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のあね

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PostsRepliesMedia
のあね @noane-dec.bsky.social · 13/09/2026
アウトプット出来ない間に色々見てたら可愛さに改めてやられてしまいました☺️ guちゃん可愛い…ドラマも見た過ぎる… ルデは気になり過ぎるしアナとオビは色々複雑過ぎてああ…🫠 幸せになるための障害が多ければ多いほど気になってしまいます😇
ソフビ難民です🫠
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のあね @noane-dec.bsky.social · 11/08/2026
お題「花火」カラキョウ(全8枚) ※前々回のお題、xより再掲 ※両片思いなカラキョウ ※花火大会の諸々は全て捏造です 恋心を自覚しているkyくんが、花火大会の日にkrsbさんを一生懸命探すお話です。 x投稿時よりほんの少し修正してます。(書いた本人しかわらかないレベル)
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のあね @noane-dec.bsky.social · 10/08/2026
プロフ帳!イベ期間内には間に合いませんでしたが、やりたかったので今更ですがやってみましたー! ウェブオンからフォローして頂いた方もいらっしゃるようなので、自己紹介がてら☺️ 凄い細かくなっちゃったので、お時間あるときにでも読んで頂けたら嬉しいです。楽しかった!
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のあね @noane-dec.bsky.social · 09/08/2026
お題「プール」カラキョウ(全6枚) ※両片思いカラキョウ ※ペントハウスの設備等諸々ご都合設定ご容赦ください ※xと同時投稿 暑い夏のひと時。お互いの気持ちを手探りで確かめようとする、ずるい大人と身勝手な子供のお話です。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 25/07/2026
お題「今から越える境界線」 ※ワンドロワンライ用に書いたものです ※xと同時投稿 こちら折角なので?今回のイベント用のお話「フレンチ~」と繋がったお話になっています。kyくん視点。 お題はかなり無理矢理な感じですが、合わせて楽しんで頂けたら嬉しいです。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 24/07/2026
どうにか、準備出来た、と、思います。ギリギリ人生🫠 展示のみですので、期間中どこかでお立ち寄り頂けると嬉しいです。 これからプロフ帳やろうかな! 会場回るの楽しみですー! #から境
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のあね @noane-dec.bsky.social · 20/07/2026
わーー何も終わってなさ過ぎてまだまだ絶賛準備中ですが、当日参加させて頂きます! よろしくお願いいたします。 #から境
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のあね @noane-dec.bsky.social · 20/07/2026
お題「天体観測」カラキョウ(全9枚) ※天体観測周りの設定や説明は全部素人の捏造です ※xと同時投稿 付き合いたての、まだちょっとぎこちない二人が手を伸ばしたある夜のお話。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 22/06/2026
お題「お菓子」 カラキョウ(全7枚) ※付き合っているカラキョウ ※krsbさんが甘いもの苦手など諸々捏造妄想です ※前々回のワンドロワンライ用に書いたものです ※xより再掲 あるパーティに参加したふたり。帰り際、自分以外の人から贈り物(お菓子)を受け取るkrsbさんを目の前にして、動揺して、ほぼ初めてのやきもちをやくkyくんのお話。 気付いた誤字は修正しましたその他諸々細かい所修正しています。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 08/06/2026
お題「傘」(2/2) カラキョ
そうして今日。雨音はまたこの部屋に響いている。
繰り返しあの日を思い返していたキョウヤにとってはあっという間だった。この間にも彼と顔を合わせることはあったが、あの雨の日の出来事を蒸し返すようなことはなく。本当に雨の日まで待つつもりなんだ、とキョウヤは思った。
そんなこと、しなくても、とは。言わなかった。
頬杖をついていたデスクからおもむろに立ち上がる。キョウヤは黒い傘を手に取るとホテルの部屋を飛び出した。仲間達にはちょっと出掛けてくるとだけ言って、雨結構降ってるよ声をかけられても知ってると気のない返事だけを残して。
自分のものではない傘を差して、キョウヤは走った。雨に濡れる石畳の道を蹴って、走って。
キョウヤが事務所を訪ねると、訳知り顔のジプソが迎えてくれて。カラスバはあるセーフハウスに居ると教えてくれた。多分、待っているのだろう。
送りますというジプソの申し出を断ってキョウヤはまた走った。ぱしゃぱしゃと雨水が跳ねる。重たい傘を握り締めて、速く速くと高鳴る鼓動と一緒に、雨の中。走って。
目的の場所はすぐに見つかった。高級住宅街の一角にある邸宅。チャイムを鳴らすと、すぐに扉は開いた。わかっていたかの、ように。
現れた男はスーツ姿ではなくラフな格好で、髪も下ろして無防備な姿を晒していた。初めて見る姿。キョウヤは余計に騒ぐ胸の内を隠しながら閉じた傘を彼の前に突き出した。
「……傘、返しに来ました」
思ったよりずっと可愛げのない言い方になってしまったのは、照れ隠しか、それとも待たされたことへの、意趣返しか。
カラスバは構わず笑顔で受け取るとその傘を近くの傘立てにしまって振り向いた。「おおきに。待っとったで」
この前はなんにも言わずに、すまんかったな。
言いながらキョウヤの体をやんわりと抱き締める。その腕があの夜と違ってずっと優しく、ふんわりと包むようだったので。ほんとですよとか、先に手を出すなんて最低とか、格好つけとか。色々言ってやりたいことはあった筈なのに、全てあたたかい抱擁に溶かされてしまって。
その腕に誘われるまま、キョウヤは男の家に足を踏み入れた。背後で扉が閉まって、雨の音も聞こえなくなって。世界で二人きりのような静けさ。
カラスバの背に腕を回しながら、首元で目を閉じたキョウヤはようやく貰えた好きの言葉に耳をすませていた。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 08/06/2026
お題「傘」(1/2)+2h位 カラキョウ お互い同じ熱を抱えていると知りながら口に出さないまま関係をはっきりさせずにいて、でもある雨の夜にkyくんがkrsbさんを部屋に招いてしまって……というお話です。 ※最初から最後までkyくん視点 ※全年齢 ※前回のワンドロワンライ用に書いたものです ※xより再掲
ホテルZの202号室には。
その部屋に似つかわしくない、真っ黒で重厚感のある、大きな長傘がある。

タタッ、タタッ、と。時折窓を叩く軽い音。昼間から立ちこめていた灰色の雲から、とうとう雨が降り出したようで。やがてさあっと細い雨が一斉に地面を叩く音が聞こえ始めた。話し声もしない音楽の一つもかけていないホテルの一室に、雨音だけが響き渡る。
キョウヤはちらりと、横目で黒い傘を見遣った。丁寧に閉じて部屋の入り口にあるキャビネットに立て掛けられたそれは、周りの家具と合っていなくて異様な存在感を放っている。何の模様もなく柄の部分まで全て真っ黒なその傘は見るからに安物とは違っていて。持ってみるとひどく重い。この部屋にも、いつも軽装で身軽なキョウヤ自身にも、全く似合っていない。
そんな傘が、もう長い間202号室の片隅に鎮座している。
いつから。
前回雨が降った、夜から。
頬杖をついていた手をきゅうと握り締める。備え付けのデスクの前に座っていると部屋の窓から雨が降っている様がよく見える。薄暗いミアレの街。普段から書き物もしないキョウヤは滅多にこのデスクを使ったりしないのに。今日はどうにも落ち着かなくて。
あの日も、雨が降っていた。

きっかけは何だったんだろう。今になって考えてみてもキョウヤにははっきりとわからない。ただ、お互いに、何か抱えていることは感じていた。
顔を合わせた時、何気ない話をしている時、視線を交わした時、に。
感じる熱。漂う空気が、二人見つめ合った時だけまるで違ってしまう。いつからだったのかもわからない。ただ、いつの間にか。気がついたらそうなってしまって、いて。
他の人には感じない。他の人ではこうはならない。
あの人だけ。あの人と目が合った時、だけ。
熱っぽい視線に気付いた時から、もう世界は違ってしまっていた。何も言わなくても、お互い同じ気持ちだとわかる。それでも簡単に身動きは出来なくて、このままどっち付かずの関係でいたいような。ぬるま湯の中を漂うような心地で、ずっとこのままでもいいかなんて、思ったりもして。
でも出来なかった。
雨が降った夜。
二人はカフェの軒先に居た。予報では午後から激しい雨で、そんなこと見もしていなかったキョウヤの手に傘はなく、あの人はきちんと長い傘を用意していて。送ってくれるとあの人は言った。
並んで歩く雨の街。それでも気まずさはなくて、肩が触れ合いそうな距離を意識しながらも、カフェに居た時と同じように何気ない話をずっと楽しく続けていた。
ホテルZに着いた時、あの人の肩がやけに濡れていることに気が付いた。いくら大きくても男二人、すっぽりと傘に収まる筈はなくて、慌てたキョウヤが中に招いた。上がって、乾かしていってくださいと。お茶くらい出しますからと。彼は控えめに笑って辞退しようとしたが、キョウヤの方から半ば強引に引き入れた。濡れた腕を掴んで、お願いしますと、迫って。
彼はほんの少し迷うように視線をそらした後。そこまで言うならと、頷いて傘を閉じた。
雨の日の思わぬ来客にデウロ達が驚いていたけれど、キョウヤが事情を説明して二人はロビーを通り抜けた。並んでエレベーターに乗り込む。床が軋んで、古い機械が音を立てる。
そこでようやく、あれ、と気が付いた。
二人きり。狭い部屋。今はまだエレベーターの中でも、部屋に入ってしまったら。いやカフェでも二人きりだったけど、それとは違くて。全然、意味合いが、違くて。
ホテルの部屋。二人きり。
突然、自身の鼓動がやけに耳につく。胸の内側からどんどんと叩くように、響いて。スピードを上げていく。
どうしよう。いやどうもしないけど、でも、これって。
そんなこと考えていたら、あっという間にエレベーターは二階に着いてしまった。チン、と古めかしい音が鳴って開く扉。誰も居ないフロア。
ぎこちない足取りで先に降りたキョウヤの後を、濡れた傘を片手に彼は黙ってついてきた。背後から感じる視線。まとわりつくような空気が、まるでさっきまでと違っていて。
202号室の前で足を止める。遠くに聞こえる雨音。覚束ない手つきで鍵を開いて、どうぞと中へ促して。それでも、その間も、彼の顔が見れなかった。どんな顔をしているのか、その顔を見てしまったら。
見てしまった、ら?
彼に続いて部屋に入り、扉を閉めた。ばたんと重たい音が響いて。慎重に鍵をかけてから、振り返る。
彼は。
カラスバさんは。
真っ直ぐにこちらを見詰めていた。
交わる視線。予期していなくて、何の心構えも出来ていなかったから、簡単に心が掴まれてしまって。暗がりの部屋の中。眼鏡の奥。金色の瞳が、見たこともないくらい、熱を帯びていて。瞬間、どきりと心臓が跳ねた。あ、と体中が震えて。痺れて。
そこからは、よく、覚えていない。
多分、傘の倒れる音がした。濡れた手で顎を取られて、引き寄せられるままキスをした。唇は温かくて、吐いた息が熱くて。あっという間に熱にのまれていった。夢中で、ついていくのに必死で。
ベッドに上がってからも、ずっと。雨の音が響いていた。

嵐が過ぎ去ったあと。
翌朝も、ミアレの街は曇り空だった。見送りにとシーツから起き上がろうとしたキョウヤをカラスバは制した。
「これ置いてくわ。次の時に返してくれればええから」
次の時。
黒い傘を指差して言う男を、キョウヤはぽかんと見上げた。寝起きで鈍くなった頭が上手く働いていない様を、彼は柔らかく目を細めながら、見詰めて。
「今度、雨が降ったら。返しにおいで」
その時までに腹くくっといてや、と。
乱れた髪をそっと撫でつけて、男は身を翻した。すっかり乾いたスーツを羽織った後ろ姿。その背が遠ざかっていくのを、キョウヤは熱くなった頬を晒したままただぼうっと見詰めていた。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 04/06/2026
お題「ゲーム」(2/2) カラキョ
けば、高鳴る鼓動が指先から伝わってきていた。どきどきと走る心臓の音はキョウヤのもの。そんなの実際に聞こえる筈がないのに、小さく震える指先から。熱い吐息が漏れる唇から。二人を取り巻く空気、から。気持ちが伝わって来るようで。
(……なんやねん、これ)
知らず、いつの間にかカラスバ自身も熱くなっていた。むずがゆい心地から、心臓が音を立てて。体温が上がっていく。
「カラスバ、さん」
やがて、キョウヤが握っていた手を引き寄せた。カラスバの両手を自身の胸元まで引き寄せて、祈るようにその手に顔を寄せて。
そうして上目遣いでカラスバを見詰めた。金色の瞳を射貫く、潤んだ眼差し。一つ息を吸ってから口を開いた。
「カラスバさん。好きです」
震える吐息が、指に触れて。カラスバはひゅ、と短く息を吸った。
体が固くなって身動きがとれない。キョウヤの表情から視線がそらせない。心臓が大きく鳴って暴れるのを、どこか他人事のように感じていた。まるで魔法にかけられた、ように。ただキョウヤに握られた手が、どんどん熱くなっていく。今自分がどんな顔をしているのかもわからない。
まずい、何か言わなくては。でも何を。いや返事か。返事をしないと。違うこれはゲーム、ただのゲームだ。キョウヤが言い出したゲームだったはず。そうだ、キョウヤ、は?
やっと少し冷静さを取り戻してカラスバが改めてキョウヤを見詰めると。
「……え、」
キョウヤは顔を真っ赤にして震えていた。カラスバをじいっと見詰めている目も赤く。今にも涙が零れそうなほど潤んでいて。
唇を噛み締めている。必死に堪えていたようだが、もう限界だったのか突然ぱっと顔をそらした。
「っ失礼しました!」
そう言うと、握っていたカラスバの手を離し帽子を深く被り直して凄い勢いで部屋から出て行った。さながら風のように、持って来たチェスもトランプも全て置いて行ってしまって。
「……キョウヤさんの方が、照れてしまったようですね」
ぽつりと。静かになった部屋で呟いたのはジプソだった。全く蚊帳の外になっていたが、ずっと二人を見守っていた男はキョウヤが出て行ったエレベーターの方を穏やかに見詰めていて。
「自分で仕掛けた勝負で全て返り討ちに遭ってしまうなんて」
ふふ、と笑みを零す。可愛らしいとでも言いたいのだろう。
「……いや、この勝負最初からオレの負けやったわ」
けれどその言葉を聞きながら、カラスバは一人放られた両手を見詰めていた。キョウヤの手から離れた指先は白く、もう熱は残っていないはず、なのに。
未だに心臓が走り続けている。どきどきと鳴る音がうるさい。
多分キョウヤはこのためだけに来たのだろう。最後の台詞を言うためだけに、他の意味のない勝負を仕掛けてきた。素直にはそう簡単に言えないから、ゲームなんて口実を作って。
えっとカラスバを振り向いたジプソは声を上げた。
「ボス、お顔が真っ赤ですよ!」
「やかまし、わかっとるわ!」
この勝負、最初から負けが決まっていた。
キョウヤの意図に気付かず、照れた顔を可愛いと思ってしまった、カラスバの負け。
後日、ホテルZに薔薇の花束を持って押しかけるサビ組のボスの姿があったとか。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 04/06/2026
お題「ゲーム」(1/2) カラキョウ krsbさんに色々なゲームを挑む、kyくんのお話。 最終的には多分おあいこです。kyくんは自覚ありで、krsbさんは多分ここで恋に落ちちゃった感じかなと。 これからカラキョウになります(確定事項) ※krsbさんの過去は妄想ねつ造です ※前回のワンドロワンライ用に書いたものです ※xより再掲
「カラスバさん、ゲームしませんか!」
意気揚々とそう言ってサビ組事務所に現れたキョウヤの手には、見慣れない紙袋がぶら下がっていた。
珍しく相棒ポケモンも連れず一人で、仕事中だったカラスバの机に駆け寄る。
「ゲーム?」
丁度書類仕事が一区切りついたところだったカラスバは、凝り固まった肩を回しながら首を捻った。このミアレの英雄がポケモンバトル以外の勝負を切り出すなんて珍しい。訝しげにしているボスの横で、そばに控えていたジプソはお茶を用意するため部屋を出る。
「はい、最近タウニーにチェス教えて貰ったんです。ちょっとは強くなったんですよ」
言いながら紙袋の中を漁ったキョウヤは、中からチェス盤が入っているらしいケースを取り出した。ご丁寧に道具一式持参してきたらしい。
「カラスバさんこういうの得意そうだし、相手してくださいよ」
明るく、けれど挑戦的な眼差しを隠さずに。そう言って笑うキョウヤはまさにポケモンバトルを挑む時のようで。ちょっぴり相手を煽ることも忘れない。楽しい勝負がしたい、とバトルジャンキーの血が疼いているんだろう。
へえ、とカラスバはレンズ越しに片眉をつり上げた。
「ええよ」
二つ返事で頷いて席を立つ。やった、と無邪気に喜ぶキョウヤを横目に机の上を適当に片付けると、そのまま応接用のテーブルにチェスを広げるよう彼を促した。
かくして、二人のポケモンバトルではない勝負が始まったのだが。
「なんでそんなに強いんですかー?!」
思わずテーブルに突っ伏すキョウヤ。その向かいに座って静かに笑うカラスバ。そしてテーブルの横に立ちため息をついているジプソ。それぞれ全く違う様子の三人の姿が、広い応接間の一角にあった。その中心にはキョウヤが持って来たテーブルゲーム。
あれからすぐにチェスを始めたのだが、結果はキョウヤの惨敗。それもあっという間に勝負がついてしまってまるで相手にならなかった。もう一回、もう一回とゲームを繰り返したがそれでも勝てず。全く見込みのない展開に早々にチェスを諦めたキョウヤは、更にオセロやパズル、トランプなどを取り出した。袋に入っていたのはチェスだけではなかったらしい。次はこれで、と意気込むキョウヤにカラスバは呆れることなく頷いて。どれでもどうぞと白々しく微笑んだ。
そうして幾度となく様々な勝負を繰り返したのだが。結果はご覧の有様。
「キョウヤさん、こればっかりは相手が悪いです」
すっかり意気消沈するキョウヤに、ジプソは慌てて言った。やや焦って口早に言う彼は、二人の勝負をずっと見守っていた。オセロの盤が一色に染まっていく様も、最後のポーカーの一方的な展開も全て。
「ボスは昔散々大人相手にこの手の勝負をふっかけていたんですよ。その時から負け知らずでしたから、年季が違うのです」
言われて、キョウヤはゆっくりと顔を上げた。見ればジプソは困ったような表情を浮かべていて、キョウヤの視線を受け止めた後そのままカラスバの方へ視線を向けた。つられてキョウヤがそちらを見れば、カラスバは足を組んで座ったまま慣れた手つきでトランプをシャッフルしている。ぱららら、と小気味よい音を立てて鳴るカード。器用な指先。
「……それって」
とても素人の手つきではない。大人相手に、負け知らず。ということは、つまり。
「イカサマ?!」
「阿呆。お前相手にそんなことせぇへんわ」
っていうかするまでもなかったしな。
言いながらカラスバは混ぜていたカードを一つの束に戻して、トン、とテーブルの上に置く。その後は涼しい顔をしてジプソの入れたコーヒーを啜っていて、疲れた様子一つない。なるほどこれは勝ち目がない。
キョウヤは小さく息を呑んだ。
「っじゃあ、愛してるゲームしましょう!」
「愛してるゲーム?」
カップから口を離したカラスバは、素直に首を傾げた。聞いたことのない様子にキョウヤは身を乗り出す。
「はい。俺の故郷で流行ったんですけど、順番に相手の目を見て愛してるって言って、先に照れた方の負けっていうゲームです」
ゲームというかお遊びというか。勝負と言うには余りにも幼稚なものだが、ゲームには違いない。キョウヤはじっとカラスバの目を見て返事を待った。真剣なその眼差しが勝つにはこれしかない、とでも言っているようにカラスバには見えて。ふ、と思わず笑みを漏らす。
「まあ、ええよ。やってみよか」
頷いて、カラスバは手にしていたコーヒーカップをソーサーの上に戻した。了承されてほっと安堵していたキョウヤを前にすぐさま姿勢を正す。
「ほなオレからな」
間髪入れず。眼鏡のブリッジを押し上げると正面に座るキョウヤを真っ直ぐに見据えた。彼はまだ油断していたのかえ、と口を半開きにしているがそんなことは構わない。先手必勝、とカラスバはゆっくり目を細める。
「キョウヤ。愛しとるで」
微笑みは柔らかく。呼ぶ声は甘く。
まるで恋人に向けるようなそれに、キョウヤは目を丸くした。あからさまに顔が赤くなったりはしていないが、びくっと肩は跳ねていたし言葉は失っているし効果はあったはず。最初の一手にしてはまずまずの反応にカラスバは内心笑みを深めた。
キョウヤは慣れ親しんだゲームで勝ちを狙ったのだろうが、照れた方が負けなんて勝負ミアレ男に挑むのは無謀である。愛の言葉は日常茶飯事、キスが挨拶の文化圏であるミアレで長く生きてきたカラスバにとって、このゲームは間違いなく得意分野。今更どんな相手に愛してると言われようとも、顔色一つ変えずにいられる自信があった。
ましては相手はキョウヤ。真っ直ぐで爽やかで、色仕掛けの一つも出来ないような青年だ。照れる要素が見当たらない。
あとはどうやってキョウヤを照れさせるか。手でも握ってみるか、あるいは顎でも取って顔を寄せて。キスはありなんだろうか、なんてつらつら考えていると。
ふ、と。キョウヤが立ち上がった。
自分の思考に気を取られていたカラスバは直前までキョウヤの動きに気がつかなかった。かた、とソファが音を立てたと思ったらキョウヤが立ち上がっていて、つかつかとテーブルを回ってカラスバの隣までやってきた。何、と思う間もなくキョウヤはカラスバの隣に腰を下ろして、突然ぎゅっと両手でカラスバの手を取った。右手も左手もまとめて引き寄せて、白い指先を握り締める。熱い手のひら。心なしかその手が震えている、ような。
なんだこの状況は。
キョウヤは俯いていて顔を見せなかった。垂れた前髪が目元に影を落として、薄く開いた唇だけが覗いている。その口元は浅く呼吸を繰り返していて。気がつ
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のあね @noane-dec.bsky.social · 03/06/2026
花.吐き病パロの落書き(カラキョウ) ※1ページ目がkrsbさんで、2ページ目がkyくん視点です。 ※あんまり明るくないので苦手な方はご注意ください。 片思いのカラキョウが最近自分の中で熱くてですね、ちょっと吐き出さずにはいられなかったので落書きですがご容赦ください。 両片思いでシリアスでこじれにこじれたカラキョウもいいなって思って、それならこういうパロとか似合うのかなって考えてました。もちろん最後はハピエンで! ただここからハピエンに繋がる道のりがなかなか険しそうなので、いったんここまでで。→
花を吐いた後は、煙草がまずくなって仕方がない。
一息煙を吹いたあと、火の点いたままのそれを灰皿に押し付けた。
灰皿には薔薇の花が落ちていた。
自身が吐いた、深紅の薔薇。その花びらを踏みにじるように強く強く、煙草の先端を押し付ける。
火は花びらに燃え移って。ぱちぱちと音を立てながら炎をあげて、薔薇はやがて灰になった。

