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ハイジロー

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成人 なんでも食べれる人向け FG○ たけちとたなか おだとあけち 倫理ないない気味 アイコン@nikikefu.bsky.social 様

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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 19/09/2026
新ワンドロワンライ お題『口・唇』🦷 歯は口の一部なので……………………(強硬) 坊ちゃまの歯磨きをしてあげてるはずなのに何か下剋上されている絶対にショタコンになりたくないたなかくんです 1.5hくらい #tksn_1h_dw
 小さな小さな、真珠の粒のような歯ならびを、丁寧に丁寧に磨きあげるのは新兵衛の仕事だった。オモチャみたいな歯ブラシに、歯医者で選んだイチゴ味のフッ素入り歯磨きをつけて、一本ずつ漏れのないよう手入れしていく。フロスも用意だけはしてあるが、まだ隙間が広くて出番がない。永久歯に生え変わった時に混雑しないよう、ゆとりを持って生えているらしい。
 坊ちゃまは甘いものが好きだから、虫歯には十分に気をつけねばならない。お年を召して寿命を迎えるその日まで、しっかりと自前の歯でケーキでも羊羹でもおいしく召し上がれるよう、健康な歯をこのお口に残すことが新兵衛の使命である。
 ――――使命であるのだが。
 
「いー、してください」
「いー」
 小学生ともなると、歯磨きを渋ったり逃げ出したりすることもなくなり、毎日の仕上げ磨きは平和なルーティンとして過ぎていく。 新兵衛が口を開けば小さな口もあんぐり開き、新兵衛が歯を噛み合わせて見せれば小さな口もイーッと噛み合わせて見せてくれる。
 虫歯らしき兆候はない。歯茎も健康的なピンク色だ。口内環境については、何も問題はない。
「…………」
 問題があるとすれば、口の外側である。
 始まったのはつい最近だが、毎晩の仕上げ磨きタイムのルーティンになりつつあり、よろしくない。
 新兵衛の開いた口に、あるいは噛み合わせた歯列に、小さな主人が指を這わせるようになってしまったのだ。
「………………」
 手を伸ばして新兵衛の歯を触っている時の坊ちゃまはおとなしく、その手以外はじっとしているので、仕上げ磨きの邪魔になることはない。こちらとしても相手の歯にリアルタイムで手を出しているわけなので、自分ばかり歯に触るなというのも何となく言いづらい。相手の歯に触る権利は相互に持つべきであるような気もしてくる。触る意味は全くわからないが、飽きずに毎晩手が伸びてくるのだ。「はい、あーん」
「あー」
『いー』で歯の表面を撫でられているうちはまだいいのだが、『あーん』は少々怖い。開いた口に指が入ってくると、何かの拍子に噛んでしまわないかと緊張する。新兵衛の歯は全体的に鋭く尖っていて、ちょっと噛んだだけで流血沙汰になってもおかしくないのだ。鮫だか鰐だかのようなこの歯並びを怖がる御子も少なくないので、学校へお供する際はマスクが欠かせない。
 当の坊っちゃまはというと新兵衛の歯並びなんぞ慣れっこで、ぎざぎざの山道を指でたどって遊んでいる。せめて前歯だけにしておいてほしいと思うが、もちろん坊ちゃまにとっては知ったことではない。
「おしまいです。お疲れ様でした」
 仕上げ磨きが終わると、その手を捕まえて下ろさせ、終了を宣言する。相手の歯を触る権利が相互に消失したという宣言である。洗面所へ向かい、小さな主人はうがいをし、新兵衛は歯ブラシをすすぐ。以前ならそれで終わりだったが、歯を触るようになったので手も洗っていただく。 坊ちゃまはきれいになった歯を鏡に映し、角度を変えてしげしげと眺めていた。しばらく眺めた後、鏡越しに新兵衛の顔を見て、問いかけた。
「子どもの歯ってさ、抜けるんだよね?」
「はい、そろそろ抜け始める頃かと」
「抜けたら、大人の歯が生えてくるんだよね?」
「そうです、一生使う歯なので大事にしないと……」
 新兵衛の差し出したタオルで手を拭いて、ついでに口も拭いてから、小さな主人は機嫌良く、歌うように呟いた。
 
「早く田中君みたいな歯になりたいな」

 一般的な永久歯はこんなに尖って生えてくることはないと新兵衛の口から伝えるには、ここから数日の時間を要したという。
010
ハイジロー @phnoch.bsky.social · 17/09/2026
納品された圧縮ファイルがshinchan.zipだったことも、知ってほしい
060
ハイジロー @phnoch.bsky.social · 17/09/2026
たなかくん描いていただきました!!!!なんと、差分もある…🫶 ムチモチで口に含みたいし口の中がズタズタになる トングで威嚇したらトングがバラバラになる かわいいね
0258
ハイジロー @phnoch.bsky.social · 15/08/2026
🎹2/2 オスみエロボイスが刺さってるならそれはショタコンではないのでは? たなかくん良かったね 良くはない
「本日もお疲れ様でした」
後部座席のドアを開け、鞄を受け取る。うん、と返った声色には朝のような掠れはなかった。まだ少し普段のお声と違うような気はするものの、喉の具合は良くなってきたようだ。
運転席に回り込み、体を押し込む。ミラー越しに後部座席の様子を確認し、サイドブレーキを解除しようとした時だった。

「田中君」

聞き覚えのない、しかし何故か猛烈に耳に馴染むやわらかな低音。電流でも流れたかのようにうなじの毛が逆立ち、一瞬、呼吸を忘れた。
思わず振り返ると、シートから身を乗り出した坊ちゃまと至近距離で目が合う。
「びっくりした?」悪戯っぽく笑うお顔は、今朝と変わらない、いつもの坊ちゃまでしかない。
「変声期だったんだ、風邪じゃなくて。それで、ちゃんとした声が出るように練習して。まだ慣れなくて、ちょっと恥ずかしいんだけど」
確かに最近は背も伸びて、華奢だった体付きも少しずつ変わり始めていたかもしれないが、まだまだ可愛い盛りという認識でーーそれなのに声だけが、一足飛びに大人になってしまったみたいに、低くてーーーー
「……田中君?」
ーーーー凄まじい、色気が、
ばちんと自分の頬を引っ叩いたのは理性だったか本能だったか、とにかく新兵衛はどこかに旅立ちかけた魂を引き摺って現実に戻ってきた。目を丸くしている主人から目を逸らしつつ、言葉を探す。お風邪でなくて良かったとか、健康な成長を祝うような気の利いた文句とか、そういうものが出てくれば良かったのだけれど、新兵衛に絞り出せたのは極めて切実な嘆願のみだった。
「ちょっ……と、申し訳ないのですが、安全運転のため、とりあえず御屋敷に着くまでは、一旦、無かったことにさせていただけますか、安全に関わるので」神妙とは言いがたい、新しい玩具を見つけたような顔つきで頷いた主人だったが、屋敷に着いて車を降りるまではきっちりと口をつぐんでいてくれた。
降りた後にこれまたきっちりとツケを回収されたのは言うまでもない。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 15/08/2026
武新ワンドロワンライ お題『声』🎹1/2 中学生になった坊ちゃま、相変わらず絶対にショタコンになりたくないたなかくん、ほんのりゲストの音楽教師サリ先です。 2時間ちょい #tksn_1h_dw
もらいものの目覚まし時計は、今朝も単なる置き時計として静かに針を動かしている。自分にアラーム機能がついていることも、きっともう忘れているだろう。もうあと何年かしたら、自分にも目覚まし時計が必要になる時が来るのだろうか? 全然想像がつかない。少なくとも今のところ、起床のスタイルを変えるつもりは全くない。

カーテンが引っ張られて開く音。夜のふりをして微睡み続けていた部屋が、コップの水が溢れるみたいに朝になる。まぶしくて目をこする。窓から足音が近づいてきて、ベッドの傍に膝をつく。
「おはようございます」
控えめに囁く低い声。薄目の視界に、朝の光を背にした大きな影がうつる。赤い髪に光が透けてきらきらする。いつも通りの朝の景色。いつも通りの午前6時30分。いつも通りに返事を、しようとして、いつも通りにできなかった。
(…………おはよ……)
「……まだ戻りませんね」(元気なんだけどね)
体温計を渡されて、脇に挟む。もちろん熱なんかない。どこもかしこもぴんぴんしているのに、喉だけがここ数日、ずっとこの調子なのだ。声がかすれてうまく出せない。無理に出そうとすると裏返る。風邪の前触れじゃないかと心配されて、生姜湯だのハチミツ大根だのさんざん流し込まれたけれど改善することも崩れることもなく、無駄に体のポカポカする健康体の男子中学生が出来上がっただけだった。
パジャマを脱ぎ、用意されていた制服に袖を通しながら呟く。
(今日は音楽の授業があるから、治ってほしかったな……)
「お休みされますか?」
(しないってば)
田中君は少し過保護なところがある。きっと、自分の体が人並み外れて頑強だったという自覚があるから、普通の子供がどれくらい頑丈なのかよくわからないんだろう。心配されるのは嫌いじゃないけど、あんまり赤ん坊みたいに扱われるのは微妙な気分だ。だってもう、中学生なのだし。身長だってどんどん伸びている。田中君に比べたら、そりゃあ全然小さいんだけど。

