね。」飛が引き出しを開けると、そこには砂糖菓子が入っていた。
「おかしだ!」
「シー!静かにおし!白朮や母親には秘密にしとくんだよ!いいね?それに、これに懲りたらちゃんと薬を飲むんだよ。」
飛の返事を待たず、影は消えてしまった。

 飛は語り終えると頬を膨らませた。
「すっごくこわかったし、マズかった!ぜったいオバケだよ!」
「やさしい人だよ!きっと絵本に出てくるみたいな妖精さんだよ!」
言い争いを再開する子供たち。
パン!
白朮が手を打った。子供たちが口を閉じて白朮を見上げる。
「そこまで。おふたりとも、お茶を飲みましょうか。落ち着きますよ。」
子供たちは顔を見合わせて、お茶とお茶菓子に手をつける。一段落して、ふたりが再び白朮に注目したのを確認し、白朮は口を開いた。
「おふたりが会ったのは、不卜廬の守り神様でしょうね。」
子供たちは大きく目を見開いた。
「「守り神?」」
「ええ。私が勝手にそう呼んでいるだけですが。」
子供たちにお菓子を勧めつつ、白朮は語った。
「不卜廬には守り神様が住んでいて、時々助けてくださるのです。もっとも、私はお会いしたことはないのですが……。七七は何度か助けてもらったそうですよ。」
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 03/01/2026
今年の抱負は「色々なことに挑戦する」とします。 ということで書き初めはラウネフェです! 「ふわふわをもふもふ」 お疲れネフェルをラウマが癒してあげる話。 ※このラウネフェは付き合っています。
「どういう事だい?」
 ネフェルは心底ウンザリした気分を隠すことなく吐露した。目の前ではラウマがニコニコしながら動物たちを順番に並ばせている。猫の親子に犬、長羽トキ、宝盗イタチ、モサモサアナグマ、リスにヤマガラまで。種族は違えど、ラウマの友人であるのだろう。問題は、ここがネフェルの私室であるということである。
「もう一度聞くよ?ラウマ、これはどういう事だい?」
動物たちの間から、聞き慣れた「にゃあん」という声がした。モサモサアナグマの影から現れたのは、秘聞の館の従業員、猫のアシュルである。
「アシュルから依頼を受けたのだ。」
ラウマは屈んでアシュルを一撫でし、ネフェルを見上げた。
「最近ネフェルが疲れているようだから、自分の代わりにネフェルを癒してくれる者を探して欲しい、と。随分とアシュルを撫で回していたと聞いたぞ。」
ネフェルは眉間を揉みほぐす。確かにこのところ立て込んでいて、アシュルに癒しを求めていたのも事実だ。
「悪かったよ、アシュル。構いすぎたみたいだね。」
ネフェルの言葉に、アシュルは満足気に「にゃあ」と一鳴きし、動物たちの間を縫ってどこかへ行ってしまった。
 さて、アシュルが不満を持っていたことは分かったが、問題はラウマである。
「好きな子を選んでくれ。どの子も毛皮が自慢の者たちばかりだ。」
ネフェルは隠すことなくため息をついた。このところずっと頭を悩ませていた問題はついさっき、やっと解決したところだ。これで休めると思った矢先のラウマの訪問。間が悪いとしか言いようがない。そもそも、公にしてはいないが、ネフェルとラウマは恋人同士である。付き合いはそれなりに長い。にも関わらず、なぜかラウマは度々こういった事をしでかしてネフェルを困らせた。
「悪いけど必要ないよ。」
駄目元で言ってみると、ラウマはしおしおと表情を曇らせた。
「それはできない。アシュルに報酬をもらってしまった。誰かを選んでもらわなければ……。」
ネフェルはもう一度大きくため息をついた。従業員教育をやり直す必要があるだろう。
「報酬の前払いは絶対にやめろって言い含めてあるはずなんだけどねえ。全く……ヤフォダもついでに叩き込み直してやらなくちゃ。」
しかし、文句を言ってもなんの解決にもならない。ネフェルは回らない頭を回転させる。
「ここにいる『生き物』ならどれでも良いんだね?」
ラウマが頷いたのを見て、ネフェルは安堵した。
(かかったね。)
ネフェルは椅子から立ち上がり、動物たちの前を素通りし、ラウマの前に立った。
「じゃあ、この人間にするよ。人間だって生き物だからね。」
とんだ屁理屈だ。ラウマはさぞ困った顔をすることだろう。ネフェルはラウマの顎をすくい上げ、視線を上げさせた。しかしラウマの顔には意外にも、穏やかな笑みが浮かんでいた。
「そうか。では皆には悪いが、帰ってもらうとしよう。皆、お詫びはまたいずれ。」
ラウマがそう言うと、動物たちが窓からぞろぞろと外へ出て行った。
「送って行かなくていいのかい?」
「平気だ。それよりネフェル、やっと二人きりになれたな。そなたなら私を選んでくれると信じていた。」
 ラウマはネフェルの首に手を回した。聞き捨てならない言葉が聞こえて、ネフェルは硬直する。
(まさか、最初から私に「人間」という選択肢を選ばせる気だった……?)
小さな、けれど看過できない疑問が浮かんだ。その疑問に気を取られ、ネフェルは反応が遅れた。
 ラウマがネフェルを引き寄せるようにソファに倒れ込む。呆気なくバランスを崩したネフェルは重力に逆らうことなく、ラウマの上に倒れ込んだ。頬が柔らかい感覚に包まれる感触。温かく、柔らかい。ふわふわとした極上の触り心地の何か。それが顔全体を包んでいて、息ができない。ネフェルは慌ててラウマの拘束から逃れようともがいた。
「ネフェル……?」
やっとの思いで抜け出すと、ラウマが心配そうにネフェルを覗き込んでくる。ネフェルは叫んだ。
「ラウマ……!私を窒息死させる気かい!?」
酸素を取り込もうと必死に呼吸を繰り返すネフェル。ラウマは自分の胸元を眺め、合点がいったように手を叩く。
「すまない。もう一度やってみよう。今度は息ができるように気を付けるから。」
「そういう問題じゃないだろ!」
ラウマは容赦なくネフェルの頭を自分の胸元に抱え込む。ネフェルの頬が、また柔らかいものに埋まった。
「どうだろう。癒されるだろうか?」
息はできるようにはなったものの、謎の敗北感がネフェルを襲う。
「納得いかないんだけど?」
ネフェルはそう言って、手袋ごと装備を外した。テーブルに装備を放り投げ、気を取られたラウマの胸を軽く揉む。
「んっ……ネフェル……。」
肌が指に吸い付く。ラウマの手がネフェルの髪を撫でた。
「ネフェルは甘えん坊だな。好きなだけ触ってよいぞ。」
仕返しのつもりだったが、あまり効いている気がしない。柔らかい感触を堪能しつつも、ネフェルはボヤいた。
「やっぱり腑に落ちないねえ。」
何を言っても何をしても、ラウマの手のひらの上で踊っている気がしてならない。しかし次第に思考にモヤがかかってくる。
「まあいいか。」
ネフェルは思考を放棄した。なぜなら彼女はとても疲れているから。無理な体勢にも関わらず、ラウマの胸の中はとても快適だ。ネフェルはそのまま柔らかな温もりに身を委ね、意識を手放した。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 28/12/2025
(2/2)
「果物が多いのもきっと美味なのだろうね。ただ、私の勘では、こちらのシュトーレンの方が、このワインに合いそうな気がする。」
 景元のグラスはあっという間に空になった。サンデーがすぐにワインを注ぐ。景元は真紅の水面を眺め、ポツリと呟いた。
「私は幸せ者だ。」
列車の窓辺で星を眺めながら恋人に酒を注いでもらえるというのは、何よりの幸福と言えるだろう。サンデーは何も言って来なかった。心地よい静寂が部屋を満たす。景元はまた、ゆっくりとグラスを傾けた。

 ワインを片手に物思いにふけっている景元を、サンデーは黙って眺めていた。否。眺めていた、という表現は正しくはない。見とれていたのだ。
(絵になりますね。)
羅浮の茶器や酒器を手にする景元は風格があって格好がいいとサンデーは常々思っていた。しかしワイングラスを揺らす景元もまた、絵画のようで美しい。サンデーは今回の逢瀬に満足していた。大切な人とクリスマスを静かに過ごしたい。そんな思いで色々と準備をしていたのだから。恋人を眺めながらワインに舌鼓を打つ。なんて贅沢な時間だろう。
 サンデーはワインを味わいながら、ここしばらくのことを思い出していた。
 まず、開拓者に無理を言って朝露の館にあったサンデーの私物を回収してもらった。持ち出しにはロビンも協力してくれたそうだ。ワイングラスとシュトーレンのレシピがそれだ。それから久しぶりにシュトーレンを焼いた。列車の面々に試食をしてもらい、お墨付きをもらった。ワインは気に入っている産地と年代を指定したので、姫子はきっと苦労しただろう。けれど、どうしても景元に自分の好きなワインを飲ませたかった。姫子は理解を示してくれて、指定の物を入手してくれた。そして景元は忙しい合間を縫って、時間を割いてくれた。
「サンデー、しゅとおれんをもう少し貰ってもいいだろうか?」
 サンデーはハッと我に返る。景元の皿はいつの間にか空になっていた。
「景元さん、これは毎日少しずつ食べる物で……特別ですよ。」
景元の期待に満ちた視線に勝てず、サンデーはシュトーレンをもう一切れ切り分けた。サンデーの作ったシュトーレンを景元が気に入ってくれたのが嬉しかった、というのも理由のひとつだ。景元はニコニコと嬉しそうにシュトーレンを味わっている。
「景元さん、お砂糖が付いていますよ。」
サンデーは手を伸ばし、景元の口元を拭った。

 何かがおかしいと気づいた時にはもう遅かった。
「景元さん、顔が赤いようですが……。」
 景元が首元に手をやり、衣服を少し緩める。
「……この部屋は少し暑いようだ。」
サンデーは首を傾げる。列車の空調は普段通りで、普段と変わらない。景元がワインを飲み干す。襟元から除く素肌は綺麗な桃色で、そこでサンデーは気づいた。
「まさか……酔っているのですか?」
それはサンデーにとって、雷が落ちたような衝撃だった。
 サンデーの記憶では景元は酒に強かったはずだ。以前二人で晩酌した時も、一口でクラクラしそうな羅浮の強い酒を飲んで平気な顔をしていた。その景元の様子が明らかにおかしい。サンデーは景元を覗き込んだ。
「酔っていないよ。」
景元は力の抜けた顔で笑う。その目はふらふらと焦点が合っていない。サンデーは慌ててチェイサーのグラスを手渡した。景元はなみなみと注がれた水を一気に飲み、やはりニコニコと笑っている。
「ふふ……君と過ごすのは実に楽しいよ。」
そう言って景元は空のグラスを呷った。サンデーはピッチャーからチェイサーのグラスに水を注ぐ。景元は水をもう一杯飲み干し、上機嫌に鼻歌を歌っている。その手がワイングラスに掠めたのを見て、サンデーは内心で頭を抱えた。
 このままでは、何かを倒すのは時間の問題だ。
「景元さん、こっちへ。」
景元の手を引き、ベッドに誘導する。景元はよろめきながらも、手を引かれるままにベッドに腰掛けた。サンデーは景元の上着を脱がせ、シャツのボタンをいくつか外す。はだけた首元を確認すると、景元は胸の方まで真っ赤になっていた。
(もっと水を飲んだ方が良いかもしれませんね。)
考え込むサンデーを、景元が引き寄せる。
「積極的だな。」
酔っ払っているとは思えない力でベッドに組み伏せられ、サンデーは溜息をついた。服を脱がせたのがスイッチになったらしい。耳元に熱を持った吐息がかかる。「景元さん、水を持ってきますから……。」
サンデーは、めいっぱい力を込めて景元を押した。しかし、当然と言うべきか、景元はビクともしない。
「必要ない。それよりも、君が欲しい……サンデー。」