永遠に報われることのない恋
「おあつらえ向きの地獄やなあ」
自分が正義と決めて好き勝手生きてきた
これがその報いかと
嫌悪感から、吐き気がする。
自身の手の中に落ちたそれが腐り落ちるのを、ただ黙って見詰めていた。
やがて形も保てなくなって、泥になって、汚く爛れたそれを握りつぶす。自分の両手で、強く強く。
花を吐く度に突きつけられる。
自分の思いが、どんなに汚れているかを。
花を吐く度に突きつけられる。
どんなに強く、あなたを思って、いるかを。

俺はそんなに綺麗じゃない
綺麗じゃないよ、カラスバさん
太陽なんかじゃない
あなたの太陽にはなれない
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のあね @noane-dec.bsky.social · 27/05/2026
お題「我慢比べ」(2/2) カラキョ
元の本がぱたりと閉じる。
(こんなとこまでお天道様みたいなんやな)
あったかい、太陽の日差しのような温もり。それに全身が包まれていくようだった。久しく感じていなかった、あったかい、という心地に。
自然と目蓋が重くなっていく。
(……あ、あかん)
キョウヤに布団かけてやらんと、なんて。
腕を伸ばしたところで、カラスバの意識は眠りの底に落ちていった。

「あ、の。おはよう御座います」
たどたどしく言ったキョウヤは、カラスバの腕の中に居た。
目を覚ますととっくに日は昇っていたらしく、カーテンの隙間から差し込んだ光が部屋の中を薄ぼんやりと照らしていて。
そのせいで目の前のキョウヤの表情がばっちり見えてしまって、起き抜けからカラスバは目を丸くする。
ベッドの中、どうしてそうなったのかカラスバはキョウヤをしっかり抱き締めて眠っていた。二人してベッドに座っていた筈なのに気がつけばちゃんと頭を枕において布団の中に潜り込んでいて。多分カラスバが引っ張り込んだ。キョウヤとカラスバは二人仲良く眠って朝を迎えていた。
先に目を覚ましていたらしいキョウヤはどうしていいかわからない、といった顔でカラスバの顔を見上げていた。キョウヤの手もカラスバの背中に回っていて、けれどそれを今どうしていいのかわからなくて。困ったように眉を寄せている。普段とは違い頼りなげな眼差し。その瞳が潤んでいるのはどうしてなのか。寝起きだからなのか、それとも。いやっていうか何より、その頬がすっかり赤らんでいて。
可愛い。
「……え、」
芽生えた感情に驚いて、今度はカラスバがうろたえた。
慌てて勢いよくキョウヤから手を離すも、すぐに起き上がることは出来なかった。どうやらそれはキョウヤも同じらしく、見つめ合ったままお互い顔を赤くして。どきどきと高鳴る心臓の音を響かせていた。
こうして、ミアレの英雄とサビ組のボスが。
これまでと違う理由で眠れなくなったのは、ここだけのお話。
010
のあね @noane-dec.bsky.social · 27/05/2026
お題「我慢比べ」(1/2) カラキョウ 眠れなくなってしまったkrsbさんと、それをどうにかしたいkyくんのお話。これがきっかけで多分二人とも恋を自覚します。このあとカラキョウになります(確定事項) ※前回のワンドロワンライ用に書いたものです ※xより再掲
かくん、と。頭が落ちた。
思わず喉の奥で低く笑う。
「船漕いでるやん」
「……こいでないです」
なんとか顔を上げてそう言うキョウヤは妙に不満げで。カラスバはまた声をあげずに笑った。

最近、上手く眠ることが出来なくなっていた。
元々夜に動く仕事柄、昼夜逆転しているのは大前提として。仕事が片付いてやっとベッドに入っても睡魔がなかなかやって来ず、仕方なく本でも読むかと過ごしていたらそのまま再び仕事の時間。という生活が当たり前になっていて。
「カラスバさん、最近寝てないって本当ですか!」
どこからそれを聞きつけてきたのか、ある日キョウヤがそう言ってサビ組の事務所へ乗り込んできた。
仕事机でパソコンを叩いていたカラスバは顔も上げないままあー、と適当に返事をする。
「全然ってことないわ。慣れたもんやしお前が心配すること違うで」
どうせジプソあたりから聞いて来たのだろう。ジプソからも口酸っぱく色々言われてはいたが、カラスバは生返事ばかりで大して深刻には考えていなかった。実際ベッドでは眠れなくても仕事の合間にうたた寝することはあって、車での移動中や軽く食事を済ませた後など。強制的に頭がシャットダウンして目蓋が落ちることはある。それで事足りるようになってきていたので、カラスバとしてはショートスリーパーになったんだな、程度の認識だった。時折感じる頭痛や体の重さには気付いていないふりをして。
「……でも絶対体に悪いですよ」
やけに神妙な声が響いて、ようやくカラスバは手を止めた。顔を上げると、想像していたよりずっと真剣な顔をしたキョウヤが机の前に立っていて。カラスバは内心少しばかり驚いていた。普段から快活で爽やかで、笑顔の似合う街の英雄。大抵のことは一人でなんでもどうとでもしてしまえる彼が。自分のことで顔を曇らせているなんて。
「いやお前、人のこと言われへんやろ」
けれどこれだけは言っておかなくてはならない。彼だって人のことは言えないほど普段から昼夜問わず走り回っている。
う、とキョウヤは一瞬言い淀んだあと。
「じゃあ、俺も付き合います!」
何故かひどく意気込んだ様子で、力強くそう言った。

そうして、キョウヤから事情を聞いたジプソはカラスバからあらゆる仕事を取り上げて、今日は零時になると同時にカラスバを事務所から追い出した。待っていたキョウヤも車に乗せてセーフハウスの前まで送り届け、今日こそちゃんと寝てくださいと怖い顔で言い残して去って行く。いやだから寝られへんのやって、と遠ざかる車を見送りつつカラスバは思ったが。
「寝室、案内してくださいね」
隣で朗らかにキョウヤがそう言って微笑むので。仕方なくカラスバはため息をついてからキョウヤを家に招き入れた。
事務所から一番近い、カラスバのセーフハウス。戸建てで寝室も広く、ベッドも大きいこの家で。
カラスバは今、何故かキングサイズのベッドの上で、キョウヤと二人。積んだ枕に背を預けて長い夜を過ごしている。
「前髪、邪魔じゃないですか?」
交代でシャワーを済ませて、さっさとベッドに入った。キョウヤには家にあったサテンのパジャマを押し付けて、カラスバはラフなスウェットを着て。寝室の明かりは全て落とした。間接照明のまあるい灯かりだけがほんのりと部屋をオレンジ色に照らしている。
見慣れない姿のカラスバを、キョウヤは物珍しそうに見詰めていた。普段かっちりセットしている髪は全て目元まで落ちてきていて、眼鏡も普段よりシンプルなものを使っている。だいぶ印象が違って見えるのだろう。本に目を落とすカラスバの顔を隣から覗き込む。
「慣れたわ。お前は寝れそうやったらさっさと寝るんやで」
そう言って、カラスバはぺらりとページを捲った。あしらうようにそう言われて隣でキョウヤがむすっとした気配は感じたが、それ以上カラスバは何も言わなかった。元々眠れないのはカラスバの方だけで、キョウヤは決してそういう訳ではないだろう。あまり付き合わせるのは申し訳ない。眠れるのならさっさと寝て欲しい。そう思ってのことだったが、本を読むカラスバの隣でキョウヤはスマホロトムを取り出していた。明かりは最大限落としていたが、何か調べ物でも始めたのだろう。じっと黙ったまま真剣に画面を眺めるキョウヤの顔を横目でちらりと盗み見る。どうやら本気でカラスバの眠れない夜に付き合うつもりらしかった。半ば意地を張っているようにも見えるその姿にため息をつきたくなりつつも。どこかくすぐったくなるような気持ちもあって、結局カラスバは本に視線を戻してそのまま読書を続けた。
それから、どのくらい時間が経ったのか。
不意にとす、とカラスバの肩にキョウヤの体がもたれかかった。
「……あ、すみません」
慌ててキョウヤが身を起こす。見ればスマホロトムはとっくに暗くなっていて、キョウヤの腕はシーツの上に投げ出されていた。元々すぐ隣に座っていたせいもあって、キョウヤの体が傾くとすぐにわかる。今も頭がふらふらと揺れている。
「眠いんやろ。ええから横になり」
「いや、だいじょうぶです」
やや舌っ足らずに言いながら、懸命に頭を振る。けれどやはり眠気に抗えないのだろう。すぐに頭は重たくなって、かくんっと今度は首が折れる。
「船漕いでるやん」
低く笑えば、不服そうにキョウヤが唇を尖らせた。
「……こいでないです」
どうにか顔を上げたが、もう姿勢は保てないらしく。ゆっくりと体は傾いて、今度こそキョウヤの体はカラスバの肩にもたれかかった。頭が肩に乗って、重たくなって。次第に聞こえてくる寝息。やはりもう我慢の限界だったんだろう。夜の静けさと本のページを捲るだけだった部屋に。キョウヤの規則的な寝息が響く。暖色の明かりの中で。
不思議な心地の夜だった。
カラスバは静かに目を細める。俯いて肩にもたれているせいでキョウヤの顔は見えなかったけれど、健やかな呼吸から穏やかに眠っている様は想像できる。キョウヤはカラスバの姿を物珍しそうに見詰めていたが、カラスバにとってもキョウヤの無防備な姿は新鮮だった。いつものジャケットではなくパジャマ姿で、前髪があると更に幼く見える。こんな彼が街を救った英雄だなんて、とても見えないくらい。
(っていうか、こいつ温いなぁ)
触れ合った箇所があたたかい。
服越しでも、段々とキョウヤの体温がカラスバに伝わってくる。眠っているせいもあるんだろう。熱いくらいの熱がカラスバの体にも染み込んでいく。元々体温が低いせいか自然と引き寄せられるようにカラスバもキョウヤの方へ頭を寄せて。そっと目を閉じた。手
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のあね @noane-dec.bsky.social · 19/05/2026
お題「花畑」(2/2)カラキョ
「件の連中は締めて予定通り警察に引き渡しました」
「おう」
「ポケモンたちについても保護して今はポケモンセンターに預けています。回復次第念入りなバイタルチェックをして頂くよう研究所に話は通してあります」
「ご苦労さん」
「……ボス」
「なんや」
「その、腕、痺れてるようでしたら……」
「ええんや。どっちにしろこいつ、この状態から動かんねん」
言いながら、カラスバは大袈裟に肩を竦めて見せた。と、言っても体が軋んでろくに動かないので傍目には肩をほんの少し上下したようにしか見えなかったけれど。体を動かせなかった理由は痛みの他にもう一つあって。
キョウヤがカラスバの手を握ったまま離さなかったから。
カラスバは今、事務所の一室で療養生活を余儀なくされていた。ベッドに寝かされ既に数日。なんとか上体を起こすことは出来るようになったけれど、まだ一人で歩くこともままならない有様だった。今はベッドボードに枕を積んで背を起こし、座った状態でジプソと会話を続けている。体のあちこちに包帯、腕には点滴。そのうち空いている片方の手のひらを掴んで、ベッド際に突っ伏しているのがキョウヤだった。ベッドの近くまで椅子を寄せて、座ったまま倒れこむようにベッドにうつ伏せている。今も顔を伏せたまま。掴んだ手を頬に寄せて黙りこくっている。
カラスバはそのつむじを見下ろしながらそっと目を細めた。
「可愛ええもんなんやけどな。オレが不甲斐ないせいやから素直に喜べんわ」
その柔らかな髪を撫でてやりたかったけれど、片手はキョウヤが握っていて逆の手は点滴に繋がっていてろくに動かすこともできない。情けない状態にカラスバはため息をつくしかなかった。けれどキョウヤを見下ろす眼差しは優しく。ジプソもまたそんな二人の姿を労るように穏やかに見詰めていた。
あの激しい雨が降っていた夜。
サビ組が追っていたのは、ポケモンの違法取引、売買を行う不届きな連中だった。余所からミアレに入り込んできた連中で礼儀も知らず、その下劣なやり口は大いにカラスバの怒りを買って。組総出で追い詰め、残すは首謀者のみとなったところで。その首謀者を発見したのがカラスバだった。お互い一対一と思われ、雨の降る夜。視界の悪い入り組んだ路地裏、それでも当然地の利があるカラスバに負ける要素はなく、ポケモンを繰り出してきた相手にペンドラーと返り討ちにしてやろうとしてた、のだけれど。
奴らには協力者がいた。
ミアレの街に引き入れた内通者。外部から入り込んだ連中にばかり気を取られて、内通者の存在まではまだ把握出来ておらず、追い込んだ先に待ち伏せされていたカラスバは数の不利で一気に窮地に立たされた。なんとか一人で戦い続けていたのだけれど、結局トレーナーを狙って方々から飛んでくる技を避けきれず、その毒技を頭から被ることになってしまった。
耐性のおかげですぐに倒れることはなく、霞む意識の中ギリギリまで戦っていたのだけれど。結局人が集まってくる気配に連中が引いた途端、カラスバは雨の中に崩れ落ちた。常人なら致死量なほどの猛毒だった。
雨に打ち付けられて、冷たくなっていく体を。
最初に見つけたのがキョウヤだった。
「キョウヤ。キョーウーヤー。そろそろ顔見せてや」
最終的に、不届き者はジプソが指揮を執り全てまとめてサビ組が引っ捕らえた。事態は終息、一件落着。けれど全てが元通りになった訳ではない。
キョウヤが見つけた時、カラスバは瀕死の重体だった。
たまたま別の依頼で近くを通り掛かったキョウヤは、下っ端から話を聞いてカラスバを探していた。大きな物音とバトルの気配。迷わず路地に飛び込んだところ、倒れたカラスバを発見した。いつもは凜と立つ背中が地面に倒れて、手足を投げ出して、白い頬を泥水で汚して。動かなくて。
何を思ったか、カラスバにだって想像出来る。
あの日からずっと、キョウヤはカラスバのそばを離れようとしない。二人きりになった今も、空いている手を握ってずっとベッドに顔を伏せている。恐らく体温を感じていないと安心出来ないのだろう。
「キョウヤ、」
顔を見せようとしないのは、怒っているからか、泣いているからか、その両方か。
ぎこちない力でキョウヤの手を握り返すと、僅かに暗い髪の頭が動いた。ちゃんと声は届いている。目を細めてカラスバは続けた。
「……おおきにな。お前が居らんかったら、危うく三途の川渡るとこやった」
途端に、キョウヤが勢いよく顔を上げた。
きつくつり上げた眉。真っ赤になった目。わななく唇。
予想通り怒っていたが、ようやく顔が見られてカラスバは笑みを深めた。するとますます表情を歪めてキョウヤは怒鳴る。
「笑いごとじゃないですっ!」
「はは、天国見えたわ」
「カラスバさんっ!」
「冗談やって」
あながち冗談でもないのだが。
そう言ってカラスバが笑うと、うーっと唸るキョウヤの瞳がまた潤んでいく。恐らくずっとこうして泣かせてしまっていたのだろう。いつもは力強い眼差しが悲しみに揺れていて。それでは困る、とカラスバは重たい腕をどうにか持ち上げて手を伸ばした。今度はちゃんと、溢れる前にその涙を拭って。
「……ほんまに。お前が居らんかったから、あそこから引き返して来たんやで」
カラスバの太陽。
大切な、眩しいお天道様。
安心させるつもりで微笑みかけると、けれどかえってキョウヤの瞳からは涙が溢れて止まらなくなってしまった。頬に触れる手を掴んでわんわん泣いて。笑って欲しかったんやけどな、と思いつつ、カラスバはそのまま自分のために泣き続けるキョウヤを、ただ穏やかな眼差しで見詰めていた。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 19/05/2026
お題「花畑」(1/2)カラキョウ ※ちょっと不穏ですがハピエンです。 うっかり生死の境をさまよってしまったkrsbさんのお話。kyくんが間に合ったおかげで、ちゃんと帰ってきます。 ※前回のワンドロワンライ用に書いたものです ※xより再掲
ふうわりと、風が頬を撫でていった。
柔らかく、優しい感触。グラスコードが軽い音を立てて。
目を開くと、そこは。一面に広がる花畑だった。
なだらかな丘がどこまでも続いていて、空は青く。名前も知らない、色とりどりの小さな花たちが風に揺られてささやかに揺れている。
絵に描いたような穏やかな景色。
その中で、カラスバは一人立ち尽くしていた。
時折小さな花びらが風に吹かれて通り過ぎていく。それを目で追いかけながら、ぼんやりとカラスバは辺りを見渡した。誰もいない、風と草花の揺れる音しか聞こえてこない。ただ可憐な花だけがずっと彼方丘の向こうまで咲いている。
どうして、ここに。
考えながら一歩足を踏み出して、カラスバは歩き始めた。足下の小さな花をできるだけ避けるようにして進んでいく。淡い彩りの中に浮かぶカラスバの暗い色のスーツ。さあ、とまた柔らかな風が吹いた。
(……ここは、あったかいなぁ)
熱くもなく、寒くもない。
ただただ穏やかで、安らかな。見覚えのない場所なのに、心までも凪いでいくような心地だった。
ここでは何に追い立てられることもない。きっと飢えることもない。何一つ、カラスバを害するものはない。
(あの向こうには、何があるんやろか)
青い空と、花が咲く丘の向こう。
美しい地平線の先に、どうしてか強く心惹かれた。風はあちらから吹いている。あの向こうに何があるか知りたい。行きたい。行かなくてはならない、ような。
(そうや、きっとあそこに行くために、ここに)
迷いなく足は進んでいく。囚われてしまったように地平線の先から目が離せなかった。そよぐ風もたくさんの花びらたちも、みんなカラスバを導くように、揺れて。
「……さんっ!」
その時だった。
ぐわん、と空から大きな音が響いた。暫く反響するように鳴っていた音はすぐに聞こえなくなったが、驚いてカラスバは足を止めた。周りを見渡すが世界は何も変わっていない。今聞こえるのは風の音だけ。青い空と、美しい丘。穏やかな景色。
気のせいか? いやでも、と今度は頭上を見上げた。
空は青く澄み渡っていて、雲一つない。一面真っ青な空がカラスバの頭上に広がっている。綺麗な空だ、何もおかしくはない。でもさっきの音は上から、と訝しむようにカラスバが空をぐるりと眺めていると。
「あ、」
一つ、気がついた。
太陽がない。
この空には、太陽がないのだ。
こんなに穏やかなのに。こんなにあたたかいのに。
そんなわけ、とカラスバはあちこち振り返りながらその姿を探す。けれどどこを見渡しても青ばかりで、空には燦々と輝いているはずの太陽が見当たらない。
どうして、と何故か気持ちが焦っていく。
この場所はこんなにも穏やかで、安らかで、まるで至上の楽園のような場所なのに。
ただ一つ足りない。
これじゃいけない。
どんなに完璧な世界でも、カラスバにとって、それは。
なくてはならないもの。
「……バさん、」
また、声が聞こえた。
同時にぽつ、と頬に触れる小さな感触。確かめるように触れた指先が濡れて、すぐにそれが水滴だとわかった。水、どこから。上から?
再び空を見上げると、あれだけ晴れていた筈の空はいつの間にか一面灰色に染まっていた。どんどん黒くなって、あっという間に雨が降り始める。呆然と空を見上げるカラスバ。打ちつける激しい雨。服が濡れて重たくなって、ひどく寒い。眼鏡のレンズも水滴で歪んでよく見えない。それでもただ、真っ暗な空を見上げ続けた。
そうだ、この景色には見覚えがある。
あの時も雨が降っていた。
いつも突然降り始める。ミアレの暗い、灰色の空。
「……カラスバさんっ!」