「変声期だな」
音楽の時間は、一ヶ月後の合唱コンクールに向けた練習の初回だった。だから休みたくなかったというのもある。そんなに上手じゃないと分かっているが、歌うのは好きだ。クラスが一丸となる感覚も好きだ。
それなのにやっぱり喉がおかしくて、ソプラノのパート練習から引っ張り出されてしまった。ピアノのところに連れて行かれて、喉を覗き込まれ、ピアノの音に合わせてガサガサの声を確認されて、ものの一分ほどで下された診断がそれだった。
(へんせいき……?)
「男子は成長期に声帯の長さが倍近くにまで伸びる。指の長さがある日突然二倍になったら、今まで通りピアノを弾けるか?」
(弾けない、と、思います……)
「そうだな。しかし長い指を使いこなせるようになれば、それまで弾けなかった曲も弾けるようになるだろう。声帯も同じで、新しい喉の使い方さえ身につけば、以前とは違う深い声色を出せるようになる。逆に、これまでと同じ発声法を続けていては喉が潰れる」どうもこの喉の不調は一過性のものではないらしい。否、不調は治せるが、声が元に戻るわけではないということだ。大人の低い声に変わって、子供の声は出なくなるのだ。
「パートはテノールに移りなさい。昼休みに音楽室に来られるか? 喉の使い方を練習してみよう」

判で押したように同じ制服姿の子供らが、わらわらと校門から吐き出されてくる。新兵衛は少し離れたところで待ち、その波が落ち着いてから門へと送迎車を転がす。あまり早くから待ち構えていると無用な怯えを生むからだ。主人の方も心得たもので、あえて遅れて門を出てくるのが常だった。
同じ制服を着ていても、飛び抜けて背が高いわけでなくても、主人のことは遠目にもすぐ分かる。背筋をしゃっきり伸ばして快活な大股でざくざく歩く、そのシルエットだけでも判別できると思う。本日もつつがなくお過ごしのご様子だ。喉風邪の具合だけが心配だが、お熱などは出なかったようだ。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 18/07/2026
🌠2/2 たなかくんの人権は無ければ無いほど良いとされていて…
 うとうとと眠りに戻りたがる頭で、どうにかそこまで考えた時だった。
「――――!」
 ぐり、と右の太ももに、何やら芯を持った感触が押し当てられた。コアラのようにがっぷりと新兵衛にしがみつく可愛らしい生き物の、のびやかな右脚と左脚のちょうど間のあたり――そこにあるものが何かを知らぬはずもなかった。新兵衛とて健康な男子である。勃起機能は子供のうちから備わっているということも、寝ている間にそうなる場合があることも、身をもって学習済みだ。
「んぅ……」
 寝ぼけた吐息が、寝巻きにしているTシャツの胸を湿らせる。ずり、ずり、と腰が動いて、問題の部分が擦り付けられる。
 やはり呑気に添い寝などしていてはいけなかったのだ。多少睡眠不足になろうとも、お部屋で一人で寝ることに無理矢理にでも慣れていただくべきだったのだ。しかし、今ベッドに戻していいものだろうか? 眠りが浅ければ起こしてしまう可能性もある。目が覚めて、自分のやっていることを理解したとき、坊ちゃまはどう思うだろうか? 坊ちゃまの尊厳を傷つけてしまうことだけは避けなければならない。とりあえずこの良くない寝相が収まり、また深い眠りに落ちるまで待つべきではないか。「ン…………」
 押し当てられた新芽の温度が、上がってきた気がする。鼻にかかった息の音に耳をそばだてている自分が気色悪くて仕方ない。違う、これは、眠りの深さを押し測ろうとしているだけだ。誓って不埒な思いからの行為ではない。背中にじっとりと汗が滲んできたのは、暑さのせいだろうか? 布団をかぶっていては坊ちゃまも汗をかいてしまうだろうか? しかし、布団を捲るのには勇気が必要だ。捲ったら、布団の中の行為があらわになってしまう――世界に晒され、確定してしまう――わけで。布団の中でだけのことなら、まだどこか、逃げ道があるような気がして――――
 
「たなか、くん……♡」
 
 熱に浮かされたようなささやき声で、新兵衛の最後の言い訳は完全に破壊された。
 新兵衛は主人を起こしてしまわない可能な限りのスピードでもって寝床を抜け出し、己への戒めとしてその場で片腕立て伏せ二百回を左右交互に実施した。その後、再び深い眠りに吸い込まれて静かになった坊ちゃまを、元のベッドへと速やかに搬送した。
 翌晩からの新兵衛は心を鬼にし自室扉にバリケードを築いて就寝するようになり、小さな主人の夢遊癖は不思議とすぐに治まってくれたという。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 18/07/2026
武新ワンドロワンライ お題『熱』🌠1/2 絶対にショタコンになりたくないたなかくんのギリギリを攻める坊ちゃまです。 2時間くらい  #tksn_1h_dw
病み上がり、という言葉は、どのくらいの期間まで適用されるものなのだろう。坊ちゃまがインフルエンザから回復し、元気に登校するようになって二週間が経つが、これにて全てが元通り……とはいかないらしい。
 顔色は良い。食欲も戻っている。咳もおさまり、鈴を転がすようなボーイソプラノもご健在だ。残る問題はただひとつ――――壊滅的に寝つきが悪くなってしまったことだけだ。
 原因には何となく心当たりがある。お熱で心細くなっていた折、そばにいるよう申し付けられていたのにもかかわらず、坊ちゃまがうつらうつらしている間に雑用を片付けようと部屋を離れてしまった。ほんの数分のことだったが、戻ったときにはすっかり目を覚ましていた坊ちゃまにお叱りを受けたのだった。あの一件が尾を引いているのではなかろうか。ここのところ坊ちゃまは、どうも寝ている間に新兵衛がベッドを離れることを警戒して睡魔に抗っているように思われるのである。
 今夜も小一時間ほどかかってしまった。最近のお休みスタイルは、ベッドの片隅に新兵衛を腰掛けさせ、手をつないで眠るというものだ。指を握る手の力が抜けてきたらそっと離脱する。このタイミングを見誤ると、一からやり直しになってしまう。ベッドから立ち上がるのも一筋縄ではいかない。新兵衛の体重に沈み込んでいたマットレスが一気に浮き上がる振動で起こしてしまう場合もあるから、空気椅子の要領で少しずつ少しずつ尻を浮かしていかなければならない。立ち上がることができたら、抜き足差し足で部屋を出る。
 新兵衛に割り当てられた使用人室は、主人の部屋からさほど離れていない。自室に下がれば、あとは自由時間だ。といっても、特にやることがあるわけでもない。軽く筋トレをして、シャワーを浴び、身の回りの準備が済めば、翌日に備え早々に眠ってしまうのが常だ。
 新兵衛はどこでもすぐに眠れるたちだ。その代わり、異変があれば目が覚める。どういう仕組みか不明だが、地震の揺れが来る数秒前に目を覚ましたこともあった。お部屋を覗いて小さな主人がぐっすり眠っているのを確認し、胸を撫で下ろして自室に戻ったのを覚えている。
 そう、この生来の性分によって、ここのところ新兵衛は決まって日付の変わる頃に睡眠を中断させられていた。
 お休みになってから約三時間。眠りが浅くなってくる時間帯なのだろうか。そのくらいになると、完全に目覚めたわけではないものの新兵衛の気配が周囲にないことを察した坊ちゃまが、半分眠ったままでよろよろと新兵衛の部屋にやってくるようになってしまったのだ。
 初日から数日は、元のベッドに戻して寝かしつけなおした。しかし、戻してもまたしばらくすると同じことの繰り返しになった。お互い寝不足気味になってしまい、そのうち諦めて、夜中に小さな来訪者が狭い布団に潜り込んできてもそのまま放っておくことにした。坊ちゃまがそこで眠りたいのであれば、新兵衛がはみ出して寝ればいいだけだ。翌朝五時ごろ、新兵衛が目を覚ましたらそっとお部屋に戻す。七時前に坊ちゃまが目を覚ますのはご自身のベッドの中だ。
 ご本人は夜中のお散歩のことは全く覚えていないらしい。脳の状態としては夢遊病に近いのだろう。調べた限りでは、子供にはさほど珍しくない、心配いらない症状であるようだった。
 新兵衛の体は適応力が高い。そんな睡眠スタイルを数日も続けると、坊ちゃまが部屋にやってきてもいちいち目が覚めなくなった。半分眠ったまま潜り込んでくる坊ちゃまを、半分眠ったまま受け入れてしまうらしい。五時ごろになって目が覚めると隣に坊ちゃまがすやすや寝ていて、ああ今日も来ていたのかと知るところから一日が始まるのが恒例になってしまった。
 好ましくない状態だとは思う。しかし、新兵衛のセンサーが役立たずになってしまった以上、もはや当初のように都度ベッドへ戻すことも不可能だ。意識もないのに必ず毎晩新兵衛のところへ来てくれる坊ちゃまが可愛いあまりに、真剣に対策を考えることを避けていた面もあったかもしれない。本当に、良くないとは、思っていたのだが――――
 