サンデーの返事を聞くことなく、景元の唇がサンデーの羽を喰む。サンデーは抵抗するのを諦め、景元の首に手を回した。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 28/12/2025
先に支部に上げてた景ンデクリスマスネタ。 付き合ってる景ンデ。色々設定捏造。 どうしても将軍にシュトレン食べてもらいたかった。 (1/2)
わがままを言った、と思う。
 あろうことか神策将軍を相手に日付を指定して、予定を空けてくれと頼んだ。忙しい彼に無理を言っている自覚はあった。それでも、その日はどうしても共に過ごしたかった。
「お願いします。」
そう言ってまっすぐ彼を見上げると、ポンと頭に手が置かれた。
「分かった。」
彼はそう言って微笑んだ。

「予定を空けてくださいませんか。」
 そう言われ、まず真っ先に浮かんだのは、くだらない会議をどう欠席しようかということだった。
 可愛い恋人がこんなにはっきりと要望を言ってきたことは今までにない。彼の要望はいつも控えめで、申し訳なさそうに俯いたままで溢れ落ちる。それが此度はどうだろう。まっすぐ目を見つめられ、キッパリと「この日」と指定されれば、それが彼にとってどれだけ大切なことかわかる。
「分かった。」
そう言って頷いて見せると、彼はホッとしたようにはにかんで見せた。

 当日。景元が列車を訪れたのは夜になってからだった。
「今日は時間を取っていただいてありがとうございます。」
出迎えたサンデーは景元に微笑みかけた。景元は曇りがちな笑みを返す。
「本当は半日でも時間を取りたかったのだけれど……夜になってしまってすまなかったね。」謝罪を口にする景元を励ますように、サンデーは景元の手を握った。
「いいえ、無理を言ったのはワタシの方ですから。さあ、こちらへ。」
サンデーは景元を招き入れ、窓辺へと誘った。サンデーが借りている個室は相変わらず殺風景で、だが、今日は見慣れない物が置かれている。窓辺に佇むテーブルと椅子。サンデーに勧められるままに、景元は椅子に腰を落ち着けた。
 景元はテーブルの上を一瞥した。ピノコニーの酒と思われる瓶と、一対の高脚グラス。それから銀紙で包まれた何かが皿に乗っており、菓子の類だと思われる。二人分の取り皿と、フォークが二本。
 向かいに座ったサンデーが銀紙を開けた。粉砂糖でコーティングされたケーキのようなものが顔を覗かせる。形状は切り分ける前のパウンドケーキのそれに近い。サンデーはそれの真ん中にナイフを入れた。現れた断面は、やはりパウンドケーキのように見える。サンデーはケーキを二切れ切り分け、皿に乗せた。ほろりと粉砂糖が雪のように皿に溢れ落ちる。
「お口に合うと良いのですが。」
そう言ってサンデーは今度は瓶に手を伸ばす。
「それはぶどう酒かな?」
景元が尋ねると、サンデーは頷く。
「ええ、ピノコニーから取り寄せました。ワタシがピノコニーに出入りするわけにはいきませんから、姫子さんに頼んで。」
ルビーのような液体がグラスに注がれる。飛沫を一滴も飛ばすことなく、滑り落ちた。
「見事な腕前だ。なんと言うのだったか……そうだ、そむりえの心得が?」
サンデーは何でもないように微笑む。
「練習しました。シャラップさんとパムさんに練習に付き合ってもらって。」
驚く間もなく、ケーキの皿とグラスが景元の前に並べられた。
「さあ、どうぞ。」
サンデーに促され、景元はグラスを手に取った。
 景元は軽くグラスを掲げる。繊細な細工が施されたグラスが、星空を映してキラキラと光を煌めかせた。サンデーも軽くグラスを掲げる。景元は言った。
「其の生誕を祝って。」
サンデーの目が驚きに見開かれる。
「知っていたのですか?」
「もちろんだとも。」
ピノコニーで行われる星神の生誕祭をクリスマスと言う。星を挙げて行われる一大イベントだ。
「盛大なイベントだと聞いているよ。」
「ええ。ピノコニーで最も重要なイベントですから。ですが、家族や大切な人と静かに過ごす方も多いのです。運営側はそういう訳にはいきませんが、今年はこうしてゆっくり過ごせますから……。」
サンデーはハッと我に返り、グラスを再度掲げる。
「すみません、つい……。いただきましょう。」
「構わないとも。」
景元もまた、グラスを掲げた。
 仕切り直して乾杯し、二人はグラスに口を付ける。
「これは良いぶどう酒だ。」
景元は目を細めた。
「芳醇な香りを知りたければ、このぶどう酒……ワインを味わってみるべきだな。」
サンデーは微笑んだ。
「お口に合ったようで何よりです。シュトーレンもどうぞ。」
サンデーに促され、景元はフォークを手に取った。聞きなれない単語だが、文脈的にケーキのことだろう。フォークで切り分け、口に運ぶ。
「これは……。」
口ごもる景元をサンデーが心配そうに窺う。
「どうでしょう?」
景元は微笑んだ。
「すまない、独特の風味に少し驚いてしまってね。だが、とても気に入ったよ。」
景元はまた一口、シュトーレンを口に運ぶ。サンデーの表情が安心したように緩んだ。景元はじっくりとシュトーレンを味わっている。
「ナッツが沢山入っているね。それからこれは……干しぶどうかな?」
「はい。それにイチジクを少し入れました。」
「なるほど。これは……ワインに合うな。しゅとおれん、だったか。」
「ええ、伝統的な家庭料理です。豪華なものではありませんが、家によってレシピが違うと言われています。」
「なるほど。これはもしや、君の『家の味』なのかな?サンデー。」
景元の想像に反し、サンデーは首を横に振った。
「半分正解です。正確にはワタシの味、ですね。ロビンはドライフルーツをふんだんに使ったシュトーレンが好きですから。」
なるほど、このシュトーレンはナッツが大半を占めている。きっとサンデーの好みなのだろう。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 20/12/2025
(3/3)
「ええ……まあ……。」
白朮は諦めたように、白朮の腹部に回された蛍の手を握った。
「迷惑をかけますね。」
白朮の言葉に何と返そうか。適切な言葉を見つける前に、蛍の意識は眠気に塗りつぶされた。

 抜けるような晴天の下、白朮は小石と格闘していた。
「わっ……」
手元に飛んできた小石を掴み損ねて取り落とす。肩の上で長生がケラケラと笑った。
「下手くそだねえ!」
白朮は再度小石を引き寄せようとして、自分のエンパワー状態が解けていることに気づく。植物から離れすぎていたらしい。
「クーヴァキを扱えるようになったのはいいのですが、どうにも……。」
白朮はボヤく。隣では蛍が笑いを堪えていた。
「うん、難しそうだよな。」
パイモンが精一杯のフォローを入れる。白朮は苦笑して小石を捨てた。
「そろそろ行きましょうか。既に私のせいで随分時間を取らせてしまいましたから。これ以上時間を浪費することはありません。」
蛍はクーヴァキで、白朮が捨てた小石を引き寄せた。
「クーヴァキの扱いなら任せて。」
そう言って浮遊する小石を見せびらかすと、白朮は肩を竦めた。
「分かりました。私のことは気にせず冒険してください。怪我をした時は……そういう事態はないに越したことはありませんが、きちんと教えてくださいね。」
「はい、白先生。」
蛍が茶化す。白朮の眉間に皺が寄った。
「大事なことです。」
真剣に言う白朮に、蛍は目尻を釣り上げる。
「白朮も、具合が悪くなったらちゃんと言ってね。」
白朮が面食らったように口をつぐむ。
「正論だね。」
長生がまた、ケラケラと笑った。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 20/12/2025
(2/3)
白朮を横向きに寝かせ、布団をかける。やっと一息ついたところで、長生が蛍の顔の前に回り込んできた。
「さて、旅人、パイモン。頼みがある。」
蛍とパイモンは顔を見合わせた。神妙な顔で長生の言葉を待つ2人。
「今の白朮には治療が必要だ。自然治癒は時間がかかりすぎて、体力が先に尽きるだろうからね。クーヴァキが安全に循環するように体を調整するよ。手伝っておくれ。」
長生の指示で2人は動き出した。

 息苦しさで目を覚ます。蛍はぼんやりした頭で周囲を見回した。静かだ。耳を澄ませてもフラッグシップの音楽が聞こえない。きっと時刻は深夜か早朝だろう。
 白朮の治療はおそらく無事に終わった。「おそらく」とついているのは、長生の説明が難しすぎてほとんど内容を理解できなかったからだ。断片的に拾えた情報を整理すると、白朮のクーヴァキを扱う器官が貧弱すぎるので拡張工事をした、ということらしい。
(あれ……。)
 蛍は手元に意識を向けた。蛍の手は白朮の手を握っている。どうやらそのまま寝落ちていたらしい。そっと白朮の手をベッドに下ろし、様子を見ようと腰を浮かせる。クーヴァキを使ったランプが蛍の影を映し出した。
 白朮の指先がピクリと動く。
「……ほ、たる、さん?」
白朮の掠れた声が唇から漏れ、目蓋が薄く開いた。
「起こしちゃった?ごめん。」蛍は小声で呟き、ベッドに腰掛けて白朮を見下ろした。
「気分はどう?」
「……ケホッ……。」
白朮の顔が不快そうに歪む。蛍は枕元から水差しを取った。この水差しは白朮の往診セットに入っていたものだ。備えあれば何とやら。おかげで白朮に水を飲ませることができる。
「水、飲めそう?」
口元に水差しを差し出すと、白朮はゆっくり顔を動かし、少しだけ水を飲んだ。
「……ありがとうございます。」
白朮はそう言って、蛍の方を見る。
「すみませんが、長生を退かしてもらえませんか。」
蛍は白朮の胸の上で眠っている長生を見た。治療が終わってからずっと、彼女はそこを陣取っていた。
「退かして大丈夫なの?」
蛍は長生の頭を撫でる。長生は何も反応しなかった。
「治療自体は終わっていますから……。大丈夫、でしょう。」
白朮はそう言ってまた顔を顰める。蛍はとぐろを巻いた長生の下に腕を差し込み、そっと枕元に移動させた。白朮の胸が大きく上下する。
「う……ケホッ……ケホッ……。」
蛍は慌てて水差しを差し出した。もう一口水を飲み、白朮はまた蛍を見る。
「……体勢を変えたい、のですが、手伝ってくださいませんか?」
蛍は思わず目を見開いた。白朮がこういった「お願い」を口にすることはほとんどないからだ。息切れしているように切れ切れの言葉たち。それだけ辛いのだろうというのは察しがついた。
「横向きで大丈夫?」
「ええ……。」
布団を退かし、白朮の体を横向きにしてやる。苦しくないようクッションを抱かせると、白朮は大きく溜息をついた。
「ふー……。ありがとうございます……。」
蛍はベッドに座り直した。
「気分はどう?」
蛍は白朮の手を布団にしまいながらそう問いかける。白朮はギュッと目を閉じた。
「身体中が痛いです。成長痛のような、っ……鈍痛があちこち……。」
せっかく布団にしまった白朮の手が伸びてきて、蛍の手を弱々しく掴む。
「すみません、少しだけ、このまま……。お願いします……。少しだけ楽で……。」
白朮の要領を得ない言葉のままに、蛍は白朮の手を握った。
 それから、どちらも喋らず数分が経った。蛍は自分の頭がカクリと傾く感覚で我に返る。白朮の手がゆっくりと離れていった。
「ありがとうございました。楽に……楽になったので、大丈夫です。もう休んでください。」
白朮は呟くようにそう言った。
「でも……。」
蛍が言い淀む。
「私は大丈夫です。」
「そうじゃなくて。」
蛍は現状、一番の問題を白朮に伝える。
「私の寝る場所が無いの。」数秒の沈黙。蛍は慌てて周囲の状況を白朮に説明した。
「ソファはパイモンが使ってるし、ベッドはひとつしかないから。」
そこまで言った蛍は、失敗したな、と思った。白朮にこんなことを聞かせて何になると言うのだろう。