は、と。
次いで目に入ったのは、必死に叫ぶキョウヤの顔だった。
キョウヤ自身もずぶ濡れで、それでも構わずカラスバの体にしがみついている。何度も揺さぶっていたのだろう、スーツの裾を強く強く握り締めて、額が触れそうなほど顔を覗き込んで、必死に。
「カラスバさんっ! しっかりしてください、俺のことわかりますか?!」
降りしきる雨の中で。濡れた前髪を額に貼り付けて、頬を上気させて。痛々しく眉を寄せながらも真っ直ぐにこちらを見詰める眼差しは強く眩しいほどだった。
そう、そうだ。
この輝き。
これが、あの世界に足りなかったもの。
どんなに完璧な世界でも、カラスバにとってなくてはならない、ただ一つの。
大切な。
「……ゥヤ」
どういう訳か、喉が掠れて上手く声は出なかった。けれど思いは伝わったのか、カラスバにとっての目映い輝きはその名前を呼ばれて震えたようだった。大きな瞳がぶわりと揺らぐ。頬が濡れているのは雨ではなくて涙かもしれない。拭ってやりたい、と思って手を伸ばそうとするのに。腕がひどく重くて持ち上がらなかった。
どうして。
そういえば頭も上手く動かせない。
いったいなんだ、と思っているとキョウヤの後ろから見覚えのある大きな影が駆け寄ってくる。
「キョウヤさん!」
「ジプソさん、カラスバさん気がつきました! 今、俺の名前呼んで……っ!」
「もうすぐ医者が来ます! そのまま起きててくださいよ、ボス!」
「カラスバさんっ、カラスバさん!」
聞こえてきたのはジプソの声だった。キョウヤも必死に呼んでいるのが聞こえるが、視界が霞んでいてよく見えない。二人とも耳元で叫ぶものだからうるさくて仕方ない。
わかってる、聞こえてる、いったいなんや、と。そう口にしたつもり、だったのだけれど。
結局、カラスバの意識はそこでぷつりと途切れた。


「……一般市民に被害は出ておりません。物損について周辺の方々にはガス系統の事故で説明してあります」
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のあね @noane-dec.bsky.social · 15/05/2026
自炊(2/2)カラキョ このkyくん家庭環境ぼんやり ・両親ともに他界 ・父は幼い頃に先に事故で。母は生まれつき病弱で、晩年はまだ十代のkyくんが看病してた ・自炊は病人食なら実は出来るけど、自分だけ普通のご飯食べる気になれなくて買って来たり貰ったりして、自分では作る気になれなかった、とか文字数 特に触れたりしてませんが、なんとなく弊生産ラインのkyくんの背景はこんな感じのイメージです
キョウヤはそれに戸惑っているのか、そわそわとしていてカップを手に時折カラスバの方を見てはまた視線をそらしてと落ち着きがない。けれど向かいに座るカラスバは何でもない風にただコーヒーに口をつけるばかりで。
結局耐えきれず、キョウヤから口を開いた。
「あ、の。キッチン、本当にすみませんでした。ぐちゃぐちゃにしちゃって、片付けまで……」
「ええよ。大したことやあらへん」
さらりと答えられてしまうと、それ以上が言えなくなる。キョウヤがそれでもなんとかいや、とかでも、とか続けようとするので、カラスバはちらりと視線だけで彼の様子を見遣った。うんうん唸っているが、コーヒーのおかげかだいぶ顔色はよくなっている。表情も強ばりがなくなって、思い詰めている様子はない。内心でそっと胸を撫で下ろす。
「……あんな、オレが飯作るのはお前と飯食いたくて、好きでやってるんやで」
え、と。キョウヤが不意をつかれたように言葉を失う。カラスバはそんな彼を真っ直ぐ見詰めながら、自分の想像がやはり間違っていなかったことを悟る。
キョウヤはいつも作って貰ってばかりだから、たまには自分がやらなきゃ、と言った。
やらなきゃ、なんて。そんな必要はない。
「オレも別にそんな料理好きってわけでもないしな。でも、まあ」
ただ一つ、これだけ。
「お前と食べると飯が美味いから、そうしたいって思うだけや」
夜はオレが疲れさせてまうしな、なんて。
冗談交じりに言って笑ったが、キョウヤがすぐに反応することはなかった。ただ目を丸くして、カラスバをじっと見詰めて。やがてほんの少し目を潤ませながら、なんですかそれと言って小さく笑った。カラスバは満足げにするだけで、それ以上は何も言わずに。
キョウヤの過去を、料理に関するトラウマを。知りたくないと言ったら嘘になる。
けれど知ったところで今と、この先は変わらないとカラスバは思う。一緒に何度でも食事をするし、カラスバが朝食を作ることもあるし、いつか二人で作ることもあるかもしれない。でもキョウヤがしたくないならそれでもいい。
ただ、二人で。
こうして同じ食卓につくということが、意味のあることで。
恐らくキョウヤにとってもそうであろうと、涙目で笑うキョウヤの姿を眺めながらカラスバは静かにそう思っていた。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 15/05/2026
お題「自炊」(1/2)カラキョウ ※kyくんが自炊苦手 ※kyくんの背景独自設定強めなのでご注意ください 幼い頃の家庭環境から自炊苦手(できない)kyくんが、それでもkrsbさんにご飯作ってあげようとするんですけど、失敗しちゃうお話。krsbさんはそんなkyくんも受け止めてくれます ※前回のワンドロワンライ用に書いたものです ※xより再掲
けたたましい音で、目を覚ました。
金属がぶつかり合うような高い音と、箱の中身を全てひっくり返したような騒音。反射的に飛び起きて周囲を確認すれば、そこは見慣れたいつもの部屋。カラスバが使用しているセーフハウスの寝室だった。ほんのりと明るいのは朝が来ているからだろう。寝る前となんら変わらない景色。物が倒れているような様子もない。
となれば、音の原因は部屋の外から。まさか、と思うが最悪の可能性がカラスバの脳裏を過る。
侵入者。
すぐさまサイドチェストの上にあった眼鏡を手に、ベッドを降りて部屋の扉へ走った。心臓が嫌な音を立てる。手足がどんどん冷たくなる。嫌な想像ばかり頭を巡るのは、ベッドの上に一人きりだったから。
寝る前は二人、だったのに。
ろくに外の気配も確認せずにカラスバは部屋を飛び出した。廊下に変わった様子はない。玄関も無人。それならと真っ直ぐリビングへ向かう。広いリビングダイニングはバルコニーに繋がっていて、大きな窓もある。侵入するには最適だろう。朝なんて目立つ時間には珍しいが、襲われる心当たりなら数え切れないほどある。
(無事で居ってくれ……!)
隣にあったはずの温もりを思い出しては気持ちが焦る。まさかさっきの物音はガラスが突き破られたんじゃ。
「っキョウヤ!」
ドアを開けて夢中でリビングに飛び込む、と。そこには。
散乱するフライパンにボウル、お玉にへら。
それから。
「……カ、カラスバさん」
溶いた卵や砂糖を服にべったりとつけて、床にへたり込んだ状態のキョウヤが居た。


「ごめんなさい。朝ご飯、を作ろうと思ったんです。い、いつもカラスバさんに作ってもらってばっかりだから。たまには俺もやらなきゃって、でも、ちょっと失敗、しちゃって……」
キョウヤは呆然と床に散らばった朝食になるはずだったものたちを見回しながら、ぽつぽつと口を開いた。その顔は青く、酷くうろたえていて生気がない。
「スマホロトムでレシピ見てたんですけど、色々やってたら周りをちゃんと見てなくて。動いた時にフライパンに当たっちゃって、慌ててたらなんか全部ひっくり返しちゃったんです。……ほんとに、ごめんなさい」
言われてカラスバがキッチンの上に目を向けると、ガスコンロにはまだ火が点いたままになっていた。周りに飛び散った卵も焼けてこびりついていて、そうなると当然床に落ちたフライパンも熱を持っているだろう。すぐにカラスバは落ち着いて火を消すと、キョウヤのそばにしゃがみ込んで手を取った。フローリングの上でぎゅっと強く握り締めていた手は寧ろ冷たくなっていて、肘あたりまで見渡しても火傷の痕は見当たらない。
「怪我ないか?」
淡々と。けれど穏やかな声で、カラスバは尋ねた。服の上からも慎重にキョウヤの様子を確認する。フライパンは手の届かないほど遠くでひっくり返っていたし、包丁も今はシンクの横に放られていたがこの惨状ではどこに怪我をしていてもおかしくない。エプロンもつけていないため直接汚れたTシャツは卵などが付いているだけで、血の痕などはないようだったが。
キョウヤはびっくりした様子で目を丸くしながらおどおどと頷く。
「あ、はい。俺はなんとも……」
答えながら手を取ったカラスバが立ち上がるので、キョウヤも続いてどうにか立ち上がった。カラスバはキョウヤの体についた砂糖やパンくずなどを軽く手で払うと、もう一度ざっと体のどこにも怪我がないことを確認して。
「なら着替えといで。ここはオレがやっとくから」
「え、でも、」
「ええから」
行っておいで、と。有無を言わさず静かに言うと、キョウヤはしばらく困ったように眉を寄せたまま散らかった床とカラスバを交互に見遣って。かなり迷っていたようだったが、やがて小さくごめんなさいと呟くと、そっとその場を離れていった。途中散乱する調理器具などを踏まないようにじっと見守っていたが、さすがにそれらを踏むことはなく。キョウヤはゆっくりと風呂場の方へ向かって歩いていった。ドアが閉まる音を聞き、改めてカラスバはキッチンの惨状に目を向ける。床もシンクもあちこち酷い状態だったが、よく見れば奥のバルコニーに続くカーテンは開けられていて、ダイニングの中は明るく、朝日が差し込む光景は穏やかそのもので。
はあ、とようやくそこでカラスバは一つ息を吐いた。
なんてことはない。いつもと同じ、ただの平凡な朝だ。
そう思うと途端に飛び起きて走ってきた自分がやや気恥ずかしくなって。それをごまかすように、カラスバは咳払いをしてから散らかったキッチンの片付けに手をつけ始めた。
(……卵、砂糖、牛乳にパン。フレンチトーストやな、多分)
そう当たりをつけながら、カラスバはあっという間にに手際良くキッチンの中を片付けていく。調理器具は台所の上に戻して、床に飛び散った卵や砂糖などを拭き取って。ボウルには生クリームを作ろうとしていた形跡もあった。色々やってて、というのはあれもこれもと平行して一度に作業しようとしたんだろう。油やバターも蓋が開いたままだったり、切り分けてそのままだったり。
どう見ても、料理に慣れているとは思えない。
最初に見つけた時の、床に座り込んでいたキョウヤの様子を思い出す。顔は真っ青で、まるで人でも殺してしまったかのようなうろたえようで。
この惨状を加味しても、ただ料理に失敗しただけにしては大袈裟過ぎる。
蛇口の水を止めながらカラスバは一人目を細めた。
多分、料理に対して苦手意識だけでは済まない、何かトラウマのようなものがキョウヤにはある。
「……あの、服、お借りしました」
あらかた片付けを終えたところで、キョウヤがキッチンに入ってきた。見れば置いたままにしていたカラスバのシャツを着ていて、やや大きいのか肩幅が少し余っている。
「ええよ。コーヒーでも淹れよか」
それに小さく笑みを浮かべると、穏やかに言ってカラスバはキョウヤをダイニングの方へ促した。


朝のちょっとした騒ぎが嘘のように、静かな時間が流れる。
二人分のコーヒーと無事だった菓子パンを小さなバスケットに入れて、二人は四人がけの広いダイニングのテーブルに座る。
カラスバは、何も言わなかった。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 03/05/2026
お題「風邪」(2/2)
ったりしないのに、どうしても勝手に依頼断られたことが許せなくて何するんですかって子供みたいに喚いて。最悪な態度でホテルZまで帰って来た。
心配、してくれてた、だけなのに。
「キョウヤ!」
最後、怒ってた。
クソガキって、言ってた。
失望、されたかも。
だから知られたくなかったのに。
俺よりずっと頑張ってるあの人に知られたら、頼りないって思われたら。
役に立たないって言われたら、どうしよう。
ああ、熱い。喉が痛い。頭も痛い。体が痛い。
もう、愛想尽かされちゃった。
だいすきだったのに。
カラスバさん。


「誰が別れんねん、このアホ」
そうっと頬に、冷たい手のひらが触れた。
目元を親指で拭うみたいに何度も優しく撫でてくれるから、心地よくて。キョウヤはその手に顔を寄せる。
「泣くほど辛いんやったら、ちゃんと言えや」
ったく、と。息を吐いて、カラスバは強張っていた肩から力を抜いた。キョウヤの頬に触れた手は離さないまま。
時計の針は零時を回って。すっかり真夜中になった頃仕事を終えたカラスバは再びホテルZを訪れていた。常識外れな時間にやってきたカラスバを事情を聞いたらしいピュールが仕方なさそうに迎え入れてくれて、ちゃんと面倒見てくださいねと念を押された。当然頷いて202号室へ向かう。
部屋にはキョウヤが一人で眠っていた。
恐らく直前までそばに誰かがついていてくれたんだろう。ベッド脇に置かれた備え付けの椅子に今度はカラスバが座って、キョウヤの様子を窺った。暗がりで、窓ガラスから漏れるほのかな星明かりだけでその顔を見詰めると。その頬には幾筋もの涙の跡があった。何なら今もって、すうっと新しい涙が零れていて。
慌てて前のめりになった途端、聞こえてきたのは、小さな寝言だった。
カラスバさん。
あつい。
あいそつかされちゃった。
だいすきだったのに。
なんて。そう言ってまた泣くから、慌てて頬に触れて涙を拭った。キョウヤが泣く姿を見るのは、これが初めてのことで。腹の底が冷たくなって仕方ない。生きた心地がしなかった。
だいすきだった、なんて。
どんな夢見てるか知らないが、何がどうして別れるなんて話になるんだか。
理不尽な怒りも芽生えるが、それでも初めて見る弱りきった姿と。気づけなかった自分にも非があると考えて怒るようなことはしなかった。
今はそれより、彼を一人で泣かせないこと。
「キョウヤ。……キョウヤ、起きや」
風邪を治すには眠った方がいいんだろうが、無理にでも起こすと決めて声をかける。熱い頬を指先でくすぐってやると、やがて涙に濡れた目蓋が開いた。
「……え、カラスバ、さん?」
「おん。おはようさん」
とりあえず言いたいことがあるんやけどな。
「オレのこと捨てんといてや」
そういって小さく笑うと、目を丸くしたキョウヤの瞳から。最後の涙が一筋頬を伝ってシーツに落ちていく。
頬に触れていた手を両手でぎゅうと掴んで、キョウヤはくらくらする頭を何度も何度も縦に振って頷いた。



「この度はご心配おかけして大変申し訳ございませんでした!」
「今度から具合悪い時は絶対連絡するんやで」
「……はい。あ、じゃあカラスバさんも連絡してくださいね」
「…………」
「ちょっと!」
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のあね @noane-dec.bsky.social · 03/05/2026
お題「風邪」(1/2) ※この二人はお付き合いしています。 ※ワンドロワンライ用に書いたものです。 ※xより再掲 冒頭ちょっと不穏ですが、最後は甘めかと思います。 風邪を引いてしまったことを、知られたくなかったキョヤくんのお話。
「おい、ちょお待てや!」
「ついて来ないでください」
それは、日も傾いた夕暮れ時。ホテルZには今日も一日来客がなく、このまま店じまいかなーなんて呑気にデウロが受付で頬杖をついていた時のことだった。物静かなロビーに突然の嵐。入り口のドアが乱暴に開け放たれて、びっくりしたデウロが振り返るとそこにはMZ団の仲間のキョウヤと。その後ろから彼を追いかけてくるサビ組のボス、カラスバの姿があった。
慌ただしく入ってきた二人はなんだかただならぬ様子で、ずかずかと先を歩くキョウヤは明らかに怒っている。引き止めるカラスバを待つことなくロビーを通過して真っ直ぐエレベーターに向かっていく。
「キョウヤ!」
こちらも怒っているらしいカラスバの怒鳴り声が響く。それでもキョウヤはデウロが立つ受付にも目もくれずさっさと前を横切って、丁度降りてきていたエレベーターに乗って素早く閉まるボタンを連打した。
そうして背後のカラスバを振り返り、冷たい眼差しで一言。
「今顔見たくないです」
そうしてあっさりと、無情に、エレベーターの扉はカラスバの目の前で閉まってしまった。
「あいつ、あのクソガキ……!」
続いてカラスバがエレベーターを呼び戻そうとするので、それまで呆然と二人のやりとりを眺めていたデウロははっと我に返った。何があったか知らないけれど、キョウヤはMZ団の仲間。いつだってデウロはキョウヤの味方だ。
急いでエレベーターの前に飛び出すと、両腕を広げてカラスバの前に立ち塞がった。
「待って! な、何なんですか突然来て。キョウヤに酷いことしないで!」
未だにカラスバのことはよくわからないし、怒っていていつもより余計に怖い。けれどその気持ちを押し殺してデウロはカラスバの顔を見上げて叫んだ。相変わらず特徴的なグラスコードを下げた、眼鏡越しに覗く鋭利な眼差しが小柄なデウロへ視線を向ける。
「あぁ? オレはただ……って。いや、ちょお待て」
カラスバの威圧感にびくっと体を震わせたデウロの姿を見て。彼は少し冷静さを取り戻したようだった。
自身を落ち着かせるようにトーンダウンしてそう言うと、一度ふうと息を吐いてから。自分の目の前に立つデウロにもう一度目を向けた時には、カラスバの瞳から怒りの色はほとんど消えていた。
「違うねん。ちょっと聞いてくれるか」
オレもう仕事行かなあかんから。
その言葉にデウロが首を傾げると、カラスバはここに来るまでに起きた出来事を手短に話し始めた。


「……キョウヤー、ちょっといい?」
トントン、とデウロは202号室の扉を叩いた。聞き耳を立てても中は静まり返っているようで、いくら待ってもキョウヤの返事が聞こえてこない。
「入るよ?」
言いながら、デウロはマスターキーで部屋のドアを開いた。勝手にごめん、と思いつつ恐る恐る中へ足を進める。二歩、三歩。全く人の気配がしないからびくびくしながら、でも早く確かめないとと、思って。
そんなに広い部屋ではないから、すぐにベッドが見えてくる。同時に見えたのは、投げ出された両足で。
「キョウヤ!」
慌てて駆け寄れば、キョウヤはベッドの上で上着やハットもろくに脱がないまま、力なく倒れ込んでいた。
真っ赤な、顔をして。
「たまたま通りであいつ見かけた時な、様子がおかしかったんや。声かけたら何でもない言うんやけど、明らかに反応も鈍いし顔色も悪い。でもこれから依頼で待ち合わせに行く言うから、引き止めたんやけど全然言うこと聞かんくて」
そうだろうなあとデウロは思う。キョウヤはあれで頑固なところがあるから。
「詳細聞き出してオレが勝手に断ったんや。今日は無理やから後日にしてくれって、マチエールにな」
確かに今朝マチエールさんの依頼を手伝うと言っていた。その時は体調が悪そうなんて、全然見えなかった。
「そうしたらアレや。余計なことするなって怒って、もっかい電話して無理矢理でも手伝い行こうとしたんやけど、マチエールにも袖にされたらしくてな。完っ全に逆ギレしてオレと追いかけっこしながらここまで戻って来たってわけや」
そっとキョウヤの額に冷却シートを貼って、ベッドの隣に引っ張ってきた椅子に座る。ピュールにも声をかけて着替えさせたり水を飲ませたりしてベッドに寝かせたキョウヤは、今は少し落ち着いたようだった。
それでも呼吸は荒く、時折咳き込んでいて。きっと眠りは浅いんだろう。よく唸っては苦しげに眉を寄せている。
「全然気付かなかったよ。隠すの上手いんだから、もう」
ピュールは薬や食料など必要なものの買い出しに行ってくれている。思い返せばそういうことはいつもキョウヤがしてくれていて、キョウヤ自身が倒れたことはこれまで一度もなかった。多分、朝から調子が悪かったのに無理をしていたんだろう。頑張りすぎるくらい、頑張ってしまうヒーローだから。
「……カラスバ、さん」
ふと、小さく何か言ったかと思ったら。ここには居ない彼の名前。
聞いてしまったデウロは小さく目を丸くしたあと。少し困ったような顔をして眠り続けるキョウヤの寝顔に微笑みかけた。
「あの人にくらい、甘えなきゃダメだよ」