「…………?」
 
 何日かぶりに、定刻前に目が覚めた。まだ深夜といっていい時間だろう。右隣に坊ちゃまの気配を感じる。今日もいらっしゃったのだ。久しぶりにセンサーが作動して起きられたんだろうか――というか、これは隣というより、上か? 半身が新兵衛に乗り上げかけたような、妙な体勢だ。こんな具合ではさすがに、目が覚めない方がおかしいかもしれない。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 20/06/2026
武新ワンドロワンライ お題『告白』💌1/1 思春期の入り口に立ちたなかくんへの思いも学校での人間関係も複雑化してきた坊ちゃまとやっぱりショタコンになりたくないたなかくんと気の毒なモブ女子のお手紙です。 #tksn_1h_dw
 ランドセルから取り出され、家庭用プリント類と一緒に手渡された薄水色の封筒には、表書きが何もなかった。裏返してみてもやはり一つの文字もなく、ただぷっくりとしたシールで封を施されていた。
 見覚えはない。というか、学校からの配布物には見えない。もちろん坊ちゃまの持ち物でもない。第三者の私物と考えるべきだろう。
「坊ちゃま、こちらは……」
 漢字の書き取りを始めようとしていた右手が止まる。長い睫毛がぱちぱち瞬いて、新兵衛の手元を一瞥する。
「ああ、お手紙」
「お手紙……?」
「読んでくれる? 宿題すませたいから」
 すっかり器用になった指先で、書きかた鉛筆がくるりと回る。かりかりとノートを走る音が響き始める。まるで多忙な経営者とその秘書のようだなと役体もないことを考えながら、封筒の端に指を差し込む。シールの封は呆気なく剥がれ、折り畳まれた便箋が顔を出した。
 
「武市半平太くんへ」
 
 一行目を読み上げ、二行目に目を走らせたところで、少し躊躇いが生まれた。これは明らかに私信だ。字の雰囲気から見て、おそらく子供の。秘書とはいえ――秘書ではないが――宛先本人以外が目を通してしまっていいものだろうか?
「どうした? 続きは?」
 しかし、主人からの要求の前には新兵衛の躊躇いなど何の意味も持たない。たかだか子供の手紙に、プライバシーも何もあったものではないだろう。
 
「……とつぜんのお手紙、ごめんなさい。わたしは同じクラスの女子です。武市くんのことを、かっこいいなと思って、いつも見ています」
 
 名を伏せるところは気に食わないが、なかなか見る目のある女子だ。いや、坊ちゃまの凛々しい佇まい、内から溢れ出る気品、周囲をリードする気質には、子供であっても惹きつけられるのが当然なのだろう。
 
「武市くんは、…………」
  次の行で、再び喉がつっかえた。手紙があまりにも急角度で展開したためだ。子供の作文とはそういうものなのかもしれないが、音読させられる者の身にもなってほしい。眉を寄せる新兵衛に、どうしたのと視線が飛ぶ。
 
「………………好きな人が、いますか?」
 
「いるよ」
 手紙の宛先がこともなげに回答して、また鉛筆をくるりと回した。漢字ノートの升目は半分ほどが埋まろうとしていた。
 
「……もし、いないのなら、明日の放課後、音楽室の前に来てください」
 
「いるってば」
「書いてあるので」
「好きな人がいたらどこに行けばいいの」
「書いてないです」
「なーんだ」
 そう呟くと、よく回る鉛筆はまた仕事に戻った。『祝』『福』の二字が交互に増えていく。きちんと升目に収まる、バランスの良い書き文字だ。
「……読んでから言うのも変ですが、こういう手紙は、あんまり人に読ませるものではないように思いますよ」
「うーん、でも、読んでほしかったし。書いてあるかなって思ったから」
 喋りながらでも右手は止まることなくノートを埋めていく。書き文字は『未』『来』に変わった。
「何がですか」
 便箋を封筒に戻す。シールは粘着力が弱まって、もう封の役を果たせそうになかった。
 
「愛してますって」
 
 でも無かったね、そういうのは手紙には書かないのかも。呟きながらも、手元では一秒ごとに未来が増えていく。言葉の意味を深く考えないよう努めながら、新兵衛は家庭用プリントに目を通し始めた。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 16/05/2026
🌾2/2 カロリー計算をできる貴重なタケチの姿
「おいしい?」
「――――――ッ」
 どんぶりの向こうに、やわらかく微笑む綺麗なお顔があった。新兵衛は危うく米の塊を喉に詰めるところだった。米の味に気を取られて、目の前の監督の存在すら意識の外に置いてしまっていた。緊張で味がわからないかもなどと繊細ぶっていた数分前の自分の尻をバットでしばきたい。
「……っお、おいしいですッ」
「そうか。たしか生産量が少なくてあまり市場に出ない品種らしくてな、気に入ったなら伝えておこう」
「伝え……?」
「各地の後援者の方がいろいろと送ってくださるんだ。一人では捌ききれんから、田中君が来てくれて助かる」
 なるほど、食べたことのない味がするこの米は、武市選手のファンだった米農家が差し入れとして送ってきた珍しい米だったのか。……それは新兵衛が食べてしまっていいものなのだろうか? 監督に食べてもらいたかったのではないのか?
「体を大きくするために一日あたり四,五〇〇キロカロリー、夕食では一,五〇〇キロカロリーが目標だから、そのつもりでな。おかわりしてね」
 監督がそうおっしゃるのであれば、新兵衛は何杯だってありがたくおかわりさせていただくけれども、ほんのり後ろめたい気持ちは残る。新兵衛にできることは、見も知らぬ米農家さんの住んでいそうな方角に向かって『武市監督もにこにこして召し上がってます』と念を送ることだけだった。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 16/05/2026
武新ワンドロワンライ お題『お米』🌾1/2 やきうのたなかくんがお嫁に来た初日の白飯レビューです。 2時間ちょい #tksn_1h_dw
聞いたところによると赤ん坊の頃の新兵衛はベチャベチャの粥が嫌いで、離乳食の段階をすっ飛ばして手掴みで白飯を食っていたらしい。
 気持ちは分からなくもない。十五年が経過した今も、粥は好きでない。食った気がしないからだ――最後に粥を出されたのはずっと前のことだから、もしかしたら今食べれば悪くないのかもしれないが。
 やはり、食事にはしっかりと食べごたえがほしい。主食である米にはその根幹を支えてもらいたい。ガツガツいきたい。ベチャベチャでは困るのだ。
 その代わりというわけではないが、米の品種については何もこだわりがない。コシヒカリ、とか、アキタコマチ、とか、米にもいろいろあるらしいというのは認識しているが、それぞれの味の違いを感じたことはなかった。米は米だ。塩を振れば塩味になるし、醤油をかければ醤油味になる。何と一緒に食っても調和して味を引き出し、単体で食しても十分美味く、腹が膨れる、基本の食べ物。そういうものだと思っていた。
 ――――ここに来るまでは。 
 下宿初日、割り当てられた部屋に荷物を片付け終えるともう夕方だった。鹿児島から高知までは飛行機の直行便がなく、移動だけで一日がかりなのだ。直線距離では遠くても、大阪に飛ぶ方がまだ早く着くだろう。甲子園に行くときは飛行機なんだろうか? 新兵衛はまだ飛行機に乗ったことがなかった。
 部屋を出ると、何やら香ばしい匂いが鼻をくすぐった。ドタバタしないよう少し足の裏を緊張させながら廊下を行くと、すぐに匂いの発生源にたどり着く。キッチンで何か――おそらく牛肉――が焼かれている真っ最中だった。コンロの前に立っているのは当然、この家の主、武市監督その人だ。
「お料理されるんですか?」
 新兵衛は少し動揺した。生家では台所といえば女の場所で、炊事は男の仕事ではなかった。親戚が集まった時でもそうだった。家庭科の調理実習は男女混合でやったし、男が台所に立ってはいけないわけではないと頭では分かっている。そもそも、この家には女はいないのだ。
「少しだけね。お家の味とは違うだろうが、慣れてくれ」
 視線が一瞬、新兵衛を捉え、フライパンへと戻る。エプロンをしている。あの武市監督が、ずっと憧れだった武市選手が、これから三年間みっちり野球を教えてくれるというだけでも夢みたいなことなのに、なぜだか今はキッチンでエプロンを着けて肉を焼いている。誰のために? 新兵衛のために……?
「そんな、監督にご飯を用意していただくなんて……お手伝いしますッ」
「いや、手を怪我すると困るから、こっちはいい。テーブルを拭いてくれるか?」
 五歳児でもできそうなミッションを命じられ、情けなさと申し訳なさに消え入りそうになりながら食卓を拭き上げる。出来上がったおかずを運んで並べる。せめて仕上がりで高校生相当なところを見せたかったが、高校生らしい配膳というのがどういうものなのかは新兵衛にも判然としなかった。
「いただきます」
「いただきますっ!!」
 あれよあれよという間に、夕餉の時間が始まった。監督と向かい合って二人で食卓に着く形になる。何を言えばいいだろうか。行儀の悪いところを見せてしまわないだろうか。そういえば箸の持ち方が上手くないのだった、ボールの投げ方、バットの振り方のほうが大事だからと後回しにしているうちに癖がついてしまったのだ。少しくらい練習しておけば良かった。この分では緊張でろくに喉を通らない――なんてことはないだろうが、味も分からないかもしれん。この際それでもいい。とにかく何か口に入れよう、と半ば無意識に新兵衛が選んだ最初の一口は、どんぶりいっぱいによそわれた白飯だった。
「…………」
 米の粒がしっかりとしている。硬めの炊き上がりだ。頬張った第一印象ではそう思った。しかし噛んでみるとじゅわっとした感じがあり、水分が少ないわけではないと分かる。何より、その『じゅわっ』に味がある。米の甘みはもちろん、謎のうまみもある。
「…………?」
 咀嚼しきる前に、もう一口運ぶ。新兵衛が今まで食ってきた米と違う。明らかに違う。米なんて全部同じだと思っていたのに、なんだこれ? 思わず口いっぱいに詰め込んだときにはもう、箸の持ち方のことなんて頭から吹っ飛んでいた。ただこの新しい米の味を思いきり掻き込みたい一心だった。そうだ、白飯単体でもいけるが、おかずと一緒に食べても美味いはずだ。厚切りの肉に箸を伸ばす。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 12/05/2026
主に結婚披露宴の演出の一つとして登場するのであろう出生時の体重と同じ重さの米を両親にプレゼントする体重米とかいうやつの話なんですが、たなかくんの体重米をタケチに贈呈したらめちゃくちゃ興奮してくれそうじゃないですか?(?)
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 18/04/2026
🍓2/2 何もしてないのに一般人に怯えられるたなかくんからしか取れない栄養があるって先生も言ってました。
「……スースーしないのは」
「す、」
 デカ客、スースーするリップが嫌なのか。こんなに大きいのに。
「スースーするのはメントール入りの商品なので、これとか、このシリーズですね……他は多分大丈夫だと思いますが、唇の状態によってはうっすら感じるのもあるかも……あっ、このへんの甘い系の香り付きリップ……を、もし嫌じゃなければ、その、選んでいただくと……確実、かと…………」
 言ってる途中で視線の先のハチミツの香りのリップフォンデュをデカ客が塗っている姿を想像して腰が砕けてしまった。なんて舐め腐った命知らずな提案をしてしまったんだ。こんな屈強な殿方があまあまぷるつやハチミツリップなんか塗るわけないのに。
 でかい手がゆらりと持ち上がる。リップクリーム二、三本に相当しそうな太さの指が、陳列されたリップたちに触れる。魅惑のリッチハニーフレーバーですみません。隣も乙女のミルクバニラですみません。その隣は新発売の夏季限定サンシャインココナッツピーチで本当にふざけてないです助けて。殺さないで。そんでもって端っこは、「…………」
 デカ客は中腰からのそりと身を起こし、天井の存在を強く感じさせる最初の立ち姿に戻った。手の中に収まったリップクリームのパッケージをちんまりと裏返し、目を眇めて確認すると、それを持ったままずかずかと歩き出した。ゴジラの去った後の街に佇む住民のように呆然と見送ってしまったが、はっと我に返って駆け足で追う。ゴジラの向かう先が無人のレジだったので。
 