「私はこのまま椅子で寝るから。」
蛍は座っていたベッドの端から椅子に座り直し、白朮の手を握って突っ伏した。
「だめです……これでは……っ!」
白朮が息を飲むような音を耳が拾う。蛍は跳ね起きた。
「どうしたの?」
「いえ……っ……なんでも……。」
白朮の囁き声に呻き声のような声が混じる。
「まだ苦しいんだね。」
蛍は身を乗り出して白朮の背を摩った。そして蛍は考える。白朮の手を握って眠ったとして、白朮の体調の変化に気づけるだろうか。
(眠りこんでしまったら、無理かも、)
白朮の背を摩りながら蛍は考えた。そして眠気でボンヤリした蛍が出した結論は、
「ねえ白朮。白朮の隣で寝てもいい?」
という突飛なものだった。
「もし白朮が辛くなってもすぐ気づけるし、私も横になれる。いい考えだと思わない?」
そう言うが早いか、蛍はベッドの後ろに回り込んで、白朮の背中側のスペースに滑り込んだ。後ろから手を回して白朮を抱きしめるようにして密着する。
「苦しくない?」
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 20/12/2025
「通過儀礼のようなもの」 ⚠️嘔吐注意 付き合ってる白蛍。 Luna Ⅰで白先生が一緒にナド・クライに来ていたら、という妄想。 書きたいものを書いたやつなので、細かいことは気にせず雰囲気で読んでください() (1/3)
ナシャタウンに着いてすぐ、蛍たち旅人一行はフラッグシップの部屋にいた。
「ファルカが部屋を取っててくれて助かったぜ……。」
パイモンは部屋の中をウロウロと飛び回る。蛍は、落ち着かないパイモンに水を入れたコップを手渡した。水を受け取ったパイモンはとりあえず飛び回るのをやめてその場に留まる。もちろんそれでは根本解決にはならないので、蛍はパイモンが気にしている方角に耳を澄ませた。僅かに物音が漏れ聞こえてくる。蛍は立ち上がり、手洗いに向かった。
「白朮、大丈夫?」
狭い個室を覗き込むと、うずくまる白朮の後ろ姿が蛍を出迎えた。
「ゲホッ……ゲホッ……おぇ……!おえっ!ゲホッゲホッ!」
「ダメそうだよ。」
白朮の肩の上から長生が返事をした。蛍は、便器を抱えて嘔吐く白朮の隣に座り、背中を摩る。後ろから着いてきたパイモンが、心配そうに顔を覗かせた。
「白朮の船酔い、まだ治らないのか?」
ナド・クライに向かう船の上にいた時から、白朮は気分が悪いとずっと横になっていた。しかし船を降りても顔は真っ青なままで、とにかく白朮を休ませようと宿にやってきたのだった。
 長生が首を伸ばす。
「旅人、パイモン。ちょっと聞いておくれ。」
長生はスルスルと蛍の腕を登り、蛍の首元に落ち着いた。
「白朮の調子が悪い原因なんだけどね。船酔いじゃないよ。」
「船酔いじゃないって……じゃあなんで白朮はこんなに具合悪そうなんだよ!?」
パイモンは忙しなく上下する。長生は落ち着けとパイモンの頬をつついた。
「船の上でイネファが言ってた『クーヴァキ』っていうのがあっただろう?それに体が驚いたみたいだ。この環境に慣れるまでしばらくかかるだろうさ。まったく……ナタの時も燃素で熱を出してたのに、難儀なものだよ。せめて昨日の夜更かしがなければねえ……。あれだけ早く寝ろって言ったのに!」
蛍は長生の首元を撫でた。
「長生の忠告を聞かなかった白朮も悪いけど、今は言っても仕方がないよ。」
「それもそうだね。」
長生の小言が止んだところで、蛍は白朮を観察する。顔は真っ青を通り越して土気色で、声をかけても全く返事がないところを見るに、相当気分が悪いのだろう。白朮がいくら嘔吐いても口から何か出てくる気配はない。もう胃の中には何も無いようだ。
「白朮、少し横になるのはどう?水も飲んだ方がいいんじゃないかな。」
蛍がそう声をかけると、白朮は僅かに蛍の方に顔を向けたが、返事はない。パイモンが水と濡らしたタオルを持ってきてくれた。蛍は白朮に口をゆすがせ、タオルで白朮の口元を拭う。
「ね?吐いてもいいように、ベッドのそばにバケツを置いておくから。」
白朮は小さく頷いた。
 白朮に肩を貸し、部屋に戻る蛍。パイモンは慌ててバケツを取りに飛んで行った。本当に気が利くガイドだ。フラフラと真っ直ぐ歩けない白朮を運ぶのには、流石の蛍も難儀した。白朮の髪を解いてベッドに寝かせ、白朮の服に手をかける蛍。手早く装備を外し、首元を緩める。
「これでよし。」
コップに新しく水を注ぎ、白朮の口元に持っていく。白朮は僅かに体を起こすと、水を少しだけ飲んだ。
「……ありがとうござ、うぷっ……」
ようやく白朮の唇の隙間から漏れ出た声は、即座にかき消される。パイモンが大急ぎで持ってきたバケツが間一髪で間に合い、ビシャビシャと悲しい音を立てて、水はバケツへと流れ落ちた。
「は……ハァ……すみ……うぇ……す、みませ……。」
バケツを持ったパイモンが、安堵のため息をついた。
「ふぅ~間に合って良かったぜ。白朮、辛そうだな……。」
白朮の肩が大きく上下する。蛍は白朮の背中を摩りながら、どうしたものかと途方に暮れた。水も飲めない状態の白朮を見ていると、蛍の方まで不安になってくる。思考が停止しそうになったその時、白朮の手が蛍の腕を掴んだ。縋り付くように強く握られた腕。
「白朮?」
蛍は白朮の顔を覗き込んだ。
「……みず、に…お……」
声はほとんど形を成さない。吐き気を堪えていたのだろう。白朮はまたバケツに向かって嘔吐いた。長生が蛍の肩から口を挟む。「旅人。水に塩を少し入れてやっておくれ。それからこの水は少し冷たいから、ぬるいくらいの水なら飲めるかもしれない。」
白朮が小さく頷いた。長生の通訳は合っているようだ。パイモンがピッチャーを持って飛んできて、蛍が持ったままのコップに水を注ぐ。そしてすぐに、今度は塩を取りに飛んでいった。
 白朮の体が傾く。うずくまるようにベッドに体を預け、白朮は浅い呼吸を繰り返した。
(眼鏡が歪んじゃう。)
蛍はコップを一旦置いて、白朮の眼鏡を抜き取り枕元のテーブルに置いた。
「白朮、眼鏡、ここに置くからね。」
声をかけるが、白朮は目を閉じたまま返事をしない。シワの寄った眉間と脂汗の浮いた首筋。何とかして苦痛を和らげてあげたいが、蛍にはどうにもできない。そこへパイモンが塩の小瓶を持って戻ってきた。
「塩はどれくらい入れたらいいんだ?」
「旅人の指ならひとつまみ、パイモンの指ならふたつまみだね。」
蛍が差し出したコップにパイモンは塩をふたつまみ分入れた。蛍はコップを両手で包み、意識を集中する。炎元素をほんの少し加えて温め、水元素の力で軽く攪拌し、温めの塩水が無事に完成した。
「白朮、飲める?」
そう声をかけると、白朮の目が僅かに開いた。ゆっくりと体を起こした白朮の口元にコップをあてがう。コクリと小さく喉がなる音。吐き戻す様子はない。蛍は安堵のため息をついた。白朮はそれからコップ半分程の水を飲むと、もういいと言うようにコップを押し戻した。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 09/12/2025
白先生が七七ちゃんの勅令解除に四苦八苦する話。 Twitterの方でフォロワー様から一部アイデアをお借りしました。 可愛い七七ちゃんが書けて大変満足です。
夜の璃月港。不卜廬にて、白朮はぼんやり立っていた七七を呼んだ。七七はキョンシーであり、勅令で動く。よって、夜になれば休息のために勅令の解除が必要になる。勅令の解除にはちょっとしたコツがあり、白朮よりも桂の方が解除が上手い。しかし今日は桂がいない日だった。よって白朮が勅令を解除してやらねばならない。
「勅令を解除しましょう。七七こっちへ来てください。」
「うん。」
 七七はぽてぽてと歩いてくると、白朮の前に立つ。白朮は七七の後ろに回り込み、後ろからそっと小さな体を抱きしめた。
「今日もお疲れ様でした。大好きですよ。」
七七は何も言わない。
「七七?」
白朮は七七を覗き込む。解除できていれば「おやすみ、びゃく先生」と言って自主的に寝に行くのだが、どうやら失敗したらしい。
「もう一度やりましょうか。」
白朮は一呼吸置いて言い直す。
「今日はいつもより沢山薬草を取ってきてくれてありがとうございました。ゆっくり休んでくださいね。大好きですよ。」
文言がやたらと長いのは、大切に思っていることをきちんと伝えるためだ。七七は白朮を振り返る。
「びゃく先生、解除できてないみたい。」
白朮は内心で頭を抱えた。
「もう一度やりましょう。七七、大好きですよ。」
七七は首を横に振る。
「もっと、つよくギューして。」
言われるままに白朮は七七をギュッと抱きしめた。
「大好きですよ。貴女が大切です。」
腕を緩めると、七七は白朮の方を向き、ギュッと抱きついてきた。「これならできるかも。」
白朮はため息をついた。勅令解除は後ろから抱きしめる必要があったはずだ。しかし七七ができるかもしれないというなら、できるのかもしれない。白朮は七七を抱きしめた。
「大好きです。どうですか?」
七七は白朮を見上げて首を横に振る。
「困りましたね……。」
手詰まりになった白朮に、七七は両手を伸ばした。
「だっこなら、解除できるかも。」
薄桃色の瞳がジッと白朮を見つめる。
「七七……。」
「びゃく先生、だっこ。」
「……。」
「だめ……?」
少し寂しげに小首を傾げられ、白朮はついに根負けした。
「仕方ありませんね。どうぞ。」
白朮が腕を広げると、七七が飛びついてきた。飛びついた勢いを利用して小さな、けれど抱っこするにはやや大きな体を抱き上げる。七七は白朮の首に手を回し、ギューっと抱きしめた。
「えへへ……びゃく先生。だいすき。」
そう言うや否や、七七は白朮の肩の上で寝息を立て始めた。
「えっ……ね、寝た……?」
勅令が解除されなければ七七は眠らない。そして白朮はまだ文言を言っていない。つまり七七が今眠っているということは、これより前のどこかで勅令は解除されていたということになる。
「どこでこんな知恵をつけて来たのやら……。」
白朮はため息をつきつつ、七七を寝かせるために彼女のベッドに向かったのだった。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 29/11/2025
景ンデ サンデーが景元とねむにゃあから頼まれ事をする話。
君でなくては務まらない。
 そんな言葉で説得されて、サンデーは景元の向かいの椅子に座っていた。2人の間にはボードゲームの盤。羅浮のボードゲームで星陣棋と言うらしい。そしてサンデーの膝の上には、白いにゃんこケーキが座っている。
「ねむにゃあさん、やはり私である必要はないのでは……?」
サンデーはにゃんこケーキ、ねむにゃあの皮を撫でながら言った。
「にゃあ……心配することはない。君が適任だ。これは私と景元殿で意見が一致している。」
「そうだとも。まずは一局、私たちに付き合ってくれ。」
ねむにゃあと景元はにこにこと嬉しそうにサンデーを見ている。仕方なく、サンデーは盤に駒を並べた。
 ことん、と駒が置かれる音がする。部屋の中は静かで、駒が動く度に小気味よい音が響く。
「にゃん。」
ねむにゃあの指示でサンデーは駒を前に動かす。サンデーが頼まれたこととは、ねむにゃあの手となり駒を動かすことだった。ねむにゃあも景元も、このボードゲームが好きらしい。しかし、ねむにゃあの手では駒を正確に動かすことは難しい。最初は景元が双方の駒を動かしていたようだが、一人相撲のようで風情がない、ということで意見が一致した。そこで、ねむにゃあの代わりに駒を動かしてくれる人として、サンデーに声がかかったというのが事の顛末だ。