朝、起きた時から。少し喉が変だなと思っていた。
元々予定してたバトルが始まった頃から、頭も痛くなって。
終わってマチエールさんとの待ち合わせに向かう時には、喉の痛みも無視出来ないくらいになっていて。まずいなとは思っていた。それでも約束を反故にはしたくなくて予定通り向かって。
その途中で、あの人に見つかった。
絶対に、会いたくない人だった。
誰にもバレてないみたいだったし、顔見知りの子供達に手を振った時も何も言われなかったし。ヌーヴォーの前を通り掛かった時だって大丈夫だった。
だから大丈夫、と思いたかったんだけど。
「おい、待てや。お前顔色悪いで」
低い声と、いつもより肩を強く掴む手。
何より眉間に深く寄ったしわが、怒ってるんじゃなくて、心配してるんだってわかるから。
余計に。
見られたくなかった。
「なんともないですよ。カラスバさんこそ、寝てるんですか?」
精一杯いつも通りに振る舞ったけど、全然ごまかされてくれなかった。
それからはあれよあれよとこの後の予定を聞き出されて、勝手に依頼断られて。いつもならあんなに怒
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のあね @noane-dec.bsky.social · 28/04/2026
酔っ払った🟢くんのお話長くなりそうでちょっとまた後日に🫠(もちろん🟣🟢) また直すかもしれませんが冒頭こんな感じです。 酔っ払って普段言わないようなことを言っちゃったりして、🟣さんがびっくりする、みたいなお話になる予定です。(この二人はお付き合いしてます)
「やっぱそこの店で飲んでたらしいっす。なんでも依頼のお礼とかで、飯奢られてたらしいんすけど、途中から調子よく飲まされたらしくて」
僅かに見えた口元から、うう、と唸るように小さく声が聞こえた。虚ろに頭も振っていて、恐らく顔を上げようとしている。覗いた首元は暗がりでもわかるほど赤い。
「帰り際大丈夫って言って店は出たらしいんすけどね。大丈夫じゃなかったっすねこりゃ」
下っ端の話を聞きながらキョウヤの様子を窺っていると、ようやっとキョウヤの頭が持ち上がった。ふらふらと視線をさまよわせながら、周りを見回す。
「あ、おれなら、らいじょうぶです……。ありぇ、からすばさん?」
自分を囲む下っ端たちの足下を順番に眺めた後、最後にすぐ隣にしゃがみ混んでいたカラスバに目を向けて、キョウヤは首を傾げた。ようやくその顔を正面から見据えて、カラスバは思わず眉を寄せる。
真っ赤に染まった顔。とろんとした目元はいつより潤んでいて視線が定まっていない。多分本人からは視界がぼやけていてよく見えていないんだろう。何度も瞬きを繰り返してはどうにかカラスバの位置を捕らえようとしている。けれどアルコールの回った頭はふわふわで、体も右へ左へ頼りなく揺れていて。
ついには頭が支えきれないのか、カラスバに手を伸ばそうとした途端、かくんっと頭から後ろへキョウヤの上体が倒れてしまった。ぽす、と路地へ落ちるハット。慌てて支えようとした周囲の誰より早く、カラスバが肩を抱き寄せたのでひっくり返ることはなかったけれど。
背後のメガニウムから自分の首元の方へ頼りない頭を引き寄せ、寄りかからせるようにしてふにゃふにゃの体を支える。スーツを着込んだカラスバにもわかるほど、キョウヤの体はすっかり熱くなっていた。酔いが回っているんだろう。地面に投げ出された足には全く力が入っていないし、こんな状態で歩いて帰れる筈がない。具合が悪くなさそうなことだけが唯一の救いだった。
「カラスバ様、車の方へ」
後ろからやってきたジプソがタイミングを見計らって声をかける。自身にもたれさせながらキョウヤの様子を窺っていたカラスバは、一度ちらりと右腕の方へ視線をやった。そうやな、と言いかけたところで。不意に、キョウヤの手がカラスバの服を掴んだ。お腹のあたり。どうにか持ち上げた片手できゅうと紫色のシャツを握り締める。
からすばさん、と口の中で小さく呼んだようだった。
「……いや、ええわ」
キョウヤの頭を見下ろしながら、カラスバは静かに言って乱れた髪を小さく撫でた。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 26/04/2026
お題「買い物」(2/2)カラキョ お題薄味ですがお友達感覚で仲良しなカラキョウがやりたかったんです楽しかったです。
でもないよと控えめに笑って首を振った。やっぱりどこかおかしい。
デウロはキョウヤの隣のソファに座ると、じいっとその顔を覗き込んだ。けれどキョウヤは何も言わず、また遠くを見ている。
やっぱりおかしい。
暫くキョウヤの表情を窺うように眺めていたデウロだったが、そういえばとはたと気がついて口を開いた。
「最近、カラスバと一緒に居るとこ見ないね?」
最後に二人がショッピングしているのを見かけてから、数週間が経っていた。そういえば最近二人で居るところを見かけていない。
不思議に思って首を傾げると、カラスバの名前を出した途端びくっとキョウヤが大袈裟に肩を震わせた。かと思えばぎこちなく視線を泳がせて、うっすらと顔を赤くして答える。
「え、そ、そうかな?」
そんなことないよ、と。話す様子がもう明らかに不自然だった。これはあれだ、絶対に何かあった、とデウロは確信する。
っていうか。
(あれで付き合ってなかったんだ……)
虚ろな眼差しをして、デウロはおどおどと顔を赤くして困っているキョウヤの様子をただ静かに見詰めていた。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 26/04/2026
お題「買い物」(1/2)カラキョウ 街のあちこちでカラキョウに行き会っちゃって、突っ込まずにはいられないデウロちゃんのお話。 ※ほとんどデウロちゃん視点です。 ※二人は多分無自覚両片思いくらい。このあとカラキョウになります。 ※ワンドロワンライ用に書いたものです。 ※xより再掲
「あれ、キョウヤ?」
昼下がり。通りを歩いていたデウロは、とあるカフェのテラス席に見知った姿を見つけて思わず声をかけた。
路地裏の薄暗い席で、表通りに背を向けるようにして座っていた彼が振り返る。
「デウロ」
「今日はここに居たんだね。ワイルドゾーンに行かないなんて、」
珍しい、と。続けようとした言葉が、何気なくキョウヤの向かいの席に視線を移した途端にひゅっと喉の奥に引っ込んだ。その姿に驚いて思わずうえっと変な声をあげてしまう。
「カラスバ!?」
声をあげて大袈裟に一歩後ずさる。けれど動揺しているのはデウロだけで、向かい合って座る二人は何でもないように、さも当たり前のような顔をして平然と腰を下ろしている。テーブルには二人分のコーヒーカップ。一緒にお茶をしていたことは間違いない。
MZ団のキョウヤと。サビ組のボスであるカラスバが、一緒にお茶。
「めっちゃ驚いてるやん」
「あれ、よく一緒にカフェ行ってるって言ってなかったっけ?」
(聞いてない! っていうかよく一緒に行ってるんだ……)
なんて思っても何も言えずぱくぱくと口を開閉させるデウロをよそに、カラスバは一人呑気にコーヒーを啜っていた。カラスバさんからもなんとか言ってくださいよ、なんてキョウヤは言っているがデウロはそれどころではない。
デウロにとってはカラスバは大の苦手で、未だにあまりお近づきになりたくない相手だったから。
その日は挨拶もそこそこに、顔を引きつらせながらデウロは足早にその場を後にした。


また別の日。
「あ、キョウヤ」
今度はたくさんのブティックが建ち並ぶパサージュの一角で。デウロがお目当ての店に向かう途中、ある店の前でキョウヤの姿を見かけた。MZ団のロゴ入りジャケットはよく目立つ。
彼が振り返ると、その手には既にショッピングバッグが一つぶら下がっていた。一瞬依頼かもと思ったけれど、キョウヤもショッピングに来ていたらしい。駆け寄ったデウロは弾んだ声で話しかける。
「なに買ったの? トップス?」
「うん。似合うって勧められて、つい」
キョウヤが嬉しそうに答えるので、デウロも楽しくなって前のめりに尋ねた。
「そうなんだ! 店員さんに勧められたの? お店の人って上手だよねえ」
私も似合うって言われると何でも買っちゃう、なんて。
思い出して一人デウロが頷いていると、ううんとキョウヤは首を振った。
「この人に」
つい、とキョウヤが隣を指差す。そのまま自然とデウロが隣を見遣ると、それまで気付かなかったがキョウヤの隣には一人男の人が立っていた。Tシャツの上に暗い色のジップパーカーを羽織り、細身のカーゴパンツを履いたラフな格好のその人物はキョウヤとそう雰囲気が変わらないように見えた。ただ長く垂れ下がった前髪と、きつく結んだ口元。やや俯き加減な様子から余り目立たなくて。
でもよく見ると前髪の下には眼鏡をかけていて。更にその奥には、見覚えのある金色の瞳があって。
目が合った途端、ひっとデウロは息を呑んだ。
「えっ、カ、カラスバサン?!」
「ようやっと気付いて貰えたわ」
小さく笑った男は、キョウヤに向かって肩を竦めて見せた。
「気付かれないようにしてるんだから当たり前じゃないですか」
「せやけどここまで近付いたらなあ」
「若く見えるんですよ」
「今童顔言うたか?」
言ってません、なんて。ぽんぽん軽口を交わしているが、驚いて固まっているデウロはそれどころではない。まさか普段スーツ姿なカラスバがキョウヤと同年代の若者そっくりな格好をしているなんて。それでキョウヤと買い物してるなんて。びっくりしすぎて心臓が走り回った後のように跳ね回っている。
っていうか。
(勧められたって言ってなかった? カラスバさんに? キョウヤ、カラスバさんにこの服似合うよって勧められたの? しかもそれを買って、それをあんな、嬉しそうに)
っていうか、っていうか!
(この間といい何なの?!)
カフェで二人でよくお茶してて、こうやってショッピングまでしてて。しかもそのどれも二人きりで、今日なんて私服で。
「あの、ちなみに何で今日はスーツじゃないんですか……?」
デウロが恐る恐る尋ねると。二人はきょとんとした顔でデウロを見遣った。その後キョウヤはついとカラスバに視線を向けて。カラスバはそりゃ、と当然のように口を開いた。
「いつもの格好やと他のお客さんびびるやろ」
せやから。
カラスバが答えると、キョウヤもうんうんと満足したように頷いていた。
いやまあそうかもしれないけど。
そうかもしれないけど!
慣れた様子の二人に対しデウロの心は大荒れだった。
(それってつまり、お店の中に入って二人でショッピングするつもりだったってことだよね!? 勧めるだけならネットでも何でも方法あるのに?! っていうか何その気遣い! いやでもそういえばカフェの時も奥まった席に座ってたし、え? 二人の時間出来るだけ目立たずに静かに過ごしたかったってこと!? それってもう!)
それってもう、それってつまり!
(デート、じゃないの?!)
頭を抱えるデウロを前に、二人はこれどこで買ったんですか、ああこれは、なんて当たり前のように会話を続けていた。なんならもう距離まで近い訳だが。
最早パニックに陥っているデウロに、さすがにデートですよねと口に出すことは出来なかった。

それから暫く経って、またある日。
その日デウロがキョウヤを見かけたのは、ホテルZのロビーだった。
珍しく一人でポケモンも連れず、ぼうっと座り心地の良い一人がけのソファに腰を下ろして外を眺めている。普段あれだけ外を自由に駆け回っているのに。
「キョウヤ? どうしたの?」
もしかして気分でも悪いんじゃ、とデウロが歩み寄ると。いつもよりゆったりとした仕草で顔を上げたキョウヤは、デウロを見上げると。ややあってから何
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のあね @noane-dec.bsky.social · 19/04/2026
お題「髪に触れる」カラキョウ その髪に触れることができる、触れることを許されている、っていう現実を噛み締めている二人のお話です。 ※ワンドロワンライ用に書いたものです ※xより再掲
はらり、と目元に落ちる黒い髪。
「伸ばしとるんか?」
隣からじっと横顔を見詰めていたカラスバが不意に尋ねた。
依頼の内容を確認していたキョウヤは手元の書類から顔を上げて依頼主の男を見遣る。途端、また長く伸びた前髪が目元に影を落とした。
「ああ、はい。ミアレに来てからいろんな髪型試すの楽しくなってきたんで、今度はちょっと伸ばしてみようかなって」
何気なく毛先をつまんでそう答えると、男はふうんと気のないように呟いた後。キョウヤの後ろ髪へ視線を移した。伸びた横髪は耳にかけて。その後ろ項に沿って伸びた髪は首筋からあふれて鎖骨にまで届いている。健康的な肌色にかかる黒い髪。キョウヤの髪は全体的に量が多くふうわりとしている。
自然と、カラスバは手を伸ばしていた。
「ええやん」
首筋に手を差し入れて。鎖骨にかかった髪をゆっくりと後ろへ払うと、カラスバはそう言って楽しそうに笑った。手触りが気に入ったのか、結ぶ姿を想像して面白くなったのか、キョウヤには笑う男の胸の内はさっぱりわからなかった、けれど。
突然肌に触れた温もりに一瞬心臓がどきりと鳴って。上手く返事をすることが出来なかった。

(自分からは結構気安く触ってくる人だなーと思ってたなあ)
懐かしい、とキョウヤは思う。
朝の穏やかな日差しに包まれた部屋で。今、目の前に広がる光景はあの頃からは想像も出来ない。ミアレに来てから色々なことがあったけれど、今のこの現実が、一番信じられなくて。キョウヤはそっと目を細めた。ベッドの上。まっさらなシーツが心地よく、あったかいのは一晩ゆっくり眠ったからではなくて。
一人じゃないから。
キョウヤの目の前には、こちらを向いて眠る男が居る。大きな枕に片頬を埋めて、うっすらと開いた唇からは小さく寝息が聞こえてくる。眼鏡を外して、緩んだ目元には眉間にしわの一つもなく。力の入っていない姿はいつもよりずっと幼く見えた。
そしてそんな寝顔にかかる、長い前髪。
いつもはかっちりセットして根元から立ち上げ、横に流している髪が今は何の抵抗もなく垂れて白い額を隠している。その長さが鼻の先まで届きそうなほど伸びているなんて、キョウヤは二人で眠るようになるまで知らなかった。今は横を向いているから乱れた前髪の毛先は枕に向かって落ちているけれど。それでも邪魔そうに見えて、そっと手を伸ばした。キョウヤがシーツの中で身じろぐと、体の上に乗っていた男の腕が僅かにずれる。肌に直接触れる熱。いつの間にか、この重さも温もりも当たり前になってしまった。
ゆっくりと、紫がかった髪に触れる。
(……こんな日が来るなんて)
本当に、想像もしていなかった。
目蓋にかかっていた前髪を避けて。長い毛先は耳にかける。指先に絡んだ感触が心地よくてなんとなく数回前髪を梳いていると、何故だか不意に、泣きたくなった。
安心しきって眠るひと。
普段から肩に力を入れて、いろんなものを背負って、不用意に近付くものを威圧して。
その領域を犯すことを絶対に許さない。
自分から手を伸ばすことはあっても、他人に触れられるなんてあり得ない。
そんな人だと思っていた。
でも、今。こうしてキョウヤは彼に触れている。
一緒に眠って、同じベッドで目を覚まして。いつもは決して誰にも触れることを許さない、髪に触れて。
許されている。
とくべつ、と思うと胸が熱くなって。息をするのも苦しくなる。
心臓がきゅうと締め付けられるような。甘く切なく、嬉しいのに泣きたくなる、こんな気持ちをきっと。
「キョウヤ、」
気がつけば、いつの間にか目を覚ましていたらしいカラスバが、柔らかい金色の瞳でキョウヤを見詰めていた。一人で泣きそうになっていたキョウヤの心情なんて見透かしたように目を細めて、笑って。
そして手を伸ばす。
「おはようさん」
今度はカラスバの指が、キョウヤの髪に触れた。
いろんな髪型を試したくて、なんて言っていた頃より短くなった黒髪。耳の後ろへ手を差し入れて、後ろ頭を梳くように撫でて。心地よさにキョウヤが目を閉じると、カラスバは自然と細い首筋を辿って項を掴み、自身の方へ引き寄せた。
触れるだけの、ささやかな口付け。
前髪が重なり合う距離で目を合わせた二人は、幸せそうに笑った。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 06/04/2026
お題「開花」(2/2)カラキョウ
閉じて俯いた。
(うわー、恥ずかしい! 子供っぽかった? 笑われた? でも呆れてる感じじゃなかったし、もしかして、え、もしかして……!)
(あかん。もしかしてオレ、こいつのこと本気で、今更、え?)
暖かい春の日。
満開の桜の下で。
向かい合って視線を泳がせる二人の周りを、ポケモン達が駆け回る。彼らが恐る恐る、もう一度目を合わせるまであと少し。
桃色の花びらが舞う中で、二人が目を合わせたら。
もう一度目を合わせたら、その時は、きっと。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 06/04/2026
お題「開花」(1/2)カラキョウ 恋心無自覚なkrsbさんと、頑張って好きですって伝えてたkyくんの間にようやく同じ気持ちが芽生えた、ある春の日のお話。 ※街の公園に桜の木がある設定です ※xより再掲
「見てください、カラスバさん!」
暖かい春の日。
抜けるような青空の下で、揺れる薄桃色の桜の木と。
そこへ駆け寄って行く無邪気な後ろ姿。
「凄い! 綺麗ですよー!」
背後のカラスバを振り返って、両腕を大きく広げて、笑って。
その姿がまるで、世界中の幸せを集めたように、眩しいから。
気がついたら呆けた口から自然と零れ落ちていた。
ああ、本当に。

「俺、カラスバさんが好きです」
「さよか。それはおおきに」
それは、既に何度か繰り返されたやりとりだった。
ある時は事務所で、またある時はバトルの帰り道で。
真剣な眼差しで口にするキョウヤの言葉を聞きながら、カラスバはいつも薄笑いでおざなりに返事をしていた。じい、と真意を探るような真っ直ぐな眼差しを横目に。けれど決してそれ以上言葉を返そうとはしなかった。キョウヤの言っている好き、が。単なる友好の証ではないとわかっていても。いつも、素知らぬふりをして。
「……また、来ますね」
キョウヤは悲しげに笑うと、それ以上は追求せずに引き下がった。本当はちゃんと返事を聞きたい筈なのにぐっと堪えて、背中を向けて去って行く。その姿を見送りながら、カラスバは人知れず眉を寄せた。苦い気持ちが込み上げる。小さくなっていく背中。本当は引き止めたいと、思っていた。
後悔していた。
不用意に近付き過ぎたこと。その強さを気に入ったからって、明るい場所で生きる彼に無闇に近付いて干渉し過ぎた。結果キョウヤは何を勘違いしたのか日陰に生きるカラスバに好きだと言うようになって、その目には熱がこもるようになって。
後悔、していた。
自分のような人間が手を出してい相手じゃないのに。
(キョウヤはお天道様の下が似合う。オレがそばに居ったらあかん)
カラスバはどうやっても裏の世界から出ることは出来ない。自分の生き方に迷いも後悔もない。
だから本当は、こんななあなあではなくて、もっときっぱりと突き放すべき。
「カラスバさん、今日はすっごくいい天気ですよ」
突き放すべき、なのに。
わかっているのに。
「桜、見に行きませんか?」
笑いかける姿に。
まだ、もう来るなの一言も言えないでいる。