「テープでよろしかったですか?」
「は、…………いや、袋で」
 切りかけていたテープを寸止めして、小さいサイズのレジ袋を取る。小さいといったって、リップクリームひとつのお買い上げに対してはちょっと過剰なサイズだ。リップなんてそこで開封してポケットに入れていきゃいいだけなのに。 春季限定・胸キュン完熟いちごフレーバーのピンク色がでかい拳からぶら下がるSサイズの袋の中にうっすら透けて、黒スーツのイカつい大男に全く調和していなくて、でもなんかもうそんなことはどうでも良かった。帰ってくれるんだから。もう何も恐れることはないのだから。
「ありがとうございましたー」
 いちご、好きなんだろうか。あんな大きいのに。
 プロテインもいちご味のを飲んでるのかもしれない。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 18/04/2026
武新ワンドロワンライ お題『いちご』🍓1/2 夢ドラッグストア店員が只者でないオーラを放つクソデカ来店客に怯える話です。坊ちゃまを学校にお送りした後のフリータイムのたなかくんです。 2時間ちょい #tksn_1h_dw
古くからのお宅も多い、閑静な住宅街。これまた古くから続く、由緒正しき私立のエスカレーター式一貫校がゆったりとした領土を広げている。
 頑丈そうな鉄の門を毎朝くぐっていく制服姿の男の子たちは、目が合うと大きな声でごあいさつしてくれたりして、私の記憶の中のかつての同級生たちより幾分おりこうなご様子だ。あんな山猿みたいな男子どもとは、比べることすら失礼なのかもしれないが。サスペンダーで吊ったネイビーの膝丈パンツと白いソックスを爽やかにはきこなす彼らの偏差値を、私は知らない――あの制服、小さいうちは皆可愛いが、高学年になってくるとちょっと厳しいビジュアルの子もいて、気の毒ではある。膝周りがゴツくなってきたら長ズボンをはかせてあげてほしい。
 このドラッグストアにやってくるのは、おそらく近隣住民とあの学校の関係者ばかりなのだろう。立地に恵まれているおかげで治安が良い。認知症のおばあちゃん、泣いてる迷子、巣から落ちたツバメの雛なんかを保護することはたまにあれど、セクハラジジイとかモンスタークレーマーとか万引きとかそういう勤労意欲を削ってくる系クソ客との遭遇率はゼロに近い。ゆるく働きたい私にはありがたい、のどかな職場だ。もう民度の低い店舗には絶対に戻りたくない。 ――――しかし本日開店一番、我が愛すべき平和な職場に現れたのは、閑静な住宅街に馴染まぬイカつい赤髪に黒マスク黒スーツの大男だった。
 
「ッ……しゃいま、せー……」
 ヒェ、と鳴りかけた喉をどうにか引き絞って消音し、絶対届いてない無意味な音量のいらっしゃいませを押し出した。でかすぎる。存在の圧が強すぎる。コワモテってこういうのを言うんだきっと、なんか湯気が出てる、出てないけど。何の人? プロレスラーとか、そういうの? なんで? この街にいていい人材ではなくないか? いや私も住民ではないのですけれど。
 月曜の立ち上げシフトは私と、パート薬剤師の谷田さんだけだ。だめだ、二人がかりでも絶対勝てない。何かあったらレジは諦めて逃げるしかない。人命優先……いやいや、まだ何も、悪い人だと決まったわけではないんだから。たまたま買い物に来たプロレスラーって可能性の方が高いんだから。てかプロレスラーってあんなスーツ着てることあるのかな。特注? 本当に何……? 距離をとりつつ品出しのポーズをしながら様子を伺っていると、でかすぎる客はプロテインコーナーでもサポーター&テーピングコーナーでもなく、意外にも化粧品のエリアへと進んでいった。するのか? メイクを? プロレスってそういう感じだっけ? そうかも……? いや、違ったみたいだ。東京湾に上陸し辺りの街並みを見下ろすゴジラみたいな首の角度で陳列棚を見回してすぐに引き返してきた。急いで目を逸らし、品出しに集中しているフリをする。見てません何も見てません。何も考えてません。
 
「あの」
 
 降ってきた低音に心臓が飛び上がる。でかすぎる客、声量は普通だった。
「ひゃいッ……!?」
 返事が裏返る。笑顔笑顔笑顔笑顔をつくらないと。顔の位置が高すぎて遠い。しばらく会話したら首が痛くなる予感がする。
「…………リップクリーム」
「リップクリーム! ですね! ご案内します!」 何も考えなくても条件反射で接客構文が出てくる。日頃の経験に感謝。床を踏んでる感覚があやふやでも、ちゃんと売り場にはたどり着く。私の足で二歩のところを、でかすぎる客は一歩でついてくる。
「こちらに、なりますゥ」
 リップクリームのコーナーは化粧品エリアの手前、オーラルケアとの境目だ。見落とされがち。見落として進んでいたことに気づいたのか、デカ客の眉がかすかに寄った。怖い。表情の下半分がマスクで隠れてて見えないのも怖い。
 申し訳ないことに什器の高さがお客様のデカさにマッチしておらず、デカ客は中腰になってリップを物色し始めた。私は品出しに戻っていいんだろうか? してなかったけど。てか、デカすぎる人が一人中腰になるだけでこの通路って通れなくなるんだ、知らなかった。カート二台すれ違えるのに。
「あの」
「ひァッいっ」
 デカ客がまた声を出した。声は今度は降ってこなくて、耳と同じ高さで聞こえた。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 04/04/2026
#ぐだぐだ鯖二次創作春の再放送祭 初めて書いた武新を見てください 胸を張って治安が悪い注意喚起をします 実在の薩摩とは関係ありません
 ぬう、と唐突に差し出されたのはあまりに広々とした両の手のひらだった。
 思索に没頭していた瑞山は面食らって顔を上げた。小山のような体躯を折り畳み、頭を低くして――といっても、瑞山の目の高さに旋毛が見えているのだが――左右の手をこちらに差し向けているのは、先ごろ盃を交わしたばかりの義弟である。
 何か、また上の空で、飴でもやろうなどと口走ったろうか。十本の指を隙間なく揃えた逞しい両掌は、皿というより金盥のようだ。刀を折らんばかりに握り締め振り回すうち、幾度となく破れては回復することを繰り返して育ったのだろう厚く固い皮膚。指の付け根は特にごつごつと角質化して盛り上がっている。剣だこの類は瑞山の手にも勿論あるが――示現流の使い手というのは、皆このような凄まじい掌をしているものなのだろうか。
 生憎と、菓子の持ち合わせはない。手の中には愛用の煙管があるばかりだ。火皿では吸殻がまだふすふすと燻っている。そうだ、菓子をやるなどと言ったのではない。自分は灰吹と言ったのだ。考え事をしながら一服呑み終えて、吸殻を落とそうと、煙草盆の灰吹を取ってくれというつもりで言ったのだ。
「すまない、灰吹と言ったんだ」
「はい」
 金盥は引き下がらない。どこかに齟齬が生じているようだ。瑞山は身を乗り出して、小山の脇の煙草盆から灰吹を取り上げた。このくらい初めから自分で取れば良かったのだ。どうもぼんやりしていると己の手足と他人の手足の区別もつけられなくなってしまって、いけない。
「これのことだ」
 小山のような男はようやく顔を上げた。義兄の手の中を見て、義兄の顔を見て、再び手の中に視線を戻した。眺めている間に、血色の良い頬にじわりと朱が差した。
「……失礼しました」
「いや、いい。薩摩の方では、灰吹とは言わないのか」
 義弟は京に出てまだ日が浅い。よく合わせて喋ってくれているが、まれに言葉の通じないこともある。薩摩は煙草の産地でもあるから、道具の呼び方も違っていて当然かもしれない。 金盥は引き下がり、今は厚い膝の上で一対の兄弟岩のように行儀よく拳を並べていた。握り込まれた袴に皺が寄っていた。悪いことをしたな、と少し後悔した。恥をかかせてしまった。そのようなつもりは毛頭なかったのだが、彼と話す時はもう少し気をつけなければ。
 ふたつの兄弟岩が同時に、ぐ、と固さを増した。微かに震える声が、低く細々と絞り出された。
 
「……おいの郷中では、年長者に灰吹と言われれば、掌で受けるものでしたので」
 
 予想外の答えに、数秒、呆気に取られてしまう。
 郷中という仕組みについては聞いたことがあった。薩摩に特有の、武家の男児を地区ごとに集め、若者が年長児を、年長児が年少児を朝に晩に指導するという縦の教育制度。幼少からそうして過ごすことで心身共に鋼の如く鍛えられ、また内の結び付きが異様なまでに強く育つ、薩摩者の手強さの根幹を支える要素であると。しかし、――「なので、つい……その、ですが、もう、覚えました。もう間違いません。不作法をお目にかけました」
 ――まだ柔く小さかったころのあの手に、焼けた灰を落とした者があったのだろうか。
「……いや、私も悪かった。そう畏まらないでほしい」
「そんな、……いえ、はい」
 そうであるなら――――。
 固く握られた拳から、顔は動かさず視線だけを上げる。義弟はすっかり柿の実のような頬をして、呼吸すら止めんばかりに唇を引き結んでいた。虎が如きと評された鋭い眼は、拳へ落とすでも義兄を見返すでもなく、瑞山の右手の先、冷え始めた煙管の火皿を見つめていた。
 そうであるなら、義兄である自分がそれをしないというのも、またおかしな話ではなかろうか。
 左手の灰吹が、何やらひどくかさかさとして軽かった。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 03/04/2026
#260404ぐだぐだ鯖WEBオンリーに参加します 時間がなくてお品書きもサークルカットもないけど新作展示だけあります! スペースも全然変える余裕なかったけど旗が立っていて助かりました ありがとうございます😭
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 21/03/2026
🚗2/2 登場するパフェにはモデルがあります 現実で生徒1人しか連れて行かずにこれ注文したらパワハラに該当すると思われるので真似をしないでください central-hld.jp/cats-cafe/me...
荷物を積み込んだミニバンは坂を下り、ナビに従って走っていく。新兵衛は助手席に体を詰め込んで、監督の運転に身を委ねている。
 以蔵に言ったことは大袈裟でも何でもなく、会話は特にない。ただカーラジオから流れる女の声が、意味を持つことなく右耳から左耳へと抜けていくばかりだ。
 気まずうないがか、と問われれば、気まずくないわけがない。せっかく他所との練習試合を組んでいただき、希望のポジションでないとはいえプレーの機会をいただいたのだから、本来なら新兵衛の方から感想なり反省なり提出すべきなのだろう。しかし、試合のことを振り返ろうとすればするほど、腹の内からは『投げたかった』という怨念ばかりがどろどろと迫り上がってくるのだった。
 公式戦でもなく、練習試合だったのに。それもダブルヘッダーで、二試合目は相手も補欠をどんどん出していたのに。だったら、新兵衛だって投げても良いのではないか。以蔵にばかり投げさせる必要もなかった。もっと体を大きくするために、負荷のかかる投手としての出場は当面させない、という監督の決めた方針を頭では理解しているのに――いざ試合となると、新兵衛が本当はどんなに投げられるか、どれほど打者の屍を積み上げられるか、監督に見てもらいたいと思ってしまう。そんな女々しい恨み言を口走るくらいなら、気まずかろうと何だろうと、窓の外を眺めるふりをして黙りこくっていた方がずっとマシだ。だから結局、新兵衛は唇を引き結び、助手席の窓に流れる景色を睨みつけて密室に流れる時間をやり過ごしていた。監督は監督で、今日の試合から今後についていろいろと考える必要があるのだろうし、という言い訳も頭の隅にはあった。ああ、でも、監督が見た今日の試合では、自分は投げていないのだ――――。拳の内側に爪が刺さって、無意識に固く握り締めていたことに気づいたのとほぼ同時、ラジオと違う落ち着いた低音が右耳に届いた。
 
「腹が減ってないか?」
 
 想定していなかった角度からの問いかけに面食らう。言われてみれば、減っている――この腹は二十四時間年中無休で減っているといっても過言ではないが――ような気もする。午後は試合の後にプロテインを飲んだきりだし。しかし新兵衛の頭が会話に追いつくより先に、監督はナビを無視して右折していた。「おやつ食べて帰ろう」
 ルートを再検索しています、と健気に訴えるナビの表示などどこ吹く風で、監督は自信満々にハンドルを切る。ご褒美にぴったりの店があるんだと悪戯っぽく笑う。
「ごほうび……」
「きっちり仕事してくれたろう。今日の打点トップじゃないか」
 そうだったのか。投げたいばかりで、打撃のことを考えていなかった。しかしいくら稼いだところで、その点は以蔵を勝利投手にするために貢いでしまったようなものでもある。そう思うと素直に喜べなかった。
「…………」
 再提案のルートを再び無視して、知らない駐車場に入り込む。助手席の新兵衛は体をできるだけ縮こまらせて、バック駐車の邪魔にならないようにする。降りての誘導は万が一があるといけないからと禁止されているのだ。「それに、何より」
 運転お疲れ様でした、と新兵衛の代わりにナビが言う。監督が言葉を切ったので、シートベルトを外していいのかどうか計りかねて新兵衛の手も止まる。ちらりと運転席の様子を伺うと、ちらりとこちらへ寄越された視線とぶつかってしまう。至近距離で絡め取られて、目が離せなくなってしまう。
 
「――投げたくて投げたくて仕方ないのに、私を信じて我慢してくれてるんだものな」
 
 芸術品みたいな指がボタンを押して、シートベルトの締め付けが消失した。
 そのカフェで供された、ガラス製のバケツみたいな謎の巨大容器に盛り付けられたパフェの味を、新兵衛はよく覚えていない。皆には内緒でな、と言われたことだけはしっかり覚えているから、どのみち誰にもレビューすることはないのだけれど。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 21/03/2026
武新ワンドロワンライ お題『ドライブ』🚗1/2 やきうのたなかくんとタケチ監督です! 青少年の曇らせ、ギリ未成年者略取にカウントされてもおかしくないドライブ、曇らせ用当て馬(?)の岡田などが含まれます。 細切れ2hくらい #tksn_1h_dw
「明日の朝練はメニューB、水曜から定期考査前の部活禁止期間に入るから月火は追い込むぞ。帰り道の買い食いは止めないがゴミは必ず持ち帰るように。部のジャージを着ている間は品行方正でな。では、解散」
「あざしたー!!」
 帽子を取って礼をする。隣市での練習試合二セットを終え、土佐勤王高校野球部の本日の活動は終了となった。部員は各自、バスなり自転車なり親の送迎なりで帰宅することになる。
 練習球のカゴ、ヘルメット、プロテクター、その他予備の用具。クーラーボックス。救急セットやらスコアブックやらストップウォッチやら雑多に放り込まれたもう一つのカゴ。それらは全て監督が学校に持ち帰ることになっている。新兵衛の感覚では、そんな雑用は部員がやることだろうと思うのだが、監督の考えは違うらしい。大荷物を運ぶには車の方が効率的だろう、父兄に頼むようなことでもないし、遠征先からはまっすぐ帰って体を休めたほうがいいから、と言って全部引き受けてしまうのだ。監督がそうおっしゃるのなら、新兵衛には是も非もない。せめて車への積み下ろしくらいは監督の手を煩わせず、自分たちでやるだけだ。監督の愛車は黒のミニバンである。形は実家の車と似ているが、後部座席はほぼ常時たたまれて荷物用スペースと化していて、少し砂っぽい。朝から晩まで野球漬けで育った新兵衛には車のことはよくわからんが、何というかもっとこう、シュッとした車の方が監督に似合うのではないかと思う。野球部の荷物を運ぶという機能一点突破でこの車を選んだのであろうことは想像に難くないし、その判断に口をはさむつもりもないのだけれど――自家用車という私生活に大きく食い込むアイテムにまで、私人としてでなく野球部監督としての選択を優先していることが、なんとなく新兵衛には引っかかるのかもしれない。申し訳ないというか。もったいないというか。うまく言えない。
「以蔵、ちゃんと砂を払ってから……」
「うるさいにゃあ、とうに手遅れじゃ武市の車は。用具倉庫にタイヤがついちゅうだけやき」
「失礼なことを言うなっ」
 以蔵が持ち込んだ砂を社外へ掃き出す。この馬鹿は監督に対してひどく馴れ馴れしい。小学生の頃に所属していた地元のクラブチームに、武市監督――当時は選手だが――がOBとしてよく出入りしていたというだけなのに。「新兵衛もこいつに乗ってくがじゃろ」
「そうだが」
「二、三十分はあるろう。何を話すがよ」
「……別に、何も」
「何も!? 気まずうないがか、二人っきりで」
「…………別に」
 荷物は全て積み終えた。バックドアを下ろし、預かったスマートキーで施錠する。ランプがちかちか点滅する。
「あ、これ積むの忘れちょった。アイシング」
 以蔵が肩のアイシングサポーターを外し始める。閉めたところで思い出すのがこいつの頭の悪さだ。というかそもそもこいつ、二試合目で投げてついさっき冷やし始めたばかりなのだから、まだ外す時間でもないはずだ。
「そのまま帰ればいいだろう。明日持ってくれば」
「こんなが着けて歩きよったら恥ずかしいろう」
「…………」新兵衛の言うことなんぞどこ吹く風でサポーターをべりべり剥がした以蔵は、風通しのよくなった肩をぐるぐる回しながらグラウンドへと戻っていった。ものの数分で役目を強制終了されたアイシングサポーターは、新兵衛の手の中で未練がましくひんやりとして、うっすらと汗をかいていた。油性ペンで書かれた『勤王野球部』の文字が、少しかすれてきている。
 新兵衛はまだ、このサポーターを巻いたことがない。
 
 ◆
 
 地元では、新兵衛より大きな子供はいなかった。体の大きな子供は何のスポーツでも有利だ。チーム競技であれば、チームの勝率を上げるため、勝敗の決め手となるポジションを任されることが多い。野球でいえばそれは当然、ピッチャーだった。
 もちろん高校でも新兵衛は投げ続けるつもりだった。辞める理由がなかった。憧れの武市監督に投球指導をしていただけると思っていた。同じ一年生の中では、他より体も大きかったし球も走っていた。しかし監督の判断は違っていた。入学してからずっと、新兵衛のポジションは外野手に固定されている――同じ一年生でも、あの以蔵は投手として試合で使ってもらっているのに。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 21/02/2026
🪡2/2 たなかくんは計5回指を刺したが全部気合いの圧迫止血で止めたので絆創膏は貼っていません
 だいたい、褌といってもただひたすらに細長い長方形の布でしかなく、ゴムも紐もついていない。これをどうやって身に着けるというのだろう。小学生にできるものなのか? ほどけてしまったりしないのか? スマホを取り出し、筋トレ動画のサジェストで埋め尽くされているアプリを起動する。褌、締め方、検索(なお、これまでの男体ばかりの視聴履歴に加えてこの検索行動が決め手となり新兵衛の動画アカウントのサジェストはしばらくの間ゲイ向けにチューニングされることになるが、本人がそれに気づくことはなかった)。
 
 ◆
 
「田中君、目が赤くない?」
 朝食を食べ終わり、ミルクココアを飲み干した小さな主人がそう問いかけた時、新兵衛はその口をナプキンで拭いているところだった。
「……そうですか? 特に何もありませんが」
 寝不足だった。締め方の動画など検索してしまったばかりに変に想像が膨らんで作業が手につかず、その場で腕立て伏せをしたりスクワットをしたり、そんな場合ではないと無理やり裁縫に戻ってまた指に針を刺したり、いつの間にやら曲がっていた縫い目を解いて縫い直したりしているうち時間ばかりが過ぎてゆき、あの忌まわしい四辺を縫い終わる頃には空が白み始めていたのである。
「もしかして、大変だった? ふんどし……」
「! いえ、そのようなことは、全く」
「えっ、じゃあ、できた?」
 長い睫毛にふちどられた瞳がきらきら輝く。そんなにきらきらされると胸が痛い。徹夜の原因は作業そのものというより、新兵衛自身の至らなさによるものだったのだから。
「こちらに……」
 四辺を縫い付け、アイロンをかけてたたみ直した赤褌をそろりと差し出す。きらきらのお顔がさらに明るくなる。
「田中君が縫ってくれたんだね?」
「不慣れゆえ、粗があるかもしれませんが……」
「そんなことないよ。ありがとう」 少し不揃いな赤い縫い目を指でなぞりながら、小さな主人は嬉しそうに、新兵衛一人に向けるにはもったいないくらいに愛らしく微笑んだ。その笑顔に報いなくては、せめて何か気の利いたお返事をしなくてはと思うのだけれど、ただでさえ回らない頭は寝不足ですっかり職務を放棄し、口からは何も出てこない。貴方のためなら何だってできると、思っているのに。
 
「一人で締められるようになったら、田中君にも見せてあげるね」
 
 ――――とりあえず新兵衛が今この瞬間やるべきことは、気つけのためにコーヒーのおかわりをもらうことなのかもしれない。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 21/02/2026
武新ワンドロワンライ お題『ふんどし』🪡1/2 絶対にショタコンになりたくないたなかくんと、ショタコンへの理解がない小学校に通う坊ちゃまの話です 細切れ2hくらい #tksn_1h_dw
「田中君って、お裁縫はできる?」
 藪から棒の質問が発せられたのは、お迎えの車内でのことだった。このタイミングでの藪から棒は、学校で必要な持ち物に関することだろう。小学校生活も四年目ともなると――新兵衛自身が小学校生活を送っているわけではないが、小学校に通う主人に付き添う生活をしていると――このくらいのことは掴めてくる。
 簡単な裁縫セットは持っている。何かの拍子にシャツのボタンが飛ぶことはちょくちょくあるから、いちいち修繕に出したりしていられず、自分で付け直すのだ。
「ボタンくらいは付けられますが」
「布を縫うのは?」
 本格的な縫い物となると、経験が乏しい。脇や尻が裂けた時は、さすがに自分で繕うことはしなかった。外から見て分からないよう上手いこと縫える自信がなかったからだ。私服なら見た目はどうでもいいが、仕事用のスーツではそういうわけにもいかない。
「そういうのは、家政婦にやらせた方が」「えー……それは恥ずかしいな」
 恥ずかしい? 家政婦相手に恥も何もなかろう、というのが新兵衛の感覚だが、坊ちゃまも成長していろいろと考えるようになられ、何か思うところがあるということだろうか? 家政婦にやらせるのは恥ずかしく、新兵衛にやらせるのは恥ずかしくないのか? 心を許されていると喜べばいいのか、それは自分の仕事ではないときっぱりお伝えした方がいいのか――――。
 答えが出るより先に車は屋敷に到着し、体が勝手に動いて後部座席のドアを開ける。見慣れない色が目に入る。小さな主人が膝に抱えているのは、真っ赤な手拭いのような――それにしてはずいぶんと長さのありそうな、布だった。
「これの端っこをぐるっと縫ってほしいんだけど」
 このままだと、糸が出てきてほつれちゃうんだって。長い布を持ち上げて見せながらそう説明する声色はもう完全に目の前の男にこの赤布を縫わせると決めている温度で、そういう時の坊ちゃまには何を言っても覆らないということを新兵衛はよくよく理解していた。立体構造とかでなく、ただ四辺を直線で縫い上げるだけなら、まあなんとかなるだろう。赤い糸を使えば縫い目が目立たないだろうか。そもそもこれは何に使う布なのだろう。あまりにも赤い。運動会の、紅組の襷か何かだろうか?「これ、何の布ですか?」
「これ? ふんどし」
 
