先日からしまっちゃおうねしまわれちゃおうね壮年鯉月の妄想が沸々熱々。お手伝いの若いおなごが離れの方に気配を感じ、閣下の「あすこには決して入らないでくれ」という言いつけを破って踏み入るとそこは思いがけず清潔に整えられた部屋だった。文机には本や紙が積み重なっていてまるで今も誰かが住んでいるような。お手伝いの先輩であるばあやはこの部屋のことをあまり詳しく教えてくれなかったけれど、ここに何かいるのかしら。うんうんと考えを巡らせていると押し入れの中から微かな物音がした。「誰」「……すみません、とても怪しいでしょうが、私は怪しいものではありません」と声が返ってきた。つづく。『手首のひと』