「みんな、待って待って」
あんまりいい天気だからと、キョウヤの手持ち達はみんなボールから出て石畳の道を駆け回っていた。
先導するように先を行くポケモン達に、キョウヤが慌てて後を追う。
結局、キョウヤに誘われるがまま事務所を出てきてしまった自分にカラスバは呆れていた。日陰に生きる自分が、とかなんとか考えていたのにこのザマは何だ、と後ろを歩きつつため息をつく。
カラスバのいつもの暗い色のスーツは重々しく、ちっとも晴天に似合わない。対するキョウヤはMZ団のロゴ入りブルゾンにハットで、普段同様爽やかそのもの。出で立ちだけでも正反対なのに、どうしてこうも近付き過ぎてしまったのか。
(いや、まあ今日は丁度仕事も区切りついたとこやったし。気分転換や気分転換。また好きとか言われたわけやないんやし、)
ぶつぶつと頭の中で言い訳を繰り返していると、不意に。先を行っていたキョウヤがわあ、と声を上げた。
「見てください、カラスバさん!」
駆け出す足音。つられて顔を上げれば、いつの間にか目指していた公園まで辿り着いていた。路地の石畳だけだった視界から一転。目の前に現れた、ピンク色に染まった桜の木々。
「凄い! 綺麗ですよー!」
まさに満開。公園の一角に揃って植えられた桜の木は、今日が見頃と言わんばかりに長い枝に大粒のピンク色を咲かせて優しいそよ風に揺られていた。手を伸ばせば届きそうなほど垂れ下がった枝がたくさん。目の前に迫って、溢れんばかりの花を咲かせている。
カラスバは思わず目を見張った。
下に広がる芝生の上には、他にも桜を見にたくさんの人たちが訪れていた。当然ポケモンたちの姿もあって、キョウヤの手持ち達も楽しそうにふわふわと舞う花びらを追いかけたり首を伸ばして胸いっぱい花の香りを吸い込んだりしている。
けれど、その中で。
カラスバの視界に映るもの。暗がりから引っ張り出して来た男を振り返って、大きく手を広げて笑う姿。
満開の桜の下。ハットの下で目を細める姿が、本当に嬉しそうで。興奮して上気した頬も、無邪気に緩んだ口元も、両腕を空いっぱいに伸ばす、少年のような仕草も。
その何もかもが。
ああ、本当に。
「可愛えな」
その言葉は、呆けた唇から簡単に零れ落ちていた。ほとんど無意識で、自分がとても柔らかい眼差しで、彼を見詰めていることにも気づかずに。
「……え?」
聞き返したのはキョウヤだった。
他にもたくさんの人が居る中で、木々も揺れて、ざわめきもあって、その声は小さなものだったのに。
「……ん?」
カラスバはキョウヤの声を聞いて我に返った。
今、自分はなんて言った?
なんて。
「えっ、」
見る見る内にキョウヤの顔が赤く染まっていく。首から上、シャツから覗く肌色がどんどん熱を持って色を変えていくのが、カラスバの目にもはっきりと見えた。
しかし同時に自分自身の顔も熱くなっていて。
「は、」
漏らした声は情けなく、慌てて手の甲で口元を隠したけれどそれだけでは到底動揺を隠せそうになかった。思わず顔を背けるが、心臓がけたたましく音を立てている。いやいや何やコレ、何でこんな、と思ってもどうにも静まらない。初めての感覚に目が回りそうだった。
一方のキョウヤもキョウヤで顔を赤くしたままひどく胸を高鳴らせていた。何故か焦っているらしいカラスバの様子から目が離せない。視線は合わないけれど、その姿から先ほどの言葉が冗談やからかっているわけではないとわかる。多分満開の桜に言ったわけでもない。ポケモン達に言ったわけでも、他の誰かに言ったわけでも、なくて。
(俺に、可愛いって、言った?)
考えて、また更に顔が熱くなる。息を呑み、咄嗟にキョウヤは胸元のシャツを握り締めるときつく目を
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のあね @noane-dec.bsky.social · 29/03/2026
英雄触れるべからず/カラキョウ うっかりボスのものに触れそうになった下っ端くんが、凄まれて「死ぬかと思った…」っていうお話です。 きっとネタ被りあると思うのですが、好きなネタはなんぼあってもいいと思って!
ミアレの夜の、闇は深い。
わざと暗がりの道を選ぶようにして、サビ組の一行は歩いていた。事情があって車は使わずに。ボスのカラスバを中心に構成員三人がその周りを囲んでいる。一人が先行、二人は後ろから。澄ました様子のカラスバに対し、構成員達は鋭い眼差しで辺りを見回していた。少しの異変も見逃さないように。さながら、よく躾けられた犬のように。
事務所まではあと少し。複数の固い靴音を響かせながら入り組んだ道に入った時、つと。先を歩いていた下っ端が足を止めた。
「うおっ」
声を上げて、自分の足下を確認すると。すぐに声を上げる。
「ボス!」
呼ばれたカラスバは、やや鬱陶しげに視線を向けた。今夜は既に仕事を済ませた後で気分が悪い。上手い話にころりと騙されてあちこちから借金していた阿呆に灸を据えるだけの簡単な仕事だったが、他人のせいにばかりして開き直る態度がカラスバの気に障って。結果ボスであるカラスバ自身も二、三発入れてしまった。あんな小物相手に。余計な手間だった、と表には出さずイライラしてたいところで。
突然の足止め。なんだ、と眉を寄せながら呼んだ構成員の元へ近付くと、目に入ったのは地面に倒れ込んだ人の足。
は、と息を呑んだ。
路地裏の暗がりで顔の方がよく見えなかったけれど、見なくてもわかる。見覚えのありすぎる服装。ブルゾンのグリーンが暗闇の中でも一際目を引く。好んで履くスニーカーも、間違いない。
カラスバは部下の横を通り過ぎて静かに倒れている人影に歩み寄った。遅れて後ろの二人もこちらへ駆け寄ってくる。ボスがそばへしゃがみこんだ所で、呆気にとられていた発見者の下っ端がはっと我に返って呟く。
「なんでこんなとこに、キョウヤさんが」
そう、倒れていたのは。ミアレの英雄とも呼ばれるMZ団のキョウヤだった。
凄腕のポケモントレーナー、ミアレの街を救った救世主。正義の味方、なんて称されることもある彼には、確かに一つの悪癖があって、けれどまさか。
「いつも通り、よく寝とるわ」
まさか本当に、と思っていた下っ端はその場でがくっとよろけて見せた。どうやら本当だったらしい。ミアレの英雄は宿に帰らずしょっちゅうベンチで寝過ごしているらしいっていう、噂。目撃者は何人も居て構成員達も聞き及んではいたが、まさか。夜も夜中の路地裏、それも地べたに寝転がっているなんて。
「あかんって言うてんやけどな。起きたらきつくお説教せな」
どうせ眠気の限界が来てここで寝てしまったんやろ、と。
言いながら頬に手を伸ばすカラスバの横顔は、穏やかなものだった。それまでの緊張感が嘘のように柔らかい口調。乱れた髪を避ける優しい仕草。一転した態度に構成員達が呆けて見入っていると、その間にカラスバは慣れた手つきでキョウヤの体を抱き起こした。頭を引き寄せ、膝の下に手を差し入れて、手際よくキョウヤを抱えて立ち上がろうとする。慌てたのは最初にキョウヤを見つけた部下だった。
「あ、ボス、俺が……!」
咄嗟に代わろうと手を伸ばす。
あ、馬鹿、と後ろから聞こえたけれどもう遅い。下っ端の手はキョウヤの体に向かって伸びていて、あと少しで触れる、というところで。
すげなく、弾かれた。
乾いた音が響く。短いそれはけれど重く、酷く、容赦なく。
目にもとまらぬ速さで、下っ端は一瞬何をされたのかわからなかった。やがてジンジンと痺れ始めた自分の手の感覚に気づいて、ようやくボスに手を叩かれたことを知る。理解した途端に痛い。骨に響くような、一撃。
「触んな」
呆然とただ自分を見詰める部下に、カラスバは低く言った。眼鏡の奥、宵闇の中に光る、細い金色の瞳。まるで野生の生き物のようなそれに、下っ端はびくっと体を強張らせた。喉元を掴まれたような威圧感。心臓が冷たくなって、その瞬間呼吸することを忘れていた。いや呼吸することを許されなくなったような、心地で。
すっかり萎縮した部下を横目にカラスバはキョウヤを横抱きにすると、自身にしっかりともたれさせて立ち上がった。そのまま凍り付く彼に構うことなく一人さっさと先を行く。
姿が暗がりに溶け込んだ後、後ろから来た二人が強張った肩にぽん、と手を置いた。
「さっきのはお前が悪いよ」
「っはあ、死ぬかと思った……」
肩を叩かれてようやく息を吐くと、だって、つい、と言い訳を口にしながら下っ端は額に浮かんだ汗を拭った。冷や汗だった。ただ仕事帰りのボスに重いもの持たせられない、荷物なら俺が、というだけのつもりだったのだけれど。
荷物なんてとんでもない。
「ボスの恋人に手なんか出してたら、マジで殺されてたかもな」
ぽんぽん、と肩を叩き哀れむような同僚の言葉に。改めて下っ端は肩を竦ませた。
そう、キョウヤはミアレの英雄。街の救世主。そしてサビ組のボスであるカラスバの、恋人だった。
本当に生きた心地がしない。基本的に身内に甘い所のある人だけど、キョウヤのことになったらカラスバは一切躊躇しないだろう。ボスのキョウヤへの執着はサビ組全員が知るところであったが、ほんの僅かな一瞬。組長を思うがこそ、の気持ちから生まれた油断だった。
あのまま手が触れていたらどうなっていたことか。外から見たらボスから恋人を奪うところだったのだ。
ごく、と息を呑んだ同僚を他の二人は哀れんだ。サビ組の構成員達は皆同様に親を慕っている。カラスバを尊敬し、その道についていきたいという気持ちはみんな同じで、だからこそわざとではないことはわかっていた。でも、それでも、許されないことはある。
「行くぞ」
気持ちを切り替えるように促して、後ろを任されていた二人は走り出した。元々三人はカラスバの護衛。ボスを一人で行かせるなんて言語道断だった。顔を青くしていた彼も気づいて慌てて後を追う。靴音が遠ざかっていく。
かくして暗い路地裏から、人の気配は一つ残らず消えていった。
021
のあね @noane-dec.bsky.social · 26/03/2026
お題「忘れ物」(2/2)カラキョ 結局お題からずれちゃった気がしますがご容赦ください💦
振り払うように眉を寄せてため息をつくと、カラスバは吸いさしの煙草を灰皿に押し付けた。ジュ、と音を立てて消える火。その脇に溜まった吸い殻。余りに突然吸い始めたからジプソは仕事ついでに新しいものを買いに外へ出ていた。余計な手間かけてんな、と思いつつ煙草でも吸ってないとイライラして仕方なかった。吸っていないと、何かに当たり散らしてしまいそうで。
そんな自分にもイライラする。
たった一人、居なくなっただけで。
こんなにも。
心が乱される。気に入っている自覚はあっても、まさかこれほどとは思っていなかった。これでは認めざるを得ない。格好つけて手放した彼のことを、自分はこんなにも。
空になった手をぎゅう、と握り締めた時だった。
気づく、扉の向こうの慌ただしさ。
「失礼します!」
そう言って入ってきたのは。
今日この街を出て行ったはずの、キョウヤだった。
「……は?」
思わずぽかんと声を漏らす。立ち上がることも忘れて呆然とデスクに座っているカラスバに対し、キョウヤは全速力で走ってきたように息を切らしていた。バッグを片手に肩で荒く息をしながら、カラスバの姿を見つけたキョウヤはその場から動くことはせず。部屋の入り口に立ったまま大きく息を吸うと、胸を張って大声で叫んだ。
「俺、帰って来ますから!」
額に汗を滲ませながら。真っ直ぐにカラスバを見詰めて、続ける。
「ちゃんと言ってなかったですけど、絶対に帰って来ます! だから、あの、えーっと、待っててください!」
時々連絡もしますからっ、あ、もう時間が!
何やら一人でわたわたし始めたキョウヤは、また急にくるりと身を翻して。
「絶対、俺のこと忘れないでくださいね!」
それだけ言うと、今度は挨拶もなしに凄い勢いで部屋から出て行った。外のざわめきは組員達の声だったようで、何やってんだお前、街から出て行ったんじゃ、とかそれぞれキョウヤに声をかけているようだった。けれどキョウヤの気配はあっという間に遠ざかっていく。すぐに静けさを取り戻す室内。彼が来る前と同じ静寂が訪れる。
彼が来る前と同じ。
けれど、どうしてなのか。
まるで、全然。違う景色に見える。
「……ははっ、なんやねんそれ」
今更になって笑えてきて、カラスバは一人肩を震わせた。相変わらず無茶苦茶な奴だ。突然街に来た時と同じように突然現れて、また突然去ってしまった。まるで嵐のように。
今朝列車に乗ったんじゃないのかとか、チケットはどうしたのかとか、それだけのためにわざわざとか、聞きたいことは色々あったけれど。
帰って来ると、彼は言った。
それだけで。
嵐が去った後のように、晴れやかな気分だった。数分前が嘘のように。必死になって叫んだ顔が今考えるとおかしくて仕方がない。
「はー、おもしろ」
言いながらつい、カラスバは手癖で煙草を引き寄せた。残っていた数本のうち一本を指で挟んで、ライターで火をつける。今日何度も何度も繰り返した手慣れた仕草。そうしてそれまでと同じ銘柄の煙を吸い込んだ、筈なのに。
「……まずっ」
どういう訳か、数分前とはまるで違う味がした。顔をしかめてカラスバはすぐに一口吸っただけのそれを灰皿に押し付ける。どうしてこんなもの、美味いと思って吸っていたのか。
カラスバは手で煙を避けると小さく笑みを浮かべた。
どうやらまた、煙草は必要なくなるらしい。
「忘れるわけないやろ」

後から聞いた話だが、キョウヤは朝乗った列車を途中で降りて、ミアレにとんぼ返りしてきたらしい。その後チケットを取り直したが、席がほとんど埋まっていてギリギリの時間の列車しかとれず。ミアレに戻ってきたはいいものの、サビ組事務所まで行って急いで駅に戻る時間しかなかったという訳だった。
「そういえばあの時、いつもと違う匂いしてませんでした?」
「さあなあ、そうやったか?」
010
のあね @noane-dec.bsky.social · 26/03/2026
お題「忘れ物」(1/2)カラキョウ 街からバイバイしようとして大事な忘れ物に気がついたkyくんと、置いてかれて煙草吸うしか感情のやり場がなくなっちゃったkrsbさんのお話 ※無自覚両片思い ※喫煙するkrsbさん ※前回のワンドロワンライ用に書いたものです(大遅刻) ※xにも同時投稿
タタン、タタン、と音を立てて。
列車が青い空の下を行く。
流れて行く景色を、窓際の席からぼうっと眺めていた。
よく晴れた春の日。
穏やかな日差しが降り注ぐ中、キョウヤはミアレを後にした。
駅にはたくさんの仲間達が見送りに集まって、涙ぐみながら手を振った。緑が芽吹いて、色づいた花びらがあちこちで咲いていて。キョウヤもそんな景色の中で小さくなっていくみんなを、列車の窓から身を乗り出していつまでも見詰めていた。
やがてそれも、見えなくなって。
今は一人。二人がけの席に座って、ただ外を眺めている。緑の中を進む列車。人もまばらな車内には、タタン、タタン、とレールの上を走る音だけが響いている。
心地よいリズムで揺れて。
どんどんどんどん、移り変わる景色。
新しい土地に向かって、心弾む時間のはずなのに。
どうしてだろう。
まだ、心がついていかない。
(寂しい?)
それはもちろん、寂しい。仲良くなった友達、仲間。一人一人の顔を思い浮かべれば、今でもすぐに会いたいくらい。
(でも、そうじゃなくて)
そういう寂しさ、じゃなくて。
もっと、落ち着かない胸の内。
例えるなら、そう。何か忘れて、いるような。
(忘れてる?)
何を。
荷物は何度も確認したし、みんなに挨拶だってした。タウニー、ピュール、デウロ。MZ団のみんなだけじゃなくて、マチエールやモミジ、カナリィやシローだって。
それにもちろん。
(カラスバさんにも)
目を細めたキョウヤの口元に、ささやかな笑みが浮かんだ。
思い出す。最後に挨拶した時のこと。サビ組の事務所でゆっくりと話をした。いつもお互い忙しなくしているからそんな風に過ごしたのは久しぶりで、他愛ない話でも楽しくて。
嬉しかった。
キョウヤはこっそり、カラスバを好いていたから。
誰にも言わず抱えていた気持ち。そろそろ次の街に、と考えた時一番に思い出したのは彼のことで。寂しい気持ちはあったけれど迷惑にならないように、と努めて明るく旅立ちのことを話した。
すると普段は突き放すように冷たく見える眼差しが、ほんの少しほころんで。どこか遠くを見るような目で、ふと。
「……そうか。体には気ぃつけてな」
あんまり無茶するんやないで。
静かに、そう言った。広すぎる事務所の応接間。向かい合って見詰めた眼鏡の奥。
キョウヤの勘違いでなければ、そこには少し。寂しそう、な眼差しがあって。
揺れる金色の瞳。
「あ、」
途端、思い至る。
もしかして。
落ち着かない胸の内。忘れていたことの正体。
は、として列車の窓ガラスを見れば、目を見開いた自身の顔が映っていた。その向こうでは未だに景色が次々と移り変わっている。どんどん遠ざかる、ミアレから。あの街から。
あの人から。
ガタッと音を立てて座席から立ち上がる。キョウヤは隣に置いていたボストンバッグをすぐさま引っ掴むと、そのまま進行方向とは反対に列車の中を走り出した。

ふ、と雑に息を吐く。
同時に視界に散る白い煙。鼻につく匂いと、肺の底に染み渡る有害でしかない気体。独特の爽快感のようなものは一瞬のうちに霧散して、けれどそれをまた求めて手元の紙煙草を引き寄せる。
(……思ってたより、あかんなコレ)
ふわ、とまた煙が宙を舞う。まさか一日ももたないとは、と端を噛んだままカラスバは宙を見遣った。見慣れた事務所の室内が妙に広く感じて、煙だけがどんどん天井に溜まっていくようだった。実際はそんなことはないのだが、そんなどうでもいいことを考えてしまうくらいには、カラスバは現状全く、仕事に集中出来なくなっていた。
デスクに座り、パソコンを前にしていても、すぐに横に置いているライターに手が伸びる。積み上がるのは仕事と吸い殻だけ。灰皿もジッポも久しぶりに引っ張り出してきたというのにたった半日でフル稼働だった。
あー、と無駄に大きな椅子の背もたれに倒れ、天井を見上げてまた煙草を噛む。火の付いた先から煙が伸びる。
(これで昨日まで禁煙してたとか、嘘みたいやな)
頭の奥まで、微かに痺れるような感覚が懐かしい。一時期は酷いヘビースモーカーだったが、ある時からぴたりと吸わなくなってしまった。それから昨日までは思い出すことすらなかった。
昨日まで。
彼が、この街から居なくなるまでは。
(……もう、二つ隣まで着いた頃やな)
最後に見た時計はお昼過ぎ。まだカロスには居る筈だが、今日中にはこの地方からも出て行ってしまうだろう。彼が乗る列車は把握していた。それでも今朝の見送りには、行かなかった。
彼を、キョウヤを最後に見たのは。
この部屋だった。
「そろそろ、別の街に行ってみようと思うんです」
まだまだ行ったことない場所はたくさんあるし、新しいポケモンにも会ってみたいし。
笑顔でそう話すキョウヤは、少しの寂しさはあっても既に気持ちを固めているようだった。元々観光で来ただけの旅行客で、成り行きでミアレを救ったとはいえ彼を縛ることは出来ない。挨拶に来てくれただけ、懐かれていたと思ってもいいだろう。
「カラスバさんにはすっかりお世話になりました」
存外、その言葉が胸に来て。カラスバはその時自分がどういう顔をしているか、わかっていなかった。
どうにか無理矢理作り笑いを浮かべていたような気がする。これまで仕事でいろんな交渉の場を生き抜いてきたはずなのに、まるで上手く出来ていない。みっともない。そうは思っても、自分ではどうにも出来なかった。キョウヤが普段通りにしているから、なんとか自分もそれに合わせていた。
(……情けな)
彼よりずっと年上で、一組織の頭で、意地だけを張ってここまで生きてきたのに。
見慣れたハットを被って、小さく頭を下げてこの部屋を出て行く姿が。
目に焼き付いて離れない。
「はあ、」
122
のあね @noane-dec.bsky.social · 17/03/2026
お題「ホワイトデー」(2/2) もう遅刻じゃすまないほど開催の日時からずれこんでいますが、賑やかしということで、ご容赦ください💦
あれ、というかこの距離は。
「でもようやっと捕まえたで」
気づいた途端、カラスバはにいと笑ったようだった。反射的に体を強ばらせるキョウヤ。それでも男の腕は決して離れない。苦しくなったのか、ピカチュウは二人の間をすり抜けると自分からボールに返っていった。心配そうに一度キョウヤを振り返っていたが、そちらに手を伸ばすことをカラスバが許すはずもなく。
「さて、理由を聞かせて貰おうか?」
顎を取られて強引に上を向かされると、そこに。眼鏡越し、自分を真っ直ぐに見つめる金色の瞳。こんな風に正面から見つめ合うのは久しぶりだった。思わず心臓が高鳴る。ドキドキして、首筋から顔、耳のふちまでどんどん熱が上がっていく。
「キョウヤ?」
更にはその眼差しに、キョウヤを心配する色まで見つけてしまっては。
限界だった。
頭から湯気でも出るかと思うほど顔を赤くさせたキョウヤは、小さく唇を震わせながら、どうにか口を開いて。
「ちょっと、あの、離れて……」
盛大に言葉を間違えた。
「あぁ?!」
「いや、違うんです……」

あらかた話を聞いたカラスバは、キョウヤを抱き締めたままやはり納得出来ない、と言いたげに眉を寄せた。
「付き合てるんやから近くたってええやんか。嫌なワケやないんやろ?」
「それはそうなんですけど、もうちょっとゆっくりお願いしたいっていうか」
ぐいと顔を寄せてくるカラスバにキョウヤは耐えきれず顔を背けた。両の手でカラスバの胸をなんとか押し返しているが、それより寧ろ顔を覆いたい気分だった。絶対に顔が赤い。変な顔をしている自覚がある。
「ゆっくり、ねえ」
少し考えた様子のカラスバは、不意にキョウヤを抱く手を緩めた。えっと思わずキョウヤが顔を上げると、男は両腕を離して少しキョウヤから距離を取るように体をずらして。
「なら、自分から来ればええやろ」
足も大きく開いて触れ合っていた部分を全て離すと、ほら、と言いたげにキョウヤを促した。立てた膝に腕を置き、横柄なことこの上ない、が。キョウヤは目を丸くして彼を見詰める。
確かにそれは、考えたことなかった。自分から行くのだって恥ずかしい。でも、強引に迫られるよりは、ましかも。いやでも、と。
キョウヤは暫くカラスバの顔と手を交互見詰めていた。視線だけがあちこち動くのをカラスバは焦れったく思っていたが、ここで手を出しては元も子もない。表情には出さずカラスバはじっと待ち続ける。
やがてキョウヤは恐る恐る動き出す。ざらりとした床に手をつき、そっと身を乗り出すと。
そのままカラスバの胸元に、おさまった。
は、男は息を呑む。
「……確かに、こっちの方がまだ緊張しなくていいかも」
目も合わせなくて済むし、なんて。カラスバの足の間で身じろぎ、位置を定めたキョウヤはふうと一つ息を吐いた。スーツの背中に手を回すと、肩に額を寄せながら続ける。
「逃げ回ってすみません。お詫びもかねて、ホワイトデーのお返しやっぱりちゃんとしたもの渡したいんですけど」
何かないですか、と。尋ねるキョウヤの声は、ほとんどカラスバに届いていなかった。
お返し、なんのことだ。ホワイトデー。あ、そんなことあったっけ。
回らなくなった頭でどうにか話題をかみ砕いたカラスバは、震える手で自分から寄って来たキョウヤの体を抱き締めた。
「もうなんもいらんわ……」
「えー、それはちょっと困るんですけど」
ぎゅうぎゅうに抱き締められながら不満そうな声を上げたキョウヤは、けれどカラスバが呆れているわけではないことを察すると。
小さく笑って、男の腕の中で目を閉じた。

尚、最終的にお返しにキョウヤからのキスを所望したカラスバは。この後再び逃げられることになる。
010
のあね @noane-dec.bsky.social · 17/03/2026
お題「ホワイトデー」(1/2)カラキョウ ※ワンドロワンライ用に書いたものです ※xにも同時投稿 とっても鈍感なkyくんとようやく付き合えたkrsbさんが、今度は付き合った途端に逃げられるお話。kyくんがだいぶ照れ屋さんです。
二人きり、サビ組事務所の広いオフィスで。
「ホワイトデーお返ししたいんですけど、何がいいですか?」
そうだ、と思いついたようにキョウヤが言った。
甘い物はあんまり、と言われたことを踏まえ、今度は失敗しないように。努めて明るく尋ねる。視線は手元に落としたまま。
そうやなあ、と男は思わせぶりにためらった後。
「なんでもええよ。キョウヤから貰えるもんやったら」
言いながら、膝の上に置かれていたキョウヤの手の上に自分のそれを重ねた。なんならそのまま指の隙間に自分の白くて長い指をねじ込んでくるし、そのまま絡ませてぎゅっと握るし。
思わずびくっと肩を震わせたキョウヤの耳元で、低く笑う気配。
「……楽しみにしとるで?」
促されたような気がしてキョウヤがゆっくりと顔を上げると。目と鼻の先、息がかかりそうなほど近くで、カラスバは甘く見とれるような笑みを浮かべていた。
っていうか。
(っ近い!!)
思わず叫び出しそうになって、なんとか押しとどまって。混乱の末、キョウヤは顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせたまま、石のように固まってしまった。
その日から数日。
キョウヤはカラスバから、逃げ回っている。