「みゃお。」
 サンデーは駒を横に動かす。それがどういう意味を持つのか、サンデーにはさっぱりわからなかった。サンデーは景元からルールを教わり、最低限のルールを覚えたばかりの初心者だ。黙って駒を動かしながらも、サンデーの中では疑問が渦巻いていた。
(駒を動かすだけならば、誰でもできると思うのですが。)
その疑問が解消されたのは、対局が中盤に差し掛かった頃だった。
 景元が目を閉じ、熟考している。どれくらいそうしていたか、やっと景元は駒をひとつ後ろに戻した。ねむにゃあは何も言ってこない。おそらく彼も考えているのだろう。そうして沈黙が続くこと数十分。
「みぃ……。」
サンデーは駒を前に進めた。
(これは確かに。)
サンデーは思わず微笑んだ。2人の真剣勝負には、随分時間がかかる。駒を動かしている時よりも、目を閉じて考えている時間の方が長い。暇を持て余したキメラが足元にやってきた。
「がお。ふたりは寝ているのですか?」
サンデーはヘイローのあるキメラ、聖なるプリンをそっと撫でる。
「ふたりは集中しているのですよ。邪魔してはいけません。静かにしましょうね。」
聖なるプリンは椅子の肘掛けに座ってサンデーを見上げた。首元を撫でてやると、聖なるプリンは満足気に目を閉じる。
 ことん、と駒が動く音。ねむにゃあは考えている。
「がお……待っているだけは疲れませんか?」聖なるプリンが心配そうに言った。サンデーは微笑む。
「いいえ、ちっとも。」
その言葉に、景元がふっと笑った。
「やはり、私たちの目に狂いはなかったな。」
サンデーの膝の上で、ねむにゃあがゴロゴロと喉をならした。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 02/11/2025
「大人のTrick or Treat」 本当は31日にお出ししたかった鍾白ハロウィンネタ。 付き合ってる鍾白。 (1/1)
街の中を仮装した子供たちが走っていく。異国からやってきたイベント事で「ハロウィン」というらしい。鍾離の家にも子供たちが訪れ、お菓子をもらって帰っていった。そしてそろそろ配るお菓子もなくなりそうになった頃。トントンと控えめなノックが響いた。
 扉を開けるとそこには見知った顔ぶれが立っていた。氷と草のスライムを模した帽子を被った2人の少女。よく見れば衣装もスライムを意識した可愛らしい柄をしていた。
「ヨォーヨ嬢、七七嬢、よく来たな。」
それから鍾離は2人の後ろに控える保護者にも挨拶をした。
「白朮もよく来てくれた。」
ヨォーヨは無邪気な笑顔を浮かべて鍾離に手を差し出す。
「こんにちは!鍾離せんせい!お菓子をくれなきゃ、イタズラしちゃいますよ~!」
鍾離は真面目な顔を維持しつつ、後ろ手に隠していたお菓子の袋を取り出した。
「イタズラされては困ってしまうな。これを持っていくといい。」
ヨォーヨはお菓子を受け取り、嬉しそうに持っていた籠に入れた。
「ありがとう、鍾離せんせい!」
ヨォーヨは鍾離にお礼を言うと、隣の七七の手を握る。
「今度は七七の番!がんばってね!」
しかし七七は恥ずかしそうに俯いてしまった。
「えっと、えっと……。」
文言を忘れてしまったのだろうか。言い淀む七七を見かねたのか、白朮が七七の傍に屈んだ。そっと背中に手を当て、七七を覗き込む白朮。
「大丈夫ですよ。一緒に言いましょうか?」
すると七七はコクリと小さく頷く。
「おねがい、びゃく先生。」
白朮は頷くと、鍾離の方に向き直る。
「お菓子をくれなきゃ」
「おかしをくれなきゃ」
「悪戯するぞ。」
「いたずらするぞ。」
鍾離は七七の目線に合わせて身を屈め、お菓子を差し出した。
「スライムのお嬢さん。これで許してもらえるだろうか?」
七七はお菓子を受け取り、やっと少し微笑んでくれた。
「ありがとう。」
恥ずかしそうなお礼の言葉。長生が白朮の首から七七の首に移動し、労うように鼻先で頬を撫でた。
「ねえ、白先生。お菓子を食べてもいい?七七と街を見ながらおしゃべりしたいの。」
ヨォーヨが、屈んだままの白朮の肩をつつく。白朮は少し困ったように目を泳がせた。少し考え、白朮は言う。
「少しだけでしたら、大丈夫でしょう。ひと袋だけですよ。晩ご飯が入らなくなってしまいますからね。」
「うん!だいじょうぶ!食べすぎないようにヨォーヨが気をつけておきますからね~。ありがとう白先生!行こう、七七!」
ヨォーヨは七七の手を引いて出て行った。
「行かないのか?」
 鍾離はしゃがんだまま動かない白朮に問いかける。白朮は立ち上がると、鍾離を見上げてニコリと笑った。
「まだ明るいですし、大丈夫でしょう。それに長生が一緒に行きましたから。ところで鍾離先生、私の分はいただけないのですか?」
思わぬ発言に、鍾離は思わず白朮の顔をマジマジと見た。確かに白朮も文言を言ってはいる。だが、この外国からやってきたお菓子を配る催しは、璃月においては子供たちのためのものだったはずだ。つまり大人は対象外なわけで。しかし白朮は怪しい微笑みを浮かべて、鍾離の首に手を回してくる。
「お菓子をくださらないのなら、悪戯ですよ。」
白朮を抱きとめ、鍾離は気づく。このところ忙しく、白朮に触れたこと自体が久しぶりだった。もしかすると白朮に寂しい思いをさせていたのかもしれない。これはきっと白朮が鍾離とふれあいたいがために作り出した口実なのだ。その考えに至った鍾離は、白朮の好きなようにさせることにした。
 白朮の手が鍾離の首を撫で、頬に添えられる。白朮の唇が鍾離の口をそっと塞いだ。鍾離は白朮を抱きしめ、その感触を確かめる。数秒の静止の後、白朮は背伸びをやめ、唇同士が僅かに離れた。白朮はそれで気が済んだのだろう。しかし、鍾離の方がそうはいかなかった。白朮の体温、薬草の匂い、唇の柔らかな感触。それらを追いかけて、鍾離は少し身を屈め、今度は鍾離の方から白朮に口付けた。白朮は驚いたように目を見開き、咄嗟に鍾離にしがみつく。鍾離は止まらなかった。深く、深く、貪るように鍾離は白朮に口付けた。
「ん……んむ……んぅ……」
白朮の手が鍾離の服を強く掴む。白朮の体が小さく震え、鍾離はそこでようやく白朮を解放した。
「ぷは……はぁ……はぁ……ん……」
白朮はよろめき、鍾離が支える。白朮の頬は真っ赤に染まり、目元はすっかり蕩けきっていた。
「ふっ……悪戯されるつもりが、菓子よりも甘いものを味わわせてしまったようだ。」
鍾離は思わず微笑んだ。
 その後、我に返った白朮に、鍾離がしっかり怒られたのは言うまでもないだろう。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 20/10/2025
オロルンとキャベツと参量物質変換器の話。
「こんにちはじいちゃん。」
 オロルンが声をかけると、空とパイモンがその場で飛び上がった。
「うわあ!オロルン!気配を消して後ろから急に話しかけるなよ!」
パイモンが怒って地団駄を踏む(ような仕草をした。彼女は宙に浮いているので、実際に地面を踏んだわけではない)。
「ごめん。特に意識してなかった。次はじいちゃんたちを驚かさないように、拍手をしながら近づくことにするよ。」
「それはそれでこわいぞ!」
相変わらず微妙な顔の旅人の手元を覗き込む。そこには見たことがない機械と、大量のキャベツがあった。
「このキャベツたちは……ほとんどは違うけど、いくつかは僕の畑のキャベツがあるみたいだ。」
見たままを伝えると、旅人とパイモンはギクリと肩を縮める。オロルンは首を傾げた。旅人とパイモンが後ろを向いた。コソコソと内緒話を始める2人。しかしオロルンの耳にははっきりとその内容が聞こえてしまっていた。
「どうするんだよ!オロルンのキャベツは全部食べたんじゃなかったのか!?」
「どれがオロルンのキャベツかなんて見分けがつかないよ……。できるだけ使ったけど、まだ残ってたみたいだ。」
「うう……参量物質変換器に入れようとしてたって知ったら、オロルンのやつ、怒るんじゃないか?」
聞き捨てならない言葉が聞こえて、オロルンは口を挟むことにした。「僕は、じいちゃんがキャベツをどうしようと怒らない。」
パイモンがギョッと振り返る。
「き、聞こえてたのか……?」
「僕は耳がいいんだ。ところでじいちゃん。さんりょうぶっしつへんかんき、というのはこれのことか?」
オロルンが設置された機械を指さすと、旅人は頷いた。
「そうだよ。」
旅人はオロルンにその装置のことを教えてくれた。素材を入れれば、錬金術で別の素材に変換してくれるらしい。一通り話を聞いたオロルンは、旅人に向かって身を乗り出した。
「じいちゃん!その機械を使っているところを見せて欲しい。僕も手伝うから。」
そう言ってオロルンは変換器にキャベツを入るだけ詰め込んだ。
「元素を当てるのか?任せてくれ。」
そう言ってオロルンは弓を取り出し、これでもかと重撃を撃ち込んだ。
「これは素晴らしい機械だな。」
できあがった素材たちを見たオロルンは、感嘆の声を上げた。
「なあ、本当に怒らないのか……?キャベツを食べずにこんなことに使うのは、嫌じゃないか?」
パイモンはまだ不安そうにしている。だからオロルンは自分の考えを述べることにした。
「僕はじいちゃんが僕があげた野菜を捨てたって、怒らないよ。それはじいちゃんが僕の野菜を、どこか僕の知らない土地の肥料にしたってことだと思うから。僕だって、余った野菜は肥料にする。それが、肥料じゃなくてこんなにすごいものになるなら、野菜も本望だと思う。」
そう言うなりオロルンは、その場から飛び立った。
「オロルン!?どこへ行くの!?」
旅人がオロルンを見上げて叫んでいる。オロルンは下に向かって叫んだ。
「待っててくれ、じいちゃん!畑の野菜を取ってくる!まだ沢山あるんだ!」
そう言ってオロルンは自分の畑へ急いだ。
「おおい!参量物質変換器は、1週間に1回しか使えないぞ!」
追いかけるようにかけられたパイモンの声が、オロルンに届くことはなかった。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 26/09/2025
(3/3)
るように微笑み返した。
「消耗して疲れただろう。少し眠るといい。夕飯時には起こしてやろう。今夜は泊まって行け。長生もまだ眠っていることだしな。不卜廬には俺から報せを出しておくから。」
そう言うと、白朮は安心したように小さくため息をついた。肩の力が抜けた表情に。鍾離はそっと白朮の額に口付けた。
「さあ、寝室に行くといい。俺のベッドを使ってくれ。」
白朮の笑みが、複雑そうなものに変わる。
「せっかくのお泊まりなのに、私がこんなだなんて少し残念です。」
鍾離は苦笑した。この男はたまに可愛いことを言って鍾離を煽る。無意識なのが余計にタチが悪い。鍾離は白朮の髪を軽く撫でた。
「また元気な時に訪ねて来ればいい。」
白朮は嬉しそうに鍾離の手に頬を擦り寄せる。
「来てもいいのですか?」
「無論だ。」
鍾離はそう言って、白朮のメガネを外した。テーブルにメガネが置かれるカチャン、という音。直後、鍾離は白朮を抱えあげた。
「わ、鍾離さん……!」
「じっとしておけ。」
白朮を寝室まで運び、ベッドに転がす。大人しくされるがままの白朮を素早く布団で包み、ポンポンと軽く叩いた。
「さあ、目を閉じろ。」
顔が半分隠れた白朮が布団の下でクスクスと笑った。
「暑いですよ。」そう言ってモゾモゾと布団から足先を出す白朮。しかし顔はまだ半分隠したままで、やはりクスクスと笑っている。
「鍾離さんの匂いがします。」
そんな事を言うものだから呆れてしまう。
「白朮。」
窘めるように名を呼べば、はぁい、と気の抜けた返事が返ってきた。
