9s @fugen9.bsky.social · 05/09/2026時が止まったようなホテルで、及川は牛島とエレベータが上昇するのを待った。シャワーを浴び着替えたのにまだ腰を掴んだ手が肌に残っているような気がした。ただ一夜の逢瀬だ。ふたりが住む国ではなく、縁のある街でもない。暇つぶしにグラフ誌を眺めていた及川が目にとめたページにあったホテルで、牛島はそれを目にとめた。なんとはなしに調べて、なんとはなしに予約した。牛島がそんなことをするのは稀だった。目的のはっきりしない行為、いや、はっきりしないのは目的ではなく理由だった。 俺のこと好きなんだ? 窓からの異国の街並みと海と空を背に、及川は牛島のいだく理由を明確にした。返答の代わりに牛島は及川の腕を掴み引きよせた。 010
9s @fugen9.bsky.social · 04/09/20262018年にだした本の再録。冒頭をちょっとだけ手直しした [牛及] ほんのヒトサラ [Web再録] | girl3 #pixiv www.pixiv.net/novel/show.p...pixiv.net#牛及 [牛及] ほんのヒトサラ [Web再録] - girl3の小説 - pixiv華々しい活躍があろうと芽がでずくすぶっていようと、アスリートには等しく引退が待つ。 引退後の転身には種々の道があると、自身もまた引退したアスリートである及川徹は身をもって知っていた。十一年の選手生活が長いか短いかは判断の分かれるところだろう。見送る仲間も多かった。 如才なく口と頭 031
9s @fugen9.bsky.social · 19/04/2026どうせ、と及川は諦めていた。彼の人生訓にそれは背くことだったが、諦めているので諦めていた。自身ですら信じられないのに向こうが信じるわけがなかった。 しかしいま、絶好の機会が訪れていた。好評に応え再度企画されたスペシャルマッチの打ち上げ後、有志の二次会終盤で牛島が酔いを露わにしたのだ。拠点を東京に持たない選手の宿は協会が準備してくれている。 「—お前、大丈夫か?」 優しい声は作れなかったが、及川は面倒見のよい顔で牛島の肩に手をおいた。 「……飲みすぎた」 「だろうね」 「ホテルに戻る」 立ちあがろうとしてよろめく牛島の腕を取り、幹事である黒尾に及川は挨拶すればタクシーチケットを渡された。 110
9s @fugen9.bsky.social · 12/02/2026牛島が頼んだのは蜜柑のクリームソーダだった。引退してから時々、牛島は甘い飲み物を頼むようになった。珈琲か紅茶、あれば発泡水を頼頼んでいた牛島の、小さな変化だった。 「甘いものは控えていた」 アスリートとして、という意味だとわかる及川もまた、同じようなものだった。それでもどうしてもという気持ちは優先した。ストレスを溜めるほうが悪影響と判断していた。 「体が重くなるぞ」 「帰りは二駅分歩く」 つきあわされるの俺じゃん、と及川はメニューを開きなおす。店員を呼び、ブレンドに胡桃のパウンドケーキを追加する。つけあわせのアイスクリームは、ソーダとは別のものにする。そのほほうがふたつの味を楽しめる。 010