(最近なんか近い、すっごい近い! 前から肩を組まれたりとか顔覗き込まれたりとかはされてたけどその時の比じゃない、絶対近い! 座る時は絶対横だし歩くときは真横だしなんなら手、とか握られるし、この間なんか、あんな)
重なった手と、絡められた指。ぎゅうと握られて、少し低めの体温が、真っ赤になって熱を上げる自分のそれと、溶け合って。
挙げ句至近距離で微笑まれてしまったら、もう。
「無理無理、絶対ムリ!」
「何が無理やねん!」
はっと慌てて振り返れば、カラスバがキョウヤの背後あと少しのところまで迫っていた。
ビルの屋上、ベンチやテラス席のそばをすり抜けてキョウヤは急いで走るスピードを上げる。
「待てやコラ! 何で逃げんねや!」
後ろからスーツ姿でキョウヤを追う、カラスバもまた必死に走っていた。いつものかっちりとしたスーツは動き辛いだろうに、それでも綺麗なフォームで花壇の横を駆け抜ける。
「なんでって言われても……!」
ビルとビルの隙間を飛び越え、はしごを掴みながらキョウヤは振り返らずに呟いた。弾む息の合間に、乾いた唇を噛み締める。
(だって、まともに顔が見れないんです!)
さすがに正直にそのままは言えなくて、心の中だけで叫んだ。
いつからと言われると、あの日から。
バレンタインデーの日。自分の片思いだとばかり思っていたのに、蓋を開けてみたら両思いで、カラスバからも好きだと言われた。もちろんそれは嬉しくて嬉しくて、晴れてお付き合い、となったことも夢のように思っていた、のに。
あの日。
キョウヤからのチョコレートを貰って嬉しそうに笑うカラスバを目にした時から。
まともに顔が見られない。
(どきどきして目も合わせられないのに、カラスバさんは寧ろ距離近くするから、もうどうしていいのかわからなくなっちゃって!)
結果、逃げ回って、今に至る。
逃げれば追われる。ミアレの街を舞台に男二人で盛大な追いかけっこ。それも本気でかなりのスピード出して走っているから行き交う人たちがなんだなんだと振り返るが、二人とも構っていられなかった。
はしごを登りきると丁度そこは突き当たり、その先に続く建物はなかった。けれどキョウヤは躊躇うことなく手すりに駆け寄ると、あっさりとまたいでスマホロトムを呼びだそうとする。
けれど次の瞬間飛び出してきたのは、ピカチュウだった。
「えっ?」
スマホロトムじゃなくて何故かモンスターボールが開いているのが、視界の片隅に見える。勝手にピカチュウが飛び出してきたらしい。
どうして、と振り返るキョウヤの視線の先に、追いかけてはしごを登ってきたカラスバ。
まさか、と思った瞬間。
「ピッカー……!」
怒ってる。確実にピカチュウは、怒ってる。
どうして、と考えている間にもビカビカとピカチュウの周りに稲妻が光る。恐らくあんまりキョウヤが必死に逃げているから、追いかけてくるカラスバに何かされたと思ったのだろう。主人を守るため、その気持ちはわかる、嬉しい、でも。
「待って、ピカチュウ!」
それは駄目。攻撃するのは絶対に違う。だってあの人は。視界の奥でカラスバが目を見開いているのが見える。
手を伸ばしたキョウヤは、今にも電撃を放とうとしているピカチュウの体を両腕で抱き締めた。ぎゅっと胸元に引き寄せて抱え込む。一瞬ちりっと痺れが走ったが、すぐにピカチュウも気づいたのかキョウヤに雷が落ちるようなことはなかった。
ほっとした、のも束の間。
「キョウヤ!」
ぐらり。
そういえばキョウヤが立っているのはビルの屋上、手すりの向こう。もう一歩も足の踏み場もない場所で。
「あ、」
ピカチュウを捕まえるために身を乗り出した反動で、バランスを崩していた。体が傾いて、足の片方が屋上からずり落ちて。
がくんっと。
落ちる。
「ピカッ!」
胸元で自分を呼ぶピカチュウをぎゅうと胸元に抱き込んで、キョウヤはきつく目を閉じた。
その後に来る衝撃に備えるために。
でも。
「っお前、ほんまに、ええ加減にせえよ」
どれだけ待っても、キョウヤが地面に叩き付けられるようなことはなかった。
ただ落ちる寸前、強く上着の胸元を掴まれて。勢いのままキョウヤは屋上に引っ張り込まれた。ピカチュウを抱えたまま手すりも乗り越え、ビルの上に。
気がつけば男の腕の中。二人、座り込んで息を弾ませている。
「す、みません」
なんとかキョウヤがそれだけ口にすると。更に強く引き寄せられた。
「寿命縮んだわ、ほんまに」
キョウヤの頭を自身の肩に押しつけるようにして、カラスバはふうと息を吐いた。その吐息がキョウヤに首筋に触れる。熱い。今になって落ちそうになった現実を思い出して心臓がばくばくと音を立てているから、余計に。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 09/03/2026
お題「夜更かし」(2/2)
そうだった。
(俺とカラスバさんって付き合ってるんだったー!)
忘れていたわけじゃない。決して忘れていたわけではないんだけれど、と変な焦りと緊張から急にキョウヤの心臓は音を立てて走り始めた。
タワーの騒動を乗り越えたある日。相変わらずバトルに探索にと街を走り回るキョウヤを捕まえて、カラスバは一言好きやから付き合ってくれんかと言った。一瞬意味がわからず呆然とするキョウヤに、やっぱりオレじゃあかんか、と漏らしたその横顔が。見たことのないくらい、切なげで。息を呑んだキョウヤは、慌てて俺でよければ、と言った。カラスバのことをそんな風に考えたことはなかったが、好意があることは確かで、嬉しいと思ったことも、確かだったから。
晴れてお付き合い、ということになったのだが、そのままカラスバの仕事が忙しくなり、なかなか二人の時間を作ることが出来ず。その間バトルゾーンで過ごしていたキョウヤはすっかりポケモン勝負にばかり夢中になっていて。
カラスバに連絡を取ることを、忘れていた。
なんなら付き合ってから二人っきりになるのすら、今この瞬間が、初めてで。
(いや、違う違う忘れてたわけじゃなくて、忙しいだろうなと思ってて、何してるかなーとか考えてはいたんだけど、でも急に連絡したら迷惑だろって思ってたし、いやでも前から勝手に事務所に行ったりしてたんだから、会いに行けばよかったな? いやいやそうじゃなくて、家って!)
オレん家、と彼は言った。
それはつまり彼の家。恋人の家。深夜に付き合ってる相手の家に行くって、部屋にあがるって、つまりはそういうことだろうか。そういうこと?
(え、考え過ぎ? 俺の方がおかしい? でもだって手が、手が!)
テーブルの上では未だ手は掴まれたまま。中途半端な姿勢で目を合わせることも出来ず、ただただキョウヤは胸が痛いほどどきどきしているのを感じていた。カラスバの白い手に見入ってしまう。夜風が冷たかったはずなのに、なんだか熱くなって、掴まれたところが汗を掻いているような気さえしてくる。
じわじわ、じわじわ。顔まで熱くなって。
(どうしよう、どうしよう!)
嫌じゃない、でもちょっと早いような、いやでも、と。
ついには動揺から涙が出そうになった、その時。
「ふはっ」
目の前の男が、堪えきれない、というように吹き出した。
反射的に目を向ければ、カラスバがくくっと肩を震わせて笑っている。余り見ない、屈託のない笑みで。
「お前、なんちゅう顔してんの。真っ赤やで?」
呆気にとられてぽかんと笑うカラスバを眺めていたキョウヤが、その言葉に慌てて手を払うと両手で顔を隠した。確かに触れただけでわかるほど自分の頬が熱い。小刻みに震える指の隙間から、恐る恐るカラスバを見遣る。
「……そんな変な顔してますか」
「かわええよ」
即答で言うカラスバの眼差しは、真剣で。真っ直ぐ射貫くようにキョウヤを見詰めていた。金色の瞳は鋭く、決して目をそらすことを許さない。かち合った視線の先で、にいと口元を歪めてカラスバは言う。
「かわええから、ほんまに連れて帰ってまおうかなー」
組んだ足の上で頬杖をつき、楽しそうに。上機嫌なその表情からは、その言葉が冗談なのか本気なのか判別が出来なかった。未だに胸を高鳴らせるキョウヤにはそもそも冷静な判断が出来ない。
ほんとに、連れて行かれてしまうかも。
そうしたら。
そうしたら?
想像して更に顔が赤くなって、もう頭から湯気が立ちそうだった。そんなキョウヤの様子に、ますますカラスバは笑みを深める。
「……あんまり夜更かしばっかしてると、悪い男に攫われるってことや」
ちろ、と赤い舌を覗かせたあと。それだけ言って、カラスバはソファから立ち上がった。グラスコードが揺れて、狙ったかのようなタイミングでカラスバのスマホロトムが飛び出して来る。ロトロトロト、と響く着信音。
「もう部屋に戻り。あったかくして、じっとしとるんやで」
そういえば男は仕事の最中だった、と。今更思い出していれば、キョウヤの視線を受けたままカラスバはくるりと背を向けた。狭いバルコニーを歩き、着信に応えてオレや、と返事をしながら。柵に手を置くとひらりと身をかわして、カラスバはあっという間に下へ飛び降りて行ってしまった。
ここは屋上で、下までの高さが、なんて。突っ込む人間はここにはいない。顔を真っ赤にしたキョウヤは、未だにそれどころではなかったので。
(ますます寝れなくなったんですけどー!)
時間は真夜中、日の出まではまだ遠い。叫びたい気持ちを抱えたまま、キョウヤは一人しばらく足をばたつかせたあと。力なく項垂れた後、仕方なく二○二号室に引き返していった。
男に言われた通りベッドに入って目を閉じていたけれど、当然眠れるはずもなく。寝返りを繰り返す横で、キョウヤのスマホロトムにメッセージが一件。
今度は本当に攫いに行くからな。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 09/03/2026
お題「夜更かし」(1/2)(カラキョウ) ※ワンドロワンライ用に書いたものです ※xより再掲 お付き合いし始めたことをすっかり失念してバトルに明け暮れていたkyくんと、そういう奴やろなあと泳がせつつ、捕食の機会をしっかりうかがっているkrsbさん。 の、夜の一時の逢瀬のお話です。
「もー、キョウヤはしばらく夜出掛けるの禁止! バトルゾーンなんて絶対行っちゃダメだからね!」
びしっと指を突きつけて、キョウヤにそう言い渡したのは、デウロだった。
久しぶりにベッドで寝て目が覚めた朝。おはようの挨拶もなしにいきなりそう言われたキョウヤは、驚いて目を丸くしたけれど。怒られる心当たりは、あり過ぎるほどあって。
「ほんと、ごめんなさい!」
ベッドの横で仁王立ちする彼女に、とにかく真剣に頭を下げるしかなかった。