「おやすみ。」
白朮が目を閉じたのを確認し、鍾離は寝室を後にした。

 寝室の扉をそっと閉め、鍾離は次にすべき事を考えた。兎にも角にも、不卜廬に手紙を出さなくてはいけない。そろそろ桂が戻らない白朮を心配している頃だろう。書き終わったら白朮は眠っているはずだ。寝顔を眺めつつ、枕元から扇で風を送ってやれば快適に眠れるだろう。
 手紙を書こうとした鍾離は自分の失敗に気づいた。
「しまった……。」
硯の上には長生が寝ている。仕方なく、鍾離は長生をつついた。
「長生。すまないがそろそろそれを返してくれないか。」
数回つつくと、長生の目が薄く開いた。
「うーん……?うるさいねえ。勝手に退かせばいいじゃないか……。私はまだ眠いよ。」
鍾離は長生の体を撫でた。ヒンヤリと冷たい感触。
「ちょっと!いやらしい触り方をするんじゃないよ!」
突然覚醒した長生は、素早く鍾離の腕に巻き付き、締め上げた。彼女もまた、それなりに回復したようだ。
「すまない。そういった意図は無かったのだが。」
言い訳を口にする鍾離。長生は鍾離の顔を見て巻き付く力を緩めた。
「なんだ……あんたか……。脅かすんじゃないよ。ふぁ~……。」
大きく欠伸をし、長生は鍾離の肩にスルスルと巻きついた。
「手紙を書くの?」
肩の上から長生が尋ねた。
「ああ、白朮に無理をさせるわけにいかないからな。お前たちには泊まってもらった方がいいだろう。だから不卜廬に手紙を出す。」
「そりゃあいい。不卜廬に戻ったら、あいつはきっとまた仕事をするだろうからね。」
長生はしばらく鍾離の手元を眺めていたが、不意に首を傾げた。
「待った。書いたところでどうやって届けるんだい?仙術でも使うの?桂が驚くんじゃ……。」
鍾離は込み上げてきた笑いを押し込めた。彼女らしい細やかな気遣いだ。笑うのは失礼だろう。
「人に頼む。七七嬢は彼を見知っているから、驚かせることにはならないだろう。ああ、それからそろそろ薬がなくなる頃だろう。丁度いい。少し早いが、渡しておくとしよう。」
それだけで誰の事かわかったのだろう。長生はクツクツと笑った。
「伝書鳩ならぬ伝書金鵬ってことだね。随分と贅沢なことだ!白朮ってば、間接的にとはいえ、仙人をこき使うとはねえ。」
鍾離は堪らず吹き出した。「俺もお前も元仙人だろうに。」
「元だよ元。私もあんたも、今じゃただの人と蛇さ。」
白朮がいたなら、ツッコミを入れることもあっただろう。しかしここには鍾離と長生だけ。1人と1匹は、白朮を起こさぬよう、声を押し殺し、なんということのない会話を楽しんだのだった。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 26/09/2025
(2/3)
鍾離は塩を自分の手のひらに載せて白朮の口元に持っていく。白朮は鍾離の手に吸い付くように塩を舐めとった。
「おいしい……。」
白朮が呟く。鍾離はもうひとつまみ塩を差し出す。塩を美味しく感じるということは、やはり塩分が足りていないのだろう。白朮はまた鍾離の手のひらから1粒残らず塩を舐め取った。そして湯のみの中に残っていた水を思い切ったように全て飲み干す。鍾離は水差しから水を注ぎ、湯のみを満たした。白朮はもう一口水を飲む。コクリと喉が動く。しっかり飲めているようだ。鍾離は手ぬぐいを濡らし直し、白朮の体に押し当てた。白朮はブルリと身震いした。
「つめたい……。」
白朮は反射的に身をちぢめようとする。しかし鍾離は容赦なく脇の下に手ぬぐいを挟み込んだ。白朮もそれ以上何も言わなかった。鍾離は白朮の表情を窺う。白朮は、険しい顔で眉を顰めていた。
「まだ気分が悪いか?」
分かりきった質問を投げかけると、白朮はややしばらく間を空けて口を開いた。
「吐き気はいくらか和らぎましたが……まだ少し気持ちが悪いです。それから頭痛も酷くて。」
白朮は覚悟を決めたようにまた1口水を飲む。鍾離は何も言わずに白朮の体を冷やし続けた。
 そうすることしばらく。水分が取れたのが良かったのか、白朮の肌は少し汗が滲んできていた。鍾離は霧氷花の花蕊を手ぬぐいで包み、白朮の太ももの内側、太い血管に添える。扇で風を送ると、白朮の表情が少し緩んだ。白朮の呼吸は少し落ち着き、普段より大きく息をしてはいるが、先程より苦しそうではない。体温を確かめようと鍾離が白朮の顔に手を伸ばすと、白朮が鍾離の手を捕まえた。ちゅう、と鍾離の手のひらに口付ける白朮。そして手から顔を離し、ポカンと困惑した表情を浮かべた。鍾離は思わず肩を揺らす。
「塩が欲しかったのか?」
少し赤みが引いていた白朮の顔が一気に真っ赤になる。
「ちっっ違……!鍾離さんの手が目の前に出てきたので、てっきり……!」
鍾離は扇を机に置き、塩をひとつまみ、白朮が握ったままの手のひらに載せる。
「ほら、白朮?」
白朮はなんとも言えない顔で鍾離の手のひらに口を付けた。そのまま鍾離は手を閉じて、白朮の頬をもにもにと揉んで体温を確かめる。頬にも汗が伝いはじめており、順調に回復しているようだ。白朮は恥ずかしそうに鍾離の手を引き剥がし、外していた眼鏡をかけた。もうヘマはしないという気概を感じる。
「随分楽になりました。ありがとうございます。」
そう言って白朮は自分で衣服を軽く整えた。膝の上の霧氷花と手ぬぐいを手に取り、首に押し当てる。手当が効いたのか、意識がはっきりしてきたようだ。
「気をつけていたつもりだったのですが、帰り道で気分が悪くなってきて、水もなくなってしまって……。」
白朮は疲れた顔でため息をついた。
「鍾離さんの家が近くだったので、来てしまいました。本当に急に押しかけてしまって申し訳なく……。」「白朮。」
鍾離は謝罪の言葉を遮る。汗で湿った白朮の頬を軽く撫で、白朮の視線を誘った。白朮の瞳には穏やかに微笑む鍾離が映る。
「無理に不卜廬まで戻らず、ここに来てくれて良かった。」
白朮は空いている手を鍾離の手に重ねてきた。霧氷花の冷気に触れていたその手はヒンヤリと冷たい。
「そうですね……。不卜廬まで戻っていたら、この程度では済まなかったでしょう。」
白朮は鍾離の手をギュッと握り、頬を擦り寄せた。
「何が悪かったのでしょうね……。考えてみればこのところ忙しかったですし、夜は寝苦しくてあまり眠れていないのです。夏バテ気味で食欲もあまりなく……ああでも今朝はちゃんと食事を取ってから出かけたのですが……。」
白朮は珍しく1人で喋り続けた。鍾離は扇で白朮を扇ぎながら、ただただ黙って聞いていた。
「昼食が軽かったのがいけなかったのでしょうか?いえ、もう少し早く帰る予定でしたのに、1番暑い時間帯に歩くことになったのは私の落ち度ですね。早く不卜廬に戻りたかったので、強行してしまいました。長生の言う通り、もう少し涼しくなってからにすれば良かった……。」
そこまで話して、白朮はハッと鍾離を窺う。
「すみません、一方的に。」
気まずそうに視線を泳がせる白朮。
「いや、続けてくれ。」
鍾離は微笑んだ。しかし白朮は怪訝な顔で鍾離を見つめる。
「どうした?」少し潤んだ黄色の瞳を見つめ返す。
「見慣れない顔をされていたので……。」
鍾離の手が一瞬止まった。
「どんな顔をしていた?」
特に何か特別なことを考えていたつもりはなかった。白朮は少し考えて、恐る恐るといった様子で口を開く。
「なにか……嬉しそう……?な気がします。」
白朮に握られていた手を引き上げ、鍾離は自分の頬を撫でた。確かに口角が少し上がっているかもしれない。目の前に体調の優れない白朮がいるというのに、相応しくない顔をしていたようだった。
「すまない。不謹慎だった。」
まさか言えるはずがない。白朮が鍾離を頼って来てくれたことが嬉しかっただなどとは。白朮が鍾離の部屋で気を遣わずに話してくれることが、それはそれは嬉しかったのだ。きっとそれが表情に出てしまったのだろう。自分も随分凡人らしくなったものだと内心で苦笑する。白朮は首を傾げていたが、特に深追いはしてこなかった。その遠慮がちなところも鍾離は好いている点である。しかしこれも、今語るべきことではないだろう。それからしばらく、2人は共に何も言わず、静かな時間が続いた。
 霧氷花の冷気がなくなる頃、白朮は普段と変わらず動けるようになっていた。
「鍾離さん、ありがとうございました。おかげさまで、随分良くなりました。」
少し困ったように白朮は微笑む。
「ただ……その……頭痛が取れなくて……。」
こういった頭痛に通常の頭痛薬が効かないのは鍾離も知っている。鍾離は微笑み、白朮を安心させ
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 26/09/2025
「緊急避難」 鍾白で熱中症ネタ 暑くなり始めた頃に書いてたやつ清書しましたー (1/3)
鍾離は璃月港に家を持っている。物置が洞天に繋がっている以外は、普通の民家だ。鍾離は散歩が好きなため、日中は余り家にいないのだが、その日はたまたま家にいた。
 来客を知らせる呼び鈴が鳴って、鍾離は内心首を傾げていた。この家に来客が来ることはほとんどない。他国の友人から時折荷物が届く程度だ。つい最近、その荷物が届いたばかりだったので、本格的に来客に心当たりがない。疑問を抱いたまま、鍾離は扉を開けた。
 立っていた人物を見て、鍾離は大きく目を見開いた。
「突然申し訳ありません。」
困った顔で鍾離を見上げているのは、恋人の白朮だった。鍾離は何度かこの家に白朮を招いたことがあるが、それはいつもどこかに出かけた後がほとんど。食事をして、鍾離の家でお茶を飲む、といったような場合ばかりだ。そういう訳で、白朮が鍾離の家を訪ねて来たのは今日が初めてだった。
 白朮は申し訳無さそうに鍾離を見上げて言った。
「往診の帰りに気分が悪くなってしまって……少し休ませていただけませんか?」
鍾離はギョッと白朮の顔を確認した。確かに顔が少し赤い。
「入ってくれ。」
鍾離はすぐに白朮を招き入れた。往診用の薬箱などの白朮の荷物を預かる。
「長椅子に。」
「すみません……。」
白朮はフラフラと長椅子に座り込んだ。
「すみません。水と、塩をもらえませんか。」
その言葉で鍾離は状況を察した。「暑さにやられたか。」
そういえば今日はいつもより気温が高い。雨が降った後のこともあり、湿度も高かった。白朮は小さく頷いた。
「そのようです。」
「わかった。すぐに用意しよう。」
鍾離はすぐに水を用意し、小皿に塩を盛った。それから霧氷花の花蕊を摘んで、水を張った手桶に手ぬぐいと一緒に放り込む。白朮のところに戻ると、白朮はぐったりと項垂れていた。傍らには乱雑に脱ぎ捨てられた白衣が丸めて置いてある。
「白朮、大丈夫か?」
鍾離が声をかけると、白朮は顔を上げた。鍾離は違和感に気づく。顔が赤いのに、白朮は汗をかいていなかった。
「水を。」
鍾離が湯呑みを手渡すと、白朮はひとくち舐めるように口にして、鍾離を見上げる。
「すみません鍾離さん。先に長生をお願いできますか?」
白朮はぐったりした長生を首から外し、鍾離に渡してきた。
「うぅ……暑い……。」
呻く長生。彼女も相当参っているようだ。
「風通しの良い場所で涼ませてあげれば大丈夫です。長生は普通の蛇とは違いますから。」
白朮は長生を気遣うように撫でた。鍾離は長生を受け取り、熱を逃がせそうな場所があるか考える。
「木や布の上は避けた方が良いな。となると……。」
鍾離は机の上に布を敷き、硯を裏返して布の上に置いた。鍾離の硯は大きい石製のものである。墨が付かないことを確認し、長生をその上に横たえた。小さめの茶器に水を注ぎ、頭の横に置いてやる。
「硬い枕だが、少し我慢してくれ。」
「ああ~冷たい……悪いけど少し休ませてもらうよ。」
長生はそう言って目を閉じた。
