同性婚ができない国で、恋人を亡くした男が、
自分の贈った腕時計を、形見としてもらった。
恋人の母が、ふたりの家に来て、
泣きながら、男の手を取った。
「好きなものを、ひとつ、もらってね」
母は、精いっぱいやさしかった。
恋人の物は、法律で恋人の親が受け継いだ。
恋人も男性で、ふたりは今の法律で結婚できない。
結婚していれば、男も遺言なしで受け継げた。
三十一年暮らした家の物から、ひとつだけ。
男は、恋人が毎朝つけた時計を選んだ。
三十一年前、男がその時計を恋人に贈った。
今日、男はその時計を、恋人の母からもらった。