(……よかった、誰も居ない)
ぎい、と重たい扉を開けて周りを確認したキョウヤは、そのままゆっくりと外に出た。ひんやりと冷えた夜の空気、空に輝く無数の星。下に見るミアレの街はすっかり眠りについていて、ぽつぽつと見える家々の灯りが綺麗だった。いつもは相棒とバトルゾーンに向かいながら見ている景色。今日は、一人。ホテルZの屋上に佇みながら、現れたバトルゾーンの場所をぼんやりと目で追っていく。
(今日はルージュ地区の方か。ブルー地区も光ってる。ここからだと中は全然見えないなあ)
街の明かりに紛れて見える、赤いホログラム。いつもはあの中に自分が居ると思うと、不思議な気持ちだった。部屋から持って来た毛布を羽織りながら一人掛けのソファに腰を下ろす。持って来たコーヒー入りのカップもテーブルに置いて。
こんなにゆったりとした夜の時間を過ごすのは、久しぶりだった。
デウロが怒ったのはキョウヤの生活態度が原因で。それもそのはず、キョウヤはもうずっと何日もホテルZに帰ってきていなかった。昼間はベンチで寝て過ごして、夜になるとバトルゾーンを駆け回って。完全に昼夜逆転生活。おまけに食事も適当にしていたせいで、日中寝不足と空腹でホテルZに担ぎ込まれることが一度や二度ではなく。
ついに五本の指では数え切れなくなった今回、デウロの堪忍袋の緒が切れた。ピュールも後ろで肩をすくめていた。
はあ、とキョウヤの口からため息が零れる。バトルが楽しいからってさすがにやり過ぎた、と反省する。何より怒る彼女の目に心配の色が見てとれたから、本当に申し訳なく思っていて。
(……でも、そうは言っても、)
眠れない。
ベッドに入っても、全く、全然、眠くならない。
目を閉じて何度も寝返りを打って、寝なきゃ寝なきゃと必死になってみたけれど。昼夜逆転がすっかり染みついた体は夜に眠る感覚を全然思い出してくれなくて。
結局、キョウヤはベッドから降りて部屋を出た。なんとなく目指した屋上は夜風が心地よく、バトルゾーンに向かう時の、わくわくする気持ちを思い出す。ただ座って街を眺めているだけなのに、目はどんどん冴えていって。
「……逆効果だったかも」
ここに相棒がいたら、すぐにでも走り出してしまいそうだった。駄目だなあ、と少しでも気持ちを落ち着けようとキョウヤがコーヒーに手を伸ばした、その時。
「へえ、珍しいこともあるもんやな」
コツ、と硬い靴音が屋上に響く。
「ミアレの英雄さんがバトルゾーンにも行かず、こんなとこで一人で時間潰してるやなんて」
これから槍でも降るん違うか、と。
皮肉めいた笑みを浮かべて、夜空と同じ深い闇色の上着を翻しながらキョウヤの前に現れたのは。
「カラスバさん!」
「おん。ええ夜やな、キョウヤ」
屋根の上からひらりとバルコニーに降り立ったカラスバは、片手を上げてキョウヤに歩み寄った。そばにジプソの気配はなく、相棒のポケモン達の姿も見えない。
「一人ですか?」
彼の方こそ珍しい。ソファに座ったままカラスバを見上げて首を傾げるキョウヤに、男は軽く頷く。
「お仕事しとったんやけど、ちょっと予定変わってな。この後合流することになっとるんや」
言いながら何気なく視線をよそへ向ける。その仕草に違和感を覚えたキョウヤだったけれど、すぐに近くの路地が騒がしくなった気配がして。直感的に事情を察する。多分、深く聞かない方がいいお仕事で、急な予定変更があったのだろう。そのせいでカラスバはその場を離れてここへ来ることになり、ジプソは対応に追われている、と。
「で、お前はどうしたん?」
わざとらしく明るい声色で、場を仕切り直すようにカラスバが尋ねた。どうやってここまで上って来たんだろ、なんてのんきに考えていたキョウヤはあー、と視線を泳がせながら言葉を濁す。その間に男は向かいのソファに腰を下ろして。足を組みつつ話の続きを促した。
「そりゃお前、昨日まで夜の間中走り回ってた奴が、急に寝れるわけないやろ」
夜行性の動物に寝ろって言うようなもんやで。
キョウヤが仲間に怒られたこと、そのいきさつなどを話すとカラスバは呆れたようにそう言った。肩をすくめる男にキョウヤは苦く笑うしかない。
「なんとかしないとなーとは、思ってるんですけど」
「んなこと言うて、ここでただじっと座っててもしゃあないやろ。日の出でも拝むつもりか?」
まだ夜も深い。日が昇るまで数時間はあるはずで、さすがにそれは、とキョウヤは首を振った。でも今部屋に戻っても眠れる気もしなくて。気落ちした彼はあからさまに肩を落とした。俯くキョウヤの姿に、カラスバもさすがに眉を寄せる。
「……まあ、あったかくしてホットミルクでも飲むか、あえて本でも読むか。お前の場合体疲れさせた方が寝れそうな気はするけど、」
な、と。続くはずの言葉を不自然に切ってカラスバはすいと目を細めた。コーヒーを口元に運んでいたキョウヤがその様子に小首を傾げる。だんだん冷めてきてしまったコップ。ぬるいコーヒーは体を温めるには少し足りない。
「それか、」
こくり、と最後の一口を口に含んでキョウヤがコップをテーブルに置くと。不意にカラスバがその手を掴んだ。
優しく、柔く。強くないほどの力加減で。
「オレん家来るか?」
そう尋ねる声もまた、優しいものだった。甘い声色。強引さのない、心地よい響き。え、と思わずキョウヤが顔を上げれば、ゆるく微笑んだ眼差しと目が合った。眼鏡の丸いレンズの向こうで、カラスバの金色の瞳が細くなってじっとキョウヤを見詰めている。
カラスバさんの家。行ったことない、行ってみたい。いいんですか、なんて弾んだ声を出しかけた時。
つう、と。掴んだまま、キョウヤの手の甲をそっとカラスバの人差し指が、なぞった。
その仕草に。
どきりと、心臓が跳ねる。
肌の上を、ゆっくりと。触れるか触れないかのところで、焦らすように。優しいのに思わせぶりな、指先が。思い出させる。
120
のあね @noane-dec.bsky.social · 01/03/2026
お題「手紙」(2/2)カラキョ
田舎の町に全然似合わないはずの男は。見慣れたスーツを脱いで、ラフな格好でキョウヤの目の前に立っていた。特徴的なコートもない、眼鏡もない、尖った靴も履いてない。
まるで普通の、ただの一人の男に、なって。
「いけずな恋人、迎えに来たで」
そう言って、強がるキョウヤに笑って手を差し伸べた。白い指先。肌の色はずっと変わらない。切れ長な目元も、キョウヤにだけ見せる柔らかい金色の、瞳も。ずっと変わらない。ずっとずっと、大好きなひと。
丸めた手紙を放り出してキョウヤは目の前に男に手を伸ばした。ぎゅっと抱きついて首元に頬を寄せれば、懐かしい街の匂いがする。
「ごめんなさい!」
「おん。オレも、意地張り過ぎたわ」
「もう会えないかと思いました……」
「誰かさんがいっこも連絡寄越さんから、オレこそフラれたんかと思ったで」
「そんなわけ、」
「っていうか今落ちた紙、コレなに?」
「わーっ待って待って、それ拾わないでください!」
「でもカラスバさんへって書いてあるやん」
「だから読まないでくださいってば!」
騒ぐキョウヤをひょいとかわして、カラスバはぐしゃぐしゃになった手紙を片手に楽しそうに笑った。
結局その場で全部読まれてしまったキョウヤは顔を真っ赤にしてうずくまって。隣にしゃがんだカラスバが、手紙の最後に書いてあった一文にそっと返事をする。
「オレも好きやで、キョウヤ」
囁いて振り向いたその唇に、ちゅ、と音を立てる可愛い口付け。
二人は今日、同じ列車に揺られて、大好きな街に帰っていく。
010
のあね @noane-dec.bsky.social · 01/03/2026
お題「手紙」(1/2)カラキョウ ※ワンドロワンライ用に書いたものです ※xより再掲 喧嘩して街を飛び出して来てきてしまったkyくんが、krsbさんに手紙を出そうとするお話です。
穏やかな風が、吹いていた。
さあさあと背の高い木々が揺れて、木漏れ日の下。
もう都会ではほとんど見ることのなくなった赤いポストの前で、キョウヤは一人長い間立ち尽くしていた。
その手には白い封筒が一通。
「……いや、でも。やっぱり今日はやめようかな」
封筒をポストに入れようとして、半分ほど差し込んだあたりでやっぱりと引っ込めた。
暫くその封筒を見詰め、またポストの口へ視線を移しては、うーんと唸って項垂れて。そして恐る恐る投函しようとしては、やっぱりやめる。そんなことの繰り返しばかり、もう小一時間。今日だけでなく、ここ最近ずっとキョウヤはこんなことを繰り返していた。
封筒の中身は、手紙だった。
ミアレに居る彼に向けた、一通の手紙。
はあ、と大きなため息をついて、キョウヤは空を見上げた。ミアレとは違う、広くて高い、大きな空。太陽の輝きさえもあの街とは違う気がする。もう今は遠い、懐かしい街。
「やっぱり、書き直そう」
ぼんやりと流れる雲を眺めていたキョウヤは、結局そう決めてポストから目を背けた。手紙を手に持ったまま、踵を返して近くのベンチに足を向ける。
ポストはこの町に一つだけ、駅前に設置されていた。ただしミアレとは違い駅だというのに人影はなく、電車の音も聞こえてこない。緑豊かな草原ばかり広がっていて、駅舎には小さな待合室が一つだけという。とにかく、とんでもない、田舎だった。
この町が、キョウヤの生まれ育った町。
ミアレからは列車を乗り継いで三日はかかるだろうか。今考えれば流れ流れてよくあの街にたどり着いたものだ。
(みんな、元気かなあ)
駅の外れにある野ざらしのベンチに腰を下ろすと、キョウヤは手の中の手紙を見下ろしながらミアレに居る仲間たちの顔を思い浮かべた。タウニーやデウロや、ピュール。MZ団以外にも、お世話になった人がたくさん。みんなには一応挨拶してきたし、今もメッセージのやりとりはしているから全然様子がわからない訳ではなかったけれど。
それでも、もう。ミアレを離れて一ヶ月になる。
カラスバからは、一度も連絡が来ていない。
(……まだ、怒ってるかな)
かさ、と手の中の封筒が音を立てた。キョウヤの乾いた指先が紙の表を撫でて、そこに書いてある名前に目を落とす。喧嘩して、そのまま。飛び出して来てしまった。心にずっと思う人。
「オレが帰るなって言うてんのに、お前は聞くつもりないんやな」
キョウヤ相手にはほとんど見せることのない、高圧的な態度に思わずカチンときた。
「そんな、大袈裟な。すぐ帰って来ますよ、そんなに俺が信じられないんですか?」
「信じられん」
即答だった。キョウヤにはそれがショックで、呆然とただカラスバの横顔を見ていることしかできなかった。視線を感じたのだろう、カラスバは顔を背けると短く、だがはっきりと言った。
「オレには、できん」
どんな顔をしていたのかはわからない。それでもただ、言われたことが、ショックで、悲しくて。
キョウヤは結局、それ以上何も言わずに飛び出して来てしまった。すぐにホテルの荷物をまとめてみんなに挨拶して、列車に飛び乗った。ただ顔を見せるだけの里帰り、だったはずなのに。思いがけず家族に喜ばれてしまって、引き留められるがままなんとなく今日まで実家でのんびり過ごしてしまった。
もうそろそろ、帰らなくちゃ。帰りたい。
でもやっぱり、顔を合わせずらくて。
そんな時、キョウヤは自分の荷物の中に一枚の紙切れが入り込んでいたことに気がついた。それはホテルZの部屋に備え付けられているメモの切れ端で。
すまん、仕事。
それだけが、流れるような綺麗な文字で書かれていた。見ただけですぐに思い出す。キョウヤの部屋に彼が泊まった翌朝、目が覚めたらもう姿が見えなくて。サイドテーブルに、このメモだけが残されていた。余程急いでいたのだろう、少し荒いペン使いで、所々掠れていて。それでも少し角張った、綺麗な字がカラスバらしくて。手書きのメッセージなんて珍しいから、ただの走り書きだというのに、キョウヤはそれを大事にとっていた。鞄にしまい込んだままいつの間にか忘れてしまっていたけれど。
そのメモを見つけた時、キョウヤは急に思いついた。
スマホでメッセージを送るのはまだ緊張するけど、手紙だったら。すぐに返事が来る訳でもないし、伝えたいことをちゃんとまとめて伝えられるかもしれない。
そう思って手紙を書いた、のだけれど。
結局今日まで、出せずにいる。
これまで何度破っては書き直したことやら。
今キョウヤの手の中にあるそれも、もう何通目かわからない。
ただごめんなさいと、これから帰ります、会って話したいと、伝えるだけなのに。
(カラスバさんみたいに字がキレイなわけじゃないし、やっぱり手紙ってまずかったかな。でもまだスマホで連絡するのは、ちょっと)
こわい。
もう連絡してくるなとか、言われたりしたら。
ぎゅっと力を込めると、手紙は簡単にくしゃりと潰れてしまった。どうせ書き直すつもりだったから構わないけれど。なんだか自分の気持ちまでひしゃげてしまったようで。
やっぱりちょっと、悲しくなる。
そよそよと頬を撫でる風は、優しいのに。
ミアレとは違う匂いがする。
(……信じてくれなかったのはショックだったけど、でもカラスバさんにも思うことはあったんだろうし。ちゃんと話聞けばよかった。ちゃんと目を見て、ただの里帰りだからそんなに不安にならないでくださいって、言えばよかった)
そう、多分カラスバは不安がってた。
だからあんなに怒って、突き放したような口ぶりで、キョウヤを従わせようとした。
今ならそうとわかるのに。結果だけ見ればキョウヤはそのまま何も言わず、不安になっているカラスバを一人置いて街を出て来てしまったわけで。余計に怒らせてしまったかもしれない。勝手な奴、と見限られてしまったかも。
(……カラスバさん)
もう、会って、くれないかも。
そうしたらもう、ミアレに帰る意味なんて。
キョウヤはくしゃくしゃになった手紙を胸元に引き寄せて、深く深く俯いた。ベンチに腰掛けたまま、背中を丸めて、ぎゅうっと目を閉じて。
「なんや、ほんまに何もないんやなー」
田舎やとは聞いとったけど。
ふと、そんなキョウヤの上に影が差した。そして響く、聞こえるはずのない、甘い声。
思わず勢いよく顔を上げた。
「そろそろホームシックになってん違うかと思ってな」
迎えに来たんやけど。
「……なんで泣いてんねん」
「泣いて、ません」
泣きそうにはなってましたけど、なんて。つまらない言い訳は声が掠れて上手く口に出来なかった。
123
のあね @noane-dec.bsky.social · 22/02/2026
お題「猫の日」(カラキョウ) ※ワンドロワンライ用に書いたものです ※xからの再掲 ※ファンタジー感強め ※無自覚両片思いくらい 猫になっちゃったkyくんを、krsbさんが人間に戻してあげるお話です。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 17/02/2026
お題「雪」/カラキョウ(2/2)
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のあね @noane-dec.bsky.social · 17/02/2026
お題「雪」/カラキョウ(1/2) ※1回目のワンドロで書いたものです ※xより再掲 雪の日、krsbさんからもう会わないって言われたkyくんが事務所の前に座り込んで…なお話。 最初からずっとシリアス感強めですが、ふわふわしてるので雰囲気でお楽しみください。最後は仲直りしてます。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 15/02/2026
お題「チョコレート」(3/3)/カラキョ
「食わせて」
ぱか、と大きく開いた口。
覗く白い歯をぽかんと見ていたキョウヤは、早くと促されてようやく我に返りチョコレートに手を伸ばした。一つを指でつまんで、恐る恐るカラスバの口に運んでいく。
「ん、うまい」
舌に乗った途端、口を閉じてゆっくりと味わったあと。嬉しそうに言ってカラスバは目を細めた。ほんの少し照れたように、はにかんで。
こんなに美味いチョコ初めて食ったわ、と。
笑った。
いつもかっちりしたスーツやしっかり決めた髪型で武装している彼の、硬い表情が、ほどけて。
本当に嬉しそうに、笑うから。
キョウヤの胸が突然何かに締め付けられたように苦しくなった。きゅうっと。体が熱くなって、どきどきして、指の先まで痺れて動けない。
呼吸すら、上手くできなくなった。
だって、あんな顔見たことない。
好きな人の、あんなに柔らかく、笑う顔。
どうしようどうしよう、どうしよう!
焦るキョウヤの様子を知ってか知らずか、カラスバは笑みを浮かべたままそっと距離を詰めると。赤くなった頬に顔を寄せた。
「オレも、好きやで」
キョウヤ。
そうして耳元に唇を寄せて。
とびっきり甘く囁いた。
010
のあね @noane-dec.bsky.social · 15/02/2026
お題「チョコレート」(2/3)/カラキョ
しいと、祈りながら。正面から金色の瞳を見ることは出来なくて目を伏せる。
「ああ、オレ甘いもん好きやないんや」
紙袋を見て中身を察したのだろう。
あっさりと、少しのためらいもなく。冷たい声でカラスバは言った。
「気ぃ遣ってんのやったらいらんで。余計なお世話や」
ひんやりと。心臓が凍り付いたように冷たくなるのを、確かに感じていた。
キョウヤは差し出したままの手を引っ込めることも出来ず、ひゅっと短く息を呑んだ。光沢のある机の表面を見詰めたまま顔も上げられない。今カラスバがどんな表情をしているのか。恐くて見ることが出来ない。
紙袋の中身は、チョコレートだった。
ミアレの街で、一番の老舗店と言われる洋菓子専門店で。バレンタインも過ぎたというのにチョコレートを真剣に選ぶキョウヤは不思議そうな顔で店員に見られていた。それでもどうにかカラスバが好きそうな、コーヒーに合いそうでシックなデザインのものを必死に探して。ようやくこれと決めたものだった。
本当は自分で作りたかった。
カラスバがかけてくれた時間に、少しでも報いたかった。
でもとにかく渡さなきゃ、早く謝らなきゃと思い過ぎて。彼が甘いものが好きかどうかなんて考えてもいなかった。
また、間違えてしまった。
キョウヤは震える手でチョコの入った袋を握り締めると、自分の胸に抱くようにして引っ込めた。
「……ごめんなさい」
小さな声が、二人の間にぽつりと落ちる。
もう遅いかも知れない。
呆れてしまって、とっくに気持ちは離れてしまったのかもしれない。けれどこれだけは、伝えたくて。
「俺、カラスバさんが、好きです」
掠れた声は。それでも確かに音になって、乾いた部屋に響き渡った。
流れる沈黙。
時間が止まってしまったかのような静けさの中、ようやく声を漏らしたのはカラスバだった。
「……は」
驚きに目を見開く男に、けれどキョウヤは気づかない。ただチョコを抱き締めたまま深く俯いて。淡々と言葉を続ける。
「迷惑かもしれないけど」
「おい待て」
「ずっと前から、好きでした。お花、嬉しかったです」
花、と聞いたカラスバの肩がひくりと跳ねた。そんな姿も見ないままで、キョウヤはぐっと唇を噛み締めて身を翻す。
「……帰ります」
そうして部屋を出て行こうとするので、慌ててカラスバは席を立った。
「ちょお待てや!」
やたらと大きく重たい椅子が倒れそうな勢いで音を立てるが、それどころではない。デスクを避けて扉へ向かうキョウヤへ駆け寄ると、カラスバは迷わずその腕を取った。力加減も忘れて強引に引き寄せれば、俯き加減だったキョウヤの顔がようやくカラスバの前に晒される。
その表情は赤く、ともすれば泣き出しそうだった。
とても嘘を言っているとは思えない。
ますますカラスバは混乱した。
「……お前、じゃあなんであの日、」
好きだと言うのなら、どうして。
キョウヤはまだ視線を合わせないまま、言葉を慎重に選んでから口を開いた。
「驚いちゃって。片思いだと思ってたし、なんかどうしていいのか、わからなくて」
キョウヤも、あの日酷く混乱していた。片思いだと思っていた相手に突然押し倒されて、そういう雰囲気で流されそうになって。
付き合ってるわけでもないのに、どうして、としか思えなかった。
とても嬉しいと思う余裕なんて。
「……お前、あんだけオレが誘っといてなんとも思ってないと思うてたんか」
気が抜けて、呆れたように言うカラスバに腕を取られたままキョウヤは慌てる。やはり視線は泳がせたまま。
「す、すみません。最近優しいなとは思ってました」
「やさしい」
初めて聞いた言葉のように、カラスバは呆然とただ口の中で繰り返す。
「一緒に居られて嬉しくて、いっぱいいっぱいだったし、それに」
「それに?」
言いよどんで黙るキョウヤを、じいとカラスバは見詰めた。ぎゅっと片手で紙袋を抱いたままのキョウヤはますます頬を赤らめると。小さな声で呟いた。
「……なんにも、言われてなかったんで」
その声が、少し拗ねたように聞こえるのは。カラスバの都合のいい思い込みだろうか。
カラスバは長く深いため息をつくと、やっとキョウヤの腕から手を離した。だらりと細い腕が垂れて、そのまま再び紙袋を大事そうに抱き締める。
そのいじらしい仕草に。カラスバは小さく笑みを浮かべた。
「キョウヤ」
名前を呼べば、少しのためらいのあと。キョウヤはゆっくりと顔を上げた。二人向き合って、この日初めて視線がかち合う。
「それちょうだい」
胸元の紙袋を指差すと、キョウヤはえっと声をあげた。
「でも、」
「欲しい。オレにくれるんやろ?」
真っ直ぐな言葉にうろたえたキョウヤは一度手の中のチョコレートを見下ろすと。もう一度困った顔でカラスバを見詰めた。
「……でも、甘いのは」
好きじゃないと言われた。自分ごと好きじゃないと、言われたようだった。
「お前の気持ちなんやろ。せやったらちょうだい」
けれどそんなことまるでなかったように、カラスバはそう言った。穏やかな笑顔には嫌味の一つも見えなくて、優しくキョウヤを見詰めている。よく食事に誘ってくれていた時と、同じ眼差し。
嫌だとは、言えなかった。
最初に差し出した時と同じく、躊躇いがちな仕草でキョウヤは紙袋をカラスバに手渡す。
受け取った男は綺麗に微笑んだ。
「おおきに」
小ぶりなそれの中に手を入れて、早速カラスバはチョコレートを取り出そうとしているようだった。キョウヤは慌てて言う。
「ほんとに、無理して食べなくても」
「ええよ。さっきは腹立ってて意地悪言うたけど、そんなに嫌いでもないんよ。せやから」
あっという間に四角い箱を手にしたカラスバはリボンを解いて蓋を開いた。中には小粒のチョコレートが綺麗に並んでおさまっている。
「はい」
それを逆にキョウヤに差し出すと、カラスバはあ、と口を開いた。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 15/02/2026
お題「チョコレート」(1/3)/カラキョウ ※ワンドロに参加したくて書いたものです ※xからの再掲 最初すれ違ってもだもだしますが、最後はハピエンです。 付き合ってると思ってた🐦‍⬛バさんと、片想いだと思ってたkyくんのお話。
ゆっくりと、体が傾いて。
柔らかいソファに背中から倒れ込んだ。
いつの間にか見慣れた高い天井。
その視界に入ってきた男は、鬱陶しげに胸元のネクタイを引き抜いていて。
扇情的な、仕草。
レンズ越しに降り注ぐ、やけに熱い視線。
これは、明らかに。
いつもと違う。
これじゃあまるで。
これじゃあ、まるで。
「あの、これは……」
熱くなった頬をごまかすように、ぎこちなく笑いながらキョウヤが口を開くと。
男はひくりと片眉をあげた。は、と呆れたように息をついて。
「そういう流れやったやろ」
しゅるりとネクタイが滑り落ちる。開いたシャツの隙間から覗く素肌。
うっそりと口元をほころばせながら、カラスバが更に顔を寄せようと近付いてきた時。
「えっ?」
動揺して思わず、素っ頓狂な声をあげた。
途端、崩れていく艶やかな空気。
「……あ?」
目と鼻の先でカラスバが、笑顔のままその綺麗な額に青筋を浮かべた。

「はぁぁぁ……」
深い深いため息をついて、キョウヤは本日何度目になるかわからない寝返りをうった。
ホテルZ、二○二号室のベッドの上。
大きめの枕を抱きかかえながらキョウヤは途方に暮れていた。思い返せば思い返すほどいたたまれない。恥ずかしいやら情けないやら申し訳ないやら。もう何を悔やめばいいのかわからないほど、キョウヤは混乱していた。顔色は赤くなったり青くなったりと忙しない。枕にぐっと顔を押しつけて、きつく目を閉じる。
(だってまさか、付き合ってるなんて思わなかった!)
叫びたくなる気持ちをぐっと堪えて。キョウヤはベッドの上で両足をばたつかせた。
あの夜。
事務所のソファで、キョウヤがカラスバに押し倒された夜。
どうしてこんな展開になったのかわからず驚くキョウヤに、カラスバはあっさりとこう言った。
「付き合うてるんやから、そろそろ先進んでもええやろ?」
青天の霹靂。
その瞬間キョウヤの脳裏には間違いなく雷が落ちて、体が打たれたようにぴしりと動かなくなった。ただへ、と口から阿呆みたいな声が漏れて、今度こそカラスバにも重大な認識のずれがあることが知れたようだった。
呆れた顔も束の間、次の瞬間にはお前っ、と何か怒鳴りそうになって。最終的には。
「……今日はもう帰りよし」
低い声で、そう言われた。真っ直ぐ指差された出入り口に、荷物をまとめてそそくさと向かうしかなかった自分の姿はさぞかし滑稽だっただろうとキョウヤは思う。
けれど仕方なかった、とも思っていて。
だって知らなかった。
全く聞いていなかった。
自分とカラスバが、付き合っているなんて。
(そりゃあ、高いお店に行くなとは思ってたよ? 全部奢りだしあの日はバレンタインだったしなかなか予約とれないお店だって聞いてたからいいのかなって思ってたけど!)
でもそれは、自分の考え過ぎだと思っていた。
だって。
(俺がカラスバさんのこと好きだから、いちいち気にしちゃうだけかもなあって)
そう、思っていた。
キョウヤにとって、カラスバは片思いの相手だったから。自分の一方的な好意のせいで、やけに距離が近く感じたり格好良く見えたり優しく見えたりもするんだと思っていた。
キョウヤ、と呼ぶ声を思い出す。
その声が柔らかくあったかく聞こえるようになったのは、いつからだろう。
枕からそっと顔を離して、キョウヤは目を開いた。赤い頬を覗かせながらほうと息を吐く。今でも押し倒された時のことを思い返すと、胸がどきどきする。
思い違いじゃ、なかった。
(……謝らないと)
ぎゅうと枕を握り締める。最後に見たカラスバの顔が、忘れられなかった。眉を寄せて、怒りを必死に堪えて。もしかしたら傷つけた、かもしれない。
ベッドの上から部屋のデスクへ視線を向ければ、そこには一輪の薔薇が揺れていた。ホテルの備品にあったガラスの一輪挿しを借りてキョウヤが飾ったもの。
あの日、誘われたレストランで。カラスバがくれたものだった。
赤にほんのりと青を足したような、淡く紫がかった赤い薔薇。
多分、バレンタインだからと色々考えてくれていた。特別な時間にしようと、キョウヤのために。
事務所を出る時これだけはとどうにか薔薇を掴んで逃げるように飛び出して来た。
いつまでも逃げているわけには、いかない。
キョウヤはようやっと枕を手放すと、外へ出るために立ち上がっていつもの上着に手を伸ばした。

「自分から来るなんて珍しいやん」
どないしたん、と。尋ねるカラスバの声はキョウヤの耳にやけに刺々しく響いた。
笑っているしいつも通りを装ってはいるけれど、視線が合わない。
「あ、えっと」
こんなにも歓迎されない雰囲気は初めてだった。
キョウヤは部屋の入り口に立ったまま、手に持った紙袋の持ち手をぎゅっと握って視線を泳がせた。
サビ組事務所の、いつもの応接室。あの日押し倒された部屋と同じ場所と思えないほど、部屋の空気は冷え切っていた。ジプソは二人の様子を察してさっさと退室してしまい、二人きり。デスクに座ったままのカラスバと扉の前に立ち尽くすキョウヤの間には、かなりの距離が開いていた。多分、二人の心の距離と同じように。
やっぱり怒ってる。
自分がいけないんだから、当然で。
それなら、自分から歩み寄らないと。
意を決したキョウヤは小さく息を吸って、つかつかとデスクの方へ向かって歩き出した。
鋭い視線を感じる。それでもどうにかカラスバの目の前までやってきて、持っていた紙袋を差し出した。
「……これを、渡したくて」
おずおずと。
持つ手が小さく震えていることに、気づかないで欲
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のあね @noane-dec.bsky.social · 06/02/2026
仕事にかまけて他のことにまで手が回らなくて悲しい、ので、本編クリアした頃の画像ぺたり。 はー落書きもゲームもしたい!altはプレイ日記です。
弊kyくん相棒はメガニウムとアマルルガくんです!
他にも頑張ってくれた子はいっぱいいるけど、アマルルガくんには大変お世話になりました✨
気が付いたら意図せず首長竜パーティみたいになってました。笑
カイリューもガチゴラスも大好きです☺️お気に入りkrsbさんの一枚🥳
むちむちペンも可愛いー!
リワード戦対戦できて嬉しかったです✨
めちゃくちゃスクショしました☺️☺️☺️
010
のあね @noane-dec.bsky.social · 27/01/2026
内緒じゃなくなる日(2/2)/カラキョ
「誰? 会ったことある?」
「どこで聞いたのー?!」
勢いにのまれて女の子は困った顔をしていたけれど、興味津々な友達たちの熱い視線に促されて。
イーブイを抱き締めながら、たどたどしい口調で少し前にあった出来事を話し始めた。


「はい、もう大丈夫だよ」
そう言ってイーブイを差し出してくれたのは。シックなハットを被って目を引くロゴのジャケットを羽織った爽やかな青年だった。
それは、夕暮れ時。仲良しのイーブイが細い路地を通ってワイルドゾーンの方へ走って行ってしまい、ひとりぼっちになった少女が途方に暮れていた時だった。道の先は良く見えないし、ワイルドゾーンには一人で行っちゃいけないと言われていたし、心細くて路地裏を前に一人で泣きそうになっていた時。少女に声をかけてくれた青年がいた。
「どうしたの?」
彼女から見ればお兄さん、な彼は優しく彼女に視線を合わせるようにしゃがんでくれて、事情を聞いてくれた。わけを話すとすぐに見て来るね、と行って相棒のメガニウムと路地を進んで行ってしまい、あっという間にイーブイと一緒に帰って来た。そうしてはい、と女の子にイーブイを渡した。
「何かキラキラしたものが見えたから追いかけちゃったみたい。君に見せたかったのかもね」
もう暗くなるからと、近くのポケモンセンターまで彼は少女の手を引いて歩いた。メガニウムは既にモンスターボールに帰っていて、イーブイは彼女の小さな両腕の中で甘えるように体を擦り寄せている。
「キラキラしたもの?」
「うん。多分これだったんだけど」
そう言いながら彼が反対の手で差し出したのは、白く光る小さな羽根だった。何かのポケモンの羽根だろうか。
「ぷいっ」
少女が覗き込んでいると、イーブイが急に反応して彼の手の中に顔を突っ込んだ。けれど目当てはどうやら羽根じゃなくて、その下の。
「ぷいぷい!」
「わ、ごめん、それはあげられないから」
羽根をよけて、イーブイがすりすりと鼻を寄せて舐めていたのは、彼の指にはまった指輪だった。羽根と同じように綺麗な、銀色に輝く綺麗な指輪。
「わあ、きれい!」
慌てて彼が手を引くより先に、少女もその指輪に目を奪われた。飾り気がないのに夕日に照らされて輝くその指輪が、とても美しい宝物のように見えた。
「あはは、ありがとう」
どこか困ったように笑って、彼はゆっくりとその手を引いた。羽根はイーブイにあげて、イーブイは今はそちらの羽根に夢中になっている。
少女は手を繋いだまま優しい青年の顔を見上げた。普段は人見知りな彼女だが、この青年はとても優しく眩しく見える。
「お兄ちゃん、ケッコンしてるんだね」
「えっ」
突然、彼の動きがぎこちなくなる。
「あー、うん。えっと、そうなんだ」
どうして急にそうなったのか彼女にはわからなかったが、ケッコンが素敵なものだという認識の少女は羨ましそうに目を輝かせた。
「いいなあ、ダンナさん優しい?」
「旦那さん?!」
目を丸くした青年が思わず叫ぶ。
余談だが少女は結婚の話を母親から聞いていたので、結婚は旦那さんとするもの、と思っていた。だから純粋に特に迷いもなくそう尋ねたのだが、何故かどんどん手のひらを熱くする青年は視線をあちらこちらに向けながら言いよどんだ。
「えー、えっと、うーん。どうかなあ」
「じゃあ好き?」
結婚は好きな人とするもの。素敵なもの。そう信じている女の子は焦っている青年の様子などまるで気にしていなくて、ただいつかきっと自分にも訪れるその出来事が、どんな風かもっと知りたくて。聞いてみたくて。
笑顔で尋ねる彼女に、また彼は少しの間言葉に詰まったけれど。今度ははっきりと答えてくれた。
「うん」
好きだよ。
そう言った横顔が赤く赤く見えたのは、きっと夕暮れのせいだけじゃない。繋いだ手のぬくもりからもそれを感じて、少女は嬉しくなった。やっぱり、こんなに幸せそうに彼が笑うのだから、結婚って素敵なことなんだ。
「そのひと、名前はなんていうの?」
「えっ。名前はちょっと……。いやでも隠してるわけじゃないから、いい、かな?」
「教えて教えて」
「じゃあ、耳を貸して」
目指していたポケモンセンターの近くで、二人は立ち止まる。彼は少女のそばにしゃがみこむと、そっとイーブイを抱く彼女の耳元に手を当てた。
そうして相手の名前を口にすると。
「恥ずかしいから、内緒にしてね?」
照れたようにはにかんで、そう言った。
「カラスバさんって言ってたもん」
そう女の子が話し終えると、周りに居た仲間たちはそろって顔を見合わせた。
「それって」
「めっちゃ強いトレーナーで、」
「帽子被ってて、ロゴの入ったジャケット着てて、メガニウム連れたお兄ちゃん」
「ミアレのヒーローだ!」
わあっと盛り上がったところで、近くの街頭ビジョンから派手な音楽が鳴り響く。見ればリワード戦開催の知らせで、バトルをするのは今まさに話していたミアレの英雄だった。
「行こうぜ!」
そうして子供たちは手持ちのポケモンたちと一緒にバトルコートに向けて一直線に走り始める。
リワード戦が終わった後、子供たちから質問攻めにされるミアレの英雄の姿があったとか。プライベードな質問にたじたじになって、なんならその姿までばっちり放送されてしまった。