 さて、次は白朮である。白朮の元に戻ると、湯のみの中身は半分ほど減っていた。
「白朮、もっと飲んだ方がいい。」
しかし白朮は小さく首を横に振る。
「気分が悪くて……戻してしまいそうで……。」
眉を顰め、口元に手をやる白朮。先程よりも顔は赤らんでおり、呼吸も発熱した時のように苦しそうだ。触れた肌は熱く、放熱が間に合っていないのだと分かる。水分摂取は難しいと判断した鍾離は、まず白朮の体温を下げる方向に切り替えることにした。
 鍾離はよく冷えた手ぬぐいを軽く絞ると、白朮の首元に押し当てた。空いている手で軽く衣服を緩め、素肌を軽く湿らせるように押し当てる。
「冷たい……。」
白朮がぽつりと呟いた。白朮は眼鏡を外してテーブルに置くと、鍾離の手から手ぬぐいを取って額に押し当てる。ゆっくりながらも自分で体温を下げようとしている白朮。鍾離は少し目を離しても大丈夫だと判断し、静かに寝室に向かう。
(薄手の寝間着はあっただろうか……扇も、大きいものがしまってあったはずだ。)
久しく開けていなかった引き出しを探ることしばらく。目当ての物を持って鍾離は白朮の元へ戻る。湯のみはテーブルの上に置かれており、中身は減っていなかった。「白朮。」
 呼びかけると、白朮は少しだけ鍾離の方に顔を向けた。白朮の前に寝間着を差し出す。
「白朮。楽な服装に着替えた方が良いだろう。少し大きいかもしれないが……。」
白朮はゆっくり目を瞬かせて、鍾離の手元を凝視する。眼鏡が無くても見えるように近ずけてやると、白朮は納得したように頷いた。
「寝間着ですか。ありがとうございます。」
そう言って白朮はゆるゆると服に手をかけた。緩慢な動作に疲労が見て取れる。
「手伝おう。」
鍾離はそう言うと、手早く白朮の服を脱がせにかかった。白朮は抵抗しなかったが、協力的でもなかった。されるがままの白朮を、鍾離は大変苦労しながらも何とか寝間着に着替えさせた。最後に白朮の髪から簪を引き抜き、髪留めを外して三つ編みを解く。手ぐしで髪を軽く梳くと、やはり髪に熱が籠っていた。
「さあ、終わったぞ白朮。……白朮?」
鍾離は返事のない白朮の顔を覗き込む。
「ああ……すみません……。ぼーっとしてしまって……。」
白朮は眠たげに目を擦る。鍾離は慌てて白朮に水を差し出した。
「白朮!水をもっと飲まなければ駄目だ。塩も取らなければ。」
白朮はハッとした顔になり、湯のみを受け取った。このまま意識を失えばどうなるか、鍾離でも分かる。半ば意識朦朧としているとはいえ、医者である白朮が、この状況の危うさを分からないはずが無かった。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 13/09/2025
🦁🪽‪と茨……
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 27/08/2025
「しあわせの味」 微妙なハスの実パイと白朮先生と七七ちゃんの話
璃月一の名医である白朮は、基本的になんでも器用にこなす。しかし白朮も人であり、失敗する時もある。例えば今、正に白朮は自らの失敗を突きつけられていた。
 目の前に並んだ微妙なハスの実パイを眺め、白朮は大きくため息をついた。調整した生地が悪かったのか温度管理が上手く行かなかったのか、花びらは退色し、端は焦げて黄色くなっている。試しにひとつ口に入れるが、余りにも微妙な味と食感だった。ボロボロした硬い食感に、口の中の水分を奪うパサパサ感。
「これは食べられませんね……。」
白朮は呟く。
「久しぶりにあんたの失敗作を見たよ。」
長生は笑いながら味見を拒否した。
 紙箱に粗熱の取れたハスの実パイを入れ、器具の片付けを始める白朮。そこへ七七が顔を出した。
「びゃく先生。ハスの実パイ、できた?」
朝、七七が出かけて行く時に「今日のおやつはハスの実パイですよ」と言ったのをちゃんと覚えていたのだ。しかしこんな失敗作を七七に食べさせる訳にもいかない。可哀想なハスの実パイは白朮がこっそり食べて処分するしかないだろう。白朮は困った顔で屈み、七七と視線を合わせる。
「すみません、七七。ハスの実パイは失敗してしまいました。今日のおやつは別のお菓子にしましょう。」
七七はテーブルの上の箱に目をやる。
「これは?」
「これは失敗作です。ヤマガラのおやつにいくつか持っていきますか?いらなければ処分します。」
白朮は箱を取って七七に見せる。見るからにいつもと違う色のハスの実パイ。七七は箱のハスの実パイをひょいとつまむと、口に入れた。味見程度なら、と白朮は止めなかった。
「すてちゃうの?」
七七が首を傾げる。
「美味しくないでしょう?勿体ないですが、仕方ありません。」
否定も肯定もせず、白朮は笑って誤魔化す。七七は白朮をジッと見つめ、不意に白朮の手から箱をひったくった。
「七七!?」
七七は箱を抱えて駆け出した。そして部屋の出口で白朮を振り返る。
「すてちゃうなら、七七がたべる。」
七七はギュッと箱を抱きしめた。白朮が近寄ると、七七は距離を取るように下がった。
「ですがそれは失敗で……。」
困惑する白朮がそう言うと、七七はブンブンと首を横に振った。
「びゃく先生のおかしは、おいしい。おみせのおかしより、おいしい。やさしい味がする。すてちゃうなら、七七がぜんぶたべる。」
そう言うが早いが、七七は不卜廬を飛び出して行った。
「七七!」
白朮も慌てて追いかけるが、白朮が不卜廬を出ると、七七の姿は既になかった。
 白朮は呟いた。
「どうせなら美味しいものを食べて欲しいのに……。」
それに答えたのは長生だった。
「あんた、分かってないねえ。」白朮は首を傾げる。
「何が分かっていないのでしょう?」
長生はため息をついた。
「七七は味が分からないだろう?だからね、あの子にとっては、あんたが作った菓子だってことが大切なんだよ。あんたが七七に美味しいものを食べさせたいのと同じように、七七はあんたの菓子を無駄にしたくないのさ。」
人の子は難儀だと長生はぼやく。白朮は思わず視線を泳がせた。
「あれを全部食べて、夕食に響かないと良いのですが……。」
白朮の口から出たのはそんな言葉だけだった。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 05/08/2025
🔶🐍考えてたやつ
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 31/07/2025
(4/4)
が、きっと白朮の気のせいだろう。
「さて、白朮殿。関係性が変わるからには、新しい契約が必要だろう。食事でもしながら話し合うのはどうだろう。」
 鍾離の言葉で、白朮は自分が空腹なことに気づいた。腹筋に力を入れ、情けない声をあげそうな腹の虫を抑え込む。会食で何も食べなかったのだから当然と言えば当然だ。
「では、岩上茶室に行くのはいかがでしょう?あそこなら朝まで営業していますし、個室を借りられますよ。」
「それはいい。では行こうか。」
 鍾離は白朮から手を離し、歩き出そうと踏み出した。
(あ……。)
 白朮はそっと自分の頬を撫でた。鍾離が触れていた場所だ。温もりが無くなったことがなんだか寂しくて、名残惜しいとさえ感じる。
「どうした?」
 鍾離が振り返って白朮を見ていた。
「今行きます!」
 白朮は慌てて鍾離を追いかけた。
 
「それで、契約書を作ったり喋ったりしていて朝帰りになったって?」
 次の日の朝、不卜廬で鍾離と白朮は床に正座していた。机の上から長生が2人を見下ろしている。
「学生だってもう少しマシな羽目の外し方をするんじゃない?連絡のひとつくらい寄越しなさいな。」
 呆れ返ってため息をつく長生。鍾離と白朮は苦笑しながら顔を見合わせた。反省の色のない2人に長生はもう一度ため息をつく。「全く……。まあいいさ。鍾離、白朮をよろしく頼むよ。可愛がってやっとくれ。」
「長生!いきなり何を……」
 白朮の顔がみるみる赤くなる。
「もちろんだ。大切にすると約束しよう。」
 鍾離がうなずくと、白朮は信じられないという顔で鍾離を振り返る。目を白黒させている白朮。
「鍾離先生!長生の前でそんなことを言うだなんて……!」
 鍾離と長生は顔を見合わせた。
(俺は変なことを言っただろうか?)
(言ってないと思うよ。白朮が勝手に恥ずかしがってるだけ。何を想像したんだか。)
 視線だけでそんな会話を交わす。白朮はパッと立ち上がると、すごい勢いで扉の方に向かった。
「ちょっと白朮、話はまだ終わってないよ!」
 長生が言うと、白朮は扉をガラリと開けて振り返らずに言った。
「お茶を入れてきます!」
 ちらりと見えた白朮は、耳まで真っ赤になっていた。
「これは前途多難だな。」
 鍾離は立ち上がり、苦笑しながら長生の首元を撫でた。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 31/07/2025
(3/4)
を口説いている事にしたんだ?」
 それは、と白朮は口ごもる。鍾離の真っ直ぐな視線が痛い。白朮は小さくため息をついた。顔を隠していた手を下ろし、俯く。胸の前で握りしめた両手を見つめ、白朮は言った。
「慣れないことをするものではありませんね。その……方便ならば口説いても許されるかと思ったのです。」
 あの時、鍾離が女性に口説かれているのを見た白朮は、自分の中の黒いものを自覚した。言葉にできない息苦しさ。嫉妬とも独占欲とも違うそれの正体を、白朮は言葉にできなかった。とにかく、鍾離を助けなければと思った時に、口をついたのが「口説いている」という方便だったのだ。鍾離が一緒に演技に付き合ってくれたのが嬉しかった。一時的に鍾離と深い関係になれた気がした。白朮はそれで十分満足だったのだ。しかし鍾離はそうでは無いらしい。
 何を言うべきか白朮が悩んでいると、視界の端で鍾離が動いた。鍾離は一歩距離を詰めて、白朮の手にそっと触れた。白朮は逡巡したが、振り払うことはなかった。鍾離の両手が、白朮の握りしめた両手を包み込む。鍾離の手は大きくて、暖かい。ドクン、と鼓動が跳ねたのを感じ、白朮は手を強く握りしめた。
(さっき演技をしていた時は触れていても平気だったのに……。)
 白朮が硬直していると、鍾離がゆっくり白朮の手を引き寄せた。
「白朮殿、教えてくれ。方便でなければ、なぜ口説くことが許されないんだ?」
 鍾離の声は暖かく、優しく、白朮の胸を締め付けるようだった。俯いたままで、白朮はようやく言葉を押し出す。
「だってご迷惑でしょう?」
 鍾離の手が僅かに震えた。それがどういう感情に起因する震えか、確かめる勇気は白朮にはない。ひとつ言葉が出てしまえば、後は止まらなかった。
「私は、自分がいかに面倒な人間か分かっているのです。臆病で、頑固で、欲張りで……。」
「白朮殿。」
 鍾離が白朮の手を揺さぶるように握り直した。思わず言葉を止める白朮。白朮が恐る恐る顔をあげると、鍾離は難しい顔をしていた。悲しそうな、苦しそうな顔で鍾離が口を開く。
「そう自分を卑下してくれるな。」
 事実なのに、と白朮が言いかけるのを、鍾離が遮った。
「お前は優しく、芯が強く、向上心がある人間だと俺は思う。」
 白朮は何も言えなかった。じわじわと耳が熱くなるのを感じて、白朮は後ずさろうとする。しかし鍾離はそれを許さず、握ったままの白朮の手を引いた。
 鍾離の気配が近くなってくる。白朮は顔を上げられなかった。耳元で鍾離が囁く。
「お前が口説いてくれないのなら、俺から口説いても構わないな?」
 白朮はギョッと顔を上げ、硬直した。石珀色の瞳が、今までに無いほど近くにあった。
(近い……!?)
