おっしゃってくださらないだろうかと祈りつつ、少しだけ、人波のむこうへ視線を寄越した。
職人らしく体幹はあるから細いヒールでも歩けている。しかしおそらく靴擦れをしていて、庇うような歩き方になっていた。もともとスタイルはいいのだから見栄を張らずにパンプス程度にしておけばいいものを。その男の前で無理をしてまで飾る価値を感じない。
「もう飽きたわ。行くわよ」
耳障りな甲高い声に、応えるように腕を差し出す。当たり前のように細い腕が絡んできた。最後に一度だけと振り返ると、目が、合った。
ひどく傷ついた顔を見るのは二度目だった。気の利かない男の腕を無理矢理引っ張り走り出したのをみて、少しだけいい気味だった。