 ◆
 
 坊ちゃまの通う私立小学校は古くからの歴史を重んじる伝統校で、校舎は建て直して綺麗にしているものの、制服やら行事やらの端々にレトロさを感じさせるところはあった。坊ちゃまの説明によると(そして渡された学年通信のプリントによると)、そのレトロな行事の一環として五年生は臨海学校で遠泳をやるのだという。海中で見失いにくく、いざという時に引き上げて助けやすいよう、全員が古式ゆかしい赤褌スタイルで泳ぐのだそうだ。四年生からは慣らしのために学校でのプール学習も褌に切り替えるから各家庭で準備をせよと、ご丁寧に縫い方の図面まで印刷されている――毎年コピーを繰り返してきたのだろう、細部の手書き文字などは薄れてほとんど見えないが。 確かにこれは、家政婦に頼むのは恥ずかしいかもしれない。頼めばもちろん二つ返事で縫ってくれるだろうが、その手前で一旦『この赤布を褌として身に着けた坊ちゃま』を思い浮かべられてしまうことは想像に難くない。新兵衛だって、これは褌だよと言われた瞬間――
「――痛ッ」
 指先へ針を刺してしまった。胡麻粒ほどの血玉がぷくりと盛り上がるのを、反射的に口に入れる。ぼんやりして手元を疎かにするとは情けない。慣れぬ作業とはいえ、だからこそ集中して丁寧に仕上げねばならんというのに。
 他のお宅では誰が縫っているのだろう。使用人を置かない家なら母親だろうか? 縫い物は大抵、女の方が手慣れているものだ。坊ちゃまの褌がクラスで一番下手くそだったなどという汚名だけは避けねばならない――が、はたして褌をまじまじと見比べあったりするものだろうか? どんな具合に運用されるのだろう。新兵衛の母校には褌の伝統がなかったから分からない。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 17/02/2026
ハアハア…しょたなかくん…絵の具セットどれにする…? どれがカッコイイと思う…? おしえて…
100
ハイジロー @phnoch.bsky.social · 08/02/2026
猫のヒゲは敏感なセンサーで…みたいな話、全部ウソかも
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 02/02/2026
眉毛もパーマかけてた 過激
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 18/01/2026
武新ワンドロワンライ お題『初めて・始まり』🐎 午年なのでお馬を習い始めた坊ちゃまとショタコンになりたくないたなかくんの話です 坊ちゃまは大きい動物が好きなので馬も好き 1.5hくらい #tksn_1h_dw
御入学からしばらく経ち、小学校での生活にも慣れてきたころ、坊ちゃまの習い事がひとつ増えた。新兵衛が小さかった頃には聞いたこともなかったが、乗馬というのは小学生が習うこともできるらしい。習字だのそろばんだのとは違い、近所の教室に各々歩いて集合というわけにはいかず、馬場まで車での送迎が必須だ。必然、新兵衛が送迎をすることになる――たとえ徒歩圏内の教室であろうと、新兵衛が送迎に張り付くことは変わりないのだが。
 初回のレッスンを終えた坊ちゃまは興奮しながらもお疲れの様子で、馬が大きかった、格好良かった、というような感想を最大限の語彙で新兵衛に言い聞かせながら後部座席のジュニアシートでうつらうつらと眠り込んでしまった。お屋敷に着いても眠たそうなご様子なので、抱き上げて運ぶことにする。座席の下から回収した小さなお靴には、馬場の土がついていた。
 今夜は早めにお休みになるだろうという新兵衛の予想を裏切り、坊ちゃまは夕食を摂ると元気を取り戻した。小学生になって体力がついてきたようで、喜ばしいことだ。デザートまでしっかり召し上がり、歯磨きを済ませた坊ちゃまは、眠気など微塵も感じていないシャッキリとしたお顔で言い放った。「田中君、お馬になって」
 
 ――――お馬に。
 新兵衛は人間である。馬になることはできない。が、おそらく求められているのはこういうことだろうかという察しはついた。ジャケットを脱いで床に膝をつき、四つん這いになる。
「こうですか」
「そう!」
 嬉しげな声とともに、背中によじ登られる。細いふくらはぎが左右の脇腹あたりにぶら下がる。肩甲骨の下に小さな手の感触。いわゆるお馬さんごっこの体勢だ。
「お馬って、歩くと揺れるんだよ」
 知ってた? という問いかけに、知りませんでしたと素直に答える。乗馬の経験などあるわけがない。新兵衛のような大荷物を乗せられては馬も災難だ。
「だからね、揺れても落ちないように、家でも練習したいんだ」素晴らしき向上心。馬場に行かない日も自主練習を積みたいとは。まだほんの六つなのに、あまりにもご立派なお心ではないか。
「だから田中君、揺らして」
 そんな坊ちゃまのためなら、新兵衛はあらゆる協力を惜しまない。とはいえ、馬の揺れ方なんて想像がつかない。一旦、その場で軽く左右に揺れてみる。
「横向きじゃなくて縦向きがいい」
 縦、というと前後だろうか。揺れの方向を変える。
「もっと揺れて」
 大丈夫だろうか。少し不安になりつつ、動きを大きくする。万が一にも落っこちたら困る。ヘルメットもサポーターも着けていないし。
「もっと!」
「しかし、落ちてしまうと危ないので……」
「お馬はそんなこと言わないよ」
 細い脚がきゅうっと脇腹を締める。内腿の感触がやわらかい。急かされるままに腰を振る。背の上で、ふわふわしたものが懸命にバランスを取っているのが分かる。「っそう、じょうずっ、」
 楽しげな声が跳ねる。心臓が活発に動いて全身に血液を送る。上下の動きも加えてみる。脇腹に絡む脚だけでは支えきれなくなり、きゃはきゃは笑いながら上半身が倒れて首にしがみついてくる。耳に息が当たる。歯磨きペーストのリンゴの香料の匂いがする。落ちるぅ、と悲鳴まじりに笑う声。
 いつの間にかお馬さんごっこというよりおんぶお化けとの戦いになってしまった。揺らすのをやめて体を低くすると、おんぶお化けは新兵衛から手を離し、腿をゆるめて、ころりと床に転がった。
「荒馬だなあ」
 そう言って頬を撫でる手はしっとりと汗ばんでいた。荒馬の新兵衛はその感触になぜか居た堪れなくなってしまい、もう一回とねだる騎手を振り切って早々にジャケットを羽織った。
 なお、この自主トレーニングをいたく気に入った勤勉な騎手はこの晩以降も毎夜研鑽を重ね、一ヶ月後には荒馬に手綱代わりの紐を噛ませて握るまでにレベルアップしたという。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 03/01/2026
ほそなが太郎は生存できない環境のため、丸太郎が正しい
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 02/01/2026
義実家ねこ、小耳・鼻低・毛厚・肉厚・短足・鍵尾でほそなが太郎の真逆を詰め合わせた奇跡の丸太郎なんだけど写真に撮るとなぜかスタイルが盛れてしまい、丸さが写らない これでも比較的丸さが写った写真を厳選している 本当はもっと丸いのに なぜ写らない
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 02/01/2026
ファンヒーター最前キャット
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 01/01/2026
🍚2/2
怪訝どころの話ではなかった。何を言い出すのだ、この子は。急速に、頭へ血が巡り出すのが分かった。一本喫って落ち着きたい衝動に駆られたが、もうずっと選手の前では禁煙していた。
「いや、部室は……日にちが足りないなら、年末から帰ってもいいぞ。30からでもいい」
長い前髪の陰で、濃い眉がきゅっと寄る。提案ミスをすぐに自覚した。新兵衛は他の選手に比べ自分の練習量が少ないのを気にしていて、絶対に休みたがらないのだ。ダメージ修復ではなく身体を大きくするのにカロリーを使わせたいから練習量をセーブすべきなのだとざっくり説明はしたが、心から納得はしていないらしい。
「……この際だから全員休みにしようかな、皆お家の大掃除なんかもあるだろうし……」
「だっ、駄目です、そげん休んだら! 以蔵なんぞストライクも入らんくなりますっ」
「しかし、部室はまずい。どうかするとセコムが来て大騒ぎだぞ」
「セコムが……!?」「いや、職員室の方でセンサー解除しないと本当に来るんだ。中学の頃だったかな、休日に部室の窓から出入りしてたら来た。逃げ切ったが」
部室宿泊を思い止まらせたいあまりに晒さなくていい恥を晒してしまったような気もするが、そんなことはどうでもいい。あんなところで三日も寝泊まりしたら風邪をひく。頑丈な子だからひかんかもしれんが。
セコムが効いたのかどうか、新兵衛は俯いて黙ってしまった。野球留学をしている子というのは、後がないのだ。素行不良で退部などともなれば、奨学金は打ち切られ、学校自体に通い続けることも難しくなる。生え抜きの地元選手との最大の違いはそこだ。
どんぶりの中で、つやつやの米が場違いな湯気を立てている。何やら米に責められているような心持ちになってきた。これでもかと山盛りによそったごはんを一口も食べられずにうなだれている姿は、武市に罪悪感を抱かせるのに十分な効果を発揮した。