 鼻先が触れそうな距離感。白朮は視界が揺れるのを感じた。今の白朮の状況は、顔から火が出る、という表現が相応しい。陽の光の下であれば、ザイトゥン桃か、絶雲の唐辛子のような顔色になっている白朮が見られただろう。
「ど、どうしてそうなるのですか!?」
 声がひっくり返る。大慌てする白朮と対象に、鍾離は穏やかな微笑みを崩さない。
「お前は『俺が』困ると思っているようだからだ。つまり『お前は』都合が悪いわけではないのだろう?」
 白朮は再び俯いた。鍾離の顔を直視できない。
「そ、れは……。」
 白朮の頭の中は真っ白で、何か言わねばと考えれば考えるほど、何を言えば良いのか分からなくなっていた。
 しばらくの沈黙の後、痺れを切らしたように鍾離の右手が白朮の手を離れた。鍾離の手はゆっくりと白朮の頬を撫で、顎をすくい上げる。必然的に顔をあげることになった白朮は、再度石珀色の瞳に覗き込まれた。
「否定しないでくれて感謝する。白朮殿、俺との関係を、友人から昇格させるつもりはないだろうか?」
 その言葉に白朮は思わず口元を緩めた。
「私を、友人と思ってくださっていたのですね。」
 仕事仲間だった白朮と鍾離が個人的な付き合いを始めたのは最近のことだ。仕事以外でも食事に出かけるようになり、文通を交わすようになった。
「私が一方的に友人と思っているだけかと心配だったのです。」
 白朮がそう言うと、鍾離は苦笑した。
「そうだったのか。俺はとうに友人になっていたものと思っていたぞ。」
「それは……嬉しいです。」「そうか。それで、どうする?」
 今度は白朮が苦笑した。誤魔化せなかったようだ。しかし、渦を巻いていた心は随分落ち着くまでの時間を稼ぐことはできた。白朮は固く握っていた手をゆっくり開いた。白朮の頬に添えられた鍾離の手に、白朮は指先をそっと触れさせる。
「本当に私でいいのですか?」
 鍾離は少し眉を寄せた。
「お前がいいんだ。」
 白朮は目を伏せる。
「やはり私は色恋には向きませんよ。仕事が何より大事なのですから。」
「それでも構わない。お前の邪魔はしないと約束しよう。」
「もしお付き合いしても、私はあなたに隠し事をしますよ。」
「俺にも話したくないことのひとつやふたつはある。お互い様だ。聞かれたくなければ踏み込まない。」
 白朮は目を閉じて、ゆっくり深呼吸をした。
「どうしましょう。断る理由が無くなってしまいました。」
 白朮が笑うと、鍾離も力の抜けた笑いを返した。
「後はお前の気持ち次第だろう。」
「そうですね……。」
 白朮は、自分の頬に添えられた鍾離の手に、自分の手を重ねる。
「その……よろしくお願いします。」
 白朮は恐る恐る視線を上げる。鍾離は何故か複雑そうな顔で笑った。咳払いをし、視線を逸らす鍾離に違和感を覚えたが、白朮から踏み込む勇気はなかった。なぜか少し恥ずかしそうにも見えた
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 31/07/2025
(2/4)
してこようとする女商人。どうしたものかと思案する鍾離の袖を、白朮が軽く引いた。
「流石は鍾離先生。引く手数多ですね。」
 そう言いながら白朮は鍾離の腕に、腕を絡めてきた。
「ですが、申し訳ありません、お嬢さん。この方は私が口説いている最中なのです。割り込みは遠慮してくださいね。」
 鍾離は白朮を見下ろした。白朮は微笑みを崩さぬままに鍾離を見上げてくる。鍾離は白朮の腕に腕を絡め返した。白朮の瞳が一瞬驚きに見開かれ、そしてすぐ、驚きは嬉しそうな微笑みへと変化していく。鍾離は白朮をの瞳をジッと見つめた。
「そういえば、今日の分は聞いていないな。」
 からかうように言ってやると、白朮は困ったように眉を下げる。
「こんなところでは言えませんよ。ですから、早く行きましょう?続きは後ほど……。」
 白朮の視線が鍾離の目から逸らされ、チラリと女性の方に向けられる。鍾離も女性を一瞥すると、小さく溜息をついた。
「なんだ。今日こそ返事をしてやろうと思っていたのだがな。」
 鍾離は白朮に向き直ると、おもむろに懐から扇を取り出した。扇をハラリと広げ、白朮の顔を隠すようにかざす。鍾離のシルエットが徐々に扇の影に隠れ、白朮の影と重なり……扇の向こうでツカツカと靴音が遠ざかっていくのが聞こえた。
「行ったか?」
 鍾離が呟く。
「行ったようですね。」
 白朮も囁いた。周りに人の気配がしないのを確認し、2人は扇の影から顔を覗かせた。
 鍾離の腕から手を離し、白朮はクスクスと笑った。一方、鍾離は呆れたように苦笑しながら扇を畳んだ。扇で遮られていた行灯の明かりが、鍾離の端正な鼻筋をくっきりと照らす。ゆっくり遠ざかっていく鍾離の瞳。その目元が少し緩み、鍾離は小さく肩を揺らした。
「見事な演技だな。役者になれそうだ。」
 扇をしまいながら鍾離は言う。白朮は込み上げてくる笑いを堪えながら答えた。
「残念ながら、転職の予定はありません。鍾離先生こそ、観ているだけではもったいない即興演技でしたよ。」
 そう言って白朮は、もう一度鍾離の服の裾を引いた。
「とにかく、ここは会場からそう離れていません。少し歩きましょう。」
 こうして2人は上手く会食から抜け出したのだった。
 
 白朮は、鍾離と璃月の夜道を歩いた。鍾離が少し前を歩き、白朮がそれに着いていく。2人の間には取り留めのない話が飛び交った。
「酷い会でしたね。参加者同士を分断させて、主催者側のみと商談させようだなんて。」
「招待客が十分集まっていなかったのだろう。俺を囲んでいた者たちは、きっと暇を持て余していたのだろうな。」
「鍾離先生がいてくださって本当に良かったです。でなければ、抜け出すタイミングを失っていたでしょうから。」
「俺もお前への挨拶を口実に席を立とうと思っていたんだ。来てくれて助かった。」
「そうでしたか。それはちょうど良かったですね。」
「そういえば、長生はどうした?一緒ではないのか?」
「七七と留守番です。桂が今日はいられないとの事で、七七を1人にするわけにはいきませんから。」
「そうか。」
 気がつけば、璃月港の端、青墟浦に続く橋の上だった。鍾離が唐突に足を止めたので、白朮も立ち止まる。何の気なしに鍾離に着いてきたはいいが、どうして鍾離はここに来たのだろうという疑問が頭をもたげた。
 周囲を見回しても、警備の千岩軍以外に人は見当たらない。その千岩軍も、大声を出さなければ会話が聞こえない程度の距離に立っている。静かな場所だ。
「それで。」
 鍾離は白朮に微笑みかけてきた。月明かりに浮かび上がる鍾離の表情は、恐ろしい程に穏やかな微笑みをたたえている。鍾離は言った。
「続きはいつ聞かせてくれるんだ?」
 鍾離の言葉の意味を、白朮が理解するまでに数秒を要した。白朮の視線が泳ぐ。鍾離が続けた。
「忘れたとは言わせないぞ。今日の分がまだだったな、と俺が言った時、お前は言ったはずだ。続きは後ほど、と。」
 白朮はどう答えたものかと考えた。しばらくの沈黙。ある考えが白朮の脳裏をよぎった。
「その……鍾離先生。もしや怒っていらっしゃいますか?」
 白朮がそう尋ねると、鍾離は首を傾げた。
「怒る?なぜだ?」鍾離が怒っているかもしれない、と思ったのは、鍾離がわざと白朮に意地悪を言っている可能性を考えたからだった。方便のことを蒸し返して、苦言を呈しているのだと。しかし鍾離の声色は、本当に困惑しているようだった。けれど白朮には、鍾離が怒っている以外に理由が思いつかなかった。白朮は言葉を濁す。
「ええと……先程の私の方便で妙な噂が立つのがお嫌、とか……。もしそうでしたら、私が振られた事にしていただければ……。」
 鍾離の顔を真っ直ぐには見られなかった。元々方便だったのに、振られることを考えると、白朮の胸がチクリと痛んだ。
 数秒間が空いて、鍾離の声が降ってくる。
「怒ってはいない。が、少し期待してしまった。」
 その言葉に、白朮は思わず目を上げた。
「えっ。」
 それは余りに衝撃的だった。驚きのあまり、理解するのが困難で、それでも鍾離が白朮の方便を好意的に受け取ったことだけは理解できた。思わず一歩後ずさる白朮。対して鍾離は半歩距離を詰めてきた。
「口説いてはくれないのか?」
 白朮は思わず手を掲げ、顔を覆う。鍾離の顔を直視できなかった。
「……口説いて欲しいのですか……?」
 鍾離は否定してくれない。白朮は慌てた。だってあれは方便だったのだ。指の隙間からそっと鍾離の顔を覗う。鍾離は至って真面目な表情で白朮を見つめていた。
「あの状況を切り抜けるだけならば、わざわざあんなことを言う必要はなかったはずだ。なぜ、俺
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 31/07/2025
弊ワットの鍾白が付き合い始める話。 前半は名前の無いモブがそこそこ出てきます。 あらすじ とある小国の商会の会食に招待された鍾離。しかし会場は余りに微妙な雰囲気で、同じく招待されていた白朮を連れて抜け出そうとするのだが……。 (1/4)
璃月港の料亭、月海亭。鍾離は味のしない茶を啜っていた。
 胡桃に頼まれて出席した商談という名の会食。某国(七国ではない小国であるが、その国の名誉のために国名は伏せておく)の立ち上げたばかりの商会の、お披露目も兼ねたパーティである。しかしこの商会、会長は有名な商人の息子だそうだが、どうやら父親から才能を受け継がなかったらしい。
「先生、お茶のおかわりはいかがですか?これは我が国の特産品で香り付けをしておりまして……。」
 にこやかにお茶を勧めてくる商人を適当にあしらいつつ、鍾離は周囲を見回した。招待されている人々の中には見知った顔はちらほら見かけるものの、璃月の貿易の要所とも言える面々の顔は見当たらない。特に璃月七星の遣いが見当たらないというのが問題だった。招待しなかったのか、応じてもらえなかったのか。どちらであっても、収穫が見込めないのは明らかだ。実際、他の参加者との交流は一切なく、社交というより押し売りをされている気分だった。
 これは駄目だと早々に見切りをつけてはいるものの、残念ながら鍾離はまだ会場を辞せずにいた。
 その原因のひとつはこの状況だ。
「いかがでしょうか?良い香りでしょう?」
 正面の、にこやかにお茶を勧めてくる商会員。そして周囲を固める商人たち。
「このお茶は、お料理にもとても合うんですよ。」
「すまないが、俺は海産物が食べられない。」
「本当にお酒は召し上がらないのですか?このお酒は我が国でしか作れないもので~」
 さらに気配を探れば、衝立の後ろにも商人が何人か、割り込む機会を窺っているようだ。理由もなく席を立てば、彼らにたちまち取り囲まれるだろう。流石の鍾離もうんざりしつつあった。
 鍾離は再度さりげなく会場を見回す。そこに鍾離がこの場を辞せぬもうひとつの理由があった。鍾離の視線の先にいる若草色の髪の男のことである。
 視線を感じたのか男が振り返る。金色の瞳と視線が合って、彼は軽く会釈をすると視線を戻した。彼、璃月港で最も腕の良い医者である白朮は、腕利きの商人でもあり、この会食に参加していたのだ。代表と和やかに言葉を交わしている白朮。挨拶が終わったら同様に商会員に捕まって席につかされるのだろう。そこまで行くと、今の鍾離のように空虚な食事をすることになってしまう。その前に鍾離は白朮に声をかけるつもりでいた。
 鍾離と白朮は仕事上の付き合いが深い。最近ではプライベートでも会うことが多く、そろそろ友人を名乗っても良い頃ではないかと鍾離は思っていた。そんな親しい者をこの会場に置いて行くのは気が引ける。そういうわけで、鍾離は商人たちを適当にあしらいつつ、白朮の話が終わるタイミングを窺っていた。
 しかし、商人の方はそうはいかない。あの手この手で鍾離の興味を引こうと色々な物を持ってくる。鍾離は時間稼ぎのつもりで、特産品だという鉱石を手に取った。
「この石は中々良い色合いをしている。見ても構わないだろうか?」
 どうぞどうぞと商人が渡してきた箱から鉱石を取り出し、光に当てて見る。
「非常に純度の高い石のようだ。限られた環境でしか採れない希少な鉱石なのではないか?」
「まあ、鍾離様、流石の慧眼でいらっしゃる!仰る通り、これは我が国でもほとんど出回らない鉱石なのです。」
 石を持ってきた商人に喋らせつつ、再度さりげなく会場を見回す鍾離。先程の場所に白朮の姿はなく、商会長は別の者と話を始めていた。
(しまった……タイミングを逃したようだ。)
 ほんの数十秒目を離したことを後悔しつつ、次の機会を探る。そんな鍾離の肩がトントンと軽く叩かれた。
「こんばんは、鍾離先生。」
 鍾離が振り返る。金色の瞳が鍾離を見下ろしていた。
「白朮殿。」
 鍾離はなんでもないような顔で白朮を見上げる。白朮はにっこりと微笑んで言った。
「お話中のところ申し訳ありません。少しよろしいですか?」
 そう言って商人に会釈をする白朮。隣の商人が脇によけ、鍾離はようやく椅子から立ち上がった。
「白朮殿、声をかけてくれて良かった。堂主から伝言を預かっている。」
「ああ、きっと先日の商談の件ですね。良いお返事だと良いのですが……。」
 そんな会話をしながら会場の外に向かって歩く2人。もちろん鍾離は伝言など受けていないし、白朮も同じだろう。それがわかるくらいには、2人は互いを知っていた。
「商談用の個室のご用意がありますが……。」