「キョウヤが恥ずかしいやろと思って黙っといたんやけどなー。あんなに熱烈に言うてくれて嬉しいわあ」
「もう恥ずかしくて外歩けない……」
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のあね @noane-dec.bsky.social · 27/01/2026
内緒じゃなくなる日(1/2)/カラキョウ ※全ての設定がねつ造妄想です ※左手の薬指に指輪 ※結婚してるカラキョウ 「krsbってケッコンしてるんだって!」って子供達から噂される二人のお話。三人称視点で二人が一緒に出てくるシーンはありませんが、当社比甘めのお話かなと思います。
「なあなあ、カラスバってケッコンしてるんだぜ! 知ってた?」
よく晴れたある日、ミアレの街角で。相棒のフシデを抱えながら、遊んでいた友人たちに少年が自慢げに言った。
「ケッコン?」
「それぼくも一緒に聞いた! ケッコンしてるって言ってた!」
はいはい、と手を挙げてまた別の少年が言う。何故か嬉しそうな少年に対し、隣に居た少女は疑わしげな目を向ける。
「えー、ほんとにぃ?」
あやしい、と書いている顔の隣で。その子の妹が姉の服の裾を引っ張った。
「ねぇお姉ちゃん、ケッコンしてるってなに?」
彼女たちはまだライチュウほどの背丈しかない。結婚の意味がわからなくて首を傾げる妹を振り返ったお姉ちゃんは、いい? と物知り顔をして言う。
「ずっと一緒に居るって約束してるってこと。お父さんとお母さんみたいに、カラスバさんにそういう約束してる人がいるんだって」
「えーっ!」
急に顔を赤くした少女の隣で、姉妹の手持ちであるスボミーは何故か楽しそうにしゅみみっと笑顔で揺れている。
「ほんとなのー?」
「本当だって! この間ヌーヴォのカフェで聞いたんだよ!」
少年達がカラスバに会ったのは、数日前のある昼下がりのこと。
カラスバは、サビ組のボスとして恐れられている。
大人からも子供からもそれは変わらなくて、でも、だからこそちょっと憧れの的でもある。恐そうな見た目で言葉もきついが、でも街を救った英雄の一人で。悪いことをしなければ無闇に怒ったりしない。特に、子供には気さくに話しかけることで知られていた。だから一部の子供たちからは自然と人気があって。
その日、カフェでコーヒーを飲んでいたカラスバに気づいたのも子供たちだった。いつものスーツ姿ではなくて、ラフなタートルネックのニットにチェスターコート。前髪も下ろして目元に掛かり、いつもと雰囲気がまるで違う。すっかりカフェの雰囲気に溶け込んでいて、他のお客さんは気づいていないようだった。それでも憧れのサビ組のボスを見つけた少年たちが、二、三人でわっと駆け寄っていく。
「カラスバさんだ!」
「こんなとこで何してんの? 今日は休み?」
その声で他の客が何人か驚いたように彼らを振り返っていた。それに気づいたカラスバはコーヒー片手に苦く笑ったが、自分のテーブルに寄って来た彼らを注意しようとはしなかった。
「まあな」
「へー! なあ、またバトルしてよ!」
「ペンドラーは? 今日はいないの?」
「あ、コーヒー飲んでるー!」
矢継ぎ早に色々話す子供たちを適当にいなしながら、また今度なーとカラスバがカップを手にした時、不意に。
「ゆびわだ!」
ある男の子が声を上げた。カラスバの手元を指さし、目を輝かせて言う。
「指輪! すごいきれー!」
「え、どれ? 見せて見せて」
「こらこら、」
カップを持つ手を掴まれそうになって、さすがにカラスバがたしなめる。
「危ないやろ。零れたらどないすんねん」
「えー、ごめんなさい……」
「見せて!」
けれど神妙な顔にも負ける子供たちではなくて、しょんぼりした空気も束の間ほかの子たちが必死になって手を伸ばしてくる。呆れたように一つ息をつくと、カラスバはカップを置いて指輪のはまった左手を自身の胸元に引き寄せた。
「あかんよ。これは大事なものやから」
言いながら、空いた手で指輪をなぞる。その顔も仕草も、優しくて。
「ケッコン指輪?」
そんな姿を見ていた男の子がふとそう尋ねた。カラスバが声に気づいて視線を向ける。
「ぼくのお父さんもしてるよそれ。ケッコン指輪だから、イタズラしちゃだめなんだって」
カラスバの姿が父親の姿に重なって見えたのだろう。純粋な眼差しでそう言った少年にカラスバは柔らかく笑った。左手を軽く握り締めて頷く。
「そうやな。お前の親父さんはええこと教えてくれるなあ」
「ケッコン? カラスバ、ケッコンしてるの?」
話を聞いていた別の少年が身を乗り出して聞く。彼は結婚の意味を知っているのだろう。その言葉にはにやりと悪い顔をして答えた。
「さて、どうやろ」
「えー! 教えてよ!」
「ごちそうさん」
言いながら席を立って、カラスバはカフェを出て行こうとする。慌てて子供たちは後を追った。
「ねぇ、だれ? どんなひと?」
「キレイなひと? 優しい?」
わいわいと自分の腰あたりにまとわりつかれても、カラスバはなんてことない顔をしてすたすたと歩きながら。
「教えられへんなあ」
満更でもなさそうにそう言った。足の長いカラスバと子供たちでは次第に距離が空いてしまって、少年達は道ばたに置いて行かれてしまう。
「けちー!」
不満げな子供たちが足を止めて、去って行く背中にそう叫ぶと。カラスバは一度だけ彼らを振り返って見せた。そうして眼鏡越しに綺麗な笑みを作って。
「オレのお姫さん、恥ずかしがり屋さんやから」
芝居がかかった仕草で、左手の薬指に輝く指輪にキスをした。


「きゃー! ラブラブじゃん!」
「メロメロだー!」
はしゃぐ女の子たちの隣で、だから言っただろうと得意げな男の子たちがうんうん頷く。
「でも、誰なんだろうね」
「今度会ったら教えてくれるかなあ」
憧れのサビ組のボスと結婚した相手は、誰なのか。みんな気になってうーんと首を傾げる中、その輪から少し離れたところでしゃがんでいた少女が。
「……わたし、知ってる」
小さな声でそう言った。
えっと周りの子たちが一斉に彼女を振り向く。彼女は手持ちのイーブイを撫でながら俯いていた。元々大人しい彼女はその先を続けようとしなくて、あっという間に他の仲間たちは彼女の周りに集まって次々と尋ねる。
「ほんとに?! なんで知ってんの?!」
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のあね @noane-dec.bsky.social · 12/01/2026
ぼくがすくったせかい(3/3)/カラキョ ※1枚目の注意事項を必ず確認の上お読みください ※死ネタです
ぴたり。
それまで必死にキョウヤを引きずっていたペンドラーの動きが、止まった。
襟首からくちばしを離し、長い首を伸ばしてじっとキョウヤを見下ろす。
その瞳はとても静かで。
あの人の目と同じ色をしていた。
答えなくてもわかる。
「っペンドラー……!」
カラスバが居なくなってから、キョウヤは彼の手持ちたちと会っていなかった。それでも間違えるはずはない。バトルでもそれ以外でも、あんなに一緒に居た。カラスバと一緒に。
「どうして? 止めなくていいよ、君だって会いたいでしょ!?」
もう一度会えるかもしれない。
それなら街だってなんだって壊れたっていいじゃないか。
「ペンドラー!」
それでも、カラスバの手持ちであるペンドラーは決して頷かなかった。ただ強い眼差しで、ずっとキョウヤを見詰めている。恐らくキョウヤが走り出そうとすればまた止めにかかるだろう。そういう気迫がある。
でも今はただ、キョウヤの気持ちが落ち着くのを待っているかのようだった。
どんどん胸に込み上げる気持ち。
キョウヤの視界が歪んでいく。
辛いのは、主人を失ったペンドラーたちだって同じはずなのに。
「っどうして……?」
くしゃり、と。
キョウヤの顔が歪んだ。
ようやくその目に光が入って、零れた涙が頬を伝う。
「ペンドラー!」
わあっと堪えきれなくなった感情のまま、縋るようにしてキョウヤはカラスバのペンドラーに抱きついた。大きな体に腕を回して、隠すように顔を擦り寄せる。
「カラスバさん、居なくなっちゃった、居なくなっちゃったよぉ……!」
もう会えない。
だいすきなひと。
後から後から涙があふれて止まらない。泣き叫びながらその場に崩れ落ちていくキョウヤを包むように、ペンドラーは首を伸ばした。そっと寄り添って、ペンドラーも目を伏せる。
そんな彼らのそばに、仲間達がゆっくりと歩み寄って行く。
荒れ狂うミアレの空に、キョウヤの泣き声が悲しく響き渡っていた。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 12/01/2026
ぼくがすくったせかい(2/3)/カラキョ ※1枚目の注意事項を必ず確認の上お読みください ※死ネタです
わからなかった。
傷だらけの頬。
痛そう、と思って触れたその肌が。
氷のように冷たかった。


「ほんまにええんか。ミアレの英雄様が、こんな日陰者を選ぶやなんて」
俺がなにとかあなたがなにとか、関係ないです。
「お前卵焼き下っ手くそやなあ!」
笑わないでくださいよ、料理なんてしたことなかったんです。
「……怖いか?」
怖くないです。あなたが、してくれることなら。
「キョウヤ」
はい、カラスバさん。
カラスバさん。
どこに、行っちゃったんですか。
俺を置いて。
「キョウヤ!」
タウニーの叫びが、荒れ狂う風にのまれて消えていく。
かつて街に住む全ての人を巻き込んだ事件の中心。タワーが今、再び禍々しい光を放っていた。空は荒れ、地響きが鳴って。凄まじいエネルギーが集結しつつあることを誰もが感じていた。
ここ、プリズムタワーの。アンジュがあった場所に。大きな力が渦巻いている。
「キョウヤさんっ!」
その中心には今、キョウヤが立っていた。
大きな終末装置。かつて最終兵器と呼ばれたその機械の前に、一人。集まった仲間達に背を向けるようにして佇んでいる。
強大なエネルギーの余波なのか、最終兵器からは強い風が吹きすさんでいた。
タウニー達もそのためになかなかキョウヤに近づけない。
髪が乱れ、服が暴れるようにはためいて、立っているのもやっとの状況なのに。
キョウヤは少しも揺らがない。
「いけませんっ、キョウヤさん!」
一歩前に進み出たのは、ジプソだった。
「カラスバ様はそんなこと望んでいない!」
声が届いたのか、キョウヤが肩越しに小さく振り返る。ジプソは必死に続けた。
「あなたが救った世界でしょう! あなたが守った街じゃありませんか!」
カラスバが愛した街。
キョウヤを救世主だと、英雄だと言ったのは他ならぬカラスバだった。
「キョウヤさん!」
それをキョウヤ自身が、壊そうとするなんて。
そんなことあってはならない。許されるはずがない。
例えカラスバを生き返らせるためだとしても、そんなこと。
「……俺は、英雄なんかじゃない」
それは、とても小さくて。恐いくらい静かな声だった。
けれど不思議とはっきり聞こえる。
その場に居た全員に、キョウヤの声は確かに届いていた。
「俺は、こんな世界が見たかったわけじゃない」
冷たい眼差しがくるりと仲間達の顔を見遣る。
「こんな世界にするために、戦ったわけじゃない」
その表情からはすっかり笑顔が抜け落ちて。まるで別人のようだった。
ミアレの英雄。
そう呼ばれた青年は、もう居なくて。
「街も人も、もうどうだっていい!」
兵器が作動すれば、多くの命が失われる。街だって跡形もなく壊れてしまうかもしれない。
でもそれが、今更なんだというのか。
あの人が居ない。
この街を誰より愛していたあの人が居ないのに。どうして、今更。
守ろうなんて思えるのか。
「……返して欲しいんです」
ただ、返して欲しい。あの人を。
他の全てはどうなってもいいから。
「キョウヤさんっ!」
終末装置に向き直って、キョウヤは手を翳した。
発動のために意識を集中させて、目を伏せる。
その時。
「ぎゃう!」
鳴き声が、響いた。
同時にキョウヤの襟元が背後から強く引っ張られて。「……ペンドラー?」
そこに居たのは、ペンドラーだった。
特徴的な紫がかった体、長い角、鋭い爪。それは間違いなくペンドラーだった、けれど。
どうして。
キョウヤはこの場に手持ち達を連れてきていなかった。ここに居るはずはないのに。
ペンドラーは呆然とするキョウヤに構わず、丸みを帯びたくちばしで裾を引っ張って最終兵器から引き離そうとする。人間よりもはるかに強い力で、ぐいぐいと。
「待って、離してペンドラー!」
慌てたキョウヤはどうにか抗おうとして身を捩る。それでもペンドラーは止まらない。
「っ離せ、ペンドラー!」
どんなに強い言葉で命じても。決して止まらない。
どうして。
焦るキョウヤの中でぐるぐると回る。いつもはそんなことないのに。命令なんてほとんどしたことはなかったけど、戦う時はいつだって言うことを聞いて、逆らったことなんてなくて。
いつも。
隣で戦うペンドラーの姿を思い出す。息を合わせて、目を合わせて、一緒に。
は、と。そこまで考えて、キョウヤの体が震えた。
目が大きく見開いて、息が上手く出来なくなる。唖然として自分を引っ張るペンドラーを見上げる。
ペンドラーはペンドラーだ。間違いない。
でも違う。
この子、まさか。
もしかして。
まさか。
「……カラスバさんの、ペンドラー、なの?」
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のあね @noane-dec.bsky.social · 12/01/2026
ぼくがすくったせかい(1/3)/カラキョウ ※「誰かの命を犠牲にしてでも生き返らせたい」的なカラキョウです ※1枚目の注意事項を必ず確認の上お読みください ※死ネタです 地雷が多いかと思いますので、必ず大丈夫!という方のみお読みください。
※attention※

以下の注意事項が無理と思った方は閲覧をお控えください。


・「誰かの命を犠牲にしてでも生き返らせたい」
 的なカラキョウ
・カラスバさんが死ぬ描写あり
・書きたいところだけ、唐突に始まって突然終わる
・最終兵器が出てきますが、かなり設定はふわふわ
・投げやりになって全部どうでもいいってなるキョウヤ
・英雄らしからぬ暴言あり




基本的に雰囲気だけの落書きなので、
それでもOK! 注意事項も大丈夫です、な方のみ
次ページからお読みください。体温が、全て。
傷口から流れ出していくようだった。
あふれていく血と、遠のく意識を。どうにか、留めたくて。傷口を必死に片手で覆い、肉を掻き集めるように強く強く握り締めたけれど。
出血は止まらなかった。
実際、手足にはほとんど力が入っていない。
路地裏にゴミ同然に打ち捨てられた体。
痛みも、最早、わからない。
(やらかした、なあ)
霞んでいく視界の中で。
自分の血が地面に広がっていくのをただ眺めていた。
まさか、自分が。置いていく側になるなんて。
(キョウヤ、)
自分のことはいい。
ゴミのような最後でも自業自得だ。そういう生き方をしてきた。
組のこともなんとでもなる。優秀な右腕がいるのだから。他の連中も自力でやっていく力はもう持っている。
ただ、一つ。
彼のことだけは。
あいつだけは。
「……ゥヤ、」
せめてその名前を呼びたくて。
でももう、声にならなかった。
目蓋が重くて重くて、仕方がない。
それでもどうにか抗っていたのは。生きようとしていたのは、彼のためだった、けれど。
それも。
もう。
瞳から色が失われていく。
血だまりの中に、白い手が力なく落ちていった。
「……え?」
嫌な予感はしていた。サビ組の下っ端である彼女が部屋の入ってきた時から、ただならぬ空気を感じていたし、サングラス越しでもわかるほど明らかに、その顔は憔悴しきっていた。
何かあったことは明白で。
それも、恐らく。
彼に。
あの人に、何かあったんだってことは。直感的に、キョウヤも理解していた。
それでも意味がわからなくて。
キョウヤは目を丸くしたまま思わず問い返していた。
今彼女は何て言った。
なんて。
「っカラスバ様が、死んだ」
もう一度、絞り出すように。彼女はそう口にした。
目を潤ませて、耐えるように唇を噛み締めて。それでもキョウヤから目をそらすことなく、はっきりと、そう。
カラスバが死んだと。
そう言った。



「多勢に無勢だったんだ。いつもの通りだからと、ボスは一人で歩いていて、そこを狙われた。ウチを恨んでいる連中なんてごまんといる」
暗い部屋。
「普段だったら負けやしなかっただろうさ。でも、そいつらはトレーナーで、何匹ものポケモン達をけしかけてきた」
ぽつんと部屋の真ん中に置かれたベッド。
「ボスも手持ちの連中で応戦した。……でも」
綺麗に整えられたシーツの上、に。
「途中で、相手のポケモン達が普通じゃないことに、気づいた」
彼は居た。
本当に普通のベッドで、自室とは違うけれど上掛けも掛けられていて、枕に頭を乗せて、ちゃんと。
顔も見える、のに。
決して開かない目蓋。
「洗脳か薬か、とにかく本意じゃない戦いを強いられてた。ポケモン達自身が望んでいる戦いじゃないって、気づいたんだろう。もしかしたら仕掛けた攻撃以外に異常なダメージも入っていたのかもしれない」
苦しそうに、見えたのかも。
その部屋の隅にはジプソが居た。小さな椅子に座って背中を丸め、頭を抱えている。キョウヤと同じように彼女の言葉が聞こえているはずだけれど。ジプソは身じろぎ一つしなかった。
「それからボスは逃げた。嫌な戦いだっただろうし、人数も不利だったし。手持ちのポケモンたちにずっと無理はさせられない。……でも、逃げ切れなかった」
一部が監視カメラに記録されていたんだと、彼女は言った。
そうして逃げ込んだ路地裏。その先で何が起きたかまでは、映っていなかった、と。その言葉が真実かどうか、キョウヤにはわからない。
わからない。
キョウヤには何一つ、わからなかった。
どうしてカラスバがさんがこんな所で眠っているのかも。
どうして目を覚まさないのかも。
どうして。
「……カラスバ、さん?」
返事をしてくれないの、かも。
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のあね @noane-dec.bsky.social · 10/01/2026
眼鏡を外したら、それが合図(2/2)/カラキョ
キョウヤが答えようとすると、今度はカラスバからはむ、と唇を柔く噛まれた。その瞬間背中を駆け上がる何か。くすぐったい、どきどきする。でもそれだけじゃなくて。
カラスバは促すように、噛んだままキョウヤの下唇を小さく引いた。ああもう、思考がまとまらなくなっていく。
「だっ、て」
上手く声が出せないまま。キョウヤは体を震わせながら、喘ぐ吐息の狭間で。
答える。
「おれが食べたら、やり返そうとして食べられて」
現に今もカラスバはキョウヤを食べようと口を開けて襲ってくる。飲み込まれそうになる。吐息が混ざって、声すら飲み込まれそうになって。
「どんどん湿って」
唇が濡れていく。二人の間で擦れ合って、唾液にまみれて、濡れて。
はあ、とキョウヤはまた熱のこもった息を吐いた。
「……気持ちいい、から」
たまらなくなる。
食べて、食べられて、濡れて、それでも足りないと伸びてきた舌先が触れ合った時。頭の奥まで痺れるような感覚が走る。背中を伝って、脳まで届くような。それは間違いなく、快感、で。
それが気持ちいい、と教えてくれた。他の誰でもなく、目の前のこの男が。
だから好き。
食べてしまおうとするのも、食べられそうになるのも。
「……へえ」
低くそう言った声を、キョウヤはもうほとんど聞いていなかった。息が上がってそれどころではない。一瞬唇が離れた隙間になんとか息をしていた。どきどきして、気持ちよくて、熱い。ああ、熱いなと。思った次の瞬間、首の裏を掴まれていた。
乱暴な手つき。驚く間もなくまた唇がぶつかって、でも今度は始めから舌に噛みつかれて、一瞬びりと走った痛みに顔をしかめる。でもそれすらも、快感にすり替えられていく。だって目の前の男が、射貫くようにに見詰めるから。
「ほんなら食べられても文句言うなや」
金色の瞳孔が細く光って。そのままキョウヤはベッドの上に押し倒されていた。
あとはただ、暗転。
夜が更けるまで、食べ尽くすまで。
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