「…………わかった、家に帰らなくていいのであれば、正月もここにいなさい」床板を見つめていた白目がちの眼が武市を見た。泣き出しそうだった顔がぱあっと輝いた。
「よかですか!?」
「親御さんが良いと言ったらな」
「絶対大丈夫です! 夏に甲子園で顔見せましたし」
本当にそんなんで良いものなのかどうか、親になった経験のない武市にはよくわからなかったが、山盛りのどんぶりを食卓へ運ぶ後ろ姿があんまり嬉しそうだったので考えるのをやめた。
お年玉をやるのはさすがにまずいだろうが、初詣に連れて行くくらいは良いのかもしれない。
020
ハイジロー @phnoch.bsky.social · 01/01/2026
やきうの武新の年越し前日譚 Xから再掲🍚1/2
九州と四国は地図で見ると近いが、土佐勤王高等学校から田中家までの移動には丸一日を要する。鹿児島空港はあっても四国へ飛ぶ直行便はないので、入学時は車とフェリーで送ってもらった。電車ならいったん本州に入って、鉄道オタクでなければ発狂する本数を乗り継いで福岡回りで帰ることになる。
正月三が日は練習を休みにすると発表があり、新兵衛は頭の中で計算をした。帰るとして、往復に二日かかるから、地元で過ごすのは実質一日だ。たった一日のためにあの旅程を辿るのはコスパが悪すぎる。それに親の方だって、そうまでして新兵衛の顔を見たいわけでもないだろう。どのみち兄は帰ってくるから寂しくもないし、祖父母もぴんぴんしているし、炊飯器も小さいのに買い替えたというし。
しかし、帰らないという選択肢はあるのだろうか? 新兵衛は監督の家に下宿の身だ。学生寮のない土佐勤王高等学校に強引に野球留学してきた新兵衛を、一人暮らしでは健康管理が心配だからと好意で置いてくださっているのだ。せっかくの連休だ、監督だってご実家に帰ったり、そうでなくてもゆっくり羽を伸ばしたりしたいだろう。家にも帰らず、監督にもご迷惑をかけずにすむ方法はないだろうか。ホテルというわけにもいかないが、ホームレス紛いのことをするのは補導された場合が困る。三日くらいなら野球部の部室に泊まり込むのもありか。寝床には小さいながらマットもあるし、常備食の茹で鶏胸肉を多めに持って。炊飯器も持ち込めば盤石だ。小学生の頃に憧れた秘密基地生活みたいで、少しだけ楽しくなってきた。

「監督はお正月どうされるんですか」
新兵衛は朝に強い。成長ホルモンを出すために十分寝てほしいのだが、アラームなしで目が覚めてしまうならそれが身体のリズムだから仕方がない。今朝も武市が起きていくと既に米をどんぶりによそい、レンジで解凍した鶏胸肉を取り出したところだった。五キロまとめて寸胴鍋でゆがいて小分けに冷凍しておいたものだ。
「ん? うーん、実家に顔出して……あれだな、久しぶりにサウナかな……」武市は新兵衛ほど朝型ではない。起きられることは起きられるが、血が巡り出すのに少し時間がかかる。大人として、学生の手本となるべき立場の人間として、もうちょっとマシな受け答えがありそうなものだが、早朝はとっさにそれが出てこない。そうだ、きっと自堕落が透けて見えるような自分の年始プランを開陳するのではなく、田中君はどうするのと聞き返すのが模範解答だったはずだ。家が遠いのだから、飛行機の手配とかーー
「ご実家にはどれくらい……というか、えーと、この炊飯器は使いますか?」
炊飯器? この毎日フル稼働している、今も八合ばかりの炊き立ての米が湯気を上げている、田中家から嫁入り道具の如く持ち込まれたタフな一升炊きの炊飯器?
怪訝な顔をした武市を見て、新兵衛は慌てたように言い足した。
「あ、その、お使いになるなら全然使ってもらって大丈夫で……もし監督が使わないんだったら、正月の間は部室に持って行こうかと思っただけで……」
「部室に?」
「えっと、はい、正月の間は部室に、泊まろうかなと思ってて……鹿児島に帰るには、日が少ないので……」
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 01/01/2026
🦀2/2
「ん、美味い」
頬がほころぶ。
この腹の内のどろどろも、監督にとっては美味いものなんだろうかーーーー

◆

「明けましておめでとうございます」
今年は初めて下宿人と二人での年越しとなった。とはいえ特にカウントダウンで盛り上がるようなこともなく、部活納めでしっかり体を動かした新兵衛は普段通り早々に自室へ引っ込んで寝入ったようだった。最近の子はテレビにも全然興味がないらしい。
「おめでとう。早いな、朝練もないのに」
「一応、走ろうかなと……」
「走りぞめか」徒歩で行くには少し遠いが、隣町に大きな八幡様がある。頑張ってみるのもいいかもしれない。
「一緒に行こうかな。初詣がてら」
「っ、いや、一人で大丈夫です」
「ペースが合わなかったら遠慮せず置いていってくれ」
「そんな、それは……」
遠慮する様子を見せた新兵衛だったが、武市が立ち上がるのを見るとそれ以上渋ることもなくついてきた。ウィンドブレーカーを羽織り、ランニンググローブを着けて外に出る。正月元旦、わざわざ寒空の下に繰り出している物好きは自分たちだけのようだった。頬がきりきりする。息が白く曇る。
「何か夢は見たか?」
尋ねてしまってから、初夢は一月一日の夢ではないのだという納得のいかない話を最近聞いたような気がしてきた。結局あれは何故なんだったかーーまあいいか、どうでも。
「…………かにの、夢を……」
「かに?」
「この前、食べた……」
「ああ、お歳暮の? 美味かったものな。また食べような」
一富士、二鷹、三なすび。この並びでいくなら蟹もなんとなく、十番以内には入っていそうなめでたさではないか。Vサインしてるし。幸先がいい。
行こうか、と寒さで赤く染まった耳たぶに促して、武市は走りぞめの第一歩を踏み出した。
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ハイジロー @phnoch.bsky.social · 01/01/2026
明けましておめでとうございました やきうの武新のお年賀です 思春期のたなかくんにはカニを食う先生の刺激が強すぎる話🦀1/2
選手を引退し、プロの世界から抜けて何年も経つのに、監督にはいまだに後援者が多くついている。グッズやら写真集やら発売されるほどの人気選手で、まだまだ若いうちの電撃引退だったから、野球人の中ではある種の伝説のような扱いになっているのだ。新設高校の野球部監督に収まったのだって、ここの理事長が熱心なファンだったからだと聞いた。確かにときどき練習を見に来ているーー練習というより、監督を見に来ているのかもしれないが。
後援者は地元の高知だけにとどまらず、全国各地に存在しているらしい。おかげで夏前にはわけのわからない柔らかさのステーキをご馳走になったし、秋には米どころから見たこともない大袋がどさどさ送られてきて、まだ廊下に二袋ある。そこへ追っかけるようにして北の海からやってきたのが、この、真っ赤に茹で上がった立派なカニだった。
「…………」
テーブルには新聞紙が敷かれ、カニはその上に鎮座し新兵衛に相対していた。監督がこっち向きに置いたのだ。その監督はというと、ちょっと待っててくれと言い残してキッチンへと引っ込んでいた。ごとごとと何かを探すような音が聞こえる。まるごとのズワイガニというやつを新兵衛は食べたことがなかった。家は貧しいというほどでもなかったはずだが、兄弟揃って掃除機のように食うものだから質より量が第一で、あんまりお高いものは食卓に並ばなかったのだ。
たぶん、殻は食べない、と思う。エビだって殻は取ってあるーーエビフライの尻尾は、新兵衛は食べてしまうが、食べなくてもいい部位とされている。とすると、殻を剥く必要があるだろう。しかし、どうやるんだ?
「お待たせ」
監督がボウルを抱えて戻ってきた。初対面の甲殻類と見つめ合う気まずい時間が終わり、少しほっとした新兵衛の目は、監督の持ち出した大ぶりなキッチンバサミに吸い寄せられた。監督はカニの甲羅を尻の方から左手で持ち上げると、脚の付け根へと躊躇いなく、ハサミを入れた。
ーーーーばちん。
音を立ててカニの脚が一本、外れた。ゆるく関節の曲がった長細い脚がごとりと倒れた。ばちん。
隣の脚があっけなく外れる。本体と分断され、一本の枝みたいに転がる。なぜだか監督の手から目が離せない。淡々とハサミを使っているだけなのに。骨ばった指がハサミの持ち手に力を込める。ぬらりとした刃が閉じて、何年か知らないがカニと共に生きてきた脚を、切り離す。
ばちん。
ばちん。
見てはいけないものを見ているような、変な気分になってきた。口の中が乾く。胸がどくどくする。
ばちん。ばちん。
ばちん。ばちん。
カニはとうとう、全ての脚をもがれておにぎりみたいな哀れな形になってしまった。しかしそれで終わりではなかった。ハサミが置かれ、残った真ん中の甲羅に長い指が絡んで、いとも簡単にーーーーかぱりと、腹と背中が分離した。
「ん、いっぱい入ってる」うきうきした声が耳をくすぐる。すっかりバラバラになってしまったカニの、中身が見えた。変な色をした、汚らしいどろどろが詰まっていた。普段、食べ物に対して可哀想だとか繊細な感情を抱くことはないのに、なぜだかとても冒涜的な気分になっていた。手足をもがれるばかりでなく、腹をこじ開けられ、内側の汚いところまで見られてしまうなんて。自分だったらーーたとえば監督を夏の大会で勝たせるためにこの腕が壊れても、脚が外れても、そこで自分の野球が終わっても構わない。本望だ。しかし、腹の内の汚いところ、チームメイトに嫉妬し、監督に執着している、爽やかさのかけらもないどろどろした部分をなすすべもなく見られてしまったらーーとても耐えられない。
「ぁ…………」
白い指が、汚いどろどろの中につぷりと挿し込まれる。どろどろをゆるりゆるりと掻き回す。自分の中身を掻き回されたみたいに、腹の底がきゅっとなる。
「……っ」
どろどろに汚された指が、引き上げられる。魅入られたように目で追ってしまう。指は、すうっと宙をよぎって、色の薄いくちびるにスローモーションで吸い込まれていった。
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