 引き留めようと追ってきた商人に白朮が柔和な笑みを向けた。「お気遣いをありがとうございます。ですが、見たところ、この会場は壁が薄そうですね?」
 鍾離は笑いそうになるのを堪えた。要するに「主催者側が盗み聞きしそうだからここで話したくない」と言っているのだ。どうやら、白朮の方もこの会に良い印象を持たなかったらしい。
「白朮殿、外へ行かないか?ここは少々騒がしい。」
 鍾離もチクリと嫌味を言ってやる。商人はそれ以上何も言ってこなかった。
 外は既に薄暗く、灯りがつき始める時間だった。
「そういえば先日、旅人さんにお会いしまして。」
「それはもしや3日前か?俺のところにも会いに来ていた。」
 当たり障りのない雑談をしながら会場から出る。行くあてもないので、鍾離はなんとなく往生堂の方角へ足を向けた。白朮は行く先には触れずに鍾離に着いてくる。彼もまた、行先はどこでも良いのだろう。
 あと数歩で月海亭の敷地から出るというタイミングで、後ろから足早な足音が近づきてきた。
「あの、お待ちください!」
 後ろから呼び止められて振り返ると、先程の商人と鍾離が話していた際、後ろでうろついていた女商人の1人が立っていた。
「さっきはお話するタイミング無くて……。良ければ連絡先を教えていただけませんか?」
 鍾離は内心辟易した。彼女の表情や物言いから、商談目的でないことは明らかだったからだ。良くて色恋営業だろう。
「鍾離先生のお話を聞いていましたが、博識な方で、もっとお話を聞かせていただけたらと……。」
 目を輝かせて個人の連絡先の書かれた名刺を渡
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 09/07/2025
RP これ見てから脳内ずっとこんな感じ()
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 01/06/2025
普段からしっかり手入れがされていることが窺える。
「なるほど、確かにこれは、極上の手触りと言えるだろう。」
雲が通り過ぎたのか、室内には再び陽の光が差し込んできた。
 カクークがヌヴィレットをじっと見つめ、パタパタと小さな翼を羽ばたかせる。
「大丈夫だ、きょうだい!安心しろ、きょうだい!」
ヌヴィレットの眉がぴくりと動いた。
「カクークくん。それは……。」
リオセスリが首を傾げる。
「なんて言ってるんだ?」
ヌヴィレットはしばらく考え、そして小さく首を横に振った。
「大したことではない。それよりリオセスリ殿……。」
話題を逸らすヌヴィレット。カクークは椅子から飛び上がり、ヌヴィレットの周りをクルクルと飛んだ。
「おいおいきょうだい……マジかよ~。」
「カクーク君。口約束で構わないが、他言無用で頼みたい。」
「……わかった。きょうだい。」
その様子を見ていたリオセスリは肩を竦めた。
「内緒話かい?仲間外れとは、悲しいな。」
ヌヴィレットとカクークは顔を見合わせる。ヌヴィレットは小さくため息をついた。
 カクークが何を言っていたか、言える訳がない。もしもリオセスリに竜の言葉が理解できたら、こう聞こえていたのだから。『心配するなきょうだい。あんたの番に手を出したりはしないからな。』
『きょうだい、マジかよ!番じゃないのか?こんなに同じニオイがしてるのに。ほんとかよ!』
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 01/06/2025
「それはまだ言っていない」 ハモワルネタ(ヌヴィリオ+カクーク) 正直左右はどちらでも読めるけど、書き手がどちらかと言えばヌヴィリオ派なので一応ヌヴィリオということにしてます。 ヌヴィレットが片思い中くらいの距離感。 (1/2)
パレ・メルモニアの最高審判官の執務室。ナタからの客人(竜?)、カクークがヌヴィレットとリオセスリのことを見上げていた。
 桃色の羽毛にユニークな言葉遣い、そして丸いボディ。
(柔らかそうだな。)
そんな感想が脳裏に浮かんでしまってはもうダメだった。
「ああ……やっぱり俺もペットが欲しいな。」
リオセスリが思わずそう呟くと、カクークが目を吊り上げてリオセスリ迫る。
「ちがう!ちがう!」
どうやらペット呼ばわりが気に障ったようだ。リオセスリは微動だにせず、カクークの前に手をかざして顔を庇う。
「あんたのことをペットって言ったんじゃないさ。カクーク。フォンテーヌには、あんたみたいな賢い竜はいなくてね。似た動物となると、どうしたってペットになっちまうのさ。」
言葉を選んで弁明しつつ、リオセスリはそっとカクークに向かって手を伸ばした。
「なあ、カクーク。あんたの綺麗な羽を少しだけ触らせてくれないか?」
カクークはクルリとその場で回ってみせた。どうやら機嫌を直してくれたらしい。
「もちろんだ!きょうだい!」
そう言ってカクークは近場の椅子の背に降り立ち、翼を閉じる。
「それじゃあ、失礼して……。」
リオセスリはそっと、恐る恐るといった様子で指先でカクークの羽毛に触れた。
 桃色の柔らかな羽毛の間に、リオセスリの指先が埋まる。
「おお……これは……。」
リオセスリはそのまま指先を小さく動かしては驚きの声をあげた。その一方、カクークがパタパタと翼を羽ばたかせて目を吊り上げる。
「ちがう!」
そう言ってカクークは、チョンチョンと音がしそうな動作で背もたれを移動し、リオセスリから距離を取る。リオセスリの指が触れていた場所には小さな割れ目ができて毛並みが乱れてしまっていた。
「おっと……何かご機嫌を損ねたみたいだな。」
「なにデタラメいってんだ?」
「違うのか……?」
 そんなやり取りを側で見ていたヌヴィレットが口を開く。見守るだけのつもりだったヌヴィレットだったが、横から助け舟を出すことにしたのだ。
「撫で方が良くないようだ。」
ヌヴィレットの言葉に、リオセスリが振り返る。
「どうすればいいんだ?」
困ったように手を引っ込めたかけたリオセスリに、カクークが素早く近寄った。そしてリオセスリの手に勢いよく体を擦り付ける。ふわふわの羽毛がリオセスリの手のひらにぶつかった。
「クワックワッ!」
「弱い力だとくすぐったいそうだ。」
ヌヴィレットがそう通訳する。カクークはその通りだと言わんばかりにリオセスリの手に体当たりをした。
「こうか?これぐらいならどうだ?」
リオセスリは先程より力を強めてカクークを撫でる。カクークはグリグリとリオセスリの指に嘴を押し付けた。
「さいこーだな!きょうだい!」
満足気に翼を羽ばたかせるカクーク。
「ちょうどいいそうだ。」
ヌヴィレットがまた補足する。
「それは見ればわかる。」
リオセスリは苦笑しながらそう言うと、手のひらを全部使ってカクークの羽毛を堪能し始めた。その横顔は普段よりも表情が柔らかく、ヌヴィレットが見た事のない顔をしている。
「……?」
ヌヴィレットは自分の胸に手を当てた。室内が急に暗くなる。雲が太陽を遮ったようだ。ヌヴィレットはゆっくりと自分の胸を擦った。胸の真ん中をなにかモヤモヤとした感覚が占領している。その正体が分からず、ヌヴィレットは内心で首を傾げながら1人と1匹を見つめた。
 不意にリオセスリが苦笑しながら振り返る。
「ヌヴィレットさん。そんなに見られると穴が開いちまう。あんたも撫でてみるかい?」
ヌヴィレットの視線をどう解釈したのか、リオセスリは1歩引いてヌヴィレットに場所を譲った。ヌヴィレットはカクークに目線を移す。
「カクーク君。私も良いだろうか?」
そう問いかけると、カクークはヌヴィレットを見上げて翼を軽く羽ばたかせた。
「もちろんだ!きょうだい!」
ヌヴィレットは手袋を外し、カクークに手を伸ばした。リオセスリにもふもふされたカクークは、ところどころ毛並みが乱れてしまっている。ヌヴィレットは毛並みを整えるようにカクークを撫でた。艶のある羽毛は、ふわふわと手に心地よい。
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きょむ茶漬け @0-tyazuke.bsky.social · 22/05/2025
「背中だけが知っている」 付き合ってる景ンデ サンデーも子供のような甘え方をする日があるかもしれないという妄想。
ゆらゆらと揺れる夢を見た。サンデーはうっすらと目を開ける。少し高い視界と、誰かの横顔。知らない風景が目の前に広がっていた。ゆっくりと自分の状況を確認するサンデー。
「起きたかい?もう少し寝ていて構わないよ。」
景元の横顔が視界に入ってきた。サンデーの意識が完全に覚醒する。景元が自分を背負って歩いていた。揺れていたのは夢ではなく、現実でも揺られていたのだ。
「景元さん……。」
サンデーは景元に問いかける。
「どういう状況でしょうか……?」
今日は開拓者に頼まれて聖遺物を集めに来ていたはずだ。少し休憩しようということになって水分補給などをしていたところまででサンデーの記憶は途切れている。サンデーの問いに、景元は答えた。
「休憩をして周回に戻ろうかと思ったら、君がうたた寝をしていたんだよ。もう随分周回していたからね。今日は終わりにすることにしたんだ。だけど起こすのも忍びなくてね。他の者には先に帰ってもらって待っていたのだけど、起きる様子はないし、日が暮れそうだったものだから、こうして君を連れて帰ろうとしていたわけさ。」
「そうだったのですね……申し訳ありませんでした。」
そう言ってサンデーは景元にしがみつくように腕に力を込めた。
「こらこら。首がしまってしまうよ。」
苦笑混じりの景元の声。サンデーは景元の首筋に頬を擦り寄せた。
「景元さん……。」「なんだい?」
「本当は降りて歩いた方が良いのはわかっているのですが……もう少しこうしていても……?」
恐る恐るそう伝えると、景元の肩が小さく揺れる。くつくつと小さな笑い声が聞こえてきた。
「景元さん……?」
「いや、すまない。君のことだから、飛び起きて降りると言い張るかと思ったんだ。思いの外、可愛らしい甘え方をしてくるものだから。少し驚いたよ。」
「言われてみればそうですね。ワタシらしくないかもしれません。」
 欠伸を噛み殺し、目を何度も瞬かせるサンデー。その拍子に頭の羽がパタパタと羽ばたいた。
「余程疲れていたようだね。大丈夫かい?」
景元が心配そうにサンデーの様子を伺う。
「大丈夫です……。」
そう言いながら、サンデーは景元の髪に顔を埋めた。
「ただ……あまりに心地よくて……抗えません……。」
眠気と、規則的な揺れと、景元の体温。夕暮れのオレンジ色に照らされて長く伸びた影を、サンデーはぼんやりと眺める。目を閉じたらまた寝てしまいそうだった。
「もう少し寝ていて構わない。君は軽いからね。」
 景元はそう言ってサンデーを背負い直した。その動作があまりにも自然で、サンデーは思わず呟く。
「慣れていますね。」
その言葉に深い意味はなかった。ほんの少し間が空く。「……そうだね。寝てしまった弟子を背負って帰ることもあった。乗り心地は保証するよ。」
景元は普段と変わらぬ口調だった。嫉妬とも取れるサンデーの呟きに、きっと言葉を選んでくれたのだろう。そのお陰か、不思議とサンデーは落胆はしなかった。この背中が自分のもので無いことが、初めからわかっていたからかもしれない。将軍が背負っているものはあまりにも多い。そこに物理的に寄りかかっていることに、ほんの少しの罪悪感が湧き上がる。けれどそれよりも、このままで良いと受け入れられたことが純粋に嬉しかった。
「では遠慮なく……。ふー……。」
脱力したサンデーを、景元は再度背負い直した。
「なんだか、懐かしい感じがします。」
 サンデーがポツリと零す。景元は何も言わなかった。サンデーは続ける。
「不思議ですね。ワタシには、誰かに背負われた記憶はありません。それでも懐かしい感じがするなんて。」
やや間が空いて、景元の声がした。
「それは光栄だな。今後、君が思い出す背は、私の背なのだから。」
その声は穏やかで、優しくて、きっと彼が本当に喜んでいるのだろうとわかる。
「なるほど……。それは良いかもしれませんね。」
そう言ってサンデーは再度、景元を強く抱きしめた。
「苦しいよサンデー。」
景元はきっと困ったように眉尻を落としていることだろう。
 数秒景元を抱きしめた後、サンデーの腕の力は徐々に抜けていった。
「景元さん。すみません……。また眠気が……。」
瞼が重たくてたまらない。
「もう少し寝ておきなさい。列車が近くなったら起こすからね。」
景元の声が遠く感じる。列車組に見られるのは嫌だろうという景元の気遣いが感じられて、サンデーは思わず微笑んだ。
 ゆらゆら揺れる背中の上。夕日は空に色を残すばかりになり、温かいのは景元の背中だけとなった。
(眠ってしまうなんてもったいない。ずっとこの幸せを噛み締めていたい。)
そんな願いが脳裏をよぎる。同時に、この気持ちを、何とか景元に伝えたいという思いがサンデーの中に生まれた。眠気で朦朧とする意識でサンデーは囁く。
「    」
その言葉がどんな形になったのか、サンデーはもはや認識することができなかった。瞼が完全に落ち、思考は真っ白な眠気が占領している。押し寄せる幸福感に身を委ね、サンデーは意識を